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狒々

ー/ー



狒々
「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」



 鬱蒼と生い茂る雑木林の中、 “ソイツ” の声が不気味に響き渡る……


「だぁー!!鬱陶しぃ笑い方しやがんな!!!!」
「全く同感だよ……」


 狒狒の癇に障る笑い声に、苛つきながら吐き捨てる雪之丞に俺も無条件に同意する。



 ここは深夜、都心郊外の山奥。

 元々、この辺で夜な夜な徘徊する悪霊達の除霊する為に俺達は来ていたんだが、それの方はあっさり片が着いた。

 報酬が本当に少なくて放置されてた案件で、普通ならパスする所を最近依頼がなくて金銭的にヤバかったのと、現場がちょうど近場だった事を理由に飛びついた訳だが、そこに居た悪霊も本当にショボくて予想以上にあっけなく終わっちまった。

 わざわざ、二人で来た事を後悔したくらいに………だ。


 そんな白け切った空気の中、帰り支度でも始めようと考えてた矢先に異変は起きた……

 いきなり上から耳障りな哄笑が聞こえて来て、二人で見上げると20mくらい上の丘から猿(?)が俺達を見下ろしてやがったんだ。

 ……いや、猿と言っても体長は3m以上あって、やたら筋肉質な上に手足は丸太のように太く、背中からは運動会の綱引きで使うロープよりも一回り太そうな尻尾がゆらゆら揺れているのが見える。そして、両眼からは悪意の塊のような眼が赤く光っていた。

 そんな、猿居ねぇわな……


「ありゃ、『狒狒』か?」


 俺は頭の中に会ったオカルト知識の中から、それっぽいのを引っ張り出して呟く。


「『狒狒』?」
「ああ、老猿の妖怪化した奴で人……特に若い女を好んで襲うらしい……」


 つっても、知ってんのはこれくらいだ。

 依頼を受けた訳じゃねぇし、妖怪だから討伐なんて短絡的な事はしたくねぇけど………アレ、どう見ても友好的じゃないわな?やり合うしかねぇのか?

 そんな風に、思っていると……



「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」


 再び奴が笑いだしたと同時に、何かが物凄い勢いで飛んできた!


「うぉ!!」 「ちっ!」


 慌てて二人で、左右に飛び退く!


 ブォフゥッ!!


 立ち上がった土煙を見ると、丁度俺達の居た場所に石がめり込んでいた。直径30cmくらいの……

 山肌の少し柔らか目の土だったんで、くぐもった(・・・・・)ような音しかしなかったが、当たれば致命傷だったな。


「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」
 

 ズドォーーーーン!!
 

 そして、少し遅れて狒狒の奴が俺達の眼の前のまで飛び降りて来た。

 猿だけに巨体の割に身軽そうだな……って言うか、アイツ完全に俺達をターゲッティングしてやがるぞ。
 敵意を向けてると言うより、こっちを面白半分に痛ぶろうとしてる感じだ………こうなりゃ、遠慮は要らねぇな。


「……面白ぇじゃねぇか!!」


 …………と、俺が霊手を展開するより先に、雪之丞が反応していた。こっちは、おちょくられた苛つき半分、手応えありそうな相手にワクワク半分と言った所か……


「魔装術!!」


 そう叫ぶと同時に、雪之丞の全身を霊気の鎧が包み込む。

 奴の潜在意識を具現化した “ソレ” は、橙色を主とした見た目が甲殻類を思わせる全身鎧だ。

 これは防御力だけでなく、術者の身体能力を爆破的に引き上げる効果があって、鎧と言うよりパワードスーツと言った方がその実体に近い。


「オラァ!!」
「ウヒィッ!!」

 
 そうして、掛け声と共に、お互いタックルでどつき合う両者。


 ドガッ!!!
 

 互角……!?

 いや、若干雪之丞が押し込んだな。
 
 その後、狒狒は太っとい腕をめちゃくちゃブン回すが、そんなもん奴には当たらない。


「貰いぃ!」


 ドバキッ!


「ウギャ!」
 

 そうして狒狒の腕を掻い潜った、雪之丞の右アッパーが奴の顎を捉える!


「チッ! 浅いか……」


 雪之丞の呟き通り狒狒は多少仰け反ったが、すぐに体勢を立て直してきた。

 仕留めきれなかったか……流石にそこまで甘くねぇな。


 対して俺の方も黙って見てた訳じゃなく、奴等がやり合ってるのを横目に狒狒の後ろに回るように動いていた。逃げられても困るからな。

 依頼は受けてねぇが、面白半分に人を襲うんじゃ放置も出来ねぇ……



「グルルルルッ!」


 獲物と思って馬鹿にしてた奴に殴られたのが余程堪えたのか、さっきまでとは変わって相当苛ついたような唸り声を上げる狒々。後ろからでも、奴の怒りがよく解る。

 だが、逃げる気がないなら好都合。ついでに言うなら、もっと激昂してくれりゃ、更に楽だな。平静を失った奴ほど、狩りやすいもんはない。


 …………ただ、そんな風に考えるも事態はそんな都合良く行かなかった。


「ウヒッ!」


 掛け声と共に、奴は上に跳んだ!

 巨体を物ともせず木の上に登ったと思うと、今度は木から“下に”跳んだ!!

 行先は、勿論雪之丞だ。


「なっ!」


 予想外の上から攻撃に、雪之丞が慌てて飛び退く。


 ズドン!


 その一瞬後に鈍い音と一緒に、狒狒の拳が地面めり込む!そして、次の瞬間再び上に跳ぶ。

 ……面倒くせぇな。意外に知恵が回るぞ。


 ファーストコンタクトで、冷静に殴り合いは不利と判断したらしい。

 奴は、猿らしく周りの木々を利用しながら、ヒット&アウェイの戦法に切り替えてきた。
 三次元を縦横無尽に動き回る狒狒に、流石の雪之丞の苦戦してやがる。視界の悪い深夜。足場の悪い山奥。全部が、狒狒に追い風だ……




    ◇◇◇

「だぁーーっ!面倒くせぇな、ちょこまかと!!」
「ウヒッ!ウヒッ!」


 着地した瞬間を狙ってんだろうが(雪之丞もその気になりゃ跳べるが、そうなると視界の悪い森の中を鬼ごっこする羽目になって余計面倒になる)、向こうもそれが解るらしく中々上手く行かない……

 苦戦………と言うより、雪之丞は捕まえれなくて苛つき出してる。狒狒の攻撃も当たらねぇから殺られる事はないだろうが、互いに完全に決め手を欠いてる感じだ。狒々は、愉しそうだが……


 あんま、長引くと不味いかもな……魔装術が切れる事はないだろうが、本当に逃げられる可能性がある。

 なので、この辺でワザと挑発的に言ってみる。


「どうしたぁ!?1人じゃ無理かぁ!!」
「うるせぇ!黙って見てろっ!」


 …………ムキんなんなよ。みっともねぇな……


 狒狒にいいようにオチョクラれて頭に血が昇ってる雪之丞に、頭の中で突っ込みつつ更に口を開く。


「3分だ!3分で決めろ!!でなきゃ、俺もやる!!」
「うあああぁぁーーーーっ!!!!」

「ヒィーヒッヒッ!!」
「……聞けよ。おい」


 …………ったく、しょうのねぇ野郎だな……まぁ、いいや。宣言通り、3分待つか。
 


 1分……2分…………


 左腕にあるデジタル時計に目を通しながら状況を見守るが、状況は、全く変わらない。雪之丞は苛々、狒々は愉快………いや、正確に言うと徐々にアジャスト出来てるんだが、あと数十秒じゃキツいだろう。このまま、3分経っちまうのか?

 そう思い始めた頃だった……


「はぁっ!」


 気合いと共に、一瞬だけて雪之丞の霊圧が上がる。

 そして、それと同時に纏っている霊気の鎧も変化した。霊気の拡散により全体のシルエットがボヤケた後、またたく間に集束………







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「はっはーーっ!来やがれ!猿野郎っ!!」


 そう吠える雪之丞の鎧は、さっきよりも太く、厳つく、頑強そうな見た目へと変化したいた。

 元々は、鎧と言ってもかなりスマートなシルエットで、どちらかと言えばスーツと言った様相だったのが、その言葉に全く違わない形になったと言えるだろう。


  “防御形態” ………魔装術の形態変化の一つだ。

 俺が修業で色々な技を増やしたように、この男も魔装術のを更に磨き上げて、鎧を幾つかの形態に変化させる事が出来る様になっていた。

 今での物が “通常形態” ……特筆するもんは無いが、癖が無くて奴のポテンシャルを活かし易く、どんな状況にも対応出来る。

 それに対して今の “防御形態” は、文字通り護りと力に特化した形態。本来は、巨大な斧も生成するんだが、何故かそれは作らず手ぶらだ……

 そして、もう一つ………完全に、疾さへ全振りした “縮地形態” と言うのもある。


 何を考えてる?

 疾さに翻弄されてんだから、選択するなら普通は縮地だろ?何故、力に優れる分鈍重になる “それ” を選んだ??


 ……………………あ、解った。

  “だから” 斧を出さなかったんだな……



「ヒッーヒッヒッヒ♪」


 俺が自分の中で勝手に合点したのと、狒々が雪之丞に飛び掛かったのは、ほぼ同時だった。

 前よりも嗤ってるように感じるのは、見た目が明らかに鈍そうになったからだろうか……?

 いや、確かに “当て易い” だろうな………


 ゴンッ!!


 その予想通り、派手な音を立てながら狒々の巨大な拳が雪之丞の側頭部にヒットする。

 ヒットするが……


「ヒッーヒッ__」
「オラッ!」


 ゴギャッ!!  「ィ゙ッ………!!!」


 あの形態なら、殴られた所で怯まない……と言うより “効かない”

 肉を斬らせて、骨を断つ……捕まえられないから、ワザと殴らせて捕まえる作戦だ。だから、雪之丞は殴られたとほぼ同時に殴り返した。

 奴の “股間” を………


 奴の背丈は約3メートル、雪之丞はその半分くらい。丁度、目線の高さだし狙い易いわな……


「ーーーーっっ!!」


 さっきまでの、馬鹿にした様な態度は何処へやら……声に悲鳴を上げながら蹲る狒々……いや、蹲ろうとした狒々だ。


 股間を潰された奴は、悶絶して蹲まる事も出来なかった。

 激痛で頭を下げた瞬間に、首へ雪之丞の両腕が絡みつき、そして………


 ゴギィッッ!!



 くぐもった音が聴こえたのを確認すると。俺は、時計に目を落とした。


「丁度、3分か……」




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みんなのリアクション

「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」
 鬱蒼と生い茂る雑木林の中、 “ソイツ” の声が不気味に響き渡る……
「だぁー!!鬱陶しぃ笑い方しやがんな!!!!」
「全く同感だよ……」
 狒狒の癇に障る笑い声に、苛つきながら吐き捨てる雪之丞に俺も無条件に同意する。
 ここは深夜、都心郊外の山奥。
 元々、この辺で夜な夜な徘徊する悪霊達の除霊する為に俺達は来ていたんだが、それの方はあっさり片が着いた。
 報酬が本当に少なくて放置されてた案件で、普通ならパスする所を最近依頼がなくて金銭的にヤバかったのと、現場がちょうど近場だった事を理由に飛びついた訳だが、そこに居た悪霊も本当にショボくて予想以上にあっけなく終わっちまった。
 わざわざ、二人で来た事を後悔したくらいに………だ。
 そんな白け切った空気の中、帰り支度でも始めようと考えてた矢先に異変は起きた……
 いきなり上から耳障りな哄笑が聞こえて来て、二人で見上げると20mくらい上の丘から猿(?)が俺達を見下ろしてやがったんだ。
 ……いや、猿と言っても体長は3m以上あって、やたら筋肉質な上に手足は丸太のように太く、背中からは運動会の綱引きで使うロープよりも一回り太そうな尻尾がゆらゆら揺れているのが見える。そして、両眼からは悪意の塊のような眼が赤く光っていた。
 そんな、猿居ねぇわな……
「ありゃ、『狒狒』か?」
 俺は頭の中に会ったオカルト知識の中から、それっぽいのを引っ張り出して呟く。
「『狒狒』?」
「ああ、老猿の妖怪化した奴で人……特に若い女を好んで襲うらしい……」
 つっても、知ってんのはこれくらいだ。
 依頼を受けた訳じゃねぇし、妖怪だから討伐なんて短絡的な事はしたくねぇけど………アレ、どう見ても友好的じゃないわな?やり合うしかねぇのか?
 そんな風に、思っていると……
「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」
 再び奴が笑いだしたと同時に、何かが物凄い勢いで飛んできた!
「うぉ!!」 「ちっ!」
 慌てて二人で、左右に飛び退く!
 ブォフゥッ!!
 立ち上がった土煙を見ると、丁度俺達の居た場所に石がめり込んでいた。直径30cmくらいの……
 山肌の少し柔らか目の土だったんで、|くぐもった《・・・・・》ような音しかしなかったが、当たれば致命傷だったな。
「ヒィーヒッヒッヒッヒ!!!」
 ズドォーーーーン!!
 そして、少し遅れて狒狒の奴が俺達の眼の前のまで飛び降りて来た。
 猿だけに巨体の割に身軽そうだな……って言うか、アイツ完全に俺達をターゲッティングしてやがるぞ。
 敵意を向けてると言うより、こっちを面白半分に痛ぶろうとしてる感じだ………こうなりゃ、遠慮は要らねぇな。
「……面白ぇじゃねぇか!!」
 …………と、俺が霊手を展開するより先に、雪之丞が反応していた。こっちは、おちょくられた苛つき半分、手応えありそうな相手にワクワク半分と言った所か……
「魔装術!!」
 そう叫ぶと同時に、雪之丞の全身を霊気の鎧が包み込む。
 奴の潜在意識を具現化した “ソレ” は、橙色を主とした見た目が甲殻類を思わせる全身鎧だ。
 これは防御力だけでなく、術者の身体能力を爆破的に引き上げる効果があって、鎧と言うよりパワードスーツと言った方がその実体に近い。
「オラァ!!」
「ウヒィッ!!」
 そうして、掛け声と共に、お互いタックルでどつき合う両者。
 ドガッ!!!
 互角……!?
 いや、若干雪之丞が押し込んだな。
 その後、狒狒は太っとい腕をめちゃくちゃブン回すが、そんなもん奴には当たらない。
「貰いぃ!」
 ドバキッ!
「ウギャ!」
 そうして狒狒の腕を掻い潜った、雪之丞の右アッパーが奴の顎を捉える!
「チッ! 浅いか……」
 雪之丞の呟き通り狒狒は多少仰け反ったが、すぐに体勢を立て直してきた。
 仕留めきれなかったか……流石にそこまで甘くねぇな。
 対して俺の方も黙って見てた訳じゃなく、奴等がやり合ってるのを横目に狒狒の後ろに回るように動いていた。逃げられても困るからな。
 依頼は受けてねぇが、面白半分に人を襲うんじゃ放置も出来ねぇ……
「グルルルルッ!」
 獲物と思って馬鹿にしてた奴に殴られたのが余程堪えたのか、さっきまでとは変わって相当苛ついたような唸り声を上げる狒々。後ろからでも、奴の怒りがよく解る。
 だが、逃げる気がないなら好都合。ついでに言うなら、もっと激昂してくれりゃ、更に楽だな。平静を失った奴ほど、狩りやすいもんはない。
 …………ただ、そんな風に考えるも事態はそんな都合良く行かなかった。
「ウヒッ!」
 掛け声と共に、奴は上に跳んだ!
 巨体を物ともせず木の上に登ったと思うと、今度は木から“下に”跳んだ!!
 行先は、勿論雪之丞だ。
「なっ!」
 予想外の上から攻撃に、雪之丞が慌てて飛び退く。
 ズドン!
 その一瞬後に鈍い音と一緒に、狒狒の拳が地面めり込む!そして、次の瞬間再び上に跳ぶ。
 ……面倒くせぇな。意外に知恵が回るぞ。
 ファーストコンタクトで、冷静に殴り合いは不利と判断したらしい。
 奴は、猿らしく周りの木々を利用しながら、ヒット&アウェイの戦法に切り替えてきた。
 三次元を縦横無尽に動き回る狒狒に、流石の雪之丞の苦戦してやがる。視界の悪い深夜。足場の悪い山奥。全部が、狒狒に追い風だ……
    ◇◇◇
「だぁーーっ!面倒くせぇな、ちょこまかと!!」
「ウヒッ!ウヒッ!」
 着地した瞬間を狙ってんだろうが(雪之丞もその気になりゃ跳べるが、そうなると視界の悪い森の中を鬼ごっこする羽目になって余計面倒になる)、向こうもそれが解るらしく中々上手く行かない……
 苦戦………と言うより、雪之丞は捕まえれなくて苛つき出してる。狒狒の攻撃も当たらねぇから殺られる事はないだろうが、互いに完全に決め手を欠いてる感じだ。狒々は、愉しそうだが……
 あんま、長引くと不味いかもな……魔装術が切れる事はないだろうが、本当に逃げられる可能性がある。
 なので、この辺でワザと挑発的に言ってみる。
「どうしたぁ!?1人じゃ無理かぁ!!」
「うるせぇ!黙って見てろっ!」
 …………ムキんなんなよ。みっともねぇな……
 狒狒にいいようにオチョクラれて頭に血が昇ってる雪之丞に、頭の中で突っ込みつつ更に口を開く。
「3分だ!3分で決めろ!!でなきゃ、俺もやる!!」
「うあああぁぁーーーーっ!!!!」
「ヒィーヒッヒッ!!」
「……聞けよ。おい」
 …………ったく、しょうのねぇ野郎だな……まぁ、いいや。宣言通り、3分待つか。
 1分……2分…………
 左腕にあるデジタル時計に目を通しながら状況を見守るが、状況は、全く変わらない。雪之丞は苛々、狒々は愉快………いや、正確に言うと徐々にアジャスト出来てるんだが、あと数十秒じゃキツいだろう。このまま、3分経っちまうのか?
 そう思い始めた頃だった……
「はぁっ!」
 気合いと共に、一瞬だけて雪之丞の霊圧が上がる。
 そして、それと同時に纏っている霊気の鎧も変化した。霊気の拡散により全体のシルエットがボヤケた後、またたく間に集束………
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「はっはーーっ!来やがれ!猿野郎っ!!」
 そう吠える雪之丞の鎧は、さっきよりも太く、厳つく、頑強そうな見た目へと変化したいた。
 元々は、鎧と言ってもかなりスマートなシルエットで、どちらかと言えばスーツと言った様相だったのが、その言葉に全く違わない形になったと言えるだろう。
  “防御形態” ………魔装術の形態変化の一つだ。
 俺が修業で色々な技を増やしたように、この男も魔装術のを更に磨き上げて、鎧を幾つかの形態に変化させる事が出来る様になっていた。
 今での物が “通常形態” ……特筆するもんは無いが、癖が無くて奴のポテンシャルを活かし易く、どんな状況にも対応出来る。
 それに対して今の “防御形態” は、文字通り護りと力に特化した形態。本来は、巨大な斧も生成するんだが、何故かそれは作らず手ぶらだ……
 そして、もう一つ………完全に、疾さへ全振りした “縮地形態” と言うのもある。
 何を考えてる?
 疾さに翻弄されてんだから、選択するなら普通は縮地だろ?何故、力に優れる分鈍重になる “それ” を選んだ??
 ……………………あ、解った。
  “だから” 斧を出さなかったんだな……
「ヒッーヒッヒッヒ♪」
 俺が自分の中で勝手に合点したのと、狒々が雪之丞に飛び掛かったのは、ほぼ同時だった。
 前よりも嗤ってるように感じるのは、見た目が明らかに鈍そうになったからだろうか……?
 いや、確かに “当て易い” だろうな………
 ゴンッ!!
 その予想通り、派手な音を立てながら狒々の巨大な拳が雪之丞の側頭部にヒットする。
 ヒットするが……
「ヒッーヒッ__」
「オラッ!」
 ゴギャッ!!  「ィ゙ッ………!!!」
 あの形態なら、殴られた所で怯まない……と言うより “効かない”
 肉を斬らせて、骨を断つ……捕まえられないから、ワザと殴らせて捕まえる作戦だ。だから、雪之丞は殴られたとほぼ同時に殴り返した。
 奴の “股間” を………
 奴の背丈は約3メートル、雪之丞はその半分くらい。丁度、目線の高さだし狙い易いわな……
「ーーーーっっ!!」
 さっきまでの、馬鹿にした様な態度は何処へやら……声に悲鳴を上げながら蹲る狒々……いや、蹲ろうとした狒々だ。
 股間を潰された奴は、悶絶して蹲まる事も出来なかった。
 激痛で頭を下げた瞬間に、首へ雪之丞の両腕が絡みつき、そして………
 ゴギィッッ!!
 くぐもった音が聴こえたのを確認すると。俺は、時計に目を落とした。
「丁度、3分か……」