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#28

ー/ー



 三日目の朝、シロがベッドで身を起し窓から見えた景色は、昨夜よりは若干小降りながらも日本であれば猛吹雪と称して十分差し支えない天候であった。
 それもそのはず、このネリット族の村は日本よりも遥か高緯度に位置している関係上、女の故郷よりも自転の影響が大きく台風が来ずとも風速15m以上の日が続くこともざらなため、冬場は基本的に強風に乗った雪に横から殴りつけられるのが普通なのだ。

 シロはこの村についてまだ数日であるが随分この環境にも慣れ、これ位なら子供達は外で遊んでいるだろうと思いながら、案の定先に起床し帰ったリオンのメモを見てから朝のルーチンを始める。前日と変わり映えのしない朝食と筋トレをこなしてから、昨日建てた予定通り屋内を掃除してから買い出しに出ることにした。

 一度連れられて行ったので道は覚えているし、アステカの拳闘祭で稼いだファイトマネーはまだ潤沢に残っている。日本に辿り着くまでとは言わないが一週間程度の食料は買いだめる算段だった。
 だったというのは当然そう上手くはいかなかったからである。

 数日間お世話になった家屋の掃除をすべくロッカーから道具を取り出し使っていない二階から軽く掃き、一階へと続く階段を降りながら一段一段拭いていた折に女は違和感を覚えた。

 段によって降りた時の音が違うのである。空き家であるし老朽化や腐っているのかもと思ったが段に痛んでいる所は見受けられず、どうしても気になって最上段から屈んで一段ずつ指の背でノックしながら降りていくと、やはり途中から明らかに音の響きが違う。具体的には最上段から四段目より下の九段を叩いた時の音が籠っている。

 中に空間があるのかと側面を確認したがそこに収納スペースのような物はなく、しかしそうとしか思えないので階段と同じようにノックしてみるとやはり空洞音がした。シロが正体の分からない空洞音にモヤモヤしながら腕を組み階段下に背を預けると視界がぐるんと回転し真っ暗な空間へと尻もちをつきながら倒れ込んだ。

「どんでん返しだぁ?」

 突然のことに脳の処理に少々の時間を要したシロの口から出た物は、忍者屋敷や戦国時代をモチーフにしたテーマパークくらいでしか目にすることのない、時代錯誤かつ一般家庭に付ける必要などよほど治安の悪い地域でなければ有り得ない仕掛けで、前の住人が家屋を改造したのかそれとも建築者の性癖なのか分からないが、スピリッツ北部の建築物には似合わない物への驚愕だった。

 リビングの机にある燭台に火をつけ改めて階段下の空間に侵入してみると、先程は気が付かなかったがわずかな炎の揺らめきから空気の流れがあることに気が付く。もしかすると外と繋がっているかもしれないと考えた女は一度戻り、玄関わきに掛けてあったカンテラに蝋燭を刺し直しパーカに袖を通してから改めて中の観察を行うことにした。

 四方をガラスに上下を金属に守られることで安定した光量を発する灯が映し出したのは、実は階段には続きがあったのだとでも言わんばかりに地下へと延びる木製の段々と、床の高さより下の壁が石垣で拵えられ地下深くへと続く通路であった。
 まるで映画の世界のようだという高揚感と、柄にもなく入ったら二度と出て来られないのではないかという不安に駆られた冷や汗を天秤にかけ、ここで退けば気になって仕方がなく最後の夜で寝付けない未来が見えたシロは地下探索を慣行する。

 ブーツの堅い踵が重たい足音を反響させ恐る恐る降りる女の心を一層不安にさせたが、辿り着いた先に眠っているかもしれない財宝やホラー作品のようにミイラやゾンビがいて一戦交えられるのではという一周回った期待が先行し、女は一歩ずつ慎重に進んで行く。緩く螺旋を描いた階段通路は進んでも進んでも途切れることがなく、体内時計がまだ入ったばかりだとも、もう随分進んだとも告げたまらず端末を確認した。

 画面には長いとも短いとも言い難い十五分という絶妙な探索時間。
 女は一度大きく深呼吸した。




みんなのリアクション

 三日目の朝、シロがベッドで身を起し窓から見えた景色は、昨夜よりは若干小降りながらも日本であれば猛吹雪と称して十分差し支えない天候であった。
 それもそのはず、このネリット族の村は日本よりも遥か高緯度に位置している関係上、女の故郷よりも自転の影響が大きく台風が来ずとも風速15m以上の日が続くこともざらなため、冬場は基本的に強風に乗った雪に横から殴りつけられるのが普通なのだ。
 シロはこの村についてまだ数日であるが随分この環境にも慣れ、これ位なら子供達は外で遊んでいるだろうと思いながら、案の定先に起床し帰ったリオンのメモを見てから朝のルーチンを始める。前日と変わり映えのしない朝食と筋トレをこなしてから、昨日建てた予定通り屋内を掃除してから買い出しに出ることにした。
 一度連れられて行ったので道は覚えているし、アステカの拳闘祭で稼いだファイトマネーはまだ潤沢に残っている。日本に辿り着くまでとは言わないが一週間程度の食料は買いだめる算段だった。
 だったというのは当然そう上手くはいかなかったからである。
 数日間お世話になった家屋の掃除をすべくロッカーから道具を取り出し使っていない二階から軽く掃き、一階へと続く階段を降りながら一段一段拭いていた折に女は違和感を覚えた。
 段によって降りた時の音が違うのである。空き家であるし老朽化や腐っているのかもと思ったが段に痛んでいる所は見受けられず、どうしても気になって最上段から屈んで一段ずつ指の背でノックしながら降りていくと、やはり途中から明らかに音の響きが違う。具体的には最上段から四段目より下の九段を叩いた時の音が籠っている。
 中に空間があるのかと側面を確認したがそこに収納スペースのような物はなく、しかしそうとしか思えないので階段と同じようにノックしてみるとやはり空洞音がした。シロが正体の分からない空洞音にモヤモヤしながら腕を組み階段下に背を預けると視界がぐるんと回転し真っ暗な空間へと尻もちをつきながら倒れ込んだ。
「どんでん返しだぁ?」
 突然のことに脳の処理に少々の時間を要したシロの口から出た物は、忍者屋敷や戦国時代をモチーフにしたテーマパークくらいでしか目にすることのない、時代錯誤かつ一般家庭に付ける必要などよほど治安の悪い地域でなければ有り得ない仕掛けで、前の住人が家屋を改造したのかそれとも建築者の性癖なのか分からないが、スピリッツ北部の建築物には似合わない物への驚愕だった。
 リビングの机にある燭台に火をつけ改めて階段下の空間に侵入してみると、先程は気が付かなかったがわずかな炎の揺らめきから空気の流れがあることに気が付く。もしかすると外と繋がっているかもしれないと考えた女は一度戻り、玄関わきに掛けてあったカンテラに蝋燭を刺し直しパーカに袖を通してから改めて中の観察を行うことにした。
 四方をガラスに上下を金属に守られることで安定した光量を発する灯が映し出したのは、実は階段には続きがあったのだとでも言わんばかりに地下へと延びる木製の段々と、床の高さより下の壁が石垣で拵えられ地下深くへと続く通路であった。
 まるで映画の世界のようだという高揚感と、柄にもなく入ったら二度と出て来られないのではないかという不安に駆られた冷や汗を天秤にかけ、ここで退けば気になって仕方がなく最後の夜で寝付けない未来が見えたシロは地下探索を慣行する。
 ブーツの堅い踵が重たい足音を反響させ恐る恐る降りる女の心を一層不安にさせたが、辿り着いた先に眠っているかもしれない財宝やホラー作品のようにミイラやゾンビがいて一戦交えられるのではという一周回った期待が先行し、女は一歩ずつ慎重に進んで行く。緩く螺旋を描いた階段通路は進んでも進んでも途切れることがなく、体内時計がまだ入ったばかりだとも、もう随分進んだとも告げたまらず端末を確認した。
 画面には長いとも短いとも言い難い十五分という絶妙な探索時間。
 女は一度大きく深呼吸した。


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