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#27

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 シロはある程度先の予定が纏まったところで手帳を閉じると、端末のデジタル時計は午後九時となっており簡単な湯あみを終えてから食事の準備に取り掛かる。準備と言っても材料は限られているので他に何かないかとキッチンを探り、おそらく賞味期限など見てはならない調味料のストックがシンク下の収納から見つかった。

 女は玉ねぎと肉ををひたすら煮込めばそれなりのスープが出来そうだと考えたが野菜がなかった事に気が付き、取り合えず肉だけを煮込みまくることにした。干し肉を適当に千切って鍋に入れ不凍の蛇口から水を入れる。
 七輪を温めるべくストーブから赤熱する薪を取り出そうとした所でストーブ上部に開く位置があることに気が付き、火箸で挟んで動かしてみると簡易コンロの役割が果たせることに気が付いた。
 当然七輪よりも火力は強いのでしばらく眺めていると鍋が湧きはじめ、軽くスープの味を見てみたところ薄く獣くさい出汁しか出ておらず女の顔をしかめさせる。

 苦し紛れに腰のナイフで細かく切った林檎と塩胡椒を適当にぶち込んだところ、決して旨くはないが食べられない程ではないギリギリのラインの物が出来上がり一安心した。
 初日に貰った食料袋から鈍器のように固いバタールを取り出し半ばで折って残りは袋に戻す。食べる方をストーブの上で湯気を上げるスープに付けてみると、乾いたパンがスープの汁気をよく吸い食べやすい硬さになったので千切りながらバタールを平らげた。

 端末が十時過ぎを示していたので眠ろうかと思っていると、朝と違いコンコンと大人しいノックが聞こえた。
 客の顔を想像しながら戸を開けると予想に違わず戸を叩いたのはリオンだった。

「毎日こんな夜更けに外出してたら、いつかバレて大目玉くらうぞ?」
「大丈夫だよジローがいる間だけだから。そんなことより明後日から暫く晴れるみたいだけど本当に出発するの?」

「そりゃあ出るさ。最初からそう約束してここも借りてるしな」

 寂しいのかリオンが残念そうに絞り出した「もう少しいればいいのに」という言葉をシロは聞こえないふりをしてやり過ごす。地元を出る時は同級生のチビッ子から、アステカを出る時も近所の子供達から惜しまれそれはもう後ろ髪を引かれたのだ。
 何度も同じ言葉で足を止めていては学習しないにも程がある。それに今回は急ぎの用があるのにポカをやらかし、こうして辺境の村で足止めを喰らっているのだから一日も早くここを発つことが村にとっても自分にとっても先決であると自身に言いきかせていた。

「じゃあ僕も連れて行ってよ」
「はあ?」

「だって世界が終ろうっていうのに、ずっとここに居ても仕方ないじゃないか」
「ぜってーお断りだ。足手まといにしかならん」

「ねーいいでしょー。何でも言う事聞くからさー。残りの一ヶ月をこの何もない村で過ごして終わりにしたくないんだよ。お金ならほとんど手つかずのお小遣いで何とか出来るからさ」
「金の問題じゃねーよ。何でも言う事聞くんなら大人しく親御さんと一緒に居てやれ。最後の行いが親孝行ってのもなかなか悪くねーと思うぜ?」

「ケチ」
「何とでも言え」

 シロがリビングでなおもごねるリオンに辟易していると、話を変えた少女が唐突に聞きなれない単語を口にしたので女は問い返した。

「【日常派】に【周知派】?なんだそりゃ」

 少女が女に【流星症候群】も含めて説明し、再度先ほどの問いを繰り返した。

「さっき話してて世界の終わりって言ったのに普通に流したから金星が落ちてくるの知ってるんだなって。ジローはどっちなの?」
「どっちでもねーよ。つーかどうでもいい」

「どうして?」

 少女の問いかけに女は「逆に聞いてわりーが」と断り問い返す。

「どうして故意に口を噤んだり広めたりしないといけないんだ?どうして知っている者同士で意見を揃える必要がある?んなのは個々人で考えるもんだろ。お前はどうしたいんだよ」
「自分ではどっちが正しいのか分からなくて」

「ケースバイケースってやつだと思うぜ。相手によって正しい事もありゃ間違ってる事もあるだろうさ。俺の見立てじゃ村長は知ってそうだが他の皆は知らなそうな気がしてる。少なくとも俺は何も言う気ねーぞ」
「どうして?」

「そりゃあ村の長が隠してんだから余所者が首突っ込むのは違うだろ。それに俺は知りたい奴は勝手に知るし、そうでなけりゃ知らねーままでもいいと思ってる。あともう『なんで?』とか『どうして?』はよせ。俺は先生じゃねーんだから模範解答なんざ持ってねーんだよ」
「さ、参考にするだけだから」

「それでもだ」

 女の不機嫌を察した少女は追及を辞め、この件について今後は聞かないかった。
 その後は昨夜と同じようにシロが日本の本を読み聞かせてやりながら単語の意味を説明し、昨日と同じ流れでリオンが眠っている事に気が付いたのでまた同じようにパーカを掛けてやったのだった。



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 シロはある程度先の予定が纏まったところで手帳を閉じると、端末のデジタル時計は午後九時となっており簡単な湯あみを終えてから食事の準備に取り掛かる。準備と言っても材料は限られているので他に何かないかとキッチンを探り、おそらく賞味期限など見てはならない調味料のストックがシンク下の収納から見つかった。
 女は玉ねぎと肉ををひたすら煮込めばそれなりのスープが出来そうだと考えたが野菜がなかった事に気が付き、取り合えず肉だけを煮込みまくることにした。干し肉を適当に千切って鍋に入れ不凍の蛇口から水を入れる。
 七輪を温めるべくストーブから赤熱する薪を取り出そうとした所でストーブ上部に開く位置があることに気が付き、火箸で挟んで動かしてみると簡易コンロの役割が果たせることに気が付いた。
 当然七輪よりも火力は強いのでしばらく眺めていると鍋が湧きはじめ、軽くスープの味を見てみたところ薄く獣くさい出汁しか出ておらず女の顔をしかめさせる。
 苦し紛れに腰のナイフで細かく切った林檎と塩胡椒を適当にぶち込んだところ、決して旨くはないが食べられない程ではないギリギリのラインの物が出来上がり一安心した。
 初日に貰った食料袋から鈍器のように固いバタールを取り出し半ばで折って残りは袋に戻す。食べる方をストーブの上で湯気を上げるスープに付けてみると、乾いたパンがスープの汁気をよく吸い食べやすい硬さになったので千切りながらバタールを平らげた。
 端末が十時過ぎを示していたので眠ろうかと思っていると、朝と違いコンコンと大人しいノックが聞こえた。
 客の顔を想像しながら戸を開けると予想に違わず戸を叩いたのはリオンだった。
「毎日こんな夜更けに外出してたら、いつかバレて大目玉くらうぞ?」
「大丈夫だよジローがいる間だけだから。そんなことより明後日から暫く晴れるみたいだけど本当に出発するの?」
「そりゃあ出るさ。最初からそう約束してここも借りてるしな」
 寂しいのかリオンが残念そうに絞り出した「もう少しいればいいのに」という言葉をシロは聞こえないふりをしてやり過ごす。地元を出る時は同級生のチビッ子から、アステカを出る時も近所の子供達から惜しまれそれはもう後ろ髪を引かれたのだ。
 何度も同じ言葉で足を止めていては学習しないにも程がある。それに今回は急ぎの用があるのにポカをやらかし、こうして辺境の村で足止めを喰らっているのだから一日も早くここを発つことが村にとっても自分にとっても先決であると自身に言いきかせていた。
「じゃあ僕も連れて行ってよ」
「はあ?」
「だって世界が終ろうっていうのに、ずっとここに居ても仕方ないじゃないか」
「ぜってーお断りだ。足手まといにしかならん」
「ねーいいでしょー。何でも言う事聞くからさー。残りの一ヶ月をこの何もない村で過ごして終わりにしたくないんだよ。お金ならほとんど手つかずのお小遣いで何とか出来るからさ」
「金の問題じゃねーよ。何でも言う事聞くんなら大人しく親御さんと一緒に居てやれ。最後の行いが親孝行ってのもなかなか悪くねーと思うぜ?」
「ケチ」
「何とでも言え」
 シロがリビングでなおもごねるリオンに辟易していると、話を変えた少女が唐突に聞きなれない単語を口にしたので女は問い返した。
「【日常派】に【周知派】?なんだそりゃ」
 少女が女に【流星症候群】も含めて説明し、再度先ほどの問いを繰り返した。
「さっき話してて世界の終わりって言ったのに普通に流したから金星が落ちてくるの知ってるんだなって。ジローはどっちなの?」
「どっちでもねーよ。つーかどうでもいい」
「どうして?」
 少女の問いかけに女は「逆に聞いてわりーが」と断り問い返す。
「どうして故意に口を噤んだり広めたりしないといけないんだ?どうして知っている者同士で意見を揃える必要がある?んなのは個々人で考えるもんだろ。お前はどうしたいんだよ」
「自分ではどっちが正しいのか分からなくて」
「ケースバイケースってやつだと思うぜ。相手によって正しい事もありゃ間違ってる事もあるだろうさ。俺の見立てじゃ村長は知ってそうだが他の皆は知らなそうな気がしてる。少なくとも俺は何も言う気ねーぞ」
「どうして?」
「そりゃあ村の長が隠してんだから余所者が首突っ込むのは違うだろ。それに俺は知りたい奴は勝手に知るし、そうでなけりゃ知らねーままでもいいと思ってる。あともう『なんで?』とか『どうして?』はよせ。俺は先生じゃねーんだから模範解答なんざ持ってねーんだよ」
「さ、参考にするだけだから」
「それでもだ」
 女の不機嫌を察した少女は追及を辞め、この件について今後は聞かないかった。
 その後は昨夜と同じようにシロが日本の本を読み聞かせてやりながら単語の意味を説明し、昨日と同じ流れでリオンが眠っている事に気が付いたのでまた同じようにパーカを掛けてやったのだった。