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第15話 大きい浴槽っていいよね

ー/ー



「ふぅ……」
 ぼくは、大きな浴槽で、腕と脚を伸ばすと、ゆっくりと息を吐き出した。

 本当に、今日は色んなことがあった。
 それでも、こうしてお湯に浸かっていると、疲れが少しずつ、抜けていくようだった。

 結局、ぼくとギンゲツの決闘は、翌日の午後に決められてしまった。
 リゼルとミラージュさんが決めてしまった以上、もう口出しをすることは出来ない。

 今夜、泊まるところだけど、ウォルグレン子爵のレイドリフさんとリーリアさんを頼ることにした。
 実は、おふたりはロカルノ村からロシュトゥール王国の王都ファル=ナルシオンへと出てくるきっかけとなった人物でもある。

 セリカ姉が失踪する直前のことだ。
 ぼくたちは、十六歳になり、セリカ姉に、アリアンフロッドとして学園に入りたい、ということを伝えると、それなら、ウォルグレンさんに相談するといい、と連絡先を渡されたのだ。

 レイドリフさんとリーリアさんは、アカツキやセリカ姉とも知り合い——というか、かつて、ふたりに依頼をしたことがあるようだった。
 依頼人という間柄だけでなく、夫婦のふたりはアリアンフロッド機関を個人的に援助などをしているみたいだ。

 王都の貴族区に邸宅を持つ子爵くらいじゃないと、こんな大きな浴室——浴場と言ってもいいくらいだが、用意はできないだろう。
 浴場だけど、ひとりきりでいると、とても広く感じてしまう。
 数十人が余裕で入れる風呂桶があり、暖かいお湯が尽きることなく、流し込まれている。
 すっごい贅沢だ。

「なんか、本当に今日は色んなことがありすぎて、頭が追いつかないや……」
 肩までお湯に浸かりながら、ぼくはひとり言を呟いた。

 試練の間で、ぼくは何度も殺されているのに、意外と傷は少なかった。
 新しい傷はあるけど、それは”初心者殺しの小迷宮”から転送する前——千秋の轍(デイ・バイ・デイ)小隊(ランス)の仮メンバーと行動していた時、招魂獣と戦った時のものだ。
 というか、ギンゲツが首吊りの樹に止めを刺した時に使った、爆炎の魔術によるダメージが一番、大きかった。
 ドラッグ・ショットでも治癒しきれなかった、火傷の跡があちこちに残ってしまっている。

「ほんに、今日ばかりは色々なことがあったぞえのぉ」
 ぼくのものじゃない、少し掠れた声が聞こえてきた。
 横を見ると、そこには全裸のグリューンが当然のように、湯船に浸かっていた。

「——えっ」
 グリューンの肩から上の部分、それに湯に浸かっている、彼女の豊かな胸や腰、太腿などがぼくの目を打った。
 武装していない彼女の姿を見るのは、これがはじめてだ。
 こうして見ると、美人なのはもちろんだけど、スタイルもかなり、いい。
 チカはもう、問題外だけど、アカネとどちらが、胸の大きさはあるのだろう……。

「これこれ。そんな、じろじろと見るでない。照れるではないか」
 その言葉に、ぼくは現実へと引き戻された。
 飛び上がるようにして浴槽から移動すると、大事なところを隠した。

「な……な、なんで、グリューンがここにいるんだよ!」
 思わず、大きな声が出てしまう。
「のぉ、わしがあの試練の間でどのくらい、待機させられいたと思う? たまには、こうして受肉した状態で、お湯に浸かりたいぞよ」

 グリューンが浴槽を泳ぐようにして位置を移すと、ぼくのほうへと身体を向けてきた。
「そなたは、もう少し、鍛えたほうがいいのぉ。まだ、筋力不足ぞね。“屠るもの”を使いこなすには、まだまだ、じゃな」
「ちょ、ど……どこを見てんのさ」

「それに、女性にももうちょっと、慣れたほうがいいぞえのぉ。そなたの幼馴染み——アカネとチカと言ったか。不必要に遠慮などしていると、大切なものを見落としかねんぞ」
「……へぇ。クロノスの使徒って、そんなことにもアドバイスしてくれるの?」

 少し、落ち着いてきたので、ぼくは洗い場へと向かった。
 グリューンには背中を向けて、石鹼で身体を洗いはじめる。

「まぁな。そなたの精神状態も、戦いを左右することもあろうからな。特に、色事に関してはプラスにもマイナスにもなりかねん。まぁ……そこが、人間の面白いところぞねよのぉ」
「ふぅん……」

 アカネとチカ、か……。
 ふたりとも、ただの幼馴染みでしかないし、どちらも、いずれは離れていってしまう存在だ。
 今は、ふたりといると、とっても楽しくてしょうがない。

 これからは、三人ともアリアンフロッドとなれたのだから、それは続いていくのだと思う。
 でも、それはずっと、ということじゃない。

「傷つけず、傷つかないように、か。難しいの」
 グリューンがばしゃばしゃと、浴槽のなかを泳ぎながら、そんなことを呟いた。
 まるで、ぼくの考えていることを当てられたみたいに、どきりとした。

 そうだ——ぼくは、恐れている。
 ふたりをなるべく、傷つけないように、そっと距離を取ろうとはしている。
 けど、それは今のところ、うまくいってはいない。

 ぼくだって、この居場所をなくしたりしたくはない。
 だって、ぼくにはもう、何もないから……。

 ぼくは無言で、手桶に溜めておいたお湯を頭から被った。


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「ふぅ……」
 ぼくは、大きな浴槽で、腕と脚を伸ばすと、ゆっくりと息を吐き出した。
 本当に、今日は色んなことがあった。
 それでも、こうしてお湯に浸かっていると、疲れが少しずつ、抜けていくようだった。
 結局、ぼくとギンゲツの決闘は、翌日の午後に決められてしまった。
 リゼルとミラージュさんが決めてしまった以上、もう口出しをすることは出来ない。
 今夜、泊まるところだけど、ウォルグレン子爵のレイドリフさんとリーリアさんを頼ることにした。
 実は、おふたりはロカルノ村からロシュトゥール王国の王都ファル=ナルシオンへと出てくるきっかけとなった人物でもある。
 セリカ姉が失踪する直前のことだ。
 ぼくたちは、十六歳になり、セリカ姉に、アリアンフロッドとして学園に入りたい、ということを伝えると、それなら、ウォルグレンさんに相談するといい、と連絡先を渡されたのだ。
 レイドリフさんとリーリアさんは、アカツキやセリカ姉とも知り合い——というか、かつて、ふたりに依頼をしたことがあるようだった。
 依頼人という間柄だけでなく、夫婦のふたりはアリアンフロッド機関を個人的に援助などをしているみたいだ。
 王都の貴族区に邸宅を持つ子爵くらいじゃないと、こんな大きな浴室——浴場と言ってもいいくらいだが、用意はできないだろう。
 浴場だけど、ひとりきりでいると、とても広く感じてしまう。
 数十人が余裕で入れる風呂桶があり、暖かいお湯が尽きることなく、流し込まれている。
 すっごい贅沢だ。
「なんか、本当に今日は色んなことがありすぎて、頭が追いつかないや……」
 肩までお湯に浸かりながら、ぼくはひとり言を呟いた。
 試練の間で、ぼくは何度も殺されているのに、意外と傷は少なかった。
 新しい傷はあるけど、それは”初心者殺しの小迷宮”から転送する前——|千秋の轍《デイ・バイ・デイ》の|小隊《ランス》の仮メンバーと行動していた時、招魂獣と戦った時のものだ。
 というか、ギンゲツが首吊りの樹に止めを刺した時に使った、爆炎の魔術によるダメージが一番、大きかった。
 ドラッグ・ショットでも治癒しきれなかった、火傷の跡があちこちに残ってしまっている。
「ほんに、今日ばかりは色々なことがあったぞえのぉ」
 ぼくのものじゃない、少し掠れた声が聞こえてきた。
 横を見ると、そこには全裸のグリューンが当然のように、湯船に浸かっていた。
「——えっ」
 グリューンの肩から上の部分、それに湯に浸かっている、彼女の豊かな胸や腰、太腿などがぼくの目を打った。
 武装していない彼女の姿を見るのは、これがはじめてだ。
 こうして見ると、美人なのはもちろんだけど、スタイルもかなり、いい。
 チカはもう、問題外だけど、アカネとどちらが、胸の大きさはあるのだろう……。
「これこれ。そんな、じろじろと見るでない。照れるではないか」
 その言葉に、ぼくは現実へと引き戻された。
 飛び上がるようにして浴槽から移動すると、大事なところを隠した。
「な……な、なんで、グリューンがここにいるんだよ!」
 思わず、大きな声が出てしまう。
「のぉ、わしがあの試練の間でどのくらい、待機させられいたと思う? たまには、こうして受肉した状態で、お湯に浸かりたいぞよ」
 グリューンが浴槽を泳ぐようにして位置を移すと、ぼくのほうへと身体を向けてきた。
「そなたは、もう少し、鍛えたほうがいいのぉ。まだ、筋力不足ぞね。“屠るもの”を使いこなすには、まだまだ、じゃな」
「ちょ、ど……どこを見てんのさ」
「それに、女性にももうちょっと、慣れたほうがいいぞえのぉ。そなたの幼馴染み——アカネとチカと言ったか。不必要に遠慮などしていると、大切なものを見落としかねんぞ」
「……へぇ。クロノスの使徒って、そんなことにもアドバイスしてくれるの?」
 少し、落ち着いてきたので、ぼくは洗い場へと向かった。
 グリューンには背中を向けて、石鹼で身体を洗いはじめる。
「まぁな。そなたの精神状態も、戦いを左右することもあろうからな。特に、色事に関してはプラスにもマイナスにもなりかねん。まぁ……そこが、人間の面白いところぞねよのぉ」
「ふぅん……」
 アカネとチカ、か……。
 ふたりとも、ただの幼馴染みでしかないし、どちらも、いずれは離れていってしまう存在だ。
 今は、ふたりといると、とっても楽しくてしょうがない。
 これからは、三人ともアリアンフロッドとなれたのだから、それは続いていくのだと思う。
 でも、それはずっと、ということじゃない。
「傷つけず、傷つかないように、か。難しいの」
 グリューンがばしゃばしゃと、浴槽のなかを泳ぎながら、そんなことを呟いた。
 まるで、ぼくの考えていることを当てられたみたいに、どきりとした。
 そうだ——ぼくは、恐れている。
 ふたりをなるべく、傷つけないように、そっと距離を取ろうとはしている。
 けど、それは今のところ、うまくいってはいない。
 ぼくだって、この居場所をなくしたりしたくはない。
 だって、ぼくにはもう、何もないから……。
 ぼくは無言で、手桶に溜めておいたお湯を頭から被った。