第99話 作戦会議

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 我の屋敷の応接室が、何やら物々しい雰囲気になっていた。
 皆、いなくなってしまったミモザのことを心配し、真剣に話し合っている最中だ。

 使用人の殆どはまだパエデロス中でミモザの捜索に当たってもらっていため、今この場に集まっているのはミモザに雇われた従業員たちだけとなる。
 自分から来たのではなく、ノイデスが言葉通りに皆を運び込んできたのだがな。

 お互いにここまで収集してきた情報交換をし合いつつ、本題としてはアレフヘイムの森に行くかどうかの会議だ。

 現状からいってもミモザがパエデロスにいない可能性は濃厚であり、他に探すともなればそれこそ手当たり次第にパエデロスの周辺まで探索しなければならない。

 しかし、パエデロスの近辺にはいくつものダンジョンが点在しているため、さすがに冒険者でもない我の使用人に探させることもできないし、かといってダンジョンの数だけ冒険者を雇うなどというのも現実的ではない。

 よって、アレフヘイムの森こそが最後の希望ということになる。
 もし、これで完全にあてが外れたらパエデロス近辺のダンジョンを全部しらみつぶしに攻略し尽くすという最悪の状況に持ち込まれる。

「アレフヘイムの森までの案内はデニア。お前にしか頼めない。だが、他の者はどうする? 本当にミモザがいる保証はないぞ」
「行くに決まってんだろ!」
 ノイデスの即答は分かりきっていたからよしとして――。

「拙者も行きます!」
「私もお供させて下さい。お嬢のためなら、小さな可能性にも賭けますとも」
 ヤスミとサンシの二人からも心強い返事をもらえたことに、我も感無量だ。

 そんなところで、我は懐から徐に、ソレを取り出してみる。
 手のひらに収まる手鏡のようなもの。
 そっとかざしてみると向こうが透けて見える不思議な鏡だ。

 勿論これはそれだけのものではない。
 鏡を通して従業員たちの顔を覗き込むと、そこに文字列が浮かび上がる。

【デニア・アスタロイズ】(エルフ)
 ≪LV:44≫
 ≪HP:2842/2842≫
 ≪MP:5244/5244≫
 ≪状態:健康≫

【ヤスミ・イクソラ】(人間)
 ≪LV:57≫
 ≪HP:4812/4812≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

【ノイデス・ノウマウス】(ハーフオーガ)
 ≪LV:72≫
 ≪HP:6757/6757≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

【サンシ・マルバ】(ドワーフ)
 ≪LV:63≫
 ≪HP:5062/5062≫
 ≪MP:153/153≫
 ≪状態:健康≫

 思わず我も「うおっ」と声が漏れそうになったが何とか堪えた。

 この鏡はミモザお手製の対象の能力を数値化して見ることができるという画期的な魔具だ。以前にも似たような魔具はオリジナルで作っていたが、これはかなりの改良の手が加えられている。

 その名も、大賢者の眼鏡(ライブミラー)。これまで使ってきた現実の反射板(リアルミラー)真実を見る透鏡(トゥルーグラス)と大きく変わるような点は一見ないように思えるが、これでもミモザも苦労して調整したのだ。文句は言わせぬぞ。

 それにしても、ミモザのもとに集まってきた従業員どもの能力値、高すぎではないのか? 勇者やその仲間どもと比べれば劣るところはあるが、それでもそこいらをぶらついている冒険者よりも格段にヤバいことは分かる。

 こんな人材、一体何処から飛び込んできたのか未だに謎だ。

 そっと我は大賢者の眼鏡(ライブミラー)で自分の顔を覗き込んだ。
 手元に構えれば、普通の手鏡としても使うこともできる。そして、そこに我の能力が数値化されたものが映し出されてきた。

【フィーさん】(月の民)
 ≪LV:11≫
 ≪HP:64/64≫
 ≪MP:32/32≫
 ≪状態:健康≫

 なんだか、すさまじく悲しい数値が見えてくるな。
 ミモザが失踪してしまった事件がパエデロス中に知れ渡ってしまったことにより、住民たちに負の感情が渦巻いて、我もちょっとだけ強くなったのだが……。

 まあ、能力が低いことは今に始まったことでもあるまい。我にはミモザの魔具があるのだから、いつも通りそこでカバーしよう。

「お嬢様。わたくしめも、どうか連れていって下さい」

 いきなりスッと現れたのは、ぱっと見の華奢なイメージからは想像もできないくらい筋肉ムキムキメイドのオキザリスだった。

【オキザリスさん】(人間)
 ≪LV:86≫
 ≪HP:7857/7857≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫

 お前、人間じゃねぇ……。

 うっかり大賢者の眼鏡(ライブミラー)を覗き込んでちびるところだったぞ。
 我の記憶違いだったか? オキザリスって勇者の仲間じゃないはずなのだが。
 明らかに純粋な能力としてはあのダリアにもそう劣らぬぞ。

「お嬢様の身は、わたくしめがお守りいたします故」

 うわぁ、めちゃくちゃ心強い。
 我っていつもこんなメイドを傍に置いておったのか。

「分かった。我の安全は頼んだぞ、オキザリス」
「御意」

 予定していたよりも大所帯になってしまったな。
 多分だが、ここでついてくるななどと断った場合、オキザリスは我を屋敷から出さなかったと思う。いずれにせよ、我に選択肢はなかったと思っていいだろう。

 アレフヘイムの森がどのような場所なのか、まだ未知数ではあるが、これだけのメンツを揃えているならよっぽどのことがない限りは危険なことにもなるまい。
 あとは、ミモザがそこにいることを願うばかりだ。

 だが、もしも本当にミモザが故郷の森に帰ってしまったのだとしたら、我にも何も告げずに自らの意思で去っていったことになる。
 それは、はたしてミモザの本心だったのだろうか。得体の知れない魔術によって洗脳され、拉致されていった説の方を推したいくらいだ。

 まあ、そこまで広げてしまうと、アレフヘイム以外も候補に挙がってきてしまう。
 あまり拡大解釈をしていくのは止めておこう。

 きっと、そうだ。ミモザは脅迫をされて、ついていかざるを得なかったのだ。
 情報の少ない今はそう考えておくほかない。

「アレフヘイムの森にはいつ出発するんだ? どうやって向かうんだ?」

 ノイデスがガツガツと話を進めていこうとする。
 はやる気持ちは我と一緒らしい。
 なんだったら我も今すぐにでも出発していきたいくらいだ。

「そうですねぇ~……朝一番で出発するにしても大きめの馬車を借りてこないといけませんねぇ」
「うむ、それなら我が手配しよう。一番いいのを頼む」
「おっ! さっすがパエデロス随一のご令嬢様だぜ! 太っ腹ぁ!」
 あんまし褒められている気はしないが、よしとしよう。

 こうして着々と計画は進められていった。
 ノイデス以外は、旅の計画についてはかなり慣れているようで、思っていた以上に話がスムーズだったのは行幸といえよう。

 アレフヘイムの森への出発は明日の朝。

 向かうのは我を含めミモザの従業員四人と、我の使用人一人。
 この肩書きだけ見たら頼りなさそうな響きではあるが、全員我視点から見たらバケモノ級の強者揃い。この上なく頼りになること間違いなし。

 逆に、この中で元魔王である我が一番のザコザコのよわよわのヘボヘボであることが悲しくて虚しくて仕方ないところなのだが……。

 ともかく、我の思うよりもミモザの人望が厚かったことを、我は密かに誇りに思っている。今いる従業員たちも、ミモザの評判を聞きつけて遠方からやってきた連中なのだから、それだけミモザの噂も広まっているということだ。

 今回の件に関して言えば、それも悪い方向に転じてしまった側面もあるのかもしれないが、それでもやはり、落ちこぼれと嘆いていたミモザがここまで有名になれたのだから、やはり我は嬉しかった。


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 我の屋敷の応接室が、何やら物々しい雰囲気になっていた。
 皆、いなくなってしまったミモザのことを心配し、真剣に話し合っている最中だ。
 使用人の殆どはまだパエデロス中でミモザの捜索に当たってもらっていため、今この場に集まっているのはミモザに雇われた従業員たちだけとなる。
 自分から来たのではなく、ノイデスが言葉通りに皆を運び込んできたのだがな。
 お互いにここまで収集してきた情報交換をし合いつつ、本題としてはアレフヘイムの森に行くかどうかの会議だ。
 現状からいってもミモザがパエデロスにいない可能性は濃厚であり、他に探すともなればそれこそ手当たり次第にパエデロスの周辺まで探索しなければならない。
 しかし、パエデロスの近辺にはいくつものダンジョンが点在しているため、さすがに冒険者でもない我の使用人に探させることもできないし、かといってダンジョンの数だけ冒険者を雇うなどというのも現実的ではない。
 よって、アレフヘイムの森こそが最後の希望ということになる。
 もし、これで完全にあてが外れたらパエデロス近辺のダンジョンを全部しらみつぶしに攻略し尽くすという最悪の状況に持ち込まれる。
「アレフヘイムの森までの案内はデニア。お前にしか頼めない。だが、他の者はどうする? 本当にミモザがいる保証はないぞ」
「行くに決まってんだろ!」
 ノイデスの即答は分かりきっていたからよしとして――。
「拙者も行きます!」
「私もお供させて下さい。お嬢のためなら、小さな可能性にも賭けますとも」
 ヤスミとサンシの二人からも心強い返事をもらえたことに、我も感無量だ。
 そんなところで、我は懐から徐に、ソレを取り出してみる。
 手のひらに収まる手鏡のようなもの。
 そっとかざしてみると向こうが透けて見える不思議な鏡だ。
 勿論これはそれだけのものではない。
 鏡を通して従業員たちの顔を覗き込むと、そこに文字列が浮かび上がる。
【デニア・アスタロイズ】(エルフ)
 ≪LV:44≫
 ≪HP:2842/2842≫
 ≪MP:5244/5244≫
 ≪状態:健康≫
【ヤスミ・イクソラ】(人間)
 ≪LV:57≫
 ≪HP:4812/4812≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
【ノイデス・ノウマウス】(ハーフオーガ)
 ≪LV:72≫
 ≪HP:6757/6757≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
【サンシ・マルバ】(ドワーフ)
 ≪LV:63≫
 ≪HP:5062/5062≫
 ≪MP:153/153≫
 ≪状態:健康≫
 思わず我も「うおっ」と声が漏れそうになったが何とか堪えた。
 この鏡はミモザお手製の対象の能力を数値化して見ることができるという画期的な魔具だ。以前にも似たような魔具はオリジナルで作っていたが、これはかなりの改良の手が加えられている。
 その名も、|大賢者の眼鏡《ライブミラー》。これまで使ってきた|現実の反射板《リアルミラー》や|真実を見る透鏡《トゥルーグラス》と大きく変わるような点は一見ないように思えるが、これでもミモザも苦労して調整したのだ。文句は言わせぬぞ。
 それにしても、ミモザのもとに集まってきた従業員どもの能力値、高すぎではないのか? 勇者やその仲間どもと比べれば劣るところはあるが、それでもそこいらをぶらついている冒険者よりも格段にヤバいことは分かる。
 こんな人材、一体何処から飛び込んできたのか未だに謎だ。
 そっと我は|大賢者の眼鏡《ライブミラー》で自分の顔を覗き込んだ。
 手元に構えれば、普通の手鏡としても使うこともできる。そして、そこに我の能力が数値化されたものが映し出されてきた。
【フィーさん】(月の民)
 ≪LV:11≫
 ≪HP:64/64≫
 ≪MP:32/32≫
 ≪状態:健康≫
 なんだか、すさまじく悲しい数値が見えてくるな。
 ミモザが失踪してしまった事件がパエデロス中に知れ渡ってしまったことにより、住民たちに負の感情が渦巻いて、我もちょっとだけ強くなったのだが……。
 まあ、能力が低いことは今に始まったことでもあるまい。我にはミモザの魔具があるのだから、いつも通りそこでカバーしよう。
「お嬢様。わたくしめも、どうか連れていって下さい」
 いきなりスッと現れたのは、ぱっと見の華奢なイメージからは想像もできないくらい筋肉ムキムキメイドのオキザリスだった。
【オキザリスさん】(人間)
 ≪LV:86≫
 ≪HP:7857/7857≫
 ≪MP:0/0≫
 ≪状態:健康≫
 お前、人間じゃねぇ……。
 うっかり|大賢者の眼鏡《ライブミラー》を覗き込んでちびるところだったぞ。
 我の記憶違いだったか? オキザリスって勇者の仲間じゃないはずなのだが。
 明らかに純粋な能力としてはあのダリアにもそう劣らぬぞ。
「お嬢様の身は、わたくしめがお守りいたします故」
 うわぁ、めちゃくちゃ心強い。
 我っていつもこんなメイドを傍に置いておったのか。
「分かった。我の安全は頼んだぞ、オキザリス」
「御意」
 予定していたよりも大所帯になってしまったな。
 多分だが、ここでついてくるななどと断った場合、オキザリスは我を屋敷から出さなかったと思う。いずれにせよ、我に選択肢はなかったと思っていいだろう。
 アレフヘイムの森がどのような場所なのか、まだ未知数ではあるが、これだけのメンツを揃えているならよっぽどのことがない限りは危険なことにもなるまい。
 あとは、ミモザがそこにいることを願うばかりだ。
 だが、もしも本当にミモザが故郷の森に帰ってしまったのだとしたら、我にも何も告げずに自らの意思で去っていったことになる。
 それは、はたしてミモザの本心だったのだろうか。得体の知れない魔術によって洗脳され、拉致されていった説の方を推したいくらいだ。
 まあ、そこまで広げてしまうと、アレフヘイム以外も候補に挙がってきてしまう。
 あまり拡大解釈をしていくのは止めておこう。
 きっと、そうだ。ミモザは脅迫をされて、ついていかざるを得なかったのだ。
 情報の少ない今はそう考えておくほかない。
「アレフヘイムの森にはいつ出発するんだ? どうやって向かうんだ?」
 ノイデスがガツガツと話を進めていこうとする。
 はやる気持ちは我と一緒らしい。
 なんだったら我も今すぐにでも出発していきたいくらいだ。
「そうですねぇ~……朝一番で出発するにしても大きめの馬車を借りてこないといけませんねぇ」
「うむ、それなら我が手配しよう。一番いいのを頼む」
「おっ! さっすがパエデロス随一のご令嬢様だぜ! 太っ腹ぁ!」
 あんまし褒められている気はしないが、よしとしよう。
 こうして着々と計画は進められていった。
 ノイデス以外は、旅の計画についてはかなり慣れているようで、思っていた以上に話がスムーズだったのは行幸といえよう。
 アレフヘイムの森への出発は明日の朝。
 向かうのは我を含めミモザの従業員四人と、我の使用人一人。
 この肩書きだけ見たら頼りなさそうな響きではあるが、全員我視点から見たらバケモノ級の強者揃い。この上なく頼りになること間違いなし。
 逆に、この中で元魔王である我が一番のザコザコのよわよわのヘボヘボであることが悲しくて虚しくて仕方ないところなのだが……。
 ともかく、我の思うよりもミモザの人望が厚かったことを、我は密かに誇りに思っている。今いる従業員たちも、ミモザの評判を聞きつけて遠方からやってきた連中なのだから、それだけミモザの噂も広まっているということだ。
 今回の件に関して言えば、それも悪い方向に転じてしまった側面もあるのかもしれないが、それでもやはり、落ちこぼれと嘆いていたミモザがここまで有名になれたのだから、やはり我は嬉しかった。