【従業員】飲み会
ー/ー その周辺には多くのダンジョンが取り囲むよう点在している、辺境も辺境の地に位置するその場所には、何処からか空間を切って貼ったかの如く、大きく栄えた街が存在感を放っていた。
その名もお馴染みパエデロス。かつては冒険者が腕試しに集まり、それを金儲けと見た行商人が現れ、そういったことを皮切りに、方々から様々な連中がドッと集まりだし、気付いたときには人間だけでなく、亜人まで流れ着くようになってしまった掃き溜めだった。
異種族が一堂に介すること自体、稀有なことであり、治安は最悪の最悪、最低と言わざるを得ないような状況にあった。無論かつて、の話だ。
今ではそのようなことはなく、人間もエルフもオーガもドワーフも、同じテーブルに着いて酒を酌み交わせるような平和の象徴のような街となっている。
今日もまた、パエデロスには無数とある何処ぞの酒場の一角、異種族の娘たちがエールを片手に乾杯していたところだ。
「みなさぁん、お疲れ様でしたぁ~」
褐色肌で白髪のエルフが口火を切る。
「デニアさんお疲れさまです!」
オウム返しするように明るく言い放つのは、黒髪を奇妙な形に結った人間だ。
「へっ、エルフも人間もやわいな。俺はちっとも疲れてないぜ!」
悪態のようなものを笑顔で突きつけてきたのは、黒光りする筋肉がいやでも目につくオーガのような娘だった。
「社交辞令の言葉ですよ、ノイデスさん」
「んなこた分かってるよサンシ」
そのテーブルの中でも一際小さな女ドワーフが横やりを入れる。対するオーガのような娘は面倒くさそうに返事した。
それはパエデロスの外、他所の土地ではなかなかお目にかかれない光景であることは確かだ。
何せ、どの女性も種族が異なるのだから。
「いやぁ~、こうやって皆さんだけで集まるのは初めてでしたっけ。いつもお店では顔を合わせているのに不思議な感じですねぇ」
褐色エルフの娘、デニアがくぴくぴと酒を口にしながら言う。
「まあ、そうですね。私も工房に籠りきりなもので、このような席にお呼ばれしたのも初めてですよ。ヤスミさんはいかがですか?」
ドワーフ娘のサンシが投げ掛ける。一番背丈が小さいが、この中では一番大人のように振る舞って見えた。
「いえ、拙者もあまり人から誘われることはありませんでしたので、えへへ、デニアさんに誘ってもらって嬉しかったです」
まだ酒もそこまで進んでいなかったが、ヤスミは頬をほんのり赤らめて答える。
「俺は酒が飲めりゃどうでもよかったけどな、ガッハッハ」
豪快に一杯をそのまま飲み干した黒い筋肉娘、ノイデスは水だったのかと思わされるほど平然とした笑顔を見せる。
「皆さまはご出身はどちらで? パエデロス出身ではないですよね。ああ、私は北にある名もない山脈を転々とする集落におりました」
ノイデスの笑顔を横目に、とりあえず話題の切り出しにサンシが問い訪ねる。
「ああ、聞いたことあるぅ。炭鉱屋さんのキャラバンでしょ? 専属の鍛冶屋さんも常駐しててすんごい腕前の人ばっかりだって」
デニアがオーバーなくらい驚いてみせ、小さく拍手も添える。
「私は、ジャーカランダーっていう、まあ、ここより結構遠いところにある大陸の出身になります。里を出てきたのももう大分前になるかな。旅をしていてここに流れ着いた感じですぅ」
うふふ、とデニアが微笑み、答える。
「まだまだ拙者の知らない大陸が沢山あるのですね。いやはや、世界は広い広い。拙者は東の方にある島国の出身です。後学のために海を渡ってきたんですけど、見るもの見るもの知らないもので驚くことばかりですよ」
ヤスミが後ろ頭を掻きながらてれてれと話す。他の三人に比べると、かなり癖の強い訛りがあるように感じられた。
「ん? あ? 俺か? 俺は、何処だっけな。ま、家出して飛び出してきちまってもう長いんだ。故郷の名前も覚えてねぇな。確かゴツゴツした岩場がいっぱいある山だったぜ。多分な」
話に乗れていなかったのか半分も聞いていなかったのか、その場のノリのまま、とりあえずでノイデスがぶっきらぼうに答える。
これには他の三人も苦笑する他なかった。
「っていうか、そんなんどうでもいいけどよ、なんでここに師匠がいねぇんだ? 呼ばなかったのかよ。てっきり師匠と一緒に酒を飲み明かせると思ったのによぉ!」
まるでたった今気付いたかのようにその質問がノイデスの口から出てくる。
「ノイデスさん、あの、お嬢様の腕輪に気付いていなかったのですかぁ?」
「腕輪ぁ? ああ、まあなんか高そうなの付けてたと思うが、それがどうしたよ。フィー様の腕輪が師匠とどう関係するんだ」
デニアの質問にもあまり感心なさげに、また一杯酒をグビっとあおって早くも三杯目のおかわりを酒場の店員に要求する。
「フィー様が付けていたあの腕輪は、エルフの絆と言いまして。古来よりエルフとドワーフの信頼の証とも呼ばれているものなのですよ。今でいうと、そうですね。親しいものへ贈られる最上位の品ということです」
よく分かっていないノイデスに向けて、サンシが補足をつける。
「あれってそんな代物だったんですか。すみません、拙者も知りませんでした。何やら物凄く高価な腕輪だなとは思ってたんですけど……」
ヤスミが恥ずかしげに横から割って入る。
「間違いなく店長がお嬢様に贈ったものだと思うんですよねぇ」
デニアがくぴくぴと飲む。まだ一杯目の半分も残っている。
「それで、だからどういう意味になるんだ。エルフの、絆? ってのがまあそういうもんなのは分かったけどよ、フィー様と師匠が親友同士なんてこのパエデロスじゃあ誰だって知ってることじゃんかよ。この俺だって知ってんだぜ」
頬を赤らめる様子もなく、ノイデスが五杯目のおかわりを注文する。
その一方で、エルフのデニアと、ドワーフのサンシは顔を見合わせて、これを喋っていいものかどうかを目で相談する。
「エルフの絆は、今お話ししました通り、親しいものへの贈り物……なんですがぁ、それってもうちょっと、そのぉ……」
言葉を重ねていくごとに、何やらデニアの言葉尻が怪しくなっていく。
「婚約腕輪なのですよ、あれは」
「ぶううぅぅぅーーーーーっ!!!!」
サンシの一言に、ノイデスの五杯目は喉に届く前にテーブルにぶちまけられる。そしてそのままむせ返り、ゲホゲホとのど元を抑えて悶えた。
「婚……約……、はわわ……」
端から聞いていたヤスミの顔がポゥっとまた一層赤らんでいく。
「店長さんが意味を知らずに渡した可能性もあるかもですが……そうであろうとなかろうと、あのお二人のお邪魔はできないと思いましたので」
「いやいやいや意味知らないまま渡したに決まって……あ、いや、十分にありうるのか……師匠だし……」
酒を何杯飲み干しても赤らむことのなかったノイデスの顔がポッと色づいていくのが見えた。
「まあ、婚約の腕輪とされるのも時代の移り変わりによるもの。本当に知らなかった可能性はあるでしょう。ですが、お嬢とフィー様のただならぬ関係は誰も否定できません」
「噂によればぁ……一緒にお風呂に入ったり、一緒にベッドに入ったりしているらしいですしねぇ……」
それまで騒がしく大声をあげていたノイデスの言葉がピタリと止まってしまっていた。相当衝撃的だったらしい。
「せっ……拙者の知らない世界はまだまだあるんですね……本当に世界って広い……」
すっかり顔を真っ赤っかに染め上げたヤスミが、酒を飲み干し、そしてむせた。
その名もお馴染みパエデロス。かつては冒険者が腕試しに集まり、それを金儲けと見た行商人が現れ、そういったことを皮切りに、方々から様々な連中がドッと集まりだし、気付いたときには人間だけでなく、亜人まで流れ着くようになってしまった掃き溜めだった。
異種族が一堂に介すること自体、稀有なことであり、治安は最悪の最悪、最低と言わざるを得ないような状況にあった。無論かつて、の話だ。
今ではそのようなことはなく、人間もエルフもオーガもドワーフも、同じテーブルに着いて酒を酌み交わせるような平和の象徴のような街となっている。
今日もまた、パエデロスには無数とある何処ぞの酒場の一角、異種族の娘たちがエールを片手に乾杯していたところだ。
「みなさぁん、お疲れ様でしたぁ~」
褐色肌で白髪のエルフが口火を切る。
「デニアさんお疲れさまです!」
オウム返しするように明るく言い放つのは、黒髪を奇妙な形に結った人間だ。
「へっ、エルフも人間もやわいな。俺はちっとも疲れてないぜ!」
悪態のようなものを笑顔で突きつけてきたのは、黒光りする筋肉がいやでも目につくオーガのような娘だった。
「社交辞令の言葉ですよ、ノイデスさん」
「んなこた分かってるよサンシ」
そのテーブルの中でも一際小さな女ドワーフが横やりを入れる。対するオーガのような娘は面倒くさそうに返事した。
それはパエデロスの外、他所の土地ではなかなかお目にかかれない光景であることは確かだ。
何せ、どの女性も種族が異なるのだから。
「いやぁ~、こうやって皆さんだけで集まるのは初めてでしたっけ。いつもお店では顔を合わせているのに不思議な感じですねぇ」
褐色エルフの娘、デニアがくぴくぴと酒を口にしながら言う。
「まあ、そうですね。私も工房に籠りきりなもので、このような席にお呼ばれしたのも初めてですよ。ヤスミさんはいかがですか?」
ドワーフ娘のサンシが投げ掛ける。一番背丈が小さいが、この中では一番大人のように振る舞って見えた。
「いえ、拙者もあまり人から誘われることはありませんでしたので、えへへ、デニアさんに誘ってもらって嬉しかったです」
まだ酒もそこまで進んでいなかったが、ヤスミは頬をほんのり赤らめて答える。
「俺は酒が飲めりゃどうでもよかったけどな、ガッハッハ」
豪快に一杯をそのまま飲み干した黒い筋肉娘、ノイデスは水だったのかと思わされるほど平然とした笑顔を見せる。
「皆さまはご出身はどちらで? パエデロス出身ではないですよね。ああ、私は北にある名もない山脈を転々とする集落におりました」
ノイデスの笑顔を横目に、とりあえず話題の切り出しにサンシが問い訪ねる。
「ああ、聞いたことあるぅ。炭鉱屋さんのキャラバンでしょ? 専属の鍛冶屋さんも常駐しててすんごい腕前の人ばっかりだって」
デニアがオーバーなくらい驚いてみせ、小さく拍手も添える。
「私は、ジャーカランダーっていう、まあ、ここより結構遠いところにある大陸の出身になります。里を出てきたのももう大分前になるかな。旅をしていてここに流れ着いた感じですぅ」
うふふ、とデニアが微笑み、答える。
「まだまだ拙者の知らない大陸が沢山あるのですね。いやはや、世界は広い広い。拙者は東の方にある島国の出身です。後学のために海を渡ってきたんですけど、見るもの見るもの知らないもので驚くことばかりですよ」
ヤスミが後ろ頭を掻きながらてれてれと話す。他の三人に比べると、かなり癖の強い訛りがあるように感じられた。
「ん? あ? 俺か? 俺は、何処だっけな。ま、家出して飛び出してきちまってもう長いんだ。故郷の名前も覚えてねぇな。確かゴツゴツした岩場がいっぱいある山だったぜ。多分な」
話に乗れていなかったのか半分も聞いていなかったのか、その場のノリのまま、とりあえずでノイデスがぶっきらぼうに答える。
これには他の三人も苦笑する他なかった。
「っていうか、そんなんどうでもいいけどよ、なんでここに師匠がいねぇんだ? 呼ばなかったのかよ。てっきり師匠と一緒に酒を飲み明かせると思ったのによぉ!」
まるでたった今気付いたかのようにその質問がノイデスの口から出てくる。
「ノイデスさん、あの、お嬢様の腕輪に気付いていなかったのですかぁ?」
「腕輪ぁ? ああ、まあなんか高そうなの付けてたと思うが、それがどうしたよ。フィー様の腕輪が師匠とどう関係するんだ」
デニアの質問にもあまり感心なさげに、また一杯酒をグビっとあおって早くも三杯目のおかわりを酒場の店員に要求する。
「フィー様が付けていたあの腕輪は、エルフの絆と言いまして。古来よりエルフとドワーフの信頼の証とも呼ばれているものなのですよ。今でいうと、そうですね。親しいものへ贈られる最上位の品ということです」
よく分かっていないノイデスに向けて、サンシが補足をつける。
「あれってそんな代物だったんですか。すみません、拙者も知りませんでした。何やら物凄く高価な腕輪だなとは思ってたんですけど……」
ヤスミが恥ずかしげに横から割って入る。
「間違いなく店長がお嬢様に贈ったものだと思うんですよねぇ」
デニアがくぴくぴと飲む。まだ一杯目の半分も残っている。
「それで、だからどういう意味になるんだ。エルフの、絆? ってのがまあそういうもんなのは分かったけどよ、フィー様と師匠が親友同士なんてこのパエデロスじゃあ誰だって知ってることじゃんかよ。この俺だって知ってんだぜ」
頬を赤らめる様子もなく、ノイデスが五杯目のおかわりを注文する。
その一方で、エルフのデニアと、ドワーフのサンシは顔を見合わせて、これを喋っていいものかどうかを目で相談する。
「エルフの絆は、今お話ししました通り、親しいものへの贈り物……なんですがぁ、それってもうちょっと、そのぉ……」
言葉を重ねていくごとに、何やらデニアの言葉尻が怪しくなっていく。
「婚約腕輪なのですよ、あれは」
「ぶううぅぅぅーーーーーっ!!!!」
サンシの一言に、ノイデスの五杯目は喉に届く前にテーブルにぶちまけられる。そしてそのままむせ返り、ゲホゲホとのど元を抑えて悶えた。
「婚……約……、はわわ……」
端から聞いていたヤスミの顔がポゥっとまた一層赤らんでいく。
「店長さんが意味を知らずに渡した可能性もあるかもですが……そうであろうとなかろうと、あのお二人のお邪魔はできないと思いましたので」
「いやいやいや意味知らないまま渡したに決まって……あ、いや、十分にありうるのか……師匠だし……」
酒を何杯飲み干しても赤らむことのなかったノイデスの顔がポッと色づいていくのが見えた。
「まあ、婚約の腕輪とされるのも時代の移り変わりによるもの。本当に知らなかった可能性はあるでしょう。ですが、お嬢とフィー様のただならぬ関係は誰も否定できません」
「噂によればぁ……一緒にお風呂に入ったり、一緒にベッドに入ったりしているらしいですしねぇ……」
それまで騒がしく大声をあげていたノイデスの言葉がピタリと止まってしまっていた。相当衝撃的だったらしい。
「せっ……拙者の知らない世界はまだまだあるんですね……本当に世界って広い……」
すっかり顔を真っ赤っかに染め上げたヤスミが、酒を飲み干し、そしてむせた。
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