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渾名

ー/ー



 何の変わりもない、いつもの朝。

 空は晴れてる。雲ひとつない青空だ……が、どうせ今日は体育なんて無いんで関係ない。

 俺は、そんなどうでもいいことを考えながら、入学以来何度も通った廊下を歩いて教室へ向かう。
 
 
「おは……また、修業ですカイ?」


 教室に入って早々、タイガーに声を掛けられた。
 

あいつ(雪之丞)と居ると、生傷が絶えないからな……」


 左頬に付けた絆創膏を指摘された俺は、席に着きながらタイガーに答える。


 ある意味、こんなの怪我のうちにも入らない。

 お互い骨折、火傷、裂傷。時には手足が吹き飛ん…………とにかく、何回も大怪我した。


 除霊じゃない……お互い “やりあって” だ。文殊がなきゃ、何度入院したんだろうな。

 いや、文殊なんて強力な回復アイテムがあるから、お互い遠慮が無くなってるのかもしれない。

 どっちも、守りを捨ててガチ殴り……頭のネジ飛び掛ってる? これも、全部雪之丞のせいだ、そうに違いない。

 お陰で最近は除霊の時のが、楽に感じるくらいだよ(安い依頼しか受けれないから)。

 
「雪之丞さんに、横島さん……2人共、凄いんジャ。どんどん差が開いて行ってしまうんジャ…………」


 どうしたんだ?

 いきなり、そんな神妙な顔されてもな……


「お前だって、修業なら毎日してるだろ?」


 この男だって、小笠原さんに鍛えられてる筈だ。そもそも、何を以って “離されてる” とか言ってんだか良く解らん。
 

「そうジャけど、2人を見てるとそう感じてしまうんジャ」


 そんなこと言われてもな……俺はともかく雪之丞なんて、たまにしか会わねぇだろうに。


「なら、時間がある時に一緒にやるか?」
「修業をですカイ?」

「ああ、手合わせする相手が多けりゃ、あのバトルジャンキーも喜ぶだろ」
「…………遠慮したいけど、お願いするんジャ」


 うん……何となく気持ちは解る。まぁ、成長とは時に嫌なことも我慢しなきゃならない時がある(切実)。


「ああ、アイツにも言っとくよ」
「ワッシも修業するりゃあ、いつかアンタ等みたいな “二つ名” で呼ばれるんジャろうか?」

「二つ名?」
「横島さんは『文殊使い』、雪之丞さんは『魔装術』……2人共この世に一人の存在ジャけん」


 …………そう言や、そんな風に言われてるらしいな。確かに、魔装術のデメリットを克服した雪之丞も人界唯一だし。

 ただ、余り意識したことはねぇ。

 面と向かって言われることなんか無いし、雪之丞の野郎は最近、俺を “ボマー” だの “ボンバーマン” とか呼びやがるし……まぁ、“文殊生成器” なんて呼ばれるよりはマシだけど。

  

「胸が熱くなるんジャ!ワッシにも何かそんな “二つ名” が欲しいジャ!!」


 デケェ癖に控えめなコイツにしては、珍しく熱く語ってんな……ってか、何?

 引き離されたとか言って、単にそういうのが欲しいだけ?

 
 “二つ名” ねぇ……精神感応が得意なコイツなら、どんなのがあるだろう。
 

「『幻想の魔術師』とか『心波の巨人』とか、そういう感じ?」
「おお!何か、格好いいんジャぁ♪ でも、ワッシは虎ジャけん!『タイガー』とか、あったらいいのぉ〜♪ワッシは虎になるんジャ!!」


 虎か……確かに『タイガー』が入った方がコイツらしいな。じゃあ、横文字っぽくした方がいいかもな。

 余り得意とは言えない英語を、頭ん中で羅列しながら何とか絞り出してみた。


「『タイガー・サイキック・タイタン』『サイキック・タイガー・センチネル』あとは『サイキック・タイガー・マインドブレイカー』……」


 結構、頑張ったぞ…………


「う〜ん……解り辛い上に、語呂が悪いのぉ〜」


 ………じゃあ、テメェが考えろよ!さっきから、「これじゃない」みたいな顔しやがって!

 いや、“二つ名” は他人が付けるものか……

 ただ、この男は解ってない。お前には、既に立派な “二つ名” が付きつつあるんだぞ。

 そう思った俺は、コイツに厳かに告げてやる。

  
 
「タイガー寅吉……またの名を 『ステルス・タイガー』…………」
「…………す、ステルス?」


 キョトンとするコイツに更に続ける。


「『ステルス・タイガー』だ、語呂だって悪くないだろ?」
「え……いや、ちょっと………」

「お前……喋ると、いつも皆驚くよな?」
「いや………それは皆、気付いてくれんから…………」

「精神感応使ってないんだろ?」
「あ、当たり前ジャ」

「その “ステルス” 能力は、立派な特技じゃねぇか?」


 こいつの精神感応は強力だが、師匠の助けがないと100%力を発揮出来ない。
 そんな限定的な能力より、常日頃から発動出来るこっちの能力のが余程凄い。


 改めてコイツを見る。

 2メートルを越える長身に、大木のようなガッシリとした巨躯。筋骨隆々とした逞しい手足。猛獣を思わせるイカつい顔付きに額の傷。太くて先が2つに別れる、特徴的なモミアゲ。最早、『獣人』と言い張ったって、誰も疑わない。

 どこに行ったって、目立つ要素てんこ盛りなんだよ。なのに何だ、このオーラの無さは!?本人は否定したが、ニュートラ状態で “認識阻害” でも発動してるとしか思えん。

 ウチのチビの癖に、やたら目立つ誰かさんとは真逆だよ。



「それって、ただの “影のうっすい虎” !!?」
「じゃあ『ブラインド・タイガー』でも__」

「一緒ジャいっ!! 見えない虎なんて、嫌じゃ〜!!!」
「う〜ん……じゃあ。タイガーは消えるけど、『イエロー・ベイズ』なんか__」


 帰る時は、いつも煙みたいに居なくなるし………


「何ですカイそれはっ!?なんか、凄っごく臭そう!!?」
「確かに、お◯らみたいだな……(笑)」
「嫌ジャーーーつ!嫌ジャーーーーいっ!!」


 …………………鬱陶しい顔を、更に鬱陶しくしやがった。






渾名 ステルス
「そんな不名誉な渾名、要らないんジャ〜〜っっ!!!」



 う〜ん…………

 ウゼぇし、煩せぇし、暑苦しい………やっぱコイツは、ステルスしてるくらいが丁度いいな。





次のエピソードへ進む 霊盾爆弾


みんなのリアクション

 何の変わりもない、いつもの朝。
 空は晴れてる。雲ひとつない青空だ……が、どうせ今日は体育なんて無いんで関係ない。
 俺は、そんなどうでもいいことを考えながら、入学以来何度も通った廊下を歩いて教室へ向かう。
「おは……また、修業ですカイ?」
 教室に入って早々、タイガーに声を掛けられた。
「|あいつ《雪之丞》と居ると、生傷が絶えないからな……」
 左頬に付けた絆創膏を指摘された俺は、席に着きながらタイガーに答える。
 ある意味、こんなの怪我のうちにも入らない。
 お互い骨折、火傷、裂傷。時には手足が吹き飛ん…………とにかく、何回も大怪我した。
 除霊じゃない……お互い “やりあって” だ。文殊がなきゃ、何度入院したんだろうな。
 いや、文殊なんて強力な回復アイテムがあるから、お互い遠慮が無くなってるのかもしれない。
 どっちも、守りを捨ててガチ殴り……頭のネジ飛び掛ってる? これも、全部雪之丞のせいだ、そうに違いない。
 お陰で最近は除霊の時のが、楽に感じるくらいだよ(安い依頼しか受けれないから)。
「雪之丞さんに、横島さん……2人共、凄いんジャ。どんどん差が開いて行ってしまうんジャ…………」
 どうしたんだ?
 いきなり、そんな神妙な顔されてもな……
「お前だって、修業なら毎日してるだろ?」
 この男だって、小笠原さんに鍛えられてる筈だ。そもそも、何を以って “離されてる” とか言ってんだか良く解らん。
「そうジャけど、2人を見てるとそう感じてしまうんジャ」
 そんなこと言われてもな……俺はともかく雪之丞なんて、たまにしか会わねぇだろうに。
「なら、時間がある時に一緒にやるか?」
「修業をですカイ?」
「ああ、手合わせする相手が多けりゃ、あのバトルジャンキーも喜ぶだろ」
「…………遠慮したいけど、お願いするんジャ」
 うん……何となく気持ちは解る。まぁ、成長とは時に嫌なことも我慢しなきゃならない時がある(切実)。
「ああ、アイツにも言っとくよ」
「ワッシも修業するりゃあ、いつかアンタ等みたいな “二つ名” で呼ばれるんジャろうか?」
「二つ名?」
「横島さんは『文殊使い』、雪之丞さんは『魔装術』……2人共この世に一人の存在ジャけん」
 …………そう言や、そんな風に言われてるらしいな。確かに、魔装術のデメリットを克服した雪之丞も人界唯一だし。
 ただ、余り意識したことはねぇ。
 面と向かって言われることなんか無いし、雪之丞の野郎は最近、俺を “ボマー” だの “ボンバーマン” とか呼びやがるし……まぁ、“文殊生成器” なんて呼ばれるよりはマシだけど。
「胸が熱くなるんジャ!ワッシにも何かそんな “二つ名” が欲しいジャ!!」
 デケェ癖に控えめなコイツにしては、珍しく熱く語ってんな……ってか、何?
 引き離されたとか言って、単にそういうのが欲しいだけ?
 “二つ名” ねぇ……精神感応が得意なコイツなら、どんなのがあるだろう。
「『幻想の魔術師』とか『心波の巨人』とか、そういう感じ?」
「おお!何か、格好いいんジャぁ♪ でも、ワッシは虎ジャけん!『タイガー』とか、あったらいいのぉ〜♪ワッシは虎になるんジャ!!」
 虎か……確かに『タイガー』が入った方がコイツらしいな。じゃあ、横文字っぽくした方がいいかもな。
 余り得意とは言えない英語を、頭ん中で羅列しながら何とか絞り出してみた。
「『タイガー・サイキック・タイタン』『サイキック・タイガー・センチネル』あとは『サイキック・タイガー・マインドブレイカー』……」
 結構、頑張ったぞ…………
「う〜ん……解り辛い上に、語呂が悪いのぉ〜」
 ………じゃあ、テメェが考えろよ!さっきから、「これじゃない」みたいな顔しやがって!
 いや、“二つ名” は他人が付けるものか……
 ただ、この男は解ってない。お前には、既に立派な “二つ名” が付きつつあるんだぞ。
 そう思った俺は、コイツに厳かに告げてやる。
「タイガー寅吉……またの名を 『ステルス・タイガー』…………」
「…………す、ステルス?」
 キョトンとするコイツに更に続ける。
「『ステルス・タイガー』だ、語呂だって悪くないだろ?」
「え……いや、ちょっと………」
「お前……喋ると、いつも皆驚くよな?」
「いや………それは皆、気付いてくれんから…………」
「精神感応使ってないんだろ?」
「あ、当たり前ジャ」
「その “ステルス” 能力は、立派な特技じゃねぇか?」
 こいつの精神感応は強力だが、師匠の助けがないと100%力を発揮出来ない。
 そんな限定的な能力より、常日頃から発動出来るこっちの能力のが余程凄い。
 改めてコイツを見る。
 2メートルを越える長身に、大木のようなガッシリとした巨躯。筋骨隆々とした逞しい手足。猛獣を思わせるイカつい顔付きに額の傷。太くて先が2つに別れる、特徴的なモミアゲ。最早、『獣人』と言い張ったって、誰も疑わない。
 どこに行ったって、目立つ要素てんこ盛りなんだよ。なのに何だ、このオーラの無さは!?本人は否定したが、ニュートラ状態で “認識阻害” でも発動してるとしか思えん。
 ウチのチビの癖に、やたら目立つ誰かさんとは真逆だよ。
「それって、ただの “影のうっすい虎” !!?」
「じゃあ『ブラインド・タイガー』でも__」
「一緒ジャいっ!! 見えない虎なんて、嫌じゃ〜!!!」
「う〜ん……じゃあ。タイガーは消えるけど、『イエロー・ベイズ』なんか__」
 帰る時は、いつも煙みたいに居なくなるし………
「何ですカイそれはっ!?なんか、凄っごく臭そう!!?」
「確かに、お◯らみたいだな……(笑)」
「嫌ジャーーーつ!嫌ジャーーーーいっ!!」
 …………………鬱陶しい顔を、更に鬱陶しくしやがった。
「そんな不名誉な渾名、要らないんジャ〜〜っっ!!!」
 う〜ん…………
 ウゼぇし、煩せぇし、暑苦しい………やっぱコイツは、ステルスしてるくらいが丁度いいな。