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新装備

ー/ー



それ(・・)を着けるのか?ビルの中じゃ、あれ(・・)は使えねぇぞ」







新装備 横島
「使う気はない。仕事中は、そうする習慣を着けたいだけだ。いざ(・・)と言う時に使えなきゃ、意味が無いだろ?」
「まぁ、道理だな……」


 さっき雪之丞が指摘した “それ” とは、俺の着けている口と鼻………顔の下半分を覆うマスクの事だ。


 灰色のそれの見た目は、割とゴツい。デザインこそ気に入っちゃいるが、見ようによっては変な威圧感と言うか、異様さが目立って、見慣れない人間には多分引かれると思う。

 ただ、これは大手のオカルト企業の開発した歴としたオカルトアイテム(約10万円)で、霊的に人体へ悪影響の出る気……所謂 “瘴気” が体内に侵入するのを防ぐ『瘴気防護マスク』だ。

 霊的抵抗力の高いGSなら滅多に着けないが、霊障現場の調査をする(GS)協会職員が良く着けている。


 ただ、断っておくと、俺は別に霊的抵抗が弱い訳じゃない。勿論、特別強いと言う訳じゃないが、これが必要ないレベルに居るのは確かだ。

 なら、何で着けるのかと言うと、それも雪之丞の言った “あれ” ………俺が妙神山で修業中に編み出した、ある “技” を使う為。


 このマスクは、市販された時の状態じゃない。

 見た目は全く変わらないが、これには文珠で幾つかの性質変化を加えてあって、既に別物と言ってもいいだろう。

 その “技” を使う為だけに、これを改良した。あれは、文珠とは別に俺の “切札” になり得る。


 名付けるなら、これは『虚吸の面』とでも呼ぶべきか……

 自分の満足が行く結果になるまで、相当な数の文珠をつぎ込んだがその価値に十分見合う筈だ。



 ………………と、長々と述べはしたが、自分でも言ったように今日これを使う気もないし、使えない。もっと、言えば今後も使わずに済ませたい。

 要は、心構えの問題だな。





    ◇◇◇



 バグォーーーーーン!!!


「派手にやりあってんな……」


 目の前で悪霊とガチンコバトルを繰り広げる雪之丞を観ながら、俺は感心と呆れの両方含んで呟いた。

 ここは都内の廃ビル。

 ずっと前からビルに居着いた悪霊を除霊する為に、俺達はここにいる。

 ここに居着く悪霊はビルの前オーナーで、会社の経営が傾いて借金を繰り返した末に屋上から自殺したと言う。まぁ、良くある話だよな……

 んで、そのオーナーは会社を潰した無念から悪霊と化して、死んだ後もこうしてビルに居座っては侵入者を排除し続けている。
 
 お陰で現オーナーはいつまでも取り壊しが出来ず、GSに除霊を依頼する事にしたらしいが、前オーナーの悪霊は中々強力で高ランクのGSでなければ太刀打ち出来ない。

 しかし、高ランクもなれば当然依頼料も上がるわけだが、資金繰りが厳しくそこまで払えない。

 結果、除霊内容は高ランクで報酬は低ランクと言った歪な案件となり、長く放置されて来たのを俺達……と言うか、強い奴とやれれば本望の雪之丞が飛びついて現在にいたる。

 今回は、本当に何もする事がねぇな……

 作戦って程でもないけど、雪之丞が正面からやり合う。俺はそのフォロー………と言うより足止め。だだっ広いフロアなんで最悪文珠で『壁』でも作るかとも思ってたんだが、戦況を見るにそれも必要無さそうだ。

 前後から挟み討ちしてんのに、奴は目の前の雪之丞に夢中で俺に全く気付きゃしねぇ。隙だらけの狙い放題。

 やったら、雪之丞が後でうるせぇからしねぇけど、悪霊と化した時点で思考は単純化しちまうからな………

 確かに、聞いてた通り強い。

 ゆうに3mはある巨体から来る奴の一撃は、ビルのコンクリートを簡単にぶち抜く。一般人からすれば十分な脅威だろうな………でも、それだけだ。

 力は確かに強いが、攻撃は直線的で単調。魔装術を纏った雪之丞にはかすりもしないし(直撃しても今の奴なら耐えそうだ)、はっきり言って敵じゃない。俺でも、文珠なしで対応出来るだろう。

 そして、既に強烈なの貰って圧倒されだしてる。


 『俺の会社だ!!』だの、『会社は俺が守る!!』だの無駄に威勢のいい奴の叫びが、虚しく響いて寧ろ滑稽にしかなってない。

 …………いや、悪霊だから叫びじゃなくて“呪詛”か?ぶっちゃけ、どうでもいいが……


「欠伸が出そうだぜ……」


 仮にも戦闘中に気を抜くなんて自殺行為でしかないんだが、それぐらい今の状況は弛緩してる。もう、一分もしないで片が着くだろう。

 

 ただ、こうなってみると悪霊が哀れにも思えてくる。

 会社を潰した経緯は知らないが悪霊化するくらいだから、それなりに思い入れはあったんだろう。

 悔やんでも、悔やみ切れない。

 そんな、どうにもならない無念を抱きながらここに留まってるのに、会った事もない俺達に成仏させられる。


 奴の意思は、全く絡めない。除霊という名の “強制デリート”………


 それでも、成仏すれば生まれ変われる。新しく生まれ変わって、新たな人生を歩み出せる。俺達がしてる事は、奴にとって間違いなく“救い”になる筈なんだ。

 …………ただ、そのやり方が力で叩き潰すような原始的なもの。

 ありがたい、 “お経 ” や “祈り” を捧げて慰めるような物じゃない。だから、救いのイメージに全く結びつかない……むしろ、 “” 獣駆除” の方がしっくり来るだろう。

 いや、実際期待されてるのは、そっちの方なんだが………


「それでも、ここで害を振り撒くより “次” に行けるだけマシか……」


 そう呟いて、自分を納得させる。

 二人でGSを始めてまだ日は浅いが、こんな事を考える機会が多くなってきた。勿論、これが勝手な考えというのも解ってる。

 相手が強けりゃんな(・・)事考えてられねぇし、どの道俺達にはこんなやり方しか出来ない。
 実際、荷物持ちのアシやってた頃は、生き残るのに必死でそれ以外考える余裕すらなかったからな。



“ウァアォーーーーーーーーー!!!! ”
 


 そんな風に考えてる間に、雪之丞に霊核を破壊された奴は断末魔を残しながら消えていった。

 次は、幸せになれるといいな。




    ◇◇◇


「お疲れさん」

 そう言って俺は魔装術を解いた雪之丞を労った。だが、案の定奴は不満顔だ。


「雑魚すぎる。手応えも何もあったもんじゃねぇ……」
「あんなもんだろ。本当に脅威なら、オカルトGメンが放っとく訳がねぇ」


 強いったって報酬に見合ってないだけで、あの程度なら高ランクなGSの敵にもならない。


「はぁ……期待した、俺がアホだったか」
「アホじゃねぇさ。実績は確実に上がってんだから、その内強ぇ奴ともやり合えるだろ」


 んな事にになりゃ、当然危険も増えるから微妙なトコなんだが…………俺は強くなりたいとは思っても、力比べしたいなんてこれっぽっちも思わん。戦闘狂のコイツとは違う。


 そして、俺は口で奴を宥めながら、別の事を考えていた。
 
 割り切るしかねぇよな……躊躇してこっちが死んだら意味ねぇし、最悪守れる人間も死なす事になりかねねぇ。


 


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「|それ《・・》を着けるのか?ビルの中じゃ、|あれ《・・》は使えねぇぞ」
「使う気はない。仕事中は、そうする習慣を着けたいだけだ。|いざ《・・》と言う時に使えなきゃ、意味が無いだろ?」
「まぁ、道理だな……」
 さっき雪之丞が指摘した “それ” とは、俺の着けている口と鼻………顔の下半分を覆うマスクの事だ。
 灰色のそれの見た目は、割とゴツい。デザインこそ気に入っちゃいるが、見ようによっては変な威圧感と言うか、異様さが目立って、見慣れない人間には多分引かれると思う。
 ただ、これは大手のオカルト企業の開発した歴としたオカルトアイテム(約10万円)で、霊的に人体へ悪影響の出る気……所謂 “瘴気” が体内に侵入するのを防ぐ『瘴気防護マスク』だ。
 霊的抵抗力の高いGSなら滅多に着けないが、霊障現場の調査をする(GS)協会職員が良く着けている。
 ただ、断っておくと、俺は別に霊的抵抗が弱い訳じゃない。勿論、特別強いと言う訳じゃないが、これが必要ないレベルに居るのは確かだ。
 なら、何で着けるのかと言うと、それも雪之丞の言った “あれ” ………俺が妙神山で修業中に編み出した、ある “技” を使う為。
 このマスクは、市販された時の状態じゃない。
 見た目は全く変わらないが、これには文珠で幾つかの性質変化を加えてあって、既に別物と言ってもいいだろう。
 その “技” を使う為だけに、これを改良した。あれは、文珠とは別に俺の “切札” になり得る。
 名付けるなら、これは『虚吸の面』とでも呼ぶべきか……
 自分の満足が行く結果になるまで、相当な数の文珠をつぎ込んだがその価値に十分見合う筈だ。
 ………………と、長々と述べはしたが、自分でも言ったように今日これを使う気もないし、使えない。もっと、言えば今後も使わずに済ませたい。
 要は、心構えの問題だな。
    ◇◇◇
 バグォーーーーーン!!!
「派手にやりあってんな……」
 目の前で悪霊とガチンコバトルを繰り広げる雪之丞を観ながら、俺は感心と呆れの両方含んで呟いた。
 ここは都内の廃ビル。
 ずっと前からビルに居着いた悪霊を除霊する為に、俺達はここにいる。
 ここに居着く悪霊はビルの前オーナーで、会社の経営が傾いて借金を繰り返した末に屋上から自殺したと言う。まぁ、良くある話だよな……
 んで、そのオーナーは会社を潰した無念から悪霊と化して、死んだ後もこうしてビルに居座っては侵入者を排除し続けている。
 お陰で現オーナーはいつまでも取り壊しが出来ず、GSに除霊を依頼する事にしたらしいが、前オーナーの悪霊は中々強力で高ランクのGSでなければ太刀打ち出来ない。
 しかし、高ランクもなれば当然依頼料も上がるわけだが、資金繰りが厳しくそこまで払えない。
 結果、除霊内容は高ランクで報酬は低ランクと言った歪な案件となり、長く放置されて来たのを俺達……と言うか、強い奴とやれれば本望の雪之丞が飛びついて現在にいたる。
 今回は、本当に何もする事がねぇな……
 作戦って程でもないけど、雪之丞が正面からやり合う。俺はそのフォロー………と言うより足止め。だだっ広いフロアなんで最悪文珠で『壁』でも作るかとも思ってたんだが、戦況を見るにそれも必要無さそうだ。
 前後から挟み討ちしてんのに、奴は目の前の雪之丞に夢中で俺に全く気付きゃしねぇ。隙だらけの狙い放題。
 やったら、雪之丞が後でうるせぇからしねぇけど、悪霊と化した時点で思考は単純化しちまうからな………
 確かに、聞いてた通り強い。
 ゆうに3mはある巨体から来る奴の一撃は、ビルのコンクリートを簡単にぶち抜く。一般人からすれば十分な脅威だろうな………でも、それだけだ。
 力は確かに強いが、攻撃は直線的で単調。魔装術を纏った雪之丞にはかすりもしないし(直撃しても今の奴なら耐えそうだ)、はっきり言って敵じゃない。俺でも、文珠なしで対応出来るだろう。
 そして、既に強烈なの貰って圧倒されだしてる。
 『俺の会社だ!!』だの、『会社は俺が守る!!』だの無駄に威勢のいい奴の叫びが、虚しく響いて寧ろ滑稽にしかなってない。
 …………いや、悪霊だから叫びじゃなくて“呪詛”か?ぶっちゃけ、どうでもいいが……
「欠伸が出そうだぜ……」
 仮にも戦闘中に気を抜くなんて自殺行為でしかないんだが、それぐらい今の状況は弛緩してる。もう、一分もしないで片が着くだろう。
 ただ、こうなってみると悪霊が哀れにも思えてくる。
 会社を潰した経緯は知らないが悪霊化するくらいだから、それなりに思い入れはあったんだろう。
 悔やんでも、悔やみ切れない。
 そんな、どうにもならない無念を抱きながらここに留まってるのに、会った事もない俺達に成仏させられる。
 奴の意思は、全く絡めない。除霊という名の “強制デリート”………
 それでも、成仏すれば生まれ変われる。新しく生まれ変わって、新たな人生を歩み出せる。俺達がしてる事は、奴にとって間違いなく“救い”になる筈なんだ。
 …………ただ、そのやり方が力で叩き潰すような原始的なもの。
 ありがたい、 “お経 ” や “祈り” を捧げて慰めるような物じゃない。だから、救いのイメージに全く結びつかない……むしろ、 “” 獣駆除” の方がしっくり来るだろう。
 いや、実際期待されてるのは、そっちの方なんだが………
「それでも、ここで害を振り撒くより “次” に行けるだけマシか……」
 そう呟いて、自分を納得させる。
 二人でGSを始めてまだ日は浅いが、こんな事を考える機会が多くなってきた。勿論、これが勝手な考えというのも解ってる。
 相手が強けりゃ|んな《・・》事考えてられねぇし、どの道俺達にはこんなやり方しか出来ない。
 実際、荷物持ちのアシやってた頃は、生き残るのに必死でそれ以外考える余裕すらなかったからな。
“ウァアォーーーーーーーーー!!!! ”
 そんな風に考えてる間に、雪之丞に霊核を破壊された奴は断末魔を残しながら消えていった。
 次は、幸せになれるといいな。
    ◇◇◇
「お疲れさん」
 そう言って俺は魔装術を解いた雪之丞を労った。だが、案の定奴は不満顔だ。
「雑魚すぎる。手応えも何もあったもんじゃねぇ……」
「あんなもんだろ。本当に脅威なら、オカルトGメンが放っとく訳がねぇ」
 強いったって報酬に見合ってないだけで、あの程度なら高ランクなGSの敵にもならない。
「はぁ……期待した、俺がアホだったか」
「アホじゃねぇさ。実績は確実に上がってんだから、その内強ぇ奴ともやり合えるだろ」
 んな事にになりゃ、当然危険も増えるから微妙なトコなんだが…………俺は強くなりたいとは思っても、力比べしたいなんてこれっぽっちも思わん。戦闘狂のコイツとは違う。
 そして、俺は口で奴を宥めながら、別の事を考えていた。
 割り切るしかねぇよな……躊躇してこっちが死んだら意味ねぇし、最悪守れる人間も死なす事になりかねねぇ。