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11話 君と僕の小夜曲―2

ー/ー



「おぉ! そのカッコ可愛い子が結野さん?」
「こんにちは。先輩たち」

 現れた綾音はベージュと白のコントラストが映えるワンピースに身を包んでいた。春が終わり初夏の、緑の匂いが木陰にいる僕たちへと届く。緩やかな風が前髪を揺らし少しウザったくなる。そんな様子に微笑みながら陽射しの中を歩く綾音。
 休日の昼下がり、僕たちは駅前に集まっていた。僕が来た時は既に麗華と小雪が待っていて何か話していたが、僕が来るやいなや話題を変えるもんだからちょっと気になる。そして最後には綾音が来たというわけだ。
 
「あなたねぇ、せっかくオフの日だってのにどうして制服なのかしら?」
「見る度に藍色のパーカー着てる人に言われたくないですよ」
「いいじゃない。これ。楽だし適当にしててもそれっぽく見えるから」

 麗華はその場でくるりと優雅に回転しパーカーをふわりとさせる。(なび)く薄手のジップパーカーは確かに麗華の容姿だからこそ余裕が生まれて似合う、彼女の性格にバッチリあっているなんて僕は思う。
 
「わたしはそのパーカー結構好きだよ? かわいいよね」
「えぇそうでしょう? でもね子供の頃はドレスっぽい服を着てたのよ」
「ドレスっぽいって……」

 麗華のおしゃれ度が分かるような発言で思わず苦笑いしてしまうが、ピアノとずっと向き合っていた彼女なら仕方ないのかな。だけど綾音は結構オシャレさんなのだ。いつも制服で分からなかったけど、こうして私服を着ている彼女を見るとそう思ってしまう。実は小雪も年頃の女の子にしては怪しい場面があるんだけど本人は気にしていないらしい。とはいっても今日の三人はどこかおしゃれ度がいつもよりも高い気がする。
 
「それにしても岡崎は来られないなんて、ちょっと申し訳ないね」
「まあいいよ~。忙しいんだったらしょうがないよ~」
「芳先輩のご友人に会えないのは残念ですが……この人たちなんですね」
「芳?」
「ええっと?」

 麗華と小雪は(いぶか)しるように視線を送るも本人はどこ吹く風か全く気にしていない様子。そういえば小雪以外の人は僕のことを名前で呼ぶようになったんだった。小雪に関しては僕に言うだけ言わせて後は知らんぷりだし、名前で呼ばなかったら反応しないし。とにかく色々と困ったもんだ。

「どうしたんですか? 皆さん」
「どうして名前で呼んでいるのかしら? もしかしてあなたと彼ってそんな関係なの?」
「それわたしも気になる! どうなの? 二人ってもしかして付き合ってるの?」
「いえいえ。そんな付き合ってなんかないですよ。私はただ朝食を作っているだけ……です」
「わお」
「え!!」
「一体どういうことかしら」

 流石に口を滑らせすぎたのか唖然とした顔のままこちらを向く。どうにもできないぞ綾音よ! 君が蒔いた種なんだ!
 
「あの~そうですね。作ってますね。はい。普通に作ってます」
「へえぇそうなんだぁ~わたし羽野くんのお家すら知らないのにすっごいな~」
「そうねぇ私たちって確か幼馴染だったはずよねぇ。もしかしたら彼にとって私たちってどうでもいいのかね~」
「ね~」

 ニコニコと笑い合っている二人がかなり恐ろしい。この二人たまに意気投合する時があるけど今回は比にならないくらいやばい。気温なのか彼女たちが恐ろしいのか手汗が滲むのが止まらない。片方は僕にもう片方は綾音に交互に入れ代わり立ち代わりに問い詰めてくる。それから事情をきっちり聞くまで僕たちは質問攻めにあった。
 ただし僕たちの出逢いと家に泊まったことまでは言えなかった。

「さあみんな! レッツゴー!」
「行きましょう」
「はぃいい」
「……うぅ」
「どうしたの~? 元気ないの? 朝食は食べた?」
「そうね美味しい朝食は食べたんじゃないのかしらね」

 このイジりはなかなか消えそうにない。だってあの二人相当楽しそうにしているから。駅から少し歩いた場所にあるこの商店街はよく賑わっているが今日はいつも以上に人が居た。子どもが後ろにいる家族から駆けていく様子や観光しにきた外国人。そして所々に飾ってある提灯たち。カラフルな色をしてこの真っ直ぐな道を染め上げていた。
 それだけでこの場所は一気に別の所に来たのかと錯覚させるには充分すぎた。なんせ今日はこの街の特別な行事があるから。地元の人にとってはなじみのある催しだけど、案外知られていない。少し前にSNSか何かで発信していたからこうして外国人もいるんだろうけど、いやだから新鮮に感じるのかもしれない。

「私こういう行事苦手なのよね」
「僕も。いっぱい人がいると気が滅入っちゃうよね」
「そうそう。セールされた本を少し見て回りたいだけなのにこんなに人がいちゃそれもままならないわね」
「ちょっと羽野くんたちーそんなネガティブなこと言わないで! 今日は楽しい行事なんだし」
「そうですよ芳先輩。やっぱり伝統行事は大切にすべきですよ」
「はーい」
「もう。先輩ったら」

 店頭にいくつか並べられている本に興味を引かれる。そこには難しそうな哲学書が並んでいた。これじゃ売れないだろうなんて心の内で思っていたけど、思わず足を止めてしまう。というか既に止まっているのだけど。

「なにか良い本があった?」
「ええ、あったわ。この本絶版なのにどうして置いてあるのかしら」

 その手の中に収められているのは『反哲学的断章』という本。僕は詳しくは知らないからどういう本なのか分からないけど、とにかく麗華は嬉しそうにしていた。麗華が店主とやり取りをしている時に僕らが居ないのに気が付いたのか、綾音と小雪が戻ってくる。二人は退屈そうな視線を向けていたけど、僕はわりかし麗華側の人間だから申し訳ないと心の内で謝罪してしまう。
 そこから打って変わって僕たちが辛い番に回ってきた。

「こういうものって私よく分からないのよね」
「まあ僕はそういうのが元々ってこともあるけどね」

 手短にある小物を掴み、しげしげと眺める麗華の隣でキャイキャイ言っている小雪と綾音のコンビ。あれが可愛いだのこれの色がいいだのと言い合っているけど、正直全く分からない。よく女の子は雰囲気が可愛いとか、とにかくレイヤーがずれた所にあると思っているけど、まさにそうなのかななんて思っていた。

「先輩っ! どっちが可愛いと思いますか?」
「羽野くんこれはどうかな?」

 綾音の手元にはぬいぐるみの小さなクマがちょこんと座っているのと、白いアヒルが丸くなっているのがあった。そして小雪は蝶のような意匠が施された髪留めと雪の結晶が付いた同じく髪留め。こうして聞きにくるってことは心の内では決まっているってなにかで見たぞ! そうだったらこれは未解決問題じゃなくただの二択だ! よし適当に決めよう!

「綾音はこっちかな。で、小雪はこっち」

 僕はクマと蝶を選んだ。そして綾音は「そうですよね!」と嬉しそうにしていて、小雪に関しては「流石だぜ相棒」みたいな顔をしていた。一応小雪の趣味はちょっとは分かる、これでも幼馴染なんだから。綾音に関しては以前のクレーンゲームでクマが好きなのかなって推測しただけなんだけどね。

「これ買ってきます!」
「わたしも~」
「ふうん。やっぱり分からないわ」
「麗華の場合はきっと物よりも言葉の方が好きなんじゃない?」
「そうね、そっちの方が私は好きね」

 手を後ろで結んで身を少し屈め、僕を上目遣いで見てくるその様子に思わずドキリと心臓が大きく振動する。だって睫毛は綺麗に揃えられ口唇はほんのり赤みが差している。今まではそんなことをできるだけ思わないようにしていたけど、やっぱり麗華は美人なのだ。
 そんな彼女を見ているとあの時の観覧車を思い出す。だから僕はその時に思った詩を君に送り返してみようと思った。
 
「これは世界にあてたわたしの手紙です」

 聴いた途端に頬を緩め小さく息を吐き、もっと僕に近付いてくる。だんだん顔に近付いてぶつかったと思えば囁くように告げた。
 
「ふふ、私もその詩は好きよ。」と。

 やはり彼女は僕とどこか違うとどうしてか思ってしまう。言葉として言い表せないんだけど一つ次元が違うような、とにかくそんな感じ。すべてを見据えているような雰囲気を時折思わせるのはどうしてなんだろう。

「ちょっと何してるんですか!」
「二人とも~イチャコラしないでよ」

 いつの間にやら戻ってきた綾音と小雪。ああなんだかあの二人の雰囲気は落ち着くなぁなんて思わずにいられなかった。
 それから僕たちはこの催しの目玉である灯籠流しまでカラオケでもして時間を潰すことにした。

「聴いてなさい芳」と自信満々に宣言するだけの実力だった。というか普通にめちゃくちゃ上手い。麗華は容姿も優れているだけでなくて声もいいことを僕たちに思い出させた。

「この人の後だなんてかなり嫌ですぅ」
「頑張ってあやちゃん!」

 麗華に続いて綾音が歌うも本人が思っているほど下手じゃない。まあさっきのを聴いた後ならかなり差があるように感じるけど、充分上手い。たまに小雪たちとカラオケに来るけど少なくとも僕たち以上の上手さだ。

「あやちゃんも上手いね~!」
「へぇ意外とやるじゃない」
「そんなことないですよ」
「わたしもいっちゃうね!」

 今度は小雪。スピーカーからは彼女の好きなアニメソングが流れる。僕たちの間ではお決まりのパターンだ。何より上手さよりも楽しそうに歌うから一緒に居て面白いんだ。そんな様子を岡崎は面白おかしくイジっていたけど。
 いよいよ僕の番になる、正直歌は上手くない……ただ恐ろしく音程は外してはいないと信じたい。

「意外でした。芳先輩って歌上手だったんですね」
「私も驚きよ。あなた思っている以上に上手いわよ?」
「いやぁ羽野くんだねぇ」

 ウンウンと頷きながら小雪は満足げにしている。僕としては褒められて嬉しいんだけど、僕自身は全く上手いとは思っていないからなんだかむずがゆい。
 それから満足するまで麗華と小雪が歌っていたけど、急に小雪が灯籠流しの前にどこかへ食べに行こうと提案した。時間もちょうどよかったし僕たちはその提案に乗った。




みんなのリアクション

「おぉ! そのカッコ可愛い子が結野さん?」
「こんにちは。先輩たち」
 現れた綾音はベージュと白のコントラストが映えるワンピースに身を包んでいた。春が終わり初夏の、緑の匂いが木陰にいる僕たちへと届く。緩やかな風が前髪を揺らし少しウザったくなる。そんな様子に微笑みながら陽射しの中を歩く綾音。
 休日の昼下がり、僕たちは駅前に集まっていた。僕が来た時は既に麗華と小雪が待っていて何か話していたが、僕が来るやいなや話題を変えるもんだからちょっと気になる。そして最後には綾音が来たというわけだ。
「あなたねぇ、せっかくオフの日だってのにどうして制服なのかしら?」
「見る度に藍色のパーカー着てる人に言われたくないですよ」
「いいじゃない。これ。楽だし適当にしててもそれっぽく見えるから」
 麗華はその場でくるりと優雅に回転しパーカーをふわりとさせる。|靡《なび》く薄手のジップパーカーは確かに麗華の容姿だからこそ余裕が生まれて似合う、彼女の性格にバッチリあっているなんて僕は思う。
「わたしはそのパーカー結構好きだよ? かわいいよね」
「えぇそうでしょう? でもね子供の頃はドレスっぽい服を着てたのよ」
「ドレスっぽいって……」
 麗華のおしゃれ度が分かるような発言で思わず苦笑いしてしまうが、ピアノとずっと向き合っていた彼女なら仕方ないのかな。だけど綾音は結構オシャレさんなのだ。いつも制服で分からなかったけど、こうして私服を着ている彼女を見るとそう思ってしまう。実は小雪も年頃の女の子にしては怪しい場面があるんだけど本人は気にしていないらしい。とはいっても今日の三人はどこかおしゃれ度がいつもよりも高い気がする。
「それにしても岡崎は来られないなんて、ちょっと申し訳ないね」
「まあいいよ~。忙しいんだったらしょうがないよ~」
「芳先輩のご友人に会えないのは残念ですが……この人たちなんですね」
「芳?」
「ええっと?」
 麗華と小雪は|訝《いぶか》しるように視線を送るも本人はどこ吹く風か全く気にしていない様子。そういえば小雪以外の人は僕のことを名前で呼ぶようになったんだった。小雪に関しては僕に言うだけ言わせて後は知らんぷりだし、名前で呼ばなかったら反応しないし。とにかく色々と困ったもんだ。
「どうしたんですか? 皆さん」
「どうして名前で呼んでいるのかしら? もしかしてあなたと彼ってそんな関係なの?」
「それわたしも気になる! どうなの? 二人ってもしかして付き合ってるの?」
「いえいえ。そんな付き合ってなんかないですよ。私はただ朝食を作っているだけ……です」
「わお」
「え!!」
「一体どういうことかしら」
 流石に口を滑らせすぎたのか唖然とした顔のままこちらを向く。どうにもできないぞ綾音よ! 君が蒔いた種なんだ!
「あの~そうですね。作ってますね。はい。普通に作ってます」
「へえぇそうなんだぁ~わたし羽野くんのお家すら知らないのにすっごいな~」
「そうねぇ私たちって確か幼馴染だったはずよねぇ。もしかしたら彼にとって私たちってどうでもいいのかね~」
「ね~」
 ニコニコと笑い合っている二人がかなり恐ろしい。この二人たまに意気投合する時があるけど今回は比にならないくらいやばい。気温なのか彼女たちが恐ろしいのか手汗が滲むのが止まらない。片方は僕にもう片方は綾音に交互に入れ代わり立ち代わりに問い詰めてくる。それから事情をきっちり聞くまで僕たちは質問攻めにあった。
 ただし僕たちの出逢いと家に泊まったことまでは言えなかった。
「さあみんな! レッツゴー!」
「行きましょう」
「はぃいい」
「……うぅ」
「どうしたの~? 元気ないの? 朝食は食べた?」
「そうね美味しい朝食は食べたんじゃないのかしらね」
 このイジりはなかなか消えそうにない。だってあの二人相当楽しそうにしているから。駅から少し歩いた場所にあるこの商店街はよく賑わっているが今日はいつも以上に人が居た。子どもが後ろにいる家族から駆けていく様子や観光しにきた外国人。そして所々に飾ってある提灯たち。カラフルな色をしてこの真っ直ぐな道を染め上げていた。
 それだけでこの場所は一気に別の所に来たのかと錯覚させるには充分すぎた。なんせ今日はこの街の特別な行事があるから。地元の人にとってはなじみのある催しだけど、案外知られていない。少し前にSNSか何かで発信していたからこうして外国人もいるんだろうけど、いやだから新鮮に感じるのかもしれない。
「私こういう行事苦手なのよね」
「僕も。いっぱい人がいると気が滅入っちゃうよね」
「そうそう。セールされた本を少し見て回りたいだけなのにこんなに人がいちゃそれもままならないわね」
「ちょっと羽野くんたちーそんなネガティブなこと言わないで! 今日は楽しい行事なんだし」
「そうですよ芳先輩。やっぱり伝統行事は大切にすべきですよ」
「はーい」
「もう。先輩ったら」
 店頭にいくつか並べられている本に興味を引かれる。そこには難しそうな哲学書が並んでいた。これじゃ売れないだろうなんて心の内で思っていたけど、思わず足を止めてしまう。というか既に止まっているのだけど。
「なにか良い本があった?」
「ええ、あったわ。この本絶版なのにどうして置いてあるのかしら」
 その手の中に収められているのは『反哲学的断章』という本。僕は詳しくは知らないからどういう本なのか分からないけど、とにかく麗華は嬉しそうにしていた。麗華が店主とやり取りをしている時に僕らが居ないのに気が付いたのか、綾音と小雪が戻ってくる。二人は退屈そうな視線を向けていたけど、僕はわりかし麗華側の人間だから申し訳ないと心の内で謝罪してしまう。
 そこから打って変わって僕たちが辛い番に回ってきた。
「こういうものって私よく分からないのよね」
「まあ僕はそういうのが元々ってこともあるけどね」
 手短にある小物を掴み、しげしげと眺める麗華の隣でキャイキャイ言っている小雪と綾音のコンビ。あれが可愛いだのこれの色がいいだのと言い合っているけど、正直全く分からない。よく女の子は雰囲気が可愛いとか、とにかくレイヤーがずれた所にあると思っているけど、まさにそうなのかななんて思っていた。
「先輩っ! どっちが可愛いと思いますか?」
「羽野くんこれはどうかな?」
 綾音の手元にはぬいぐるみの小さなクマがちょこんと座っているのと、白いアヒルが丸くなっているのがあった。そして小雪は蝶のような意匠が施された髪留めと雪の結晶が付いた同じく髪留め。こうして聞きにくるってことは心の内では決まっているってなにかで見たぞ! そうだったらこれは未解決問題じゃなくただの二択だ! よし適当に決めよう!
「綾音はこっちかな。で、小雪はこっち」
 僕はクマと蝶を選んだ。そして綾音は「そうですよね!」と嬉しそうにしていて、小雪に関しては「流石だぜ相棒」みたいな顔をしていた。一応小雪の趣味はちょっとは分かる、これでも幼馴染なんだから。綾音に関しては以前のクレーンゲームでクマが好きなのかなって推測しただけなんだけどね。
「これ買ってきます!」
「わたしも~」
「ふうん。やっぱり分からないわ」
「麗華の場合はきっと物よりも言葉の方が好きなんじゃない?」
「そうね、そっちの方が私は好きね」
 手を後ろで結んで身を少し屈め、僕を上目遣いで見てくるその様子に思わずドキリと心臓が大きく振動する。だって睫毛は綺麗に揃えられ口唇はほんのり赤みが差している。今まではそんなことをできるだけ思わないようにしていたけど、やっぱり麗華は美人なのだ。
 そんな彼女を見ているとあの時の観覧車を思い出す。だから僕はその時に思った詩を君に送り返してみようと思った。
「これは世界にあてたわたしの手紙です」
 聴いた途端に頬を緩め小さく息を吐き、もっと僕に近付いてくる。だんだん顔に近付いてぶつかったと思えば囁くように告げた。
「ふふ、私もその詩は好きよ。」と。
 やはり彼女は僕とどこか違うとどうしてか思ってしまう。言葉として言い表せないんだけど一つ次元が違うような、とにかくそんな感じ。すべてを見据えているような雰囲気を時折思わせるのはどうしてなんだろう。
「ちょっと何してるんですか!」
「二人とも~イチャコラしないでよ」
 いつの間にやら戻ってきた綾音と小雪。ああなんだかあの二人の雰囲気は落ち着くなぁなんて思わずにいられなかった。
 それから僕たちはこの催しの目玉である灯籠流しまでカラオケでもして時間を潰すことにした。
「聴いてなさい芳」と自信満々に宣言するだけの実力だった。というか普通にめちゃくちゃ上手い。麗華は容姿も優れているだけでなくて声もいいことを僕たちに思い出させた。
「この人の後だなんてかなり嫌ですぅ」
「頑張ってあやちゃん!」
 麗華に続いて綾音が歌うも本人が思っているほど下手じゃない。まあさっきのを聴いた後ならかなり差があるように感じるけど、充分上手い。たまに小雪たちとカラオケに来るけど少なくとも僕たち以上の上手さだ。
「あやちゃんも上手いね~!」
「へぇ意外とやるじゃない」
「そんなことないですよ」
「わたしもいっちゃうね!」
 今度は小雪。スピーカーからは彼女の好きなアニメソングが流れる。僕たちの間ではお決まりのパターンだ。何より上手さよりも楽しそうに歌うから一緒に居て面白いんだ。そんな様子を岡崎は面白おかしくイジっていたけど。
 いよいよ僕の番になる、正直歌は上手くない……ただ恐ろしく音程は外してはいないと信じたい。
「意外でした。芳先輩って歌上手だったんですね」
「私も驚きよ。あなた思っている以上に上手いわよ?」
「いやぁ羽野くんだねぇ」
 ウンウンと頷きながら小雪は満足げにしている。僕としては褒められて嬉しいんだけど、僕自身は全く上手いとは思っていないからなんだかむずがゆい。
 それから満足するまで麗華と小雪が歌っていたけど、急に小雪が灯籠流しの前にどこかへ食べに行こうと提案した。時間もちょうどよかったし僕たちはその提案に乗った。


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