第77話
ー/ーここはウエスの森の町の中にある鉱山。
フィーネたちが魔神教のサマンサと激戦を繰り広げ、イブたちがルシフェルと対峙していた頃。
「今、何か爆発したみたいな音がしなかった?」
先頭を歩いていたリリィが足を止めた。
「何も感じなかったぞ。」
ハクが両手を頭の後ろに組みながら言った。
「わたくしも何も感じませんでしたわ。」
パタパタと飛びながらアイリスが言う。
「何だか嫌な予感がするわ。」
リリィが不安げな表情を見せる。
しばらく先に進むと、
坑道の先から重苦しい威圧感を伴った空気が流れてくるのを感じた。
「嫌な臭いがするぞ。」
ハクが鼻をつまむ。
ただならぬ気配にリリィの足がすくんだ。
「あれは何?」
暗闇に赤い眼が光っている。
荒い息遣い、鼻をつく何かが腐ったような臭い......
「ま、まさか!?あいつ?」
リリィが震える声で言う。
ゆっくりと黒い巨大な影が現れる。
黒く焼け焦げた硬い皮膚。怒りと狂気に満ちた眼。口から滴り落ちる唾液。それは......
「ゲンブ!」
リリィが叫んだ。
「......こ、ろす...」
ゲンブの様子が明らかにおかしい。どうやら正気を失っているようだ。
「こいつ、おかしな臭いがするぞ。」
ハクが顔をしかめる。
「どうやら魔神教が身体に何かしたようですね。恐らくは、三司祭の一人...」
アイリスが言う。
「う、ぐ、あぁっ!」
突然、ゲンブが呻くとその身体が脈打つように変化を始めた。
空気がビリビリと振動する。
「な、何?!」
リリィが思わず身構える。
「防御せよ、バリア!」
アイリスは防御魔法を唱える。
「がっ、ぐぁぉっ!」
ゲンブの身体が裂けるようにして中からから手が4本、新たに生え、頭には2本の角が。ゲンブの苦悶の声が坑道にこだまする。
「ば、化け物...!」
リリィは両手に魔力を集中する。
「こいつ、強いぞ!」
ハクも身構える。
「......ころ、すっ!」
変わり果てた姿になったゲンブが、三人を見据える。そして、ハクに6本の腕で襲い掛かってきた。
ガガガガッ!
ハクは必死に両手でガードする。
「くっ、いってぇ!お返しだ!」
全力で拳を繰り出すが、ゲンブの硬い皮膚には傷一つつかない。
「ハク!どいて!焼き尽くせ!ボルケーノ!」
リリィの両手から灼熱の焔が放たれる。
「ぐぁあぁ!」
焼け焦げたような臭いはするが、ゲンブには効果がないようだ。
「効かない!?」
ゲンブの6本の腕が今度はリリィを襲う。
リリィは、なす術もなく吹っ飛ばされ壁に激突した。
「リリィ!」
ハクが叫ぶ。
「わたくしに任せてください!ライトニングアロー!」
アイリスの手から放たれた光の矢はゲンブの右眼に直撃した。
「がぁ!こ、ろす...!」
右眼を潰されてもゲンブは攻撃の手を緩めない。
「水流の舞・水刃!」
ハクが放った水の刃は、正確にゲンブの左腕の関節を切り裂いた。
2本の腕が吹き飛び、血が吹き出した。
「やった!」
ハクが喜んだのも束の間、ゲンブがハクの首を掴み、軽々と持ち上げる。
「く、くそっ...」
そして、壁に向かって何回もハクの身体を打ち付けた。壁が崩れ湿った土の匂いが漂う。
「うっ、くっ!」
ハクは抵抗出来ないまま気を失った。
その時、
「ハク......!?」
なんとか立ち上がったリリィは、ハクが意識をうしなったのを見て、恐怖に震えた。
ゲンブはハクが気絶してもその手を緩めない。
リリィの中でゲンブに対する怒りが沸々と湧き上がる。
「ハクが死んじゃう......」
リリィの中で何かが変わった。
「やめなさい!ゲンブ!」
青白いオーラを纏ったリリィがゲンブを一喝する。
その気勢にゲンブの動きが止まった。
「...お、前......女神?」
ゲンブの真っ赤な眼に怯えの色が見える。
「ハクを苛める奴は、許さない!」
リリィのオーラが一段と強くなり、周りの空気を震わせながら、ゲンブに向かって生き物のように向かって行く。
「や、やめろ!」
青白いオーラに包まれたゲンブは、苦しみ出した。
「これは、女神の力ですの!?」
アイリスが言う。
「浄化せよ!ピュア!」
リリィが呪文を唱えると、ゲンブの身体がどす黒い魂を洗い流すように青白いオーラと共に燃え上がった。
「ぎゃあ!......兄き......た、助け、てくれ......」
ゲンブは苦しんでいたが、膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。そして、黒い灰となって消えた。
リリィのオーラが消えて、気を失ったハクに駆け寄る。
「ハク!大丈夫!?」
リリィがハクの身体を起こすと、ハクは目を開けた。
「身体中痛いけど、なんとか大丈夫。」
リリィはハクに抱きついた。
「良かった!ハク、生きてた!」
リリィの身体は小刻みに震え、目には涙が浮かんでいる。
「おいらは死なないよ。リリィを守るって約束しただろ?」
ハクがか細く弱々しい声で言った。
「リリィ、ハク。良くやりましたわ。回復しましょう。ヒール!」
アイリスが回復魔法を使うと、二人の体力が回復した。
「それにしても、ゲンブのあの異様な姿......まさか、メルティナの仕業?」
アイリスは、何か知っているようだ。
「さあ、先に進みましょう。」
リリィたちは、警戒を解かないまま、坑道の先に歩き出した。
ハクはリリィの肩を借りながら、アイリスは、フワフワと飛びながら。
「王女は無事かしら?」
リリィが心配そうに言う。
「魔神教は王女を傷つけたりはしないでしょうね。きっと彼らの目的はリリィさんをおびき寄せることでしょうから。」
アイリスが冷静に分析する。
「それなら、余計に速く王女を助けなきゃ!急ごう。」
リリィは、歩を速めた。
その頃、
フィーネたち、イブたちも坑道を奥に向かっていた。
その最深部では、雷を纏ったライジンが待ち受けていた。その眼はゲンブと同じ狂気と殺気に満ちていた。
そのさらに奥、牢に閉じ込められた王女が居る。
その前をふわふわと小さな黒い影がよぎった。影が無邪気に笑っているように見える。
「あたしのおもちゃ達、たっぷりと遊んであげてね。」
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