オヤコノコト
ー/ー-ボクノキモチ-⑥
【二人の目玉が
僕の宝物だよ
トワに一緒にいられるね】
20XX年 十二月
瞼を開く前に、鳥の鳴き声が聞こえた。
まだチクチクは目を覚ましていないようだ。
一日の始まりがこんな風に始まることを、ずっと忘れていた。
目を開けると見慣れない天井に、少し戸惑ったが一華の部屋だと思い出した。
「おはよーう」
一華はあくびをしながら伸びをしている。
「おはよう」
「よく眠れた?」
「とっても」
毛布と引き離されないことが、とても心地よかった。
「泊まらせてくれてありがとう」
「こら!本当に分からないんだから」
優しい表情をしているが、少しだけ語尾に力が含まれている。
「もっと甘えなさい!」
「……ありがとう」
目覚まし時計に視線を移した一華は、突然バタバタとクローゼットを開けている。
「やばっ。寝坊してるじゃん」
学生ではない私と生活リズムが違うのだなと、毛布を触りながら思った。
「部屋で待ってて。と言いたいところだけど、それは無理」
人差し指を立て、笑顔を見せる。
「ですよね」
同じポーズをして、私も笑った。
あっという間に部屋は散らかり、着替え途中にドアを開けている。
「ママー!起こしてって言ったのに!」
息をする間もなく返事が聞こえた。
「赤ちゃんですかー?」
心が明るくなる声色だった。
「よし、行こう」
「待って。お布団、畳ませて」
「大丈夫。ママが片付けてくれるから」
───チク。
思わずお腹に手をあてた。
階段を降りながら、一華は声を出す。
「朝ごはん、食べてる時間なーい!」
懐かしい匂いが鼻を掠める。
「朝から張り切ったのになぁ」
また、温かさのある声が聞こえた。
「お邪魔しました」
キッチンに顔をだしお礼を伝えると、食卓が目に入る。
その瞬間、チクチクが完全に目を覚ます。
そこには、ハンバーグが並べられていた。
一華はバッグをカゴに放り込み、自転車のペダルに足をかける。
「学校終わったら、連絡する」
「気をつけて……」
私の返事を聞く前に坂道を下っていった。
様々な制服姿が目に映る。
反射的に体を縮めた。
「……見ないで」
身を隠すように公園のベンチに座った。
風が吹くと葉たちが揺れ、音を鳴らす。
「うるさい」
───『……うるさい』
ママの声が重なる。
「見たくなかった」
運動会の夜、ハンバーグは形を失いバラバラになっていた。
焼きあがった後では、二度と元の丸に戻らないのだ。
「私の何がいけなかったの。……ママ」
膝を抱え顔を埋める。
すると、甲高い声が耳に入ってきた。
「きまめる、食べたい」
「まなちゃん、キャラメルって読むのよ」
「早く、食べたーい」
「まだ、カタカナが読めないのよね」
思わず顔を上げ、親子を見つめた。
───カタカナ。
突然、視界がボヤけて涙が溢れ出す。
西日がキッチンを照らしていたあの日を思い出した。
「何を書いてるの?」
「ないしょ」
テーブルで画用紙に文字を書く幼い私は、片時もママと離れたくなかった。
「見せて」
「おたのしみに、してて」
「わかった」
柔らかい毛布に包まれているようで、後ろからギュッとされることが嬉しかった。
「書けたよ!」
「わぁ!とっても上手」
目を細め、柔らかい表情をしていた。
「……ママ、どうしたの?なんで泣いてるの」
「理愛ちゃん、宝物をありがとう」
───今なら、あの涙の理由が分かる。
そして『ろーすとびーふ』が、ひらがなの理由も。
「……帰らなきゃ」
焦燥感が私の体を動かした。
角を曲がれば家が見える。
必ず立ち止まるのに、走り抜けていた。
「日曜日じゃないよね」
一華の制服姿を思い出す。
いつもと違う景色に焦燥感が増した。
一気に階段を駆け上がり、ドアを開ける。
「ただいま。……なに、これ」
ドクドクと自分の鼓動しか聞こえない。
「もしかして、泥棒?」
廊下には様々なものが、乱雑に放り出されていた。
「あ、運動会の写真。赤い靴下も……。違う、泥棒じゃない!」
ノックもせずに部屋のドアを開け放つ。
「ママ!」
目を覚ますのが不機嫌様でも、何でもよかった。
「起きて!ママ!」
折りたたまれた見覚えのある、画用紙に目が留まる。
『ままのろーすとびーふ せかいでいちばん』
毛布のような柔らかい温もりを思い出した。
それと同時に視界は涙で霞んだ。
「……きゅ、救急車」
無機質に並べられたベンチに一人で座った。
パチンと音が響き、赤いランプは消えた。
すると、白い服を着た人が近づいてきた。
「桜木さんですか?」
「……娘です」
震える声を誤魔化すことが出来ない。
「他に、身内の方は」
「いません」
「そうですか」
やめて、聞きたくない。
「後で着替えを取りに、行けますか」
「誰のですか」
「お母さんの着替えをお願いできますか」
もう、止められなかった。
顔にある穴、全部から溢れ出すものを。
「案内書もお渡ししますね」
『入院案内書』
この五文字が更に私の頬を濡らした。
ベッドに横たわるママは時々、眉間に皺を寄せる。
『体内から薬が抜けるまでの辛抱です』
看護師さんの声を思い出す。
「大丈夫。もう、どこにも行かないよ」
赤色のコンタクトを取り、今度は私がママの手を包んだ。
「必要ない。宝物が見えたから」
薄らと開いたママの目から、一筋の涙が伝った。
───退院から一年後。
20XX年 一月
スマホの通知音で目が覚めた。
毛布から手を出し画面に触れる。
啓介:おはよう。今日も寒い。でも、早く毛布と離れてよ!
理愛:おはよう。残念ながらそれは無理。だって寒すぎる。
啓介:ライバル現る!
理愛:勝ち目ゼロですよ!
啓介:負けてたまるか!約束通り、十九時にお迎えいくね!
理愛:ありがとう。学校、頑張って!
「一華に報告しなくちゃ」
ママと一緒に帰宅したあの日、緑の封筒が宝物の一つに加わった。
「まだ、包まってるの?」
ドアの前で穏やかな声が聞こえる。
「お願い!五分だけ待って」
身支度を済ませ、階段を降りる。
「お待たせ」
「やっと、毛布くんとサヨナラしたのね」
ママは、デリケースを閉めながら微笑む。
「凍るかと思った」
「それじゃぁ、啓介くんを呼ばないとね」
「え?どうして」
体温が急上昇する。
「ほらね。顔が赤いわよ」
りんりんと鈴が鳴り、来客を告げた。
「切り干し大根、ください」
「ありがとうございました」
ドアが閉まったのを確認し、隣に立つ。
「びっくり。全部、買ったね」
「きっと、大好物なのよ」
ガラス越しに見えるその人は、自転車に跨った。
「赤い目を……していた」
いつの間にか、厨房に移動していたママには聞こえていなかった。
一年ほど前に雑誌で見た『ヒビキ』を思い出す。
「私は、宝物が見えたよ。ありがとう」
───彼の目には、どんな景色が映ったのだろう。
「あ!また、忘れてる」
新メニューにプライスを付けた。
『理愛ちゃん特製 ハンバーグ』
鈴の音を合図に、二人の高い声が重なった。
「いらっしゃいませ」
デリケースがお日様の光に包まれた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
-ボクノキモチ-⑥
【二人の目玉が
僕の宝物だよ
トワに一緒にいられるね】
僕の宝物だよ
トワに一緒にいられるね】
20XX年 十二月
瞼を開く前に、鳥の鳴き声が聞こえた。
まだチクチクは目を覚ましていないようだ。
一日の始まりがこんな風に始まることを、ずっと忘れていた。
まだチクチクは目を覚ましていないようだ。
一日の始まりがこんな風に始まることを、ずっと忘れていた。
目を開けると見慣れない天井に、少し戸惑ったが一華の部屋だと思い出した。
「おはよーう」
一華はあくびをしながら伸びをしている。
「おはよう」
「よく眠れた?」
「とっても」
毛布と引き離されないことが、とても心地よかった。
「泊まらせてくれてありがとう」
「こら!本当に分からないんだから」
優しい表情をしているが、少しだけ語尾に力が含まれている。
「もっと甘えなさい!」
「……ありがとう」
目覚まし時計に視線を移した一華は、突然バタバタとクローゼットを開けている。
「やばっ。寝坊してるじゃん」
学生ではない私と生活リズムが違うのだなと、毛布を触りながら思った。
「部屋で待ってて。と言いたいところだけど、それは無理」
人差し指を立て、笑顔を見せる。
「ですよね」
同じポーズをして、私も笑った。
あっという間に部屋は散らかり、着替え途中にドアを開けている。
「ママー!起こしてって言ったのに!」
息をする間もなく返事が聞こえた。
「赤ちゃんですかー?」
心が明るくなる声色だった。
「よし、行こう」
「待って。お布団、畳ませて」
「大丈夫。ママが片付けてくれるから」
「おはよーう」
一華はあくびをしながら伸びをしている。
「おはよう」
「よく眠れた?」
「とっても」
毛布と引き離されないことが、とても心地よかった。
「泊まらせてくれてありがとう」
「こら!本当に分からないんだから」
優しい表情をしているが、少しだけ語尾に力が含まれている。
「もっと甘えなさい!」
「……ありがとう」
目覚まし時計に視線を移した一華は、突然バタバタとクローゼットを開けている。
「やばっ。寝坊してるじゃん」
学生ではない私と生活リズムが違うのだなと、毛布を触りながら思った。
「部屋で待ってて。と言いたいところだけど、それは無理」
人差し指を立て、笑顔を見せる。
「ですよね」
同じポーズをして、私も笑った。
あっという間に部屋は散らかり、着替え途中にドアを開けている。
「ママー!起こしてって言ったのに!」
息をする間もなく返事が聞こえた。
「赤ちゃんですかー?」
心が明るくなる声色だった。
「よし、行こう」
「待って。お布団、畳ませて」
「大丈夫。ママが片付けてくれるから」
───チク。
思わずお腹に手をあてた。
思わずお腹に手をあてた。
階段を降りながら、一華は声を出す。
「朝ごはん、食べてる時間なーい!」
懐かしい匂いが鼻を掠める。
「朝から張り切ったのになぁ」
また、温かさのある声が聞こえた。
「お邪魔しました」
キッチンに顔をだしお礼を伝えると、食卓が目に入る。
「朝ごはん、食べてる時間なーい!」
懐かしい匂いが鼻を掠める。
「朝から張り切ったのになぁ」
また、温かさのある声が聞こえた。
「お邪魔しました」
キッチンに顔をだしお礼を伝えると、食卓が目に入る。
その瞬間、チクチクが完全に目を覚ます。
そこには、ハンバーグが並べられていた。
そこには、ハンバーグが並べられていた。
一華はバッグをカゴに放り込み、自転車のペダルに足をかける。
「学校終わったら、連絡する」
「気をつけて……」
私の返事を聞く前に坂道を下っていった。
「学校終わったら、連絡する」
「気をつけて……」
私の返事を聞く前に坂道を下っていった。
様々な制服姿が目に映る。
反射的に体を縮めた。
「……見ないで」
身を隠すように公園のベンチに座った。
風が吹くと葉たちが揺れ、音を鳴らす。
「うるさい」
反射的に体を縮めた。
「……見ないで」
身を隠すように公園のベンチに座った。
風が吹くと葉たちが揺れ、音を鳴らす。
「うるさい」
───『……うるさい』
ママの声が重なる。
「見たくなかった」
運動会の夜、ハンバーグは形を失いバラバラになっていた。
焼きあがった後では、二度と元の丸に戻らないのだ。
「私の何がいけなかったの。……ママ」
膝を抱え顔を埋める。
すると、甲高い声が耳に入ってきた。
「きまめる、食べたい」
「まなちゃん、キャラメルって読むのよ」
「早く、食べたーい」
「まだ、カタカナが読めないのよね」
思わず顔を上げ、親子を見つめた。
「見たくなかった」
運動会の夜、ハンバーグは形を失いバラバラになっていた。
焼きあがった後では、二度と元の丸に戻らないのだ。
「私の何がいけなかったの。……ママ」
膝を抱え顔を埋める。
すると、甲高い声が耳に入ってきた。
「きまめる、食べたい」
「まなちゃん、キャラメルって読むのよ」
「早く、食べたーい」
「まだ、カタカナが読めないのよね」
思わず顔を上げ、親子を見つめた。
───カタカナ。
突然、視界がボヤけて涙が溢れ出す。
西日がキッチンを照らしていたあの日を思い出した。
突然、視界がボヤけて涙が溢れ出す。
西日がキッチンを照らしていたあの日を思い出した。
「何を書いてるの?」
「ないしょ」
テーブルで画用紙に文字を書く幼い私は、片時もママと離れたくなかった。
「見せて」
「おたのしみに、してて」
「わかった」
柔らかい毛布に包まれているようで、後ろからギュッとされることが嬉しかった。
「書けたよ!」
「わぁ!とっても上手」
目を細め、柔らかい表情をしていた。
「……ママ、どうしたの?なんで泣いてるの」
「理愛ちゃん、宝物をありがとう」
「ないしょ」
テーブルで画用紙に文字を書く幼い私は、片時もママと離れたくなかった。
「見せて」
「おたのしみに、してて」
「わかった」
柔らかい毛布に包まれているようで、後ろからギュッとされることが嬉しかった。
「書けたよ!」
「わぁ!とっても上手」
目を細め、柔らかい表情をしていた。
「……ママ、どうしたの?なんで泣いてるの」
「理愛ちゃん、宝物をありがとう」
───今なら、あの涙の理由が分かる。
そして『ろーすとびーふ』が、ひらがなの理由も。
そして『ろーすとびーふ』が、ひらがなの理由も。
「……帰らなきゃ」
焦燥感が私の体を動かした。
焦燥感が私の体を動かした。
角を曲がれば家が見える。
必ず立ち止まるのに、走り抜けていた。
「日曜日じゃないよね」
一華の制服姿を思い出す。
いつもと違う景色に焦燥感が増した。
一気に階段を駆け上がり、ドアを開ける。
「ただいま。……なに、これ」
ドクドクと自分の鼓動しか聞こえない。
「もしかして、泥棒?」
廊下には様々なものが、乱雑に放り出されていた。
「あ、運動会の写真。赤い靴下も……。違う、泥棒じゃない!」
ノックもせずに部屋のドアを開け放つ。
「ママ!」
目を覚ますのが不機嫌様でも、何でもよかった。
「起きて!ママ!」
折りたたまれた見覚えのある、画用紙に目が留まる。
必ず立ち止まるのに、走り抜けていた。
「日曜日じゃないよね」
一華の制服姿を思い出す。
いつもと違う景色に焦燥感が増した。
一気に階段を駆け上がり、ドアを開ける。
「ただいま。……なに、これ」
ドクドクと自分の鼓動しか聞こえない。
「もしかして、泥棒?」
廊下には様々なものが、乱雑に放り出されていた。
「あ、運動会の写真。赤い靴下も……。違う、泥棒じゃない!」
ノックもせずに部屋のドアを開け放つ。
「ママ!」
目を覚ますのが不機嫌様でも、何でもよかった。
「起きて!ママ!」
折りたたまれた見覚えのある、画用紙に目が留まる。
『ままのろーすとびーふ せかいでいちばん』
毛布のような柔らかい温もりを思い出した。
それと同時に視界は涙で霞んだ。
それと同時に視界は涙で霞んだ。
「……きゅ、救急車」
無機質に並べられたベンチに一人で座った。
パチンと音が響き、赤いランプは消えた。
すると、白い服を着た人が近づいてきた。
「桜木さんですか?」
「……娘です」
震える声を誤魔化すことが出来ない。
「他に、身内の方は」
「いません」
「そうですか」
やめて、聞きたくない。
「後で着替えを取りに、行けますか」
「誰のですか」
「お母さんの着替えをお願いできますか」
もう、止められなかった。
顔にある穴、全部から溢れ出すものを。
「案内書もお渡ししますね」
パチンと音が響き、赤いランプは消えた。
すると、白い服を着た人が近づいてきた。
「桜木さんですか?」
「……娘です」
震える声を誤魔化すことが出来ない。
「他に、身内の方は」
「いません」
「そうですか」
やめて、聞きたくない。
「後で着替えを取りに、行けますか」
「誰のですか」
「お母さんの着替えをお願いできますか」
もう、止められなかった。
顔にある穴、全部から溢れ出すものを。
「案内書もお渡ししますね」
『入院案内書』
この五文字が更に私の頬を濡らした。
ベッドに横たわるママは時々、眉間に皺を寄せる。
『体内から薬が抜けるまでの辛抱です』
看護師さんの声を思い出す。
「大丈夫。もう、どこにも行かないよ」
赤色のコンタクトを取り、今度は私がママの手を包んだ。
『体内から薬が抜けるまでの辛抱です』
看護師さんの声を思い出す。
「大丈夫。もう、どこにも行かないよ」
赤色のコンタクトを取り、今度は私がママの手を包んだ。
「必要ない。宝物が見えたから」
薄らと開いたママの目から、一筋の涙が伝った。
───退院から一年後。
20XX年 一月
20XX年 一月
スマホの通知音で目が覚めた。
毛布から手を出し画面に触れる。
毛布から手を出し画面に触れる。
啓介:おはよう。今日も寒い。でも、早く毛布と離れてよ!
理愛:おはよう。残念ながらそれは無理。だって寒すぎる。
啓介:ライバル現る!
理愛:勝ち目ゼロですよ!
啓介:負けてたまるか!約束通り、十九時にお迎えいくね!
理愛:ありがとう。学校、頑張って!
理愛:おはよう。残念ながらそれは無理。だって寒すぎる。
啓介:ライバル現る!
理愛:勝ち目ゼロですよ!
啓介:負けてたまるか!約束通り、十九時にお迎えいくね!
理愛:ありがとう。学校、頑張って!
「一華に報告しなくちゃ」
ママと一緒に帰宅したあの日、緑の封筒が宝物の一つに加わった。
ママと一緒に帰宅したあの日、緑の封筒が宝物の一つに加わった。
「まだ、包まってるの?」
ドアの前で穏やかな声が聞こえる。
「お願い!五分だけ待って」
身支度を済ませ、階段を降りる。
「お待たせ」
「やっと、毛布くんとサヨナラしたのね」
ママは、デリケースを閉めながら微笑む。
「凍るかと思った」
「それじゃぁ、啓介くんを呼ばないとね」
「え?どうして」
体温が急上昇する。
「ほらね。顔が赤いわよ」
りんりんと鈴が鳴り、来客を告げた。
ドアの前で穏やかな声が聞こえる。
「お願い!五分だけ待って」
身支度を済ませ、階段を降りる。
「お待たせ」
「やっと、毛布くんとサヨナラしたのね」
ママは、デリケースを閉めながら微笑む。
「凍るかと思った」
「それじゃぁ、啓介くんを呼ばないとね」
「え?どうして」
体温が急上昇する。
「ほらね。顔が赤いわよ」
りんりんと鈴が鳴り、来客を告げた。
「切り干し大根、ください」
「ありがとうございました」
ドアが閉まったのを確認し、隣に立つ。
「びっくり。全部、買ったね」
「きっと、大好物なのよ」
ガラス越しに見えるその人は、自転車に跨った。
ドアが閉まったのを確認し、隣に立つ。
「びっくり。全部、買ったね」
「きっと、大好物なのよ」
ガラス越しに見えるその人は、自転車に跨った。
「赤い目を……していた」
いつの間にか、厨房に移動していたママには聞こえていなかった。
一年ほど前に雑誌で見た『ヒビキ』を思い出す。
「私は、宝物が見えたよ。ありがとう」
一年ほど前に雑誌で見た『ヒビキ』を思い出す。
「私は、宝物が見えたよ。ありがとう」
───彼の目には、どんな景色が映ったのだろう。
「あ!また、忘れてる」
新メニューにプライスを付けた。
新メニューにプライスを付けた。
『理愛ちゃん特製 ハンバーグ』
鈴の音を合図に、二人の高い声が重なった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
デリケースがお日様の光に包まれた。