深夜、都心郊外にある共同墓地。
その敷地内を俺達は大声を上げながら駆け回っていた。絶賛除霊中だ。
「そっちに、2体行ったぞ!!」
雪之丞の声に俺は、苛つきながら悪霊を迎え撃つ。
「ったく、ちょこまかと!」
右手の霊手を、50cm程の鉤爪に変化させて一気に振り下ろす!!
霊気の形状を自在に変えれるようになった今は、剣よりも鉤爪にして使う事が多い。剣術経験の無い俺が剣を振るうより、手の延長にしてぶん回す方がやりやすいからだ。
バシュッ!
2体の悪霊が霊気の爪によって引き裂かれ、水滴が蒸発するような音を立てながら消滅する。
「後、どれくらいだ?」
拡大させた霊手を元の大きさ(手より少し大きい程度)に収縮させながら、俺は雪之丞に聞いた。
「奥に何体かいるだけだ」
やれやれと言った感じで答える雪之丞。
流石のこいつも顔に少し疲労が出てる。ちなみに除霊中だが魔装術は使わずに俺と同じ黒のコンバットスーツ(正確には対霊体用の特殊スーツなんだが面倒なんでコンバットスーツと呼んでる)姿だ。
理由は簡単。使う必要のない雑魚ばかり……ただ、想定より大量にいる上にあちこち逃げ回ってくれるから、倒すのに手間取っちまった。
まぁ、あれくらいの雑魚なら、纏めて一気に倒す手段も幾つかあるにはあった。ただ、ここにある墓石を無傷で済ませる手段は、一つも無かった。
俺達の力は、破壊には向いてても微調整は効きにくいからだ。
だから、やたらだだっ広い敷地内を片方が追い込んで片方が倒す。そんな、鬼ごっこのような真似をしながら既に時間余り…………いい加減うんざりだ。
体力とい言うか、精神的にキツい……
「そうか……とっとと、終わらしちまおう」
一言だけ絞り出すと俺は墓地の奥まで進む。雪之丞も無言で俺の横を歩く。考えてる事は同じみたいだな……
奥には3体の悪霊が漂っていた。手間取らせやがって!
「俺は左に行く。右は頼む」
「おう!」
雪之丞の答えと同時に、俺達は奴らを挟むようにして飛び掛かる!
俺の右手には、さっきと同じ鉤爪。雪之丞は霊波刀。奴も霊気の刃を具現が出来るようになったけど、まだ剣の形にしか出来ない。
先に仕掛けたのは俺。
右腕を振りかぶって、袈裟斬りのような軌道で振り下ろす!!
バシュッ!
1体だけ、仕留めた!
残りが逃げようとした瞬間に、雪之丞の霊波刀が横一閃して2体同時に仕留める!!
バシュッ!バシュッ!
…………やっと終わったぜ。
残りがいないのを確認すると一仕事終えた達成感と言うより、面倒な作業から開放された安堵感みたいなものが湧いてくる。
「かったりぃ作業だったな………もっと、歯応えのある奴とやりてぇもんだ」
「余り強いのは、勘弁だな……」
隣にいる戦闘狂の嘆きに適当に応じながら俺は右手の霊気を解除する。こいつと組んでから、戦闘系の依頼ばかり……と言うか、それしかしてない。
…………何にしても、これで依頼達成だ。文珠も使わずに済んだし良しとするべきか。
仕事は週に1、2回。長い時は、2週間くらい空くこともある。
給与が時給制から歩合制に変わった事で余り空くと不安になるが、除霊代金(経費を引いた後)を完全折半出来るんでサラリーマン並には貰えてる。
時給『255円』なんかで、良く生活してたな俺……
◇◇◇
次の仕事は、5日後か……学校行ける時に行って、出席日数稼いどくか。
帰り支度……っても、荷物なんかねぇから雪之丞の4WD(中古)に乗りながら、明日からの予定について考えていると運転席に居る奴が口を開く。
「いつまで、雑魚の相手しなきゃならないんだろうなぁ?とっと、次のステージに進みたいぜ」
…………いつものボヤきだった。
「また、それかよ……大体 “いつまで” って、この前始めたばっかだろう?」
「まぁ、そうだがよ……」
「暫くは、仕方ねぇさ……んな、メドゥーサみたいなのがポンポン来られて堪るか」
「………出てきた時に、俺達に声掛かると思うか?」
「掛かるだろ。現に香港では、武神様に掛けられたじゃねぇか」
「そうあって、欲しいもんだぜ……」
これが、仕事での最近の日常。
こいつとやり出してから、依頼は無難にこなせちゃいるが、先行きの見えない不安から終わった後もイマイチ盛り上がらない。
だけど、急いでも仕方ない。ただでさえこいつは、一足飛びに来てるんだ。
GSとして独立するには、免許を取った後もしばらくは見習いとして正式なGSの下で研修を積む必要がある。
それを雪之丞は、メドゥーサ討伐の功績が認められた特例として正式なGSに認められている。その前までモグリだったのに、偉い出世だ。
俺は、失効しちまったけどな……
ま…まぁ、そのお陰で俺はこいつの下に転がり込めたんだから、悪い事ばかりでもないんだがな。
とにかく、焦る気持ちを押さえて、今は地道に行くしかないだろう。
さっきも言ったが、こいつは “元” モグリだ。周りの連中は、俺達が何かしでかすんじゃないかと、常に穿った様な目で見てくる。そんな状態で、下手でも打ちゃあそれこそ取り返しが付かなくなるぞ。
「帰りは、ラーメンでも食おうぜ」
だから、俺は何となく気不味い雰囲気を変えるように声を上げた。