ep77 魔族

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 もうロットンを出立してから休みなく五時間近くは歩いただろうか。
 俺はまだ平気だったが、ボチボチここいらで野宿することにした。肥満体型のブーストが弱音を吐いてうるさかったのと、なによりシヒロが辛そうだったからだ。
 俺たちは 木立の中、草の上に乾いた葉っぱを集めて寝床をこしらえた。それから、
「こ、これぐらいでいいですかね」
「いい感じだ。ここまで来ればもう大丈夫だろうが、なにかあればすぐ消そう」
 シヒロの火魔法で控えめに焼べた焚き火をかこみ、しばしの休息に入った。

「で、さっきの話だが……」

 俺はトレブルに視線を運ぶ。デブのブーストはすでに横になって寝に入っている。

「あ? ああ〜ええと……おれたちが魔族ってことだよな? ダンナ」

「そうだ」

「別に大したことじゃねえぜ? 戦争が終わってからは人間の領土に足を運ぶのも以前に比べて難しくなくなったからなぁ」

「見た目は人間とまったく変わらないんだな?」

「つーかダンナは魔族と会ったことはねえのかい? 意外だなぁ」

「あるいは俺が気づいていなかっただけかもしれないが」

「あ〜それはあるな。魔族っていってもピンキリだからな」

「ピンキリ? どういう意味だ?」

「〔魔度〕で全然ちげーんだ。ようするに魔の濃さだよ。おれとブーストは魔が薄いほうだから、見た目もほとんど人間と変わらねえのさ」

「お前らはいつこっちへ来たんだ?」

「戦争が終わってからさ。魔王様が倒れて以降、おれたちがいた地域はすっかり荒れはじめちまってな。住みづらくなってこっちへ来たんだ」

「戦争が終わって平和になったのにか?」

「おれにきかれたってわからねえよ」

「お前らでも住みづらくなるほどか?」

「ダンナ。人間領のそれとはレベチだぜ? 魔王領のそれはよ」

「なるほど。で、こっちへ来てシヴィスの下についたと」

「人間領ならもっと楽して生きていけると思ってたんだが……とんだ目論み違いだった。こっちはこっちでまた別の厳しさがあってなぁ。そんな時、都合良い手下を探していたシヴィスに拾われる形で〔ダムド〕に入ったんだ。おかげで他のゴロツキどもと争うことも減って、とりあえず生きていく分には安全になったってわけだ」

「そして今度は魔剣使いの庇護を受けようってわけか」

「そ、それは、その」

「なんで〔フリーダム〕には入らなかったんだ?」

「そりゃあ、あれだぜ! アイツらは見境がなさすぎんだ。女子供しかいねえカタギの家まで平気で襲いやがる。おれたちはゴロツキでもそこまで趣味悪くねえ」

「確かにお前とブーストはシヒロを狙おうとはしなかったもんな。なあシヒロ」

 隣で大人しく体育座りしているシヒロに顔を向けた。

「えっ? あ、は、はい」

 シヒロはうつらうつらと眠そうだった。

「シヒロ。もう寝てていいぞ」

「だ、大丈夫です……ぼく……スー、スー」

 シヒロはこてんと俺の肩にもたれかかって寝息を立てはじめた。俺はシヒロの肩を抱くと、そっと葉っぱの布団に寝かせた。それからおもむろに、寝ているブーストの頭に向かってポイと石を投げた。

「てぇっ! な、なんだ??」

 びっくりして跳ね起きるブースト。

「ダンナ?」とトレブル。

「俺に付いてくるにあたって、お前らにひとつだけ条件を付ける」

「えっ?」
「な、なんだよいきなり? もうオッケーしてくれたんじゃ……」

「この娘を守れ。なにがあってもだ。俺のことはいい。条件はそれだけだ。守れるか?」

 俺はふたりを鋭くじっと見据えた。

「あ、ああ。わ、わかったぜ」

「ま、守るぜ。それでダンナは、嬢ちゃんを……」

「余計なことはいい。それじゃあもう休むぞ」

 ぶっきらぼうに言って俺は横になった。
 
『クロー様』

『なんだ?』

『その小娘がそんなに大事ですか?』

『……というか、後のことだよ』

『後のこと?』

『トボけるなよ。わかるだろ。俺には〔神の呪い〕がある』

『なるほど』

『それより、魔の濃さってなんだ?』

『血の濃さ、とも言われます。端的に言えば「より魔族っぽいかどうか」ということです』

『ひとくちに魔族といっても様々なんだな』

『それは人間も同様でしょう。様々な人種があり民族があり特徴がある』

『しかしなぁ……』

『なんです?』

『初魔族がコイツらって、なんかなぁ……』

『がっかりですか?』

『うーん。コイツらに罪はないんだけど……』

『ただの貴方の偏見です。現実とはえてしてそんなものです』

『なんかスンマセン』

『今後、旅を続ければ、それこそ魔族以外の種族にも会うかもしれませんよ。例えば……エルフとか』

『エルフか。それは会ってみたいな』

『クロー様。スケベですね』

『違うから! そーゆーんじゃないから!』

『まあ、今日のところはもうお休みください。今日は戦いもあったのですから。少しでも回復させておかないと』

『そ、そうだな』

 ほどなく俺はまどろみ始めた。


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 もうロットンを出立してから休みなく五時間近くは歩いただろうか。
 俺はまだ平気だったが、ボチボチここいらで野宿することにした。肥満体型のブーストが弱音を吐いてうるさかったのと、なによりシヒロが辛そうだったからだ。
 俺たちは 木立の中、草の上に乾いた葉っぱを集めて寝床をこしらえた。それから、
「こ、これぐらいでいいですかね」
「いい感じだ。ここまで来ればもう大丈夫だろうが、なにかあればすぐ消そう」
 シヒロの火魔法で控えめに焼べた焚き火をかこみ、しばしの休息に入った。
「で、さっきの話だが……」
 俺はトレブルに視線を運ぶ。デブのブーストはすでに横になって寝に入っている。
「あ? ああ〜ええと……おれたちが魔族ってことだよな? ダンナ」
「そうだ」
「別に大したことじゃねえぜ? 戦争が終わってからは人間の領土に足を運ぶのも以前に比べて難しくなくなったからなぁ」
「見た目は人間とまったく変わらないんだな?」
「つーかダンナは魔族と会ったことはねえのかい? 意外だなぁ」
「あるいは俺が気づいていなかっただけかもしれないが」
「あ〜それはあるな。魔族っていってもピンキリだからな」
「ピンキリ? どういう意味だ?」
「〔魔度〕で全然ちげーんだ。ようするに魔の濃さだよ。おれとブーストは魔が薄いほうだから、見た目もほとんど人間と変わらねえのさ」
「お前らはいつこっちへ来たんだ?」
「戦争が終わってからさ。魔王様が倒れて以降、おれたちがいた地域はすっかり荒れはじめちまってな。住みづらくなってこっちへ来たんだ」
「戦争が終わって平和になったのにか?」
「おれにきかれたってわからねえよ」
「お前らでも住みづらくなるほどか?」
「ダンナ。人間領のそれとはレベチだぜ? 魔王領のそれはよ」
「なるほど。で、こっちへ来てシヴィスの下についたと」
「人間領ならもっと楽して生きていけると思ってたんだが……とんだ目論み違いだった。こっちはこっちでまた別の厳しさがあってなぁ。そんな時、都合良い手下を探していたシヴィスに拾われる形で〔ダムド〕に入ったんだ。おかげで他のゴロツキどもと争うことも減って、とりあえず生きていく分には安全になったってわけだ」
「そして今度は魔剣使いの庇護を受けようってわけか」
「そ、それは、その」
「なんで〔フリーダム〕には入らなかったんだ?」
「そりゃあ、あれだぜ! アイツらは見境がなさすぎんだ。女子供しかいねえカタギの家まで平気で襲いやがる。おれたちはゴロツキでもそこまで趣味悪くねえ」
「確かにお前とブーストはシヒロを狙おうとはしなかったもんな。なあシヒロ」
 隣で大人しく体育座りしているシヒロに顔を向けた。
「えっ? あ、は、はい」
 シヒロはうつらうつらと眠そうだった。
「シヒロ。もう寝てていいぞ」
「だ、大丈夫です……ぼく……スー、スー」
 シヒロはこてんと俺の肩にもたれかかって寝息を立てはじめた。俺はシヒロの肩を抱くと、そっと葉っぱの布団に寝かせた。それからおもむろに、寝ているブーストの頭に向かってポイと石を投げた。
「てぇっ! な、なんだ??」
 びっくりして跳ね起きるブースト。
「ダンナ?」とトレブル。
「俺に付いてくるにあたって、お前らにひとつだけ条件を付ける」
「えっ?」
「な、なんだよいきなり? もうオッケーしてくれたんじゃ……」
「この娘を守れ。なにがあってもだ。俺のことはいい。条件はそれだけだ。守れるか?」
 俺はふたりを鋭くじっと見据えた。
「あ、ああ。わ、わかったぜ」
「ま、守るぜ。それでダンナは、嬢ちゃんを……」
「余計なことはいい。それじゃあもう休むぞ」
 ぶっきらぼうに言って俺は横になった。
『クロー様』
『なんだ?』
『その小娘がそんなに大事ですか?』
『……というか、後のことだよ』
『後のこと?』
『トボけるなよ。わかるだろ。俺には〔神の呪い〕がある』
『なるほど』
『それより、魔の濃さってなんだ?』
『血の濃さ、とも言われます。端的に言えば「より魔族っぽいかどうか」ということです』
『ひとくちに魔族といっても様々なんだな』
『それは人間も同様でしょう。様々な人種があり民族があり特徴がある』
『しかしなぁ……』
『なんです?』
『初魔族がコイツらって、なんかなぁ……』
『がっかりですか?』
『うーん。コイツらに罪はないんだけど……』
『ただの貴方の偏見です。現実とはえてしてそんなものです』
『なんかスンマセン』
『今後、旅を続ければ、それこそ魔族以外の種族にも会うかもしれませんよ。例えば……エルフとか』
『エルフか。それは会ってみたいな』
『クロー様。スケベですね』
『違うから! そーゆーんじゃないから!』
『まあ、今日のところはもうお休みください。今日は戦いもあったのですから。少しでも回復させておかないと』
『そ、そうだな』
 ほどなく俺はまどろみ始めた。