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第14話 ミラージュさんの挑発

ー/ー



 それから——ジルさんは事務作業があるので引き上げ、ぼくとアカネ、チカ、それにリゼルとミラージュさんで、本校舎の地下にある拘留場所へと向かうことになった。
 もちろん、ギンゲツと面会するためだ。

 校舎のずっと奥のほう——悪魔が封印されてそうな石の扉を開け、ひび割れた石段を下った先に、拘留場所はあった。
 レンガの壁が続き、等間隔に鉄格子が配置されている。
 九曜の塔ともまた、雰囲気が違う。
 かび臭く、明かりはあるけど、歩くのに必要最低限の数しかなく、暗がりから幽霊でも出てきそうだった。
 空気は湿っていて、どんよりとしている。

「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
 グリューンが、姿を見せずに声だけ耳許で伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんか」

 実体化をしていない時は、彼女の声はぼくにしか聞こえないみたいなので、めんどくさい。
 それに、喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
 アカネとチカも、黙り込んでいる。

 ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
 魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
 腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
 とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。

 先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
 右手にある鉄格子に向きなおる。
 その向こうの床の上で、誰かが膝を抱えて、座り込んでいた。
 薄いブルーの貫頭衣と、ズボンを穿いているのがわかったが、頭を下に向けている。

「おい、ギンゲツ。顔をあげろ」
 リゼルの言葉に、その人物が顔を上げた。

 眠っていたのか、瞬きを数回するが、あの眼光の鋭さは健在だった。
 目が合うと、瞳を細くする。

「ジンライ……貴方たちですか」
「ギンゲツ。話は聞いたよ。ぼくたちで賭けをしていたようだね」
「……えぇ、そうです。貴方たちが、”初心者殺しの小迷宮”から帰還できるとは思わなかった。そんな実力があるようには思えませんでしたので」
「……ぼくたちが、塔のなかで死んでも、何とも思わないってこと?」

「実力のない奴が塔のなかで死んでいくのは、必然でしょう。それに、アカツキの名前を利用しているお前が、許せませんでした」
「許せない?」
「そう——アカツキの本当の子供でもない、貴方が、アリアンフロッドになるのを手伝うだなんて、冗談じゃないと思いましたよ」

 アカネがそっと、身体を近づけてくるのがわかる。
 手を握ってこようとするけど、ぼくは大丈夫、と合図を送る。

「……アカツキを知っているの?」
「当たり前です。アリアンフロッドのなかで、アカツキのことを知らない者など、おりませんよ。だから、このわたしに、アカツキの息子を名乗る貴方の天賦を目覚めさせる手伝いをしろ、と言われた時はどんな皮肉かと思ったものです」
 投げやりな口調で、ギンゲツが言葉を続ける。

「だから、ジンくんは死んでもいいってことですかー。あなたが認めない者の生死など、どうでもいい、と。そうやって、他の人も”初心者殺しの小迷宮”へ放り込んで、殺しちゃってもいいって考えているのでしょうか」
 ギンゲツが、視線をあげた。
 しかし、表情はなく、目つきは鋭いものの、その瞳は何も見てはいなかった。

「どうせ、数年後には死んでいるんです。早いか遅いか、それだけのこと」
「無駄な問答よのぉ。この者には、自分しか見えておらぬぞよ」
 グリューンの言葉に、ぼくは頷いた。
 ギンゲツは、他者など見えていないのだろう。

「実に、面白いですワね」
 ミラージュさんが、金属の掌で拍手をした。
 鉄格子と通路に、硬質な音が響く。

「他人を死に追いやっテいるのに、ナンの罪もナイと考えているのかシラ? 所詮は、おカネ儲けのために、利用しているダケでしょう。アナタがアカツキ氏を高く買っているのは、よくワカリましたけど、人の生死を決めていいのは、アナタではありませんワよ」
 それに、ギンゲツは反論しなかった。
 できるはずもないが。

「アナタはまだ、ジブンのほうが、ここにいる誰よりも強いと思っているのではないカシら。一対一なら、負けないト」
「……そうです」
「ギンゲツ、あなたも耳にしてイルと思いますガ、ジンライくんはあの後、天賦を得たのデスよ。そして、ワタクシから見れば、今のあなたはジンライくんよりも劣ると思いマス」
「なん、ですって?」

「本当に強い者は、常にジブンを磨き続けているもの。でも、アナタにはソレがありません」
「なんぞ、面白い展開になってきたぞな。え? ジンライよ」

 グリューンのその言葉は、ぼくの頭のなかに入ってこなかった。
 ミラージュさんはいったい、何をさせるつもりなのだろう。まさか……ねぇ?

「自信はアリますか? 一対一で戦って、ジンライくんに勝てる、と」
「ジンライと、一対一で?」
「そうデス。あなたが勝てば、刑期の軽減、懲役中の待遇改善など考えてあげまショウ。ただし、負けたら
——グリーディングの能力者による尋問に同意してもらいマス」
「えっ……?」

 グリーディング……それは、魅了や読心といった心魂に作用する魔術のことを指す。
 強力な魔道士ともなると、強制的に精神的な絆を作り出し、隠し事など、すべて明かしてしまう、という。

「ジンライくんに勝つ自信、ありまセンか?」
 挑発するように、ミラージュさんが言った。


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 それから——ジルさんは事務作業があるので引き上げ、ぼくとアカネ、チカ、それにリゼルとミラージュさんで、本校舎の地下にある拘留場所へと向かうことになった。
 もちろん、ギンゲツと面会するためだ。
 校舎のずっと奥のほう——悪魔が封印されてそうな石の扉を開け、ひび割れた石段を下った先に、拘留場所はあった。
 レンガの壁が続き、等間隔に鉄格子が配置されている。
 九曜の塔ともまた、雰囲気が違う。
 かび臭く、明かりはあるけど、歩くのに必要最低限の数しかなく、暗がりから幽霊でも出てきそうだった。
 空気は湿っていて、どんよりとしている。
「いやな場所じゃのぉ。わしの試練の間のほうが数億倍もマシぞよ」
 グリューンが、姿を見せずに声だけ耳許で伝えてくるので、その度にびくっとしてしまう。
「どうした? ジンライ。さっきから、無口じゃぞ。何か喋らんか」
 実体化をしていない時は、彼女の声はぼくにしか聞こえないみたいなので、めんどくさい。
 それに、喋らないでいるのは、ぼくだけじゃない。
 アカネとチカも、黙り込んでいる。
 ここには、憎しみや恨み、怒りなどの負の感情が澱んでいるからだろう。
 魔術に関しては、チカのほうが敏感なので、よりそういった感情に揺さぶられてしまうのかもしれない。
 腕は組んではいないものの、さっきから、チカはぼくに身体を寄せてきていた。
 とにかく、さっさとギンゲツとの面会を終わらせたほうがいいだろう。
 先頭を歩いていたリゼルが、脚を止めた。
 右手にある鉄格子に向きなおる。
 その向こうの床の上で、誰かが膝を抱えて、座り込んでいた。
 薄いブルーの貫頭衣と、ズボンを穿いているのがわかったが、頭を下に向けている。
「おい、ギンゲツ。顔をあげろ」
 リゼルの言葉に、その人物が顔を上げた。
 眠っていたのか、瞬きを数回するが、あの眼光の鋭さは健在だった。
 目が合うと、瞳を細くする。
「ジンライ……貴方たちですか」
「ギンゲツ。話は聞いたよ。ぼくたちで賭けをしていたようだね」
「……えぇ、そうです。貴方たちが、”初心者殺しの小迷宮”から帰還できるとは思わなかった。そんな実力があるようには思えませんでしたので」
「……ぼくたちが、塔のなかで死んでも、何とも思わないってこと?」
「実力のない奴が塔のなかで死んでいくのは、必然でしょう。それに、アカツキの名前を利用しているお前が、許せませんでした」
「許せない?」
「そう——アカツキの本当の子供でもない、貴方が、アリアンフロッドになるのを手伝うだなんて、冗談じゃないと思いましたよ」
 アカネがそっと、身体を近づけてくるのがわかる。
 手を握ってこようとするけど、ぼくは大丈夫、と合図を送る。
「……アカツキを知っているの?」
「当たり前です。アリアンフロッドのなかで、アカツキのことを知らない者など、おりませんよ。だから、このわたしに、アカツキの息子を名乗る貴方の天賦を目覚めさせる手伝いをしろ、と言われた時はどんな皮肉かと思ったものです」
 投げやりな口調で、ギンゲツが言葉を続ける。
「だから、ジンくんは死んでもいいってことですかー。あなたが認めない者の生死など、どうでもいい、と。そうやって、他の人も”初心者殺しの小迷宮”へ放り込んで、殺しちゃってもいいって考えているのでしょうか」
 ギンゲツが、視線をあげた。
 しかし、表情はなく、目つきは鋭いものの、その瞳は何も見てはいなかった。
「どうせ、数年後には死んでいるんです。早いか遅いか、それだけのこと」
「無駄な問答よのぉ。この者には、自分しか見えておらぬぞよ」
 グリューンの言葉に、ぼくは頷いた。
 ギンゲツは、他者など見えていないのだろう。
「実に、面白いですワね」
 ミラージュさんが、金属の掌で拍手をした。
 鉄格子と通路に、硬質な音が響く。
「他人を死に追いやっテいるのに、ナンの罪もナイと考えているのかシラ? 所詮は、おカネ儲けのために、利用しているダケでしょう。アナタがアカツキ氏を高く買っているのは、よくワカリましたけど、人の生死を決めていいのは、アナタではありませんワよ」
 それに、ギンゲツは反論しなかった。
 できるはずもないが。
「アナタはまだ、ジブンのほうが、ここにいる誰よりも強いと思っているのではないカシら。一対一なら、負けないト」
「……そうです」
「ギンゲツ、あなたも耳にしてイルと思いますガ、ジンライくんはあの後、天賦を得たのデスよ。そして、ワタクシから見れば、今のあなたはジンライくんよりも劣ると思いマス」
「なん、ですって?」
「本当に強い者は、常にジブンを磨き続けているもの。でも、アナタにはソレがありません」
「なんぞ、面白い展開になってきたぞな。え? ジンライよ」
 グリューンのその言葉は、ぼくの頭のなかに入ってこなかった。
 ミラージュさんはいったい、何をさせるつもりなのだろう。まさか……ねぇ?
「自信はアリますか? 一対一で戦って、ジンライくんに勝てる、と」
「ジンライと、一対一で?」
「そうデス。あなたが勝てば、刑期の軽減、懲役中の待遇改善など考えてあげまショウ。ただし、負けたら
——グリーディングの能力者による尋問に同意してもらいマス」
「えっ……?」
 グリーディング……それは、魅了や読心といった心魂に作用する魔術のことを指す。
 強力な魔道士ともなると、強制的に精神的な絆を作り出し、隠し事など、すべて明かしてしまう、という。
「ジンライくんに勝つ自信、ありまセンか?」
 挑発するように、ミラージュさんが言った。