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第14話 深夜のおしゃべりって、なんだかどきどきするよね。

ー/ー



 それから、ぼくは自分に割り当てられた部屋へと引き上げていった。
 夕食は既に終え、あとは寝るだけだった。

 ぼくたちは、三人とも個室が与えられていた。
 しかも、そこそこの広さのある部屋だ。
 アカネは、三人同じ部屋でも——なんて言ってたけど、とんでもない!

 男女が同じ部屋ってのは、マズいでしょ、というのは表向きの理由。
 村では、アカネとほぼ、プライバシーもなく、過ごしていたのだから、この邸宅にいる間だけでも、個室で過ごしてみたい、って思ってしまのはしょうがないと思うんだよね。

 それにしても、来客用に個室があるのって、すごいんだなーって思っちゃう。
 いつか、ぼくもこんな大きい屋敷に住んでみたいな。

 部屋は、大きなクッションのよく効いたベッドに、衣裳棚、テーブルと椅子、ソファや壁画などがあり、これが本当に来客用の部屋なのか、信じられないくらいの立派な内装だった。
 部屋の奥の窓は全面がガラスで、開け閉めできるようになっている。
 その向こうはベランダで、夜空が広がっている。

 ぼくは、ベッドへと近づくと、サイドテーブルの上に置かれている、エーテル・リンケージと懐中時計を見下ろした。
 時計を取り上げてみると、塔のなかとは違い、きちんと時刻を刻んでいた。
 ロカルノ村で生活していた頃はもう、とっくに寝入っている時間だ。

 この部屋には、魔力で光を生み出す、魔道灯(プライマリア・ライト)が使われているので、今が夜という時間を忘れてしまいそうになる。
 魔道灯は、九曜の塔で発見されるドリフテッド・シングスからもたらされたもので、アリアンフロッドがいなかったら、おそらく、普及することはなかったのだろう。

 懐中時計は、ぼくとアカネにとって、とても大切なものだ。
 なにしろ、アカツキの形見の品なんだから。

 懐中時計は、もとは母親からアカツキへの贈り物だったみたい。
 アカツキは時間にルーズなのは、直らなかったけど、その懐中時計はずっと、大切にしていた。
 まぁ、時間にだらしないところは、アカネにもしっかりと引き継がれているんだけどね。

 本当ならば、この懐中時計は、本当の娘であるアカネが持つべきものなんだと思う。
 でも——アカネは受け取らなかった。
 遺言って言っていいのかわからないけど、アカツキが亡くなる直前、ぼくとアカネを呼び寄せて、言ったのだ。
 ジンライ、おまえにこの懐中時計を託す、と。

 あれは、ぼくがアカツキにはじめて、いつか、成長したらアリアンフロッドになりたい、と告げた時のことだった。
 それまで、ずっと肌身離さずに、身につけていた懐中時計を、父親はあっさりと、ぼくに手渡してきたのだ。

 託す——とは、どういう意味なんだろう?
 今、思い返してみても、わからないや。

 懐中時計は、表面に精巧な意匠が施され、高級なものだった。
 蓋を外すと、長針と短針、秒針が現れる。
 持ち主であるアカツキがいなくなっても、しっかりと時を刻み、今でも正確に時間を指し示している。

 懐中時計なんて、ほとんどの人は持ってはいない。
 村では、正確な時間なんて、測る必要はなかったし、ぼくたちだって、そんなに時計を必要とはしていない。
 ただ、形見として、大切にしているだけだ。

 そのアカツキだが、任務の途中で、命を落とした。
 あっけない——本当に、あっさりとした死だった。
 あれほど、アリアンフロッド随一の強さを誇るアカツキが、ほんのちょっと油断しただけで、死んでしまったのだ。
 それもまた、アリアンフロッドとしての姿、ということなのだろう。

 強力な力を振るえば、その代償もまた、自分に戻ってくる。
 その覚悟はあるのか——それでもなお、アリアンフロッドになりたいのか、と懐中時計を通して告げられているように、ぼくには感じられた。

 ぱちん、と音をたてて、ぼくは懐中時計の蓋を閉ざした。
 身体は疲れ切っているので、今夜はぐっすり眠れそうな気がする。
 窓の向こうで、ひっそりと輝く星々の光を目にしながら、ぼくはカーテンを閉め切り、用意されていた寝間着に着替えた。
 魔道灯を消して、「おやすみ」と呟き、ふかふかのベッドに潜り込んだ。


 寝付きがいいのは、ぼくの自慢のひとつ、だった。
 ベッドで横になって、目を閉ざしたら、そのまま、朝になっていた、ということがほとんどだ。
 だから、目を覚ましても暗いままだった、というのはあまり経験がない。

 闇のなかで、瞬きをする。
 しんと、部屋のなかはもちろん、邸宅全体も静まりかえっている。
 寝返りを打ち、また、手足を伸ばして、ゆっくりと深呼吸をしてみる。
 が、妙に目が冴えてしまっていた。
 この分だと、寝られないかな?

 一応、目を閉ざし、数をかぞえてみる。
 百まで数えてから、ぼくは伸びをした。
 ため息をつくと、ベッドから降りた。
 今は、何時なんだろう?

 サイドテーブルの上の懐中時計を手に取る。
 時計はかっち、かっち、と正確に時を刻んでいる。
 夜中の三時過ぎ、か……。

 まだ、眠ろうとしたら、充分、時間はある。
 目を擦ると、ぼくは窓へと向かった。
 ガラスの戸を引き、ベランダへと出た。

 裸足の下で、ひんやりとした感覚が心地よい。
 足音を忍ばせて、夜気のなかに体をさらした。
 水の月の上旬——。

 春先としては、下着姿でいると、ちょっと肌寒い程度だ。
 少しくらい、風に当たるくらいなら、大丈夫だろう。

 ぼくは、視線を上へと向けた。
 空の中央を、白い帯状のものが、横切っていた。
 リングだ。
 大陸のどこからでも——ロカルノ村でも、そのリングは見ることが出来る。

 ぼくには、ただの空を横切る帯にしか見えないのだけど、偉い学者さんによると、それは大地をぐるりと取り巻いて、地平線の下でも円を描いているらしい。
 夜になると、そのリングからたまに、流れ星が落ちてきたりして、恋人と手を繋いで見ることが出来たら、ずっといっしょにいられる……みたいな伝説もあるらしい。

 アカネとチカは、そのうち、恋人と流れ星を見ることになるのだろうか。
 その時、ぼくはどうしているんだろう?

「こんばんはー、ジンくん。やっぱり、おねーさんがいないと眠れないのかなぁ?」
 アカネに、声をかけられた。
 なんとなく、気配は感じていたので、それほどびっくりはしなかった。
 このベランダは、ぼくとアカネ、チカの部屋と繋がっているので、別に不思議ではない。

「……そっちこそ。姉さんも、たぶん、寝られないんじゃないかなって思ったよ」
「えー、本当かなぁ。ジンくんって、そんなに察しがよかったっけ?」

 アカネの寝間着姿が、月の光に浮かび上がっている。
 なかなかのスタイルなので、ぼくはちょっと、どぎまぎしてしまう。
 見ないようにして、ベランダの柵まで歩いていった。

「こういう時、大人っていいよねー。寝られない時、お酒飲んじゃったりするんでしょ。執事さんに頼んだら、用意してくれるかな」
「それは、ダメでしょ。それに、こんな時間に起こしたら、かわいそうだよ」

 アカネがさらに、近づいてくる。
 背後に立った。
 アカネのほうが、ぼくよりまだまだ、背が高い。
 並んで立つと、ぼくの頭はアカネの胸くらいまでしか達しない。

「ちょ……姉さん」
「いいからー。こうしていると、リラックスできるでしょー」
 背後から、体を密着させてくる。

 当たっているんだけど——。
 その言葉を、ぼくは飲み込んだ。
 腕を伸ばし、柵の上に置いたぼくの掌の上に重ねてくる。

 ずっと前——ぼくがまだ、アカツキの家にやって来たばかりの頃だ。
 精神的に不安定なぼくに、アカネがこうして、背中から抱きつき、手を重ねてきたことを、思い出した。
 体温を感じると、なんだか、ほっとする。
 アカネに包まれていると、心が落ち着いてくるのだ。

 しばらくは、してきていなかったが、何だか、懐かしい——不安な気持ちは消えていくことはないけど、少し、和らいでいくみたいだった。
 たぶん、アカネもまた、不安な気持ちでいたのだろう。
 では、ぼくも少しは彼女の役にたてたのだろうか?
 何だか……もう……。

「あらぁ……大きな、あくびぃ。眠気が戻ってきたのかなぁ」
 アカネが体を離した。
「うん、眠くなってきたかも。姉さんは?」
「あたしは、まだかなぁ。じゃ、ジンくんに子守唄でも唄ってもらうおうかなー」
「子守唄って……」
「ね、久しぶりにいっしょに寝ようよ。うん、そうしよう」

 アカネが、手を繋いできた。
 ぼくの部屋へ行こうとする。
「ちょっと……それは、だめだよ」
「どうしてー。だって、あたしたち、姉弟じゃない。大丈夫だよー。眠くなったら、自分のベッドに戻るからぁ」

 アカネがぎゅっと、手を強く、握ってくる。
 こういう展開になると、ぼくには、彼女を説得する自信がなくなってしまう。

 優秀な姉と、平凡な弟。
 そうして、ぼくたちはずっと、見比べられてきた。
 アカネに並びたい——そう思って、ぼくは今日まで努力してきた。

 でも、結局、どうにもならなかった。
 勉強でも、運動でも、すべての面で、アカネのほうが上をいってしまっている。
 さすが、アカツキのひとり娘ということはある。

 劣等感の塊とならずに済んだのは、アカネの性格もあると思う。
 憎めない——憎むことが出来たら、楽なんだろう、と考えたこともある。
 あぁ、でも、ぼくはアカネの弟ということに、満足もしていた。


次のエピソードへ進む 第15話 朝って本当に大変!


みんなのリアクション

 それから、ぼくは自分に割り当てられた部屋へと引き上げていった。
 夕食は既に終え、あとは寝るだけだった。
 ぼくたちは、三人とも個室が与えられていた。
 しかも、そこそこの広さのある部屋だ。
 アカネは、三人同じ部屋でも——なんて言ってたけど、とんでもない!
 男女が同じ部屋ってのは、マズいでしょ、というのは表向きの理由。
 村では、アカネとほぼ、プライバシーもなく、過ごしていたのだから、この邸宅にいる間だけでも、個室で過ごしてみたい、って思ってしまのはしょうがないと思うんだよね。
 それにしても、来客用に個室があるのって、すごいんだなーって思っちゃう。
 いつか、ぼくもこんな大きい屋敷に住んでみたいな。
 部屋は、大きなクッションのよく効いたベッドに、衣裳棚、テーブルと椅子、ソファや壁画などがあり、これが本当に来客用の部屋なのか、信じられないくらいの立派な内装だった。
 部屋の奥の窓は全面がガラスで、開け閉めできるようになっている。
 その向こうはベランダで、夜空が広がっている。
 ぼくは、ベッドへと近づくと、サイドテーブルの上に置かれている、エーテル・リンケージと懐中時計を見下ろした。
 時計を取り上げてみると、塔のなかとは違い、きちんと時刻を刻んでいた。
 ロカルノ村で生活していた頃はもう、とっくに寝入っている時間だ。
 この部屋には、魔力で光を生み出す、|魔道灯《プライマリア・ライト》が使われているので、今が夜という時間を忘れてしまいそうになる。
 魔道灯は、九曜の塔で発見されるドリフテッド・シングスからもたらされたもので、アリアンフロッドがいなかったら、おそらく、普及することはなかったのだろう。
 懐中時計は、ぼくとアカネにとって、とても大切なものだ。
 なにしろ、アカツキの形見の品なんだから。
 懐中時計は、もとは母親からアカツキへの贈り物だったみたい。
 アカツキは時間にルーズなのは、直らなかったけど、その懐中時計はずっと、大切にしていた。
 まぁ、時間にだらしないところは、アカネにもしっかりと引き継がれているんだけどね。
 本当ならば、この懐中時計は、本当の娘であるアカネが持つべきものなんだと思う。
 でも——アカネは受け取らなかった。
 遺言って言っていいのかわからないけど、アカツキが亡くなる直前、ぼくとアカネを呼び寄せて、言ったのだ。
 ジンライ、おまえにこの懐中時計を託す、と。
 あれは、ぼくがアカツキにはじめて、いつか、成長したらアリアンフロッドになりたい、と告げた時のことだった。
 それまで、ずっと肌身離さずに、身につけていた懐中時計を、父親はあっさりと、ぼくに手渡してきたのだ。
 託す——とは、どういう意味なんだろう?
 今、思い返してみても、わからないや。
 懐中時計は、表面に精巧な意匠が施され、高級なものだった。
 蓋を外すと、長針と短針、秒針が現れる。
 持ち主であるアカツキがいなくなっても、しっかりと時を刻み、今でも正確に時間を指し示している。
 懐中時計なんて、ほとんどの人は持ってはいない。
 村では、正確な時間なんて、測る必要はなかったし、ぼくたちだって、そんなに時計を必要とはしていない。
 ただ、形見として、大切にしているだけだ。
 そのアカツキだが、任務の途中で、命を落とした。
 あっけない——本当に、あっさりとした死だった。
 あれほど、アリアンフロッド随一の強さを誇るアカツキが、ほんのちょっと油断しただけで、死んでしまったのだ。
 それもまた、アリアンフロッドとしての姿、ということなのだろう。
 強力な力を振るえば、その代償もまた、自分に戻ってくる。
 その覚悟はあるのか——それでもなお、アリアンフロッドになりたいのか、と懐中時計を通して告げられているように、ぼくには感じられた。
 ぱちん、と音をたてて、ぼくは懐中時計の蓋を閉ざした。
 身体は疲れ切っているので、今夜はぐっすり眠れそうな気がする。
 窓の向こうで、ひっそりと輝く星々の光を目にしながら、ぼくはカーテンを閉め切り、用意されていた寝間着に着替えた。
 魔道灯を消して、「おやすみ」と呟き、ふかふかのベッドに潜り込んだ。
 寝付きがいいのは、ぼくの自慢のひとつ、だった。
 ベッドで横になって、目を閉ざしたら、そのまま、朝になっていた、ということがほとんどだ。
 だから、目を覚ましても暗いままだった、というのはあまり経験がない。
 闇のなかで、瞬きをする。
 しんと、部屋のなかはもちろん、邸宅全体も静まりかえっている。
 寝返りを打ち、また、手足を伸ばして、ゆっくりと深呼吸をしてみる。
 が、妙に目が冴えてしまっていた。
 この分だと、寝られないかな?
 一応、目を閉ざし、数をかぞえてみる。
 百まで数えてから、ぼくは伸びをした。
 ため息をつくと、ベッドから降りた。
 今は、何時なんだろう?
 サイドテーブルの上の懐中時計を手に取る。
 時計はかっち、かっち、と正確に時を刻んでいる。
 夜中の三時過ぎ、か……。
 まだ、眠ろうとしたら、充分、時間はある。
 目を擦ると、ぼくは窓へと向かった。
 ガラスの戸を引き、ベランダへと出た。
 裸足の下で、ひんやりとした感覚が心地よい。
 足音を忍ばせて、夜気のなかに体をさらした。
 水の月の上旬——。
 春先としては、下着姿でいると、ちょっと肌寒い程度だ。
 少しくらい、風に当たるくらいなら、大丈夫だろう。
 ぼくは、視線を上へと向けた。
 空の中央を、白い帯状のものが、横切っていた。
 リングだ。
 大陸のどこからでも——ロカルノ村でも、そのリングは見ることが出来る。
 ぼくには、ただの空を横切る帯にしか見えないのだけど、偉い学者さんによると、それは大地をぐるりと取り巻いて、地平線の下でも円を描いているらしい。
 夜になると、そのリングからたまに、流れ星が落ちてきたりして、恋人と手を繋いで見ることが出来たら、ずっといっしょにいられる……みたいな伝説もあるらしい。
 アカネとチカは、そのうち、恋人と流れ星を見ることになるのだろうか。
 その時、ぼくはどうしているんだろう?
「こんばんはー、ジンくん。やっぱり、おねーさんがいないと眠れないのかなぁ?」
 アカネに、声をかけられた。
 なんとなく、気配は感じていたので、それほどびっくりはしなかった。
 このベランダは、ぼくとアカネ、チカの部屋と繋がっているので、別に不思議ではない。
「……そっちこそ。姉さんも、たぶん、寝られないんじゃないかなって思ったよ」
「えー、本当かなぁ。ジンくんって、そんなに察しがよかったっけ?」
 アカネの寝間着姿が、月の光に浮かび上がっている。
 なかなかのスタイルなので、ぼくはちょっと、どぎまぎしてしまう。
 見ないようにして、ベランダの柵まで歩いていった。
「こういう時、大人っていいよねー。寝られない時、お酒飲んじゃったりするんでしょ。執事さんに頼んだら、用意してくれるかな」
「それは、ダメでしょ。それに、こんな時間に起こしたら、かわいそうだよ」
 アカネがさらに、近づいてくる。
 背後に立った。
 アカネのほうが、ぼくよりまだまだ、背が高い。
 並んで立つと、ぼくの頭はアカネの胸くらいまでしか達しない。
「ちょ……姉さん」
「いいからー。こうしていると、リラックスできるでしょー」
 背後から、体を密着させてくる。
 当たっているんだけど——。
 その言葉を、ぼくは飲み込んだ。
 腕を伸ばし、柵の上に置いたぼくの掌の上に重ねてくる。
 ずっと前——ぼくがまだ、アカツキの家にやって来たばかりの頃だ。
 精神的に不安定なぼくに、アカネがこうして、背中から抱きつき、手を重ねてきたことを、思い出した。
 体温を感じると、なんだか、ほっとする。
 アカネに包まれていると、心が落ち着いてくるのだ。
 しばらくは、してきていなかったが、何だか、懐かしい——不安な気持ちは消えていくことはないけど、少し、和らいでいくみたいだった。
 たぶん、アカネもまた、不安な気持ちでいたのだろう。
 では、ぼくも少しは彼女の役にたてたのだろうか?
 何だか……もう……。
「あらぁ……大きな、あくびぃ。眠気が戻ってきたのかなぁ」
 アカネが体を離した。
「うん、眠くなってきたかも。姉さんは?」
「あたしは、まだかなぁ。じゃ、ジンくんに子守唄でも唄ってもらうおうかなー」
「子守唄って……」
「ね、久しぶりにいっしょに寝ようよ。うん、そうしよう」
 アカネが、手を繋いできた。
 ぼくの部屋へ行こうとする。
「ちょっと……それは、だめだよ」
「どうしてー。だって、あたしたち、姉弟じゃない。大丈夫だよー。眠くなったら、自分のベッドに戻るからぁ」
 アカネがぎゅっと、手を強く、握ってくる。
 こういう展開になると、ぼくには、彼女を説得する自信がなくなってしまう。
 優秀な姉と、平凡な弟。
 そうして、ぼくたちはずっと、見比べられてきた。
 アカネに並びたい——そう思って、ぼくは今日まで努力してきた。
 でも、結局、どうにもならなかった。
 勉強でも、運動でも、すべての面で、アカネのほうが上をいってしまっている。
 さすが、アカツキのひとり娘ということはある。
 劣等感の塊とならずに済んだのは、アカネの性格もあると思う。
 憎めない——憎むことが出来たら、楽なんだろう、と考えたこともある。
 あぁ、でも、ぼくはアカネの弟ということに、満足もしていた。