表示設定
表示設定
目次 目次




第51話 三々九度

ー/ー



 桐子と悠木は巫女四人に案内されて本殿に入り、拝殿にいる神職たちと向かい合う位置に座った。恵子とサキには、儀式の全体が見渡すことができる、本殿と拝殿の間の渡り廊下に席が用意されていた。

 儀式が始まる前、桐子は派手な羽織をするりと脱いで巫女に渡した。その下は鮮やかな真白な和服だった。悠木は目をみはった。

 それが合図のように太鼓が打ち鳴らされ、雅楽が奏でられた。祝詞(のりと)が奏上され、巫女が舞った。

 横に並んで椅子に座っていた悠木の腕は、しっかりと桐子に握られており、まわりを巫女に囲まれていた。

 お神酒が三つの杯とともに運ばれてきた。驚いている悠木の横で、桐子はさも当然という顔をしている。作法どおりに三々九度の儀が行われた。

 桐子は立ち上がり、そして言った。

「我は、地を統べる神、国生(くにうみ)之大神である。我は、この伊沢悠木の妻であることを宣言する。そしてこの伊沢悠木は、今より黒魚(こくぎょ)之風大神である。よいか、何人なりともわが夫、黒魚之風大神の威厳を傷つける事を許さぬ。みだりに黒魚之風大神に話しかけてはならぬ。顔を見てはならぬ。目を合わせてはならぬ」

「明日は黒魚之風大神の門開(もんびらき)之儀を行う。準備をしておけ」

 太鼓が激しく打ち鳴らされ、本殿に三人の巫女を残して、すべての神職と巫女は境内から姿を消した。恵子とサキも巫女たちに促されて、境内の外に出て行った。

 桐子と悠木は運ばれてきた膳の食物を静かに食べた。巫女たちが膳を片付けた。

「ぼくたち、夫婦になったの?」と悠木。

「そうよ」と桐子。「嫌なの?」

「そんなことないよ。ちょっと驚いたけど」と悠木。

「私のこと、嫌い?」と桐子。

「嫌いじゃない」と悠木。「好きだよ」

「そう。うれしいわ」と桐子はこの日、初めて笑った。

 桐子は悠木を抱き寄せた。「もう離さない。誰にも渡さない。もう二度と辛い思いをさせないわ。体をいたわってあげる。あなたを守ってあげる」

「ありがとう、桐子姉さん」と悠木。


「風呂を用意させたから、入りなさい」と桐子。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第52話 誓い


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 桐子と悠木は巫女四人に案内されて本殿に入り、拝殿にいる神職たちと向かい合う位置に座った。恵子とサキには、儀式の全体が見渡すことができる、本殿と拝殿の間の渡り廊下に席が用意されていた。
 儀式が始まる前、桐子は派手な羽織をするりと脱いで巫女に渡した。その下は鮮やかな真白な和服だった。悠木は目をみはった。
 それが合図のように太鼓が打ち鳴らされ、雅楽が奏でられた。|祝詞《のりと》が奏上され、巫女が舞った。
 横に並んで椅子に座っていた悠木の腕は、しっかりと桐子に握られており、まわりを巫女に囲まれていた。
 お神酒が三つの杯とともに運ばれてきた。驚いている悠木の横で、桐子はさも当然という顔をしている。作法どおりに三々九度の儀が行われた。
 桐子は立ち上がり、そして言った。
「我は、地を統べる神、|国生《くにうみ》之大神である。我は、この伊沢悠木の妻であることを宣言する。そしてこの伊沢悠木は、今より|黒魚《こくぎょ》之風大神である。よいか、何人なりともわが夫、黒魚之風大神の威厳を傷つける事を許さぬ。みだりに黒魚之風大神に話しかけてはならぬ。顔を見てはならぬ。目を合わせてはならぬ」
「明日は黒魚之風大神の|門開《もんびらき》之儀を行う。準備をしておけ」
 太鼓が激しく打ち鳴らされ、本殿に三人の巫女を残して、すべての神職と巫女は境内から姿を消した。恵子とサキも巫女たちに促されて、境内の外に出て行った。
 桐子と悠木は運ばれてきた膳の食物を静かに食べた。巫女たちが膳を片付けた。
「ぼくたち、夫婦になったの?」と悠木。
「そうよ」と桐子。「嫌なの?」
「そんなことないよ。ちょっと驚いたけど」と悠木。
「私のこと、嫌い?」と桐子。
「嫌いじゃない」と悠木。「好きだよ」
「そう。うれしいわ」と桐子はこの日、初めて笑った。
 桐子は悠木を抱き寄せた。「もう離さない。誰にも渡さない。もう二度と辛い思いをさせないわ。体をいたわってあげる。あなたを守ってあげる」
「ありがとう、桐子姉さん」と悠木。
「風呂を用意させたから、入りなさい」と桐子。