退職
ー/ー「それで……あの娘を放っといて、一人で帰って来たわけ?」


いつものアンティーク調の家具で統一された、モダンな事務所。そこのデスクから、先生が俺を詰問する。
「はい……」
獲物を射るような眼光で俺を睨む彼女の問いに、俺は俯きながらそう一言答えるだけで精一杯だった。
バンッ!!
両手をデスクについた勢いで、そのまま立ち上がると先生は更に語調を強めた。
「ハァ……あんた馬鹿なの!?いや、馬鹿だったわね!でも、そこまでとは思わなかったわ!!」
解ってる………
「何があったか知らないけど、どうしてその時お絹ちゃん追いかけなかったの!!?」
◇◇◇
事の発端は、数十分前の話だ。
今日は、昼間からおキヌちゃんと一緒に、簡単な除霊を数件回っていた。
俺も彼女も以前と違って霊能力を身に着けていたから、先生は今後の為に俺達に経験を積ませようとしたんだろう。
除霊は、問題なく終わった。
そして、最後の依頼主に挨拶やら先生に依頼完了の連絡の報告の電話を終え事務所に帰ろうとした時に問題が起こった……
…………まぁ、要は2人で喧嘩になったんだよな。殆ど俺が責められる形だったけど(責められて当然たったんだが)……
実を言うとお絹ちゃんとは、ここのところずっとギクシャクしてた。彼女と話すのが辛くて、ずっと避けていたんだ。
原因は主に俺……いや、100%俺にある。彼女は何も悪くない。
理由は……余りに馬鹿らしいんで、言いたくない。
…………兎も角、そんな経緯があってお絹ちゃんが俺に日頃の不満を爆発させたわけだ。そして、俺はまともに答える事が出来ず、最後に彼女は泣き出して何処かへ走って行ってしまった。
追おうとも思ったが掛ける言葉が見付からず、間抜けにも一人で帰るしか無く現在に至る…………
◇◇◇

「追っても、掛ける言葉がありませんでした………俺じゃ、説得出来なそうなんで、帰ってくるしかなかったんです……」
情けない……いや、あの娘に申し訳ない。
そんな風に思いながらも、俺は自分の不甲斐ない行動を淡々と告げた。告げるしかなかった……次の瞬間、俺は最近御無沙汰(?)になっている先生の強烈な折檻を覚悟した。
だが、意外にも来たのは折檻でなく言葉だった。ただ、今回の場合は、折檻の方が良かったかも知れないが……
「横島クン。私達の仕事は、いつも命懸け。常に死と隣り合わせなのよ!解ってるでしょ?」
言葉より先に手が出るような人が、言葉を使って俺をさとし始めた……それだけ、俺のやった事が重大という事だろうな。
誰かに指摘されなくても解ってる。俺はお絹ちゃんに、取り返しがつかない事をした。
でも、どうする事も出来なかった………
「ええ……」
かろうじて、それだけ絞り出した俺に更に先生は続けた。
「そんな時に仲間で揉めてたら、命なんていくらあっても足りない!つまり、あなたは仲間の命を危機に曝すような真似をしてるのよ!!」
まぁ、そうだろうな……
言われるんじゃないかとも、思ってた………
「そんな人間に、現場で背中を預ける事なんて出来ると思うの?」
…………“命”………か……
…………なんだか、今日はその言葉がやたら重かった。
こんな事を現場でしてたら、俺達は2人共お陀仏だ……馬鹿な俺はいい。当然の報いだ…………でも、彼女は違うよな。
俺だけが悪いのに彼女が俺の巻き添えを食うなんて、マジであり得ない。
馬鹿な俺のせいで…………
何が“あの娘を守りたい”だよ……!!
俺が居たら、彼女は折角生き返った命を早々に散らしちまうじゃねぇか……身の程も弁えないで、出来もしない事を本気で考えてた自分を殺してやりたい。
そんな俺を見て、先生も何かを察したように口を開く……だが俺は…………
「解ったみたいね。解ったら、今直ぐあの娘を__」
「解りました……出ていきます」
俺は、そうに言い切った……

「……え!?……な…………!」
そして、そのまま先生の言葉を最後まで聞かずに続ける。
「今まで、大変ご迷惑お掛けしました」
いつもの俺では、あり得ないくらい深々とお辞儀(無様な土下座は腐る程あるが……)すると、そのまま振り返らず事務所を後にした。
ドアを一礼して閉める時に先生が何か言っていた気がしたが、それに答えずそのまま歩き出す。
玄関を出る時に、人工幽霊一号が話しかけてきた。
“よろしいのですか?横島様”
「ああ。今まで世話になったな……」
短く一言だけ告げると、建物を後にする。
思えば、こいつだけがある意味で味方だった気がするな……
もう、ここに来る事もないだろう……今まであり得ないくらい色々な事があったけど、終わる時は本当に呆気ないもんだな。
…………まぁ、それもある意味俺らしいけど。
玄関でおキヌちゃんに出くわさないかとハラハラしてたんだが幸い(?)にもあの娘は来まだ帰って来ていなかった……
どの面下げても、もう会えないよな……
どこまで行ったんだよ?
女の子が、夜一人で出歩いてちゃ危険だぞ……
自分が原因の癖に、勝手な事を考えながら俺は帰路に付いた。
俺の中にあるのは、虚しさだけ。部屋まで動かす脚がとても重かい。
でも、これでいいとも思ってる……
馬鹿な俺が足を引っ張って彼女を死なすより、俺だけとっとと消えた方が遥かにマシだ。
そう自分に言い聞かせた。言い聞かせるしかなかった………
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「それで……あの娘を放っといて、一人で帰って来たわけ?」
いつものアンティーク調の家具で統一された、モダンな事務所。そこのデスクから、先生が俺を詰問する。
「はい……」
獲物を射るような眼光で俺を睨む彼女の問いに、俺は俯きながらそう一言答えるだけで精一杯だった。
バンッ!!
両手をデスクについた勢いで、そのまま立ち上がると先生は更に語調を強めた。
「ハァ……あんた馬鹿なの!?いや、馬鹿だったわね!でも、そこまでとは思わなかったわ!!」
解ってる………
「何があったか知らないけど、どうしてその時お絹ちゃん追いかけなかったの!!?」
◇◇◇
事の発端は、数十分前の話だ。
今日は、昼間からおキヌちゃんと一緒に、簡単な除霊を数件回っていた。
俺も彼女も以前と違って霊能力を身に着けていたから、先生は今後の為に俺達に経験を積ませようとしたんだろう。
除霊は、問題なく終わった。
そして、最後の依頼主に挨拶やら先生に依頼完了の連絡の報告の電話を終え事務所に帰ろうとした時に問題が起こった……
…………まぁ、要は2人で喧嘩になったんだよな。殆ど俺が責められる形だったけど(責められて当然たったんだが)……
実を言うとお絹ちゃんとは、ここのところずっとギクシャクしてた。彼女と話すのが辛くて、ずっと避けていたんだ。
原因は主に俺……いや、100%俺にある。彼女は何も悪くない。
理由は……余りに馬鹿らしいんで、言いたくない。
…………兎も角、そんな経緯があってお絹ちゃんが俺に日頃の不満を爆発させたわけだ。そして、俺はまともに答える事が出来ず、最後に彼女は泣き出して何処かへ走って行ってしまった。
追おうとも思ったが掛ける言葉が見付からず、間抜けにも一人で帰るしか無く現在に至る…………
◇◇◇
「追っても、掛ける言葉がありませんでした………俺じゃ、説得出来なそうなんで、帰ってくるしかなかったんです……」
情けない……いや、あの娘に申し訳ない。
そんな風に思いながらも、俺は自分の不甲斐ない行動を淡々と告げた。告げるしかなかった……次の瞬間、俺は最近御無沙汰(?)になっている先生の強烈な折檻を覚悟した。
だが、意外にも来たのは折檻でなく言葉だった。ただ、今回の場合は、折檻の方が良かったかも知れないが……
「横島クン。私達の仕事は、いつも命懸け。常に死と隣り合わせなのよ!解ってるでしょ?」
言葉より先に手が出るような人が、言葉を使って俺をさとし始めた……それだけ、俺のやった事が重大という事だろうな。
誰かに指摘されなくても解ってる。俺はお絹ちゃんに、取り返しがつかない事をした。
でも、どうする事も出来なかった………
「ええ……」
かろうじて、それだけ絞り出した俺に更に先生は続けた。
「そんな時に仲間で揉めてたら、命なんていくらあっても足りない!つまり、あなたは仲間の命を危機に曝すような真似をしてるのよ!!」
まぁ、そうだろうな……
言われるんじゃないかとも、思ってた………
「そんな人間に、現場で背中を預ける事なんて出来ると思うの?」
…………“命”………か……
…………なんだか、今日はその言葉がやたら重かった。
こんな事を現場でしてたら、俺達は2人共お陀仏だ……馬鹿な俺はいい。当然の報いだ…………でも、彼女は違うよな。
俺だけが悪いのに彼女が俺の巻き添えを食うなんて、マジであり得ない。
馬鹿な俺のせいで…………
何が“あの娘を守りたい”だよ……!!
俺が居たら、彼女は折角生き返った命を早々に散らしちまうじゃねぇか……身の程も弁えないで、出来もしない事を本気で考えてた自分を殺してやりたい。
そんな俺を見て、先生も何かを察したように口を開く……だが俺は…………
「解ったみたいね。解ったら、今直ぐあの娘を__」
「解りました……出ていきます」
俺は、そうに言い切った……
「……え!?……な…………!」
そして、そのまま先生の言葉を最後まで聞かずに続ける。
「今まで、大変ご迷惑お掛けしました」
いつもの俺では、あり得ないくらい深々とお辞儀(無様な土下座は腐る程あるが……)すると、そのまま振り返らず事務所を後にした。
ドアを一礼して閉める時に先生が何か言っていた気がしたが、それに答えずそのまま歩き出す。
玄関を出る時に、人工幽霊一号が話しかけてきた。
“よろしいのですか?横島様”
「ああ。今まで世話になったな……」
短く一言だけ告げると、建物を後にする。
思えば、こいつだけがある意味で味方だった気がするな……
もう、ここに来る事もないだろう……今まであり得ないくらい色々な事があったけど、終わる時は本当に呆気ないもんだな。
…………まぁ、それもある意味俺らしいけど。
玄関でおキヌちゃんに出くわさないかとハラハラしてたんだが幸い(?)にもあの娘は来まだ帰って来ていなかった……
どの面下げても、もう会えないよな……
どこまで行ったんだよ?
女の子が、夜一人で出歩いてちゃ危険だぞ……
自分が原因の癖に、勝手な事を考えながら俺は帰路に付いた。
俺の中にあるのは、虚しさだけ。部屋まで動かす脚がとても重かい。
でも、これでいいとも思ってる……
馬鹿な俺が足を引っ張って彼女を死なすより、俺だけとっとと消えた方が遥かにマシだ。
そう自分に言い聞かせた。言い聞かせるしかなかった………