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オルゴール
止めたはずなのに夜更けまで
棚の奥から 過去が鳴る音
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オルゴールは、もう止めたはずだった。
夕方、棚の奥に戻し、扉も閉めた。
その音が夜更けまで続く理由はない。
それでも、日付が変わるころ、部屋の奥で微かな震えが生まれた。風でも家鳴りでもない、覚えのある旋律。棚の奥から、オルゴールの音が滲み出してくる。
子どものころ、眠れぬ夜にだけ鳴らしていた曲だった。布団の中で息を殺し、音が終わるまで目を閉じていた。あの時間が何を守ってくれていたのか、今ではもう思い出せない。
棚を開ける。箱は閉じたまま、ぜんまいも動いていない。それでも旋律は、記憶の隙間をなぞるように続いた。言わなかった言葉、置き去りにした約束、戻れない場所。
音は次第に細くなり、夜に吸い込まれていった。完全に消える直前、澄んだ一音が残る。オルゴールが鳴り止むときにだけ生まれる、透きとおった綺麗な音。
私はその音を聞き逃さないよう、息を止めていた。続きがある気がして、けれどもう何も起こらないと知りながら。
箱を閉じ、灯りを消す。過去は戻らない。ただ、あの一音だけが、まだ終わっていないふりをする。夜更けの棚の奥で、触れられないまま、静かに。
*日記風雑感*
オルゴール。手風琴。
今はあまり見かけることもなくなりましたが、手のひらにのるほどの小さなオルゴールが、昔は色々なお店で売られていたように思います。ぜんまいで巻いて、ささやかな旋律を楽しむ。
ただそれだけの楽しみ方だったのに、なぜか忘れられない音でもあるんですよね。
手巻きで繰り返された旋律が次第にゆっくりになっていき、やがて静かに音を止める。その最後の響きが、妙に美しく感じたのは気のせいでしょうか……
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螺子を巻く 指のぬくもり残しつつ
オルゴール眠る 記憶の底に
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