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第13話 ギンゲツの目的

ー/ー



 廊下の突き当たりにある、大きな扉をジルさんが開けた。
「どうぞ」
 ぼくたちは、扉の間を抜けて、部屋へと入っていった。

 そこは、大きいだけの、質素な部屋だった。
 中央にテーブル、それを囲むようにしてソファがあり、窓はドアの反対側にひとつだけ。
 部屋のなかには、先客がふたり、いた。
 ひとりは、学園長のリゼルだ。
 窓のすぐ側に立っていて、ぼくたちを振り返る。

「無事、帰還したようだな。さすが、アカツキの子供たち、といったところか」
 リゼルはがっしりとした体格の、まぁ、いってみれば、おっさんだった。

 アカツキとも旧知の仲だったようで、学園に来る前はぼくたちも直接、顔を合わせたことはないのだけど、父親の口から何度か、リゼルの名前は聞いたことはある。
 以前はアリアンフロッドだったらしいが、今は引退して、学園長をしているらしい。
 黒革のジャケットにぴっちりとしたパンツという姿で、近寄りがたい雰囲気を匂わせている。

 そして、もうひとりの先客は、ひとりがけのソファにどっしりと腰を落ち着けていた。
 人——ではない。

 このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
 そのひとつが、機械人——機構軍(マシーナリィ・フォース)とひとくくりに呼ばれる存在だ。
 もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。

 機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
 濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
 目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。

 機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
 機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。

 ジルさんに促されて、ぼくたちは、ソファに並んで座った。
 テーブルを挟んだ向かい側にはリゼルとジルさん、左手は機械人という並びになる。
 ジルさんは、メモとペン、それにエーテル・リンケージを準備していた。

「まずは、自己紹介を。ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
 握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。

「今回の件について、重大な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、小隊(ランス)千秋の轍(デイ・バイ・デイ)』の隊員たちは全員、確保してオります」
 ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。

「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
 ——なんだか、大きなことになっているみたいだ。

「おまえさんたちを罠にかけた後、ギンゲツたちはアリアンフロッド機関が捕らえた。既に疑惑はかなり広がっていたようだからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、主犯のギンゲツは無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」

「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」

「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」

「具体的な話に入る前に……ジンライ、アカネ、チカ。すまなかった」
 リゼルとジルさんが、頭を下げた。
「え……ど、どうしたんですか」

「アナタたちをダシに使ったから、ですわネ。疑惑のある千秋の轍が、アナタたちを本当に死の罠へ導くのカ。計画では、”初心者殺しの小迷宮”に送り込まれた瞬間を証拠として確定した後、救出する予定でシタ。気づきませんデシたか? アナタたちはずっと、尾行されてオリました。ですガ、罠を解除して、小迷宮に入った時は既に、アナタがたは転送された後だった、というコトですわ」

 ぼくはアカネ、チカと顔を合わせた。
 “初心者殺しの小迷宮”の転送陣に飛び込んだ瞬間は、どうだっただろう。
 あと少し——待っていれば、ふたりをこんな危険な目に合わせずに済んでいたのかもしれない。

「……それだと、わしとの試練もなかったことになるぞね」
 どこからか、少しハスキーな声が聞こえてきた。
 部屋のなかは、扉も窓も閉め切っているはずなのに、風が吹いた。
 つむじが巻き、そのなかから、グリューンが現われた。

 試練の間にいた時と、同じ姿だ。
 マントを左肩にだけ羽織り、胸当てと右腕、両脚の膝にだけ、金属の鎧を身に帯びているが、それ以外の部分は、腰までかかる、ロングの髪と同じ、草色の布に覆われている。

「グ……グリューン?」
 リゼルがソファから立ち上がろうとして、テーブルに脚をぶつけてしまったようだ。
 派手な音がして、リゼルがくぐもった声をあげる。

「なんぞ、騒がしいぞえのぉ。こちらの世界へ来たのは久しぶりのことじゃが、はじめてがこ~んな殺風景な部屋では、気も削がれるの」
 アカネとチカは、グリューンを見るのははじめてのことだろうに、意外と落ち着いていた。
 試練の間では、ぼくとグリューンの戦いは夢のなかで投影されていたので、その時のことを思い出しているのかもしれない。

「グリューン……クロノスの使徒のひとり、と登録されておりますわネ。実体アリ。魔術その他、幻影の可能性はナシ。背の高さ、体重、その他の生体データはすべて一致。本人と確認できますワね」
 ミラージュさんが冷静に分析した。

「どうしてグリューンが、ここにいる? 数年の間、消息不明だったはずだ」
「わしがここにおるのは、そのジンライに天賦を授けたからぞよのぉ。……っておまえ、リゼルではないか。う~ん、随分と老けたの。若い頃はもっと、イケメン? じゃったか……いや、そんなに変わらないか。前髪が後退しただけで」
「誰が、ハゲだ! おい、ジル。おまえ、余計なこと、メモしてんじゃねぇぞ」
 ジルさんが、テーブルからメモを取られて、なんとも残念そうな表情を浮かべた。

 それから、ぼくは”初心者殺しの小迷宮”から転送させられた後のことを、リゼルとミラージュさん、ジルさんに話して聞かせた。
「そうか。しかし——どうして、グリューン。今頃、使徒として戻ってきた? 気まぐれ……ってことではないんだろう」
「んなわけあるか! 塔のシステムも様変わりしておる。ほれ、おまえさんも感じておるじゃろう。大災禍の夜あたりから、奈落よりのものの攻勢も活性化しつつある。ようやく、使徒が直接介入することが可能になった、ということぞよ」

 横で、アカネに小突かれたが、グリューンが言った内容はぼくにも、わからなかった。


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次のエピソードへ進む 第14話 ミラージュさんの挑発


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 廊下の突き当たりにある、大きな扉をジルさんが開けた。
「どうぞ」
 ぼくたちは、扉の間を抜けて、部屋へと入っていった。
 そこは、大きいだけの、質素な部屋だった。
 中央にテーブル、それを囲むようにしてソファがあり、窓はドアの反対側にひとつだけ。
 部屋のなかには、先客がふたり、いた。
 ひとりは、学園長のリゼルだ。
 窓のすぐ側に立っていて、ぼくたちを振り返る。
「無事、帰還したようだな。さすが、アカツキの子供たち、といったところか」
 リゼルはがっしりとした体格の、まぁ、いってみれば、おっさんだった。
 アカツキとも旧知の仲だったようで、学園に来る前はぼくたちも直接、顔を合わせたことはないのだけど、父親の口から何度か、リゼルの名前は聞いたことはある。
 以前はアリアンフロッドだったらしいが、今は引退して、学園長をしているらしい。
 黒革のジャケットにぴっちりとしたパンツという姿で、近寄りがたい雰囲気を匂わせている。
 そして、もうひとりの先客は、ひとりがけのソファにどっしりと腰を落ち着けていた。
 人——ではない。
 このメディシアン世界には、獣人もいるが、それ以外にも様々な異種族が存在している。
 そのひとつが、機械人——|機構軍《マシーナリィ・フォース》とひとくくりに呼ばれる存在だ。
 もとは、戦闘機械として大陸に君臨していたようなのだけど、今は戦闘を終了しており、大部分はおとなしく、平和的な活動をしている。
 機械人は、金属の体のままで過ごしているのも多いが、目の前の機械人はきちんとした服を着こなしていた。
 濃紺をベースにしたスーツに、ワイシャツ、太腿の半ばまでのダークレッドのスカートを穿き、機械の体が覗いているのは、脚と指先、それに顔と髪だけだ。
 目のところには、横長の一本のスリットが入っていて、その間を青い光点が左から右、そして右から左へと移動していた。
 機械なのに髪——と呼んでいいのかは疑問が残るところだが、頭部から背中へと、二本の板状のものが伸びている。
 機械の身体は全身、銀色なのに、テールの部分だけ、黒く塗装されているので、やはり、髪と思わせたいのかもしれない。
 ジルさんに促されて、ぼくたちは、ソファに並んで座った。
 テーブルを挟んだ向かい側にはリゼルとジルさん、左手は機械人という並びになる。
 ジルさんは、メモとペン、それにエーテル・リンケージを準備していた。
「まずは、自己紹介を。ワタクシのユニーク名は、ミラージュです。アリアンフロッド機関の上位組織である評議会から要請を受けて、派遣されてキました。コレが最初で最後の接触となると思いますガ、よろしくデス」
 握手でもしてくるのかな、と思ったが、ミラージュさんはそのままだった。
「今回の件について、重大な規律違反があったト、ワタクシをはじめ、評議員の方タチは憂慮してオリます。既に、|小隊《ランス》『|千秋の轍《デイ・バイ・デイ》』の隊員たちは全員、確保してオります」
 ミラージュさんが、脚を組み替えながら、そう言った。
「え——確保?」
「地下の拘留場所にいる。あとで面会させてやるよ」
 ——なんだか、大きなことになっているみたいだ。
「おまえさんたちを罠にかけた後、ギンゲツたちはアリアンフロッド機関が捕らえた。既に疑惑はかなり広がっていたようだからな」
「任務の達成度は63%程度デスが、主犯のギンゲツは無事、捕縛には成功しましたワね。こちらにも、ある程度、損害は出マシたけど」
「……ギンゲツたちは、どうしてあんなことをしたのでしょうか」
「賭博——デスわね。裏社会で、賭けが行われテイたのですわ。その対象は、アナタがたの生死」
「生死……?」
「”初心者殺しの小迷宮”へと送り込まレて、果たして生きテ学園まで帰還することが出来るノカ。アナタたち以外にも、あの罠にかけられて、亡くなっている方タチも、いるようデス。この犯罪行為に関わっていた小隊は、千秋の轍だけでナク、複数の小隊が関わっていたようデスわね。現在、組織的犯罪として、追跡をしてオリます」
「賭けって……そんなことのために、ぼくたちは殺されかけたってこと、ですか」
「具体的な話に入る前に……ジンライ、アカネ、チカ。すまなかった」
 リゼルとジルさんが、頭を下げた。
「え……ど、どうしたんですか」
「アナタたちをダシに使ったから、ですわネ。疑惑のある千秋の轍が、アナタたちを本当に死の罠へ導くのカ。計画では、”初心者殺しの小迷宮”に送り込まれた瞬間を証拠として確定した後、救出する予定でシタ。気づきませんデシたか? アナタたちはずっと、尾行されてオリました。ですガ、罠を解除して、小迷宮に入った時は既に、アナタがたは転送された後だった、というコトですわ」
 ぼくはアカネ、チカと顔を合わせた。
 “初心者殺しの小迷宮”の転送陣に飛び込んだ瞬間は、どうだっただろう。
 あと少し——待っていれば、ふたりをこんな危険な目に合わせずに済んでいたのかもしれない。
「……それだと、わしとの試練もなかったことになるぞね」
 どこからか、少しハスキーな声が聞こえてきた。
 部屋のなかは、扉も窓も閉め切っているはずなのに、風が吹いた。
 つむじが巻き、そのなかから、グリューンが現われた。
 試練の間にいた時と、同じ姿だ。
 マントを左肩にだけ羽織り、胸当てと右腕、両脚の膝にだけ、金属の鎧を身に帯びているが、それ以外の部分は、腰までかかる、ロングの髪と同じ、草色の布に覆われている。
「グ……グリューン?」
 リゼルがソファから立ち上がろうとして、テーブルに脚をぶつけてしまったようだ。
 派手な音がして、リゼルがくぐもった声をあげる。
「なんぞ、騒がしいぞえのぉ。こちらの世界へ来たのは久しぶりのことじゃが、はじめてがこ~んな殺風景な部屋では、気も削がれるの」
 アカネとチカは、グリューンを見るのははじめてのことだろうに、意外と落ち着いていた。
 試練の間では、ぼくとグリューンの戦いは夢のなかで投影されていたので、その時のことを思い出しているのかもしれない。
「グリューン……クロノスの使徒のひとり、と登録されておりますわネ。実体アリ。魔術その他、幻影の可能性はナシ。背の高さ、体重、その他の生体データはすべて一致。本人と確認できますワね」
 ミラージュさんが冷静に分析した。
「どうしてグリューンが、ここにいる? 数年の間、消息不明だったはずだ」
「わしがここにおるのは、そのジンライに天賦を授けたからぞよのぉ。……っておまえ、リゼルではないか。う~ん、随分と老けたの。若い頃はもっと、イケメン? じゃったか……いや、そんなに変わらないか。前髪が後退しただけで」
「誰が、ハゲだ! おい、ジル。おまえ、余計なこと、メモしてんじゃねぇぞ」
 ジルさんが、テーブルからメモを取られて、なんとも残念そうな表情を浮かべた。
 それから、ぼくは”初心者殺しの小迷宮”から転送させられた後のことを、リゼルとミラージュさん、ジルさんに話して聞かせた。
「そうか。しかし——どうして、グリューン。今頃、使徒として戻ってきた? 気まぐれ……ってことではないんだろう」
「んなわけあるか! 塔のシステムも様変わりしておる。ほれ、おまえさんも感じておるじゃろう。大災禍の夜あたりから、奈落よりのものの攻勢も活性化しつつある。ようやく、使徒が直接介入することが可能になった、ということぞよ」
 横で、アカネに小突かれたが、グリューンが言った内容はぼくにも、わからなかった。