俺は思ったことをあまり言わない性格だった。
言えない性格だった。
だからか、気が強いやつに言いたい放題言われていた。
それでも言い返したりはしなかった。
思ったことはノートに書き綴っていた。
そして、いつの間にか日記を書くようになっていた。
日記がノートを埋め尽くすと新しいノートを買って、また毎日書いていく。
そして、だんだんとノートが増えていった。
ある日それを見返してみた。
そこには、忘れていた記憶が綴られていた。
まるで俺の物語だ。
そんないい物語なんかじゃない。
ただ、書いてみたくなった。
物語を。
俺みたいな主人公が俺みたいな生活をして、嫌なやつに理不尽に嫌がらせをうけて──
そして、物語の俺の分身は、俺の言いたかったことを悪者に言った。
そうしたら、悪者は怯えて逃げていった。
そんなくだらない物語。
でも俺はそれだけですっきりした。
心の中は自由だ。
俺はその後もまた物語を書いた。
仲良かったやつが転校した、好きだった子に彼氏がいた、卒業の時に担任が泣きながら言った言葉。
色んな事が俺の物語の種になった。
本格的にちゃんと小説を書こうと思ったのは大学生になった時だ。
三年になって、就職を考えなくてはならない時期。
試してみたかった。
俺の綴ったストーリーが誰かに届くのかーー
俺は、前に書いた恋愛小説をもう一度書き直した。
そしてコンテストに応募した。
……想像はしていたが、何も受賞はしなかった。
そのまま諦めて、就活を始めていた。
就活は順調にいって、大手の企業に内定した。
そんな時、自分の携帯に電話がかかってきた。
見たことがない電話番号。
出てみたら、応募したコンテストを主催した出版社からだった。
「これからも小説を書くなら、是非見せてほしい」
嬉しかった。
小説家としてデビューしたわけではない。
ただ、俺の作品は人に届いた。響いた。
俺は、仕事をしながらもまた書いてみた。
担当は俺が書く恋愛小説をいたく気に入った。
そして、俺は恋愛小説を書くようになった。
俺は、とうとうコンテストで受賞した。
プラトニックな純愛小説で。
俺はそこで小説家一本でいくか悩んだ。
でも、仕事も楽しかったしやりがいもあった。
俺は、仕事をしながら小説を書く道を選んだ。
それはかなり心身共に疲弊する生活にさせた。
でも、小説を書かなくなった自分、今の仕事をしなくなった自分、どちらかを選ぶことなんかできなかった。
しかも、小説だけで生きていける保証もない。
サラリーマンの方が安定している。
二足の草鞋を履いて歩く険しい道。
ーーだから、俺は仕事をこなしながら、小説家になろうとするお前をずっと応援しているよ。
きっとなれると思っているから。
もしその日がきたら、ちゃんと一緒になろうと決めているから。
──fin