表示設定
表示設定
目次 目次




第31話 迷路

ー/ー



 ◆ ◆ ◆

 美鈴の部屋を出た後、マンションから出て夜道を歩いていた。
 自分の中の情けない感情に耐えられなくなった。

 三浦への嫉妬、そして美鈴の才能への嫉妬。
 美鈴が俺の手の届かない場所に行く不安。

 俺から言い出して、美鈴は官能小説を書くようになった。
 元は美鈴はプラトニックな純愛小説が好きだった。
 でも、毎度適当な設定を与えて、美鈴はそれを完成度の高いストーリーで仕上げてくる。

 今回出した愛憎劇の設定は、美鈴が書けるかどうか試すためだった。
 無理だと言っていたのに、美鈴は書いた。
 それは俺にとって、記憶に残るレベルのストーリーだった。

 三浦は既に世間から才能を認められていて、これからどんどんいい作品を出していくだろう。

 美鈴と三浦が一緒にいる事は、俺にとって脅威でしかない。
 それに耐えられなくて、共作を断った。
 美鈴とこれからどう向き合えばいいかわからない。

 ただの恋人ではない。
 小説を書く者同士だ。
 どちらかでは成立しない。

 ずっと答えのない迷路の中を彷徨いながら、闇夜に紛れた。

 ◇ ◇ ◇

 橘さんから共同制作を断られてから数日が経ち、会うこともなければ音沙汰もない。
『俺の問題』ってなんなんたろう。
 どうすればまた元の関係に戻れるんだろう。

 仕事が終わってエレベーターホールに立っていると、

「神谷ちゃんお疲れ様〜」

 先輩が来た。

「お疲様です!」

 先輩から前話を聞いて、それを元にコンテストの作品を考えて、それから先輩の恋愛についてずっと気になっていた。
 でも自分から聞けない……聞きづらい。

「神谷ちゃん彼氏とはどう?」
「えっと…ちょっと色々ありまして……」
「そうかぁ。気になるなー。飲みに行くか〜」
「え………」

 そのまま居酒屋に連行された。

「今度は私が聞く番だったよね〜」

 先輩はニコニコしている。

「あの人を怒らせてしまって、困ってたんです。それだけなんです」
「その人ってどんな人なの?」

 先輩は別の部署だから橘さんを知らない。

「仕事ができて、社交的で、凄い人ですよ」
「惚気じゃん……」

 先輩は残念そうにしている。
 橘さんが小説家である事、私が小説を書いている事、それは誰にも言えない。
 だから、相談したくてもできない。

「そんな完璧な人を怒らせちゃったのかぁ。神谷ちゃんは悪い子だなぁ〜。」
「はい……悪い子なんです」

 三浦さんと今まで色々あったのに、また会いに行って、愛想尽かされてしまったのかもしれない。

「謝ってもだめなの?」
「謝ったけど、俺の問題だって言われて……」

 飲んでたお酒が頭に回ってきて、つい話しそうになってしまう。

「じゃあどうしようもないよね」
「はい……」

 私はこれからどうしよう。

 コンテストの結果が出るのは3ヶ月先。
 それまでただ待ってるも時間が惜しい。
 待っている間にもまた別に書いて、別のコンテストにも応募しようかな……。

 でも、橘さんから共同制作を断られてしまった。
 それなら自分で1から書くしかない……。
 何を書けばいいんだろう。

 やっと目標に辿り着いたのに、見えない迷路の前に立たされた気分だ。

「あ、神谷ちゃん、私男と別れたよ。」
「え!!」

 既婚者の人と、とうとう……

「どうしてですか……?」

 まさか奥さんにバレたの??

「別れようと思って、連絡先ブロックして消したの。職場もなるべく接点を減らした。そしたらそのままって感じかな」
「呼び出されたりしなかったんですか?」
「されなかった。もしかしたら、向こうも別れたかったのかもしれない」

 なんて虚しい終わり方なんだろう。
 私が書いた物語とは大違いだ。
 現実はこんなにあっけないものなのか……。

 その後、先輩とフラフラ居酒屋から出て駅まで歩いた。

「神谷ちゃん、早く仲直りできるといいね!二人はちゃんとした恋人なんだから、幸せになってほしい」
「はい……幸せになりたいです」

 改札を抜けた後、先輩と別れた。

「またね!」

 先輩は明るい笑顔で手を振ってくれた。
 本当の事は言えなかったけど、今日声をかけてもらえて救われた。
 先輩も、次は幸せな恋愛をして欲しい。

 電車に揺られている間、外の夜景を眺めていた。
 駅に近づくと、マンションが見える。
 最上階の橘さんの部屋を見た。
 電気がついている。

 今何をしているのかな……。
 会いたいな。
 でも会ったところで、迷惑なだけだ。

 私は駅に着いた後、マンションの自分の部屋に帰った。
 こんなに近くにいるのに、心は凄く遠くに感じる。
 酔いはとっくに覚めている。

 私はすぐにお風呂に入って、パソコンに向かった。
 ただ待ってても仕方がない。
 小説を書くと決めて動きだしたんだ。
 なら書いていこう。
 一人でも。

 ──でも、何も浮かばない。
 なんのストーリーも頭に出てこない。

 私が橘さんからもらってたのは設定だけだ。
 そんな難しい事じゃない。
 なのに、そんな事すらできない。

 手が動かない、画面も私の頭も真っ白。

 その時私はわかってしまった。

 橘さんなしでは書けないんだと──



次のエピソードへ進む 第32話 矛盾


みんなのリアクション

 ◆ ◆ ◆
 美鈴の部屋を出た後、マンションから出て夜道を歩いていた。
 自分の中の情けない感情に耐えられなくなった。
 三浦への嫉妬、そして美鈴の才能への嫉妬。
 美鈴が俺の手の届かない場所に行く不安。
 俺から言い出して、美鈴は官能小説を書くようになった。
 元は美鈴はプラトニックな純愛小説が好きだった。
 でも、毎度適当な設定を与えて、美鈴はそれを完成度の高いストーリーで仕上げてくる。
 今回出した愛憎劇の設定は、美鈴が書けるかどうか試すためだった。
 無理だと言っていたのに、美鈴は書いた。
 それは俺にとって、記憶に残るレベルのストーリーだった。
 三浦は既に世間から才能を認められていて、これからどんどんいい作品を出していくだろう。
 美鈴と三浦が一緒にいる事は、俺にとって脅威でしかない。
 それに耐えられなくて、共作を断った。
 美鈴とこれからどう向き合えばいいかわからない。
 ただの恋人ではない。
 小説を書く者同士だ。
 どちらかでは成立しない。
 ずっと答えのない迷路の中を彷徨いながら、闇夜に紛れた。
 ◇ ◇ ◇
 橘さんから共同制作を断られてから数日が経ち、会うこともなければ音沙汰もない。
『俺の問題』ってなんなんたろう。
 どうすればまた元の関係に戻れるんだろう。
 仕事が終わってエレベーターホールに立っていると、
「神谷ちゃんお疲れ様〜」
 先輩が来た。
「お疲様です!」
 先輩から前話を聞いて、それを元にコンテストの作品を考えて、それから先輩の恋愛についてずっと気になっていた。
 でも自分から聞けない……聞きづらい。
「神谷ちゃん彼氏とはどう?」
「えっと…ちょっと色々ありまして……」
「そうかぁ。気になるなー。飲みに行くか〜」
「え………」
 そのまま居酒屋に連行された。
「今度は私が聞く番だったよね〜」
 先輩はニコニコしている。
「あの人を怒らせてしまって、困ってたんです。それだけなんです」
「その人ってどんな人なの?」
 先輩は別の部署だから橘さんを知らない。
「仕事ができて、社交的で、凄い人ですよ」
「惚気じゃん……」
 先輩は残念そうにしている。
 橘さんが小説家である事、私が小説を書いている事、それは誰にも言えない。
 だから、相談したくてもできない。
「そんな完璧な人を怒らせちゃったのかぁ。神谷ちゃんは悪い子だなぁ〜。」
「はい……悪い子なんです」
 三浦さんと今まで色々あったのに、また会いに行って、愛想尽かされてしまったのかもしれない。
「謝ってもだめなの?」
「謝ったけど、俺の問題だって言われて……」
 飲んでたお酒が頭に回ってきて、つい話しそうになってしまう。
「じゃあどうしようもないよね」
「はい……」
 私はこれからどうしよう。
 コンテストの結果が出るのは3ヶ月先。
 それまでただ待ってるも時間が惜しい。
 待っている間にもまた別に書いて、別のコンテストにも応募しようかな……。
 でも、橘さんから共同制作を断られてしまった。
 それなら自分で1から書くしかない……。
 何を書けばいいんだろう。
 やっと目標に辿り着いたのに、見えない迷路の前に立たされた気分だ。
「あ、神谷ちゃん、私男と別れたよ。」
「え!!」
 既婚者の人と、とうとう……
「どうしてですか……?」
 まさか奥さんにバレたの??
「別れようと思って、連絡先ブロックして消したの。職場もなるべく接点を減らした。そしたらそのままって感じかな」
「呼び出されたりしなかったんですか?」
「されなかった。もしかしたら、向こうも別れたかったのかもしれない」
 なんて虚しい終わり方なんだろう。
 私が書いた物語とは大違いだ。
 現実はこんなにあっけないものなのか……。
 その後、先輩とフラフラ居酒屋から出て駅まで歩いた。
「神谷ちゃん、早く仲直りできるといいね!二人はちゃんとした恋人なんだから、幸せになってほしい」
「はい……幸せになりたいです」
 改札を抜けた後、先輩と別れた。
「またね!」
 先輩は明るい笑顔で手を振ってくれた。
 本当の事は言えなかったけど、今日声をかけてもらえて救われた。
 先輩も、次は幸せな恋愛をして欲しい。
 電車に揺られている間、外の夜景を眺めていた。
 駅に近づくと、マンションが見える。
 最上階の橘さんの部屋を見た。
 電気がついている。
 今何をしているのかな……。
 会いたいな。
 でも会ったところで、迷惑なだけだ。
 私は駅に着いた後、マンションの自分の部屋に帰った。
 こんなに近くにいるのに、心は凄く遠くに感じる。
 酔いはとっくに覚めている。
 私はすぐにお風呂に入って、パソコンに向かった。
 ただ待ってても仕方がない。
 小説を書くと決めて動きだしたんだ。
 なら書いていこう。
 一人でも。
 ──でも、何も浮かばない。
 なんのストーリーも頭に出てこない。
 私が橘さんからもらってたのは設定だけだ。
 そんな難しい事じゃない。
 なのに、そんな事すらできない。
 手が動かない、画面も私の頭も真っ白。
 その時私はわかってしまった。
 橘さんなしでは書けないんだと──