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第14話 無茶振り

ー/ー



 毎日仕事の合間を縫って、翠川雅人から渡される本のレビューを書く課題は続いていた。

 書いたらそのレビューを印刷して本人に持っていく。

「前よりかはマシになってきたな」

 よかった!

「ありがとうございます!」

 前に進めてる気がする。

 橘さんは本棚から何冊か本をまた持ってきて渡してきた。

「こ、これは……」

 全部、官能小説だった。

「先に言うが、これは"そういうシーン"も含めて、この物語の結末に何があるか、人間の欲望と向き合うストーリーを勉強の一環で読んで欲しい」

 ページをパラパラ見ると、濃厚なシーンの部分ばかり目が入ってしまう。

「私はプラトニックなラブストーリーが好きなんですが……」
「それはお前の好みだが、知識を養う上で損はない。むしろ得るものもある」

 翠川雅人は真剣だ。

「プラトニックとは対局する、欲望の渦を理解するからこそ、お前の思うプラトニックというものについて、より理解が深まる」
「そうなんでしょうか……」
「とりあえず読んでこい。話はそれからだ」

 私はその本を抱えて、書斎から出た。
 そして、自分の部屋に戻り、一冊を読んでいた。
 開けてはいけない扉を開けた気分だった。

 私が憧れていた世界と違って、謎の空気感、緊張感、スリル、がそこにはあって、想像よりも複雑なストーリーだった。
 そういうシーンはもちろん沢山あるけど、その間の心理描写、登場人物の葛藤、堕ちてゆく背徳感、衝撃的な結末──
 こんな世界もあるんだと、色々考えさせられた。

 私は戸惑いながらもその本についてのレビューを書き、また次の日も別の作家のを読んだ。
 なぜか引き込まれる世界。心が揺さぶられる。

「この作家さん、こんなことを堂々と書いて……すごいな」

 ある意味、とても勇気のいることだと思った。

 ◇ ◇ ◇

 ──数日後、その本とレビューを持って橘さんの部屋に行った。

「書いてきました」

 橘さんに渡すと、すぐにレビューを読んでいた。

「……今まで書いてきた物の中で一番完成度高いな」
「そ、そうなんですかね」

 橘さんは何かを考えていた。

「書いてみないか?」
「え?」
「こういうストーリー、書いてみろ」
「無理ですよ!」

 何を言い出すの突然!?

「俺は見たい……」

 橘さんがじりじりと迫ってきた。

「真似はしないで、お前のストーリーで、欲望を曝け出せ」
「欲望!?そんなの書けないですよ!!」
「じゃあ……俺が既婚者とする。美鈴は歯科衛生士で、二人はクリニックで出会う。それから俺達はそういう関係になる」

 壁際まで追いやられてしまった。

「俺の家にきて、妻はいない。俺はお前に触れたい。今を逃したら暫く会えない」

 橘さんに顎を掬われた。

「どうする?」

 その瞬間何故か心が震えた。

「奥さんが帰ってきたらまずいですよ……」

 そう口では言ってるのに、なぜか心臓が高鳴ってきた。

「"まずい"、"ダメ"、心ではわかってる。でも求められたら?」

 橘さんは私をぐっと抱き寄せた。

「主人公の気持ちになって」

 橘さんの唇が耳に触れた。

『愛してる』

 そう言われた瞬間、全身が火がついたように熱くなった。

「そんな事言われたら抵抗できないですよ……」

 禁断の関係に、全てが壊れるかもしれないこの関係に、頭の中では否定しても心と体は求めている。

 何この感覚……。

「ちゃんと教えてね、この物語の結末を」

 自分の中に、知らない自分が目を覚ますみたいで怖い。

 でも私は抗えなかった……。

 ──

 その後二人で肩を寄せ合っていた。

「楽しみだ……」

 橘さんは嬉しそうにしている。

「自信ないです」

 なぜこんな流れになってしまったのか。

 私は部屋に戻った後、パソコンに向かって、ただあの時の設定を思い浮かべて、主人公の気持ちになって、無心に物語を綴ってみた。
 結末なんて何も考えてなかった。
 何故か登場人物達の行動が、ストーリーを作っていく。
 何も考えてなかったのに、ゴールに向かって進んでいる。

 "歯科衛生士の女"とその男との結末は──

 ◇ ◇ ◇

 数日経って出来上がった短いストーリー。
 見せるのが恥ずかしかった。
 何度もまだかまだかと橘さんに催促されていた。
 私は試しに、投稿サイトにそのストーリーをアップしてみた。

 そしたら、予想外の事が起こった。
 そのストーリーの読者がどんどん増えて、とても反応がいい。
 意外だった。
『ファンになりました!』というコメントまで……。
 とても嬉しかった。
 ただ、私が書きたいジャンルとはだいぶ違うから複雑だった。

 そして私は勇気を出して橘さんのところへ行った。

「ストーリー……持ってきました」

 橘さんは、それを奪い取って、真剣に見ていた。

「……凄くいい」

 ほ、褒められた……!

「まるで生きているかのようなストーリー」
「書いてた時、特に結末とか考えてなくて、無心でした……」
「そうか……こういう結末なのか」

 翠川雅人に褒められて感無量……。
 プラトニックな恋物語じゃないけど。

「よし!次!」

 今度は書斎に縫い付けられた。

「俺は大学教授だ。お前は卒論の為に俺と話す事が多くなる。いつの間にかお互い惹かれていく」
「まさか……また書くんですか?」
「そうだ。書くんだ」
「嫌です!恥ずかしいです!」
「羞恥心を捨てろ」
「そんな事言われても……!」
「とにかくやってみろ。何事も挑戦だ。今回のは良かった。俺は次のが楽しみだ」

 橘さんの手がそっと体に触れてきた。
 体が無意識に反応してしまった。

「読んでてわかった。美鈴の好きな場所」

 的確に心と体を揺さぶってくる。

「だから嫌なんです!私のそういう部分、丸見えじゃないですか」
「だから、読んでて夢中になるんだよ」
「なぜ橘さんは書かないんですか……?」
「俺が全てを曝け出したら、作家人生終わる気がするから」

 逆に気になる!!

「そんな事どうでもいいから、今感じている気持ちを全部頭に刻んで」

 教授と生徒──

 また禁断な恋の物語。
 いけないとわかってるのに求めてしまう。
 突然開かれた世界に、ただただ戸惑うばかりだった。



次のエピソードへ進む 第15話 試練


みんなのリアクション

 毎日仕事の合間を縫って、翠川雅人から渡される本のレビューを書く課題は続いていた。
 書いたらそのレビューを印刷して本人に持っていく。
「前よりかはマシになってきたな」
 よかった!
「ありがとうございます!」
 前に進めてる気がする。
 橘さんは本棚から何冊か本をまた持ってきて渡してきた。
「こ、これは……」
 全部、官能小説だった。
「先に言うが、これは"そういうシーン"も含めて、この物語の結末に何があるか、人間の欲望と向き合うストーリーを勉強の一環で読んで欲しい」
 ページをパラパラ見ると、濃厚なシーンの部分ばかり目が入ってしまう。
「私はプラトニックなラブストーリーが好きなんですが……」
「それはお前の好みだが、知識を養う上で損はない。むしろ得るものもある」
 翠川雅人は真剣だ。
「プラトニックとは対局する、欲望の渦を理解するからこそ、お前の思うプラトニックというものについて、より理解が深まる」
「そうなんでしょうか……」
「とりあえず読んでこい。話はそれからだ」
 私はその本を抱えて、書斎から出た。
 そして、自分の部屋に戻り、一冊を読んでいた。
 開けてはいけない扉を開けた気分だった。
 私が憧れていた世界と違って、謎の空気感、緊張感、スリル、がそこにはあって、想像よりも複雑なストーリーだった。
 そういうシーンはもちろん沢山あるけど、その間の心理描写、登場人物の葛藤、堕ちてゆく背徳感、衝撃的な結末──
 こんな世界もあるんだと、色々考えさせられた。
 私は戸惑いながらもその本についてのレビューを書き、また次の日も別の作家のを読んだ。
 なぜか引き込まれる世界。心が揺さぶられる。
「この作家さん、こんなことを堂々と書いて……すごいな」
 ある意味、とても勇気のいることだと思った。
 ◇ ◇ ◇
 ──数日後、その本とレビューを持って橘さんの部屋に行った。
「書いてきました」
 橘さんに渡すと、すぐにレビューを読んでいた。
「……今まで書いてきた物の中で一番完成度高いな」
「そ、そうなんですかね」
 橘さんは何かを考えていた。
「書いてみないか?」
「え?」
「こういうストーリー、書いてみろ」
「無理ですよ!」
 何を言い出すの突然!?
「俺は見たい……」
 橘さんがじりじりと迫ってきた。
「真似はしないで、お前のストーリーで、欲望を曝け出せ」
「欲望!?そんなの書けないですよ!!」
「じゃあ……俺が既婚者とする。美鈴は歯科衛生士で、二人はクリニックで出会う。それから俺達はそういう関係になる」
 壁際まで追いやられてしまった。
「俺の家にきて、妻はいない。俺はお前に触れたい。今を逃したら暫く会えない」
 橘さんに顎を掬われた。
「どうする?」
 その瞬間何故か心が震えた。
「奥さんが帰ってきたらまずいですよ……」
 そう口では言ってるのに、なぜか心臓が高鳴ってきた。
「"まずい"、"ダメ"、心ではわかってる。でも求められたら?」
 橘さんは私をぐっと抱き寄せた。
「主人公の気持ちになって」
 橘さんの唇が耳に触れた。
『愛してる』
 そう言われた瞬間、全身が火がついたように熱くなった。
「そんな事言われたら抵抗できないですよ……」
 禁断の関係に、全てが壊れるかもしれないこの関係に、頭の中では否定しても心と体は求めている。
 何この感覚……。
「ちゃんと教えてね、この物語の結末を」
 自分の中に、知らない自分が目を覚ますみたいで怖い。
 でも私は抗えなかった……。
 ──
 その後二人で肩を寄せ合っていた。
「楽しみだ……」
 橘さんは嬉しそうにしている。
「自信ないです」
 なぜこんな流れになってしまったのか。
 私は部屋に戻った後、パソコンに向かって、ただあの時の設定を思い浮かべて、主人公の気持ちになって、無心に物語を綴ってみた。
 結末なんて何も考えてなかった。
 何故か登場人物達の行動が、ストーリーを作っていく。
 何も考えてなかったのに、ゴールに向かって進んでいる。
 "歯科衛生士の女"とその男との結末は──
 ◇ ◇ ◇
 数日経って出来上がった短いストーリー。
 見せるのが恥ずかしかった。
 何度もまだかまだかと橘さんに催促されていた。
 私は試しに、投稿サイトにそのストーリーをアップしてみた。
 そしたら、予想外の事が起こった。
 そのストーリーの読者がどんどん増えて、とても反応がいい。
 意外だった。
『ファンになりました!』というコメントまで……。
 とても嬉しかった。
 ただ、私が書きたいジャンルとはだいぶ違うから複雑だった。
 そして私は勇気を出して橘さんのところへ行った。
「ストーリー……持ってきました」
 橘さんは、それを奪い取って、真剣に見ていた。
「……凄くいい」
 ほ、褒められた……!
「まるで生きているかのようなストーリー」
「書いてた時、特に結末とか考えてなくて、無心でした……」
「そうか……こういう結末なのか」
 翠川雅人に褒められて感無量……。
 プラトニックな恋物語じゃないけど。
「よし!次!」
 今度は書斎に縫い付けられた。
「俺は大学教授だ。お前は卒論の為に俺と話す事が多くなる。いつの間にかお互い惹かれていく」
「まさか……また書くんですか?」
「そうだ。書くんだ」
「嫌です!恥ずかしいです!」
「羞恥心を捨てろ」
「そんな事言われても……!」
「とにかくやってみろ。何事も挑戦だ。今回のは良かった。俺は次のが楽しみだ」
 橘さんの手がそっと体に触れてきた。
 体が無意識に反応してしまった。
「読んでてわかった。美鈴の好きな場所」
 的確に心と体を揺さぶってくる。
「だから嫌なんです!私のそういう部分、丸見えじゃないですか」
「だから、読んでて夢中になるんだよ」
「なぜ橘さんは書かないんですか……?」
「俺が全てを曝け出したら、作家人生終わる気がするから」
 逆に気になる!!
「そんな事どうでもいいから、今感じている気持ちを全部頭に刻んで」
 教授と生徒──
 また禁断な恋の物語。
 いけないとわかってるのに求めてしまう。
 突然開かれた世界に、ただただ戸惑うばかりだった。