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第11話 最初のレビュー

ー/ー



 私は一週間かけて「ノルウェイの森」を読み、必死にレビューを書いた。
 そして、橘さんの家に来た。

 インターフォンを鳴らす。
 玄関のドアがゆっくり開いた。

「よく来た」

 いつもの橘さんと雰囲気が違った。
 心なしか顔つきが作家に見える。
 これは翠川雅人だ!

「先生!レビューを持ってきました!」
「先生?その呼び方やめて」

 書斎に案内された。
 私は印刷したレビューを渡した。

「『ノルウェイの森』を読みました」

 橘さんは私の手からレビューを受け取ると、その場でざっと目を通し始めた。
 私は緊張しながら待っていた。

 数分後──

「これ、感想文だね」
「え?」
「レビューじゃない。ただの感想文」

 橘さんの表情が厳しい。

「『主人公に共感しました』『キャラが可哀想でした』『魅力的でした』。……これ、中学生の読書感想文と同じレベル」

 う──

「で、この作品の何を学んだの?」
「え……と、恋愛の複雑さとか」
「それだけ?」

 橘さんはため息をついた。

「神谷さん、小説家になりたいんでしょ?だったらもっと技術的に読まなきゃダメ」
「技術的……ですか?」

 わからない。

「作者がなぜこれほど多くの読者に愛されるのか、その理由を考えた?」
「いえ。そこまで考えてませんでした」
「読者として楽しむのと、書き手として学ぶのは全然違う。君はまだ読者のままだ」

 橘さんはレビューを私に返した。

「書き直し。今度は作家志望として読んで」
「はい……」

 想像以上のダメだしにショックを受けた。
 先生はちょっとバツが悪そうにしていた。

「最初からそんなに上手くいくわけない。俺だって昔はそうだった」

 少し優しい声になった。

「でも、本気で小説家になりたいなら、読み方を変えないといけない。わかる?」
「はい、頑張ります」

 厳しいけど、この人に認められたい。
 私は気持ちを新たに、また書き直そうと決意した。

「ご指導ありがとうございます!では、また読み返してきます!」

 私は自分の部屋に戻ろうとした。

 ──けどやっぱり。

「すみません。休みの日じゃないとまともに読めないし、書けないんです」

 橘さんに壁際に追い詰められている。

「このまま帰すと思った?」
「橘さんも執筆でお忙しいと思うので、これ以上邪魔をしたくないです」
「迷惑かけてるって思ってる?」
「はい……」
「だったらこのマンションに住まわせる訳ないだろ」

 強く抱きしめられた。

「今度は俺に教えて。どうすれば美鈴が俺の事をちゃんと好きになるか」
「そ…それは私にもよくわかりません」
「俺の小説の、どんな言葉やシチュエーションが好きなの?」
「えーと、主人公が夢を叶える為に東京に行くシーンで、『俺を思い出さなくていい。でも忘れないで』ってヒロインに言うところが好きです」
「何言ってるんだよ。俺を置いてどこかに行くなんて許さないし、忘れるなんてもっての外だ」
「自分が聞いたんじゃないですか!」

 翠川雅人の小説の世界と、現実の彼の世界は全く別物なんだと改めて理解した。

「俺達が出会ったのは運命なんだから、もう後は美鈴が自覚するだけだよ」

 運命──。
 橘さんはロマンチストだ。

「……ちゃんと指導したから、お礼が欲しい」

「お礼……?」

 嫌な予感がした。

「ご褒美あげるから」
「ご褒美??」

 私はそのまま橘さんに押し倒された。
 橘さんの欲望が迫ってくる。

「これはご褒美じゃありません!」
「じゃあ毎回欲しくなるようにする」

 ダメだ!耐えるんだ私!

 ──でも無理だった。

 合わさった時に何もかも満たされてしまう。

 毎回こんな状況になってしまうけど、私は小説を書けるようになりたい。

 憧れの翠川雅人の側で。

 ◇ ◇ ◇

 次の出勤日の朝、インターフォンが鳴った。
 モニターにはスーツの橘さん。
 寝ぼけ眼で玄関のドアを開けた。

 橘さんは休日の姿とは打って変わってスーツをビシッと着こなし、髪をセットしている。
 別人みたいだ。

「おはようございます。橘さん朝早いですね」
「ギリギリに出社するタイプだろ?」

 バレている。

「じゃあ行ってくる。美鈴も早く準備しろ」
「いってらっしゃいませ~」

 なんであんなに偉そうなんだろう。
 私部下じゃないのに。
 創作だと先生と生徒みたいな立場だけど。

 私はその後すぐに準備して出社した。

 ◇ ◇ ◇

 会社に着いたら上司に呼びだされた。

「神谷さん、来週の企業案件で君を指名したいと要望が来ている」
「え、誰からの指名ですか?」
「長島商事の橘さんだよ」

 聞いてない……!

「神谷さんの仕事ぶりを見て、是非出張に同行して欲しいとの事だよ」

 出張──いったいどうなるの?

「わかりました……」

 私は橘さんが考えていることがよくわからず、悩んでいた。



次のエピソードへ進む 第12話 出張と熱とコメント


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 私は一週間かけて「ノルウェイの森」を読み、必死にレビューを書いた。
 そして、橘さんの家に来た。
 インターフォンを鳴らす。
 玄関のドアがゆっくり開いた。
「よく来た」
 いつもの橘さんと雰囲気が違った。
 心なしか顔つきが作家に見える。
 これは翠川雅人だ!
「先生!レビューを持ってきました!」
「先生?その呼び方やめて」
 書斎に案内された。
 私は印刷したレビューを渡した。
「『ノルウェイの森』を読みました」
 橘さんは私の手からレビューを受け取ると、その場でざっと目を通し始めた。
 私は緊張しながら待っていた。
 数分後──
「これ、感想文だね」
「え?」
「レビューじゃない。ただの感想文」
 橘さんの表情が厳しい。
「『主人公に共感しました』『キャラが可哀想でした』『魅力的でした』。……これ、中学生の読書感想文と同じレベル」
 う──
「で、この作品の何を学んだの?」
「え……と、恋愛の複雑さとか」
「それだけ?」
 橘さんはため息をついた。
「神谷さん、小説家になりたいんでしょ?だったらもっと技術的に読まなきゃダメ」
「技術的……ですか?」
 わからない。
「作者がなぜこれほど多くの読者に愛されるのか、その理由を考えた?」
「いえ。そこまで考えてませんでした」
「読者として楽しむのと、書き手として学ぶのは全然違う。君はまだ読者のままだ」
 橘さんはレビューを私に返した。
「書き直し。今度は作家志望として読んで」
「はい……」
 想像以上のダメだしにショックを受けた。
 先生はちょっとバツが悪そうにしていた。
「最初からそんなに上手くいくわけない。俺だって昔はそうだった」
 少し優しい声になった。
「でも、本気で小説家になりたいなら、読み方を変えないといけない。わかる?」
「はい、頑張ります」
 厳しいけど、この人に認められたい。
 私は気持ちを新たに、また書き直そうと決意した。
「ご指導ありがとうございます!では、また読み返してきます!」
 私は自分の部屋に戻ろうとした。
 ──けどやっぱり。
「すみません。休みの日じゃないとまともに読めないし、書けないんです」
 橘さんに壁際に追い詰められている。
「このまま帰すと思った?」
「橘さんも執筆でお忙しいと思うので、これ以上邪魔をしたくないです」
「迷惑かけてるって思ってる?」
「はい……」
「だったらこのマンションに住まわせる訳ないだろ」
 強く抱きしめられた。
「今度は俺に教えて。どうすれば美鈴が俺の事をちゃんと好きになるか」
「そ…それは私にもよくわかりません」
「俺の小説の、どんな言葉やシチュエーションが好きなの?」
「えーと、主人公が夢を叶える為に東京に行くシーンで、『俺を思い出さなくていい。でも忘れないで』ってヒロインに言うところが好きです」
「何言ってるんだよ。俺を置いてどこかに行くなんて許さないし、忘れるなんてもっての外だ」
「自分が聞いたんじゃないですか!」
 翠川雅人の小説の世界と、現実の彼の世界は全く別物なんだと改めて理解した。
「俺達が出会ったのは運命なんだから、もう後は美鈴が自覚するだけだよ」
 運命──。
 橘さんはロマンチストだ。
「……ちゃんと指導したから、お礼が欲しい」
「お礼……?」
 嫌な予感がした。
「ご褒美あげるから」
「ご褒美??」
 私はそのまま橘さんに押し倒された。
 橘さんの欲望が迫ってくる。
「これはご褒美じゃありません!」
「じゃあ毎回欲しくなるようにする」
 ダメだ!耐えるんだ私!
 ──でも無理だった。
 合わさった時に何もかも満たされてしまう。
 毎回こんな状況になってしまうけど、私は小説を書けるようになりたい。
 憧れの翠川雅人の側で。
 ◇ ◇ ◇
 次の出勤日の朝、インターフォンが鳴った。
 モニターにはスーツの橘さん。
 寝ぼけ眼で玄関のドアを開けた。
 橘さんは休日の姿とは打って変わってスーツをビシッと着こなし、髪をセットしている。
 別人みたいだ。
「おはようございます。橘さん朝早いですね」
「ギリギリに出社するタイプだろ?」
 バレている。
「じゃあ行ってくる。美鈴も早く準備しろ」
「いってらっしゃいませ~」
 なんであんなに偉そうなんだろう。
 私部下じゃないのに。
 創作だと先生と生徒みたいな立場だけど。
 私はその後すぐに準備して出社した。
 ◇ ◇ ◇
 会社に着いたら上司に呼びだされた。
「神谷さん、来週の企業案件で君を指名したいと要望が来ている」
「え、誰からの指名ですか?」
「長島商事の橘さんだよ」
 聞いてない……!
「神谷さんの仕事ぶりを見て、是非出張に同行して欲しいとの事だよ」
 出張──いったいどうなるの?
「わかりました……」
 私は橘さんが考えていることがよくわからず、悩んでいた。