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窓の外 無人車すれ違う春の道
猫が一瞬だけ 空を見上げる
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窓の向こう、アスファルトの道には、もう「生きているもの」の足音はしない。
静かに、そして滑らかに。車輪の回る音だけを響かせて、銀色の無人車が通り過ぎていく。中には誰もいない。ただ、決められたプログラムに従って、空っぽの荷物や記号を運んでいるだけだ。
僕たち猫にとっては、あれは巨大な甲虫のような、ただの動く景色に過ぎない。
春の光は、人間がいなくなった後も変わらず、窓辺の僕の毛並みを白く透かさせている。
ふと、二台の無人車が音もなくすれ違った。その金属のボディが、一瞬だけ鋭い光を反射する。その眩しさに目を細めたとき、僕は感じた。空の「色」が、昨日とはわずかに違っていることを。
僕は、ゆっくりと顔を上げた。
見上げた空は、抜けるように青い。けれど、その青の奥には、微細なノイズが走っている。
それは、この街を包み込む巨大な管理ドームの走査線だ。かつて人間たちが「空」と呼んでいたものは、今や高精細なホログラムの膜に置き換わっている。
僕は知っている。あの青の向こう側には、本当は星も雲もない、冷たい真空と人工衛星の群れがひしめいていることを。
僕の網膜には、古い時代の猫たちが持っていなかった「認識拡張チップ」が埋め込まれているから。
一瞬だけ、空を見上げる。
そこには、僕を監視する光学センサーが、瞬きひとつせずに僕を見下ろしていた。
無人車が角を曲がり、再び静寂が訪れる。春の道には、風に舞う花びらだけが、プログラムされた完璧な軌道で踊っている。
「……にゃあ」
僕は小さく、誰に届くでもない声を漏らした。それは、この偽りの春に対する挨拶か、あるいは、かつて僕の喉を撫でてくれた、もうここにはいない「温かい手」への追悼だったのかもしれない。
僕はまた、窓の外の無機質な道に視線を戻した。次の無人車が来るまで、あと三百秒。