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第12話 王都王立アカデミア

ー/ー



 結局、ぼくたちは春水の塔の外——学園へと帰還することが出来た。
 試練の間の転送陣は、”屠るもの”が告げたように、塔の外へと繋がっていた。

 学園、というのはアリアンフロッド機関が用意している砦の別名だった。
 王都ファル=ナルシオン近くの学園には、王都王立アカデミアという名前があるらしい。
 本来は、アリアンフロッド機関と各国は政治情勢によっては複雑な関係があったりするものなのだけど、ロシュトゥール王国とは良好な関係を築いているらしい。

 学園は、表向きは、まだ若いアリアンフロッドたちのために、学習の機会を与えるための施設なんだけど、実際は王家や貴族、騎士団などが立ち入られないように作り上げた砦にもなっている。
 以前は、戦闘能力の高いアリアンフロッドに対して、さまざまな勢力が無理強いをしてきた、ということがあったので、学園のような拠点を作り上げた、というのは聞いたことがある。

 転移門から、馬車道は丘の上へとぐねぐねと続いており、ぼくたちはそれを歩いてきていた。
 春水の塔へと出掛ける頃は、日も高かったのに、既に双陽は傾き、午後も遅い時間となっていた。

 メディシアン世界は双陽——というか、地上を照らす恒星は親子ほどの大きさの差がある、二重の恒星系となっていた。
 昼間は眩しくて、双陽はひとつの恒星にしか見えないが、夕方や朝早い時間だと、何とか、もうひとつの小さい太陽を目にすることができる。
 その双陽が、学園のある丘陵地帯の森や斜面などに傾きかけの光を投げかけ、陰りを生じさせていた。

 あれから、どれぐらいの時間が経過しているのだろう。
 お腹の減り具合から考えても、丸一日、いたのではなく、せいぜい、数時間といったところだろう。
 さすがに、歩き疲れているのだけど、学園には向かわねばならない。

 正面の楼門から、ぼくたちは学園へと脚を踏み入れていった。
 門はふたつあり、柱は上層で繋がり、立派な屋根がつけられている。
 中央の柱のところには、でかでかと「ロシュトゥール王都王立アカデミア」という看板が掲げられていた。
 その文字に目をやりながら、ぼくたちは楼門を抜け、高い垣根の間の道をまっすぐ、進んでいった。

 道の幅はかなりあり、ぼくとアカネ、チカの三人、腕をまっすぐに伸ばして並んだとしても、まだ余裕があるくらいだった。
 学園を出る時は足取りも軽かったのに、今はとっても、足が遅くなってしまっている。
 これから、学園長——アリアンフロッドを仕切っているギルド長に会って、報告をするのかと思うと、口数も少なくなってくる。

 垣根の間を抜けると、視界が広がった。
 目の前に、噴水があるが、夕刻前の人がひとりもいないその場所は、何だか水の流れもひっそりとしているように感じられる。

 学園は、噴水の向こう——中央の大きな、切り出された黒曜石のような四角い建物を中心にして、五つの大きな建物が配置されていた。
 さらに、その向こうには、側城塔とそれを繋ぐ城壁が聳えている。
 敷地内には、庭園やベンチ、ちょっとした池や橋などもあるのだけど、今は夕方も近いので、制服を着た生徒たち——アリアンフロッドの数は少ないものとなっている。

 制服は、濃紺のベストに白いブレザー、胸元は女性はリボンタイで、男性はネクタイだった。
 オレンジとダークレッドのストライプのスカート、またはズボン姿ということで、細かいカラーリングや形状は異なっているものの、だいたい、統一されていた。
 ここを出発する前は、芝生に寝転んだり、歩きながら喋ったりしている生徒たちの姿が見られたのだが、今は早足で駆け抜けていく者がほとんどだった。

 これもまた、学園の雰囲気、というものなのだろう。
 ぼくたちの生まれ故郷であるロカルノ村では、学園などなく、勉強はセリカ姉に教えてもらっていたのだから。
 こんなにも、同世代の若者たちがいるのを目にするのすら、珍しい。

 正面の建物は、本校舎と呼ばれているようだ。
 入り口の部分には庇が張り出しており、ガラス張りの扉が並んでいる。
 明らかに、王都の貴族の館とはデザインの質が異なっており、そこは違和感がある。

 それにしても、ガラス張りの入り口だなんてね。
 防御とかは、どうなっているんだろう——と思う。

 入り口から入ったところは、エントランスとなっていて、かなり広い。
 吹き抜けとなっていて、天井はずっと顔を上に向けないと、視界には写らないくらいだ。
 学園を出る時は、多くの制服姿のアリアンフロッドたちが行き来していたのだけど、今はいくらか、数も少なくなってきているように感じられた。
 ガラス張りの玄関からは、夕方近くの煙るような日の光が差し込んできているので、余計、そう思うのかもしれない。

 何だか、すれ違うアリアンフロッドたちから視線を感じるのだけど、ぼくたちは気づかないフリをして、正面突き当たりにある受付カウンターのほうへと歩いていった。
「チカ! チカでしょ!」

 突然、大きな声をかけられた。
 受付嬢の制服をした、若い女性がこちらへと、走り寄ってくる。
 ワイシャツに黒いジャケット、それに胸元には桜色のリボンを結んでいる。
 薄氷色の髪を首筋のところで揃えた、メガネをした小柄な女性だった。

 ジルさんだ。
 ぼくたちが、アリアンフロッド見習いとして、ギンゲツたちと塔へと旅立つ時、手続きをしてくれたのが、そのジルさんだった。
 チカとは知り合いらしく、人嫌いの彼女も、ジルとは普通に会話ができるみたいだ。

「あぁ……よかった。チカたちが塔から戻ってきていないって聞いて、心配していたんだから」
 ぼくたちは、顔を合わせた。
 ——そんなに、大事になっていたのだろうか?

 ジルさんの声をきっかけに、なんだかエントランス内がざわざわとしてきた。
 それに気づいて、ジルさんがぺろっと、舌を出した。
「ごめん、ごめん。では、こちらへどうぞ」
 ジルさんは咳払いをすると、途中から表情を変えて、ぼくたちをエントランスの二階へと案内してくれた。
 階段をあがり、廊下をまっすぐ進んだ奥へと、早足で進んでいく。

 さっきまでは空の下を歩いていたので、何ともなかったのだけど、学園のなかとはいえ、壁と床、天井のある場所にいると、どうしても気分的にあんまり落ち込んできてしまう。
 隣を歩いていたアカネがそっと、ぼくの手を握ってきた。
 チカの手は握ってはこなかったものの、アカネとふたりでぼくを挟むようにして、並んできた。
 それに、ぼくは暖かなものを感じて、少し胸を張って、廊下を歩いていった。




みんなのリアクション

 結局、ぼくたちは春水の塔の外——学園へと帰還することが出来た。
 試練の間の転送陣は、”屠るもの”が告げたように、塔の外へと繋がっていた。
 学園、というのはアリアンフロッド機関が用意している砦の別名だった。
 王都ファル=ナルシオン近くの学園には、王都王立アカデミアという名前があるらしい。
 本来は、アリアンフロッド機関と各国は政治情勢によっては複雑な関係があったりするものなのだけど、ロシュトゥール王国とは良好な関係を築いているらしい。
 学園は、表向きは、まだ若いアリアンフロッドたちのために、学習の機会を与えるための施設なんだけど、実際は王家や貴族、騎士団などが立ち入られないように作り上げた砦にもなっている。
 以前は、戦闘能力の高いアリアンフロッドに対して、さまざまな勢力が無理強いをしてきた、ということがあったので、学園のような拠点を作り上げた、というのは聞いたことがある。
 転移門から、馬車道は丘の上へとぐねぐねと続いており、ぼくたちはそれを歩いてきていた。
 春水の塔へと出掛ける頃は、日も高かったのに、既に双陽は傾き、午後も遅い時間となっていた。
 メディシアン世界は双陽——というか、地上を照らす恒星は親子ほどの大きさの差がある、二重の恒星系となっていた。
 昼間は眩しくて、双陽はひとつの恒星にしか見えないが、夕方や朝早い時間だと、何とか、もうひとつの小さい太陽を目にすることができる。
 その双陽が、学園のある丘陵地帯の森や斜面などに傾きかけの光を投げかけ、陰りを生じさせていた。
 あれから、どれぐらいの時間が経過しているのだろう。
 お腹の減り具合から考えても、丸一日、いたのではなく、せいぜい、数時間といったところだろう。
 さすがに、歩き疲れているのだけど、学園には向かわねばならない。
 正面の楼門から、ぼくたちは学園へと脚を踏み入れていった。
 門はふたつあり、柱は上層で繋がり、立派な屋根がつけられている。
 中央の柱のところには、でかでかと「ロシュトゥール王都王立アカデミア」という看板が掲げられていた。
 その文字に目をやりながら、ぼくたちは楼門を抜け、高い垣根の間の道をまっすぐ、進んでいった。
 道の幅はかなりあり、ぼくとアカネ、チカの三人、腕をまっすぐに伸ばして並んだとしても、まだ余裕があるくらいだった。
 学園を出る時は足取りも軽かったのに、今はとっても、足が遅くなってしまっている。
 これから、学園長——アリアンフロッドを仕切っているギルド長に会って、報告をするのかと思うと、口数も少なくなってくる。
 垣根の間を抜けると、視界が広がった。
 目の前に、噴水があるが、夕刻前の人がひとりもいないその場所は、何だか水の流れもひっそりとしているように感じられる。
 学園は、噴水の向こう——中央の大きな、切り出された黒曜石のような四角い建物を中心にして、五つの大きな建物が配置されていた。
 さらに、その向こうには、側城塔とそれを繋ぐ城壁が聳えている。
 敷地内には、庭園やベンチ、ちょっとした池や橋などもあるのだけど、今は夕方も近いので、制服を着た生徒たち——アリアンフロッドの数は少ないものとなっている。
 制服は、濃紺のベストに白いブレザー、胸元は女性はリボンタイで、男性はネクタイだった。
 オレンジとダークレッドのストライプのスカート、またはズボン姿ということで、細かいカラーリングや形状は異なっているものの、だいたい、統一されていた。
 ここを出発する前は、芝生に寝転んだり、歩きながら喋ったりしている生徒たちの姿が見られたのだが、今は早足で駆け抜けていく者がほとんどだった。
 これもまた、学園の雰囲気、というものなのだろう。
 ぼくたちの生まれ故郷であるロカルノ村では、学園などなく、勉強はセリカ姉に教えてもらっていたのだから。
 こんなにも、同世代の若者たちがいるのを目にするのすら、珍しい。
 正面の建物は、本校舎と呼ばれているようだ。
 入り口の部分には庇が張り出しており、ガラス張りの扉が並んでいる。
 明らかに、王都の貴族の館とはデザインの質が異なっており、そこは違和感がある。
 それにしても、ガラス張りの入り口だなんてね。
 防御とかは、どうなっているんだろう——と思う。
 入り口から入ったところは、エントランスとなっていて、かなり広い。
 吹き抜けとなっていて、天井はずっと顔を上に向けないと、視界には写らないくらいだ。
 学園を出る時は、多くの制服姿のアリアンフロッドたちが行き来していたのだけど、今はいくらか、数も少なくなってきているように感じられた。
 ガラス張りの玄関からは、夕方近くの煙るような日の光が差し込んできているので、余計、そう思うのかもしれない。
 何だか、すれ違うアリアンフロッドたちから視線を感じるのだけど、ぼくたちは気づかないフリをして、正面突き当たりにある受付カウンターのほうへと歩いていった。
「チカ! チカでしょ!」
 突然、大きな声をかけられた。
 受付嬢の制服をした、若い女性がこちらへと、走り寄ってくる。
 ワイシャツに黒いジャケット、それに胸元には桜色のリボンを結んでいる。
 薄氷色の髪を首筋のところで揃えた、メガネをした小柄な女性だった。
 ジルさんだ。
 ぼくたちが、アリアンフロッド見習いとして、ギンゲツたちと塔へと旅立つ時、手続きをしてくれたのが、そのジルさんだった。
 チカとは知り合いらしく、人嫌いの彼女も、ジルとは普通に会話ができるみたいだ。
「あぁ……よかった。チカたちが塔から戻ってきていないって聞いて、心配していたんだから」
 ぼくたちは、顔を合わせた。
 ——そんなに、大事になっていたのだろうか?
 ジルさんの声をきっかけに、なんだかエントランス内がざわざわとしてきた。
 それに気づいて、ジルさんがぺろっと、舌を出した。
「ごめん、ごめん。では、こちらへどうぞ」
 ジルさんは咳払いをすると、途中から表情を変えて、ぼくたちをエントランスの二階へと案内してくれた。
 階段をあがり、廊下をまっすぐ進んだ奥へと、早足で進んでいく。
 さっきまでは空の下を歩いていたので、何ともなかったのだけど、学園のなかとはいえ、壁と床、天井のある場所にいると、どうしても気分的にあんまり落ち込んできてしまう。
 隣を歩いていたアカネがそっと、ぼくの手を握ってきた。
 チカの手は握ってはこなかったものの、アカネとふたりでぼくを挟むようにして、並んできた。
 それに、ぼくは暖かなものを感じて、少し胸を張って、廊下を歩いていった。