#24
ー/ー 前日と同じく一家に泊って行けばと引き留められたが、やはり同じ理由で帰路に着いたシロは今日は一人で帰路に着いた。
借り家のストーブの前で安楽椅子に座り、ガスが無いので風呂だけでも借りてから帰ればよかったなどと図々しい考えを脇に追いやりながら水を入れた大きな鍋をストーブの上に置き沸かし始めた。
しばらくそうして部屋を暖めつつ机に出したままの本を片手に待っていると湯が沸く寸前まで温まったので、キッチンに運んで適当なタオルを浸し身体を拭く。日本を出てから水という物の大切さを嫌というほど知ったシロにとって、この暖かい濡れタオルがここ数年の風呂代わりだった。
ひとしきり身体を拭き終え湯を流し、さっぱりした気持ちで暖かいリビングに戻ると玄関扉をノックする音がした。
気のせいかとも思ったのだが暫くすると再び聞こえたので扉を開く。玄関先には積もる程待っていたのか雪だるま一歩手前で震える子供と昨日ここまで案内してくれた犬がいた。
「気づいてたなら早く開けて欲しかった」
「悪かったって。ほれストーブの前の特等席譲ってやるから機嫌直せよ」
部屋の端にあった三本足の木製スツールに座ったシロは、安楽椅子を先程まで吹雪の中で凍えていたリオンに譲り機嫌を取る。少女の相棒であるタローは毛皮のコートを脱げないので自宅と同じように玄関で伏せていた。
「それで、どうしてこんな時間に来たんだよ。子供はもう寝る時間じゃねーのか?」
一日充電されすっかり明るさを取り戻したスマホの画面は現在時刻を夜の十時過ぎだと知らせており、深夜一歩手前に子供が外を出歩く理由を思いつかなかったシロは小さな客人に問いかけた。
「退屈だったのよ」
「はあ?」
「だから退屈だったの!大人の女性になったんだから外で遊ぶんじゃなくて掃除洗濯毛皮のなめしをしなさいとか、ことある毎に言葉遣いを注意されて本当に頭にくる!もう十四年も男として振舞って来たのに股から血が出たから女だって言われていきなり変われるわけないじゃん!」
地域の風習なので仕方のない事ではあるがシロは少し同情する。彼女も母親からいずれは久峩耳の棟梁となるのだからと色々と制限のある生活を強いられていたので、近からずとも遠からん何かを感じていた。
「だから今から遊ぶの」
「俺は構わないがお前は怒られないのか?」
「こっそり窓から出てきたから大丈夫さ。こんな吹雪の夜に外から確認する人なんていないしばれっこない。」
ばれなければ大丈夫理論に関わるべきではないような気はしたが、シロは自身の反抗期時代を思い出しこれで突っぱねるのは自分のしていい事じゃないと思い了承した。
「遊ぶつっても流石に外は勘弁してくれよ。たった今汗を拭いたばかりなんだ」
「仕方ないワネ。じゃあこれで遊びマショ」
不慣れな語尾をたどたどしく発しながら椅子に掛けたパーカのポケットから取り出したのは、真っ赤な一本の紐だった。
「なんだそりゃ」
「紐ヨ」
「それは見りゃ分かる。何すんだって聞いてんだよ」
「あやとりヨ」
リオンは細い指でまず四角を作り、そこからは目にも止まらぬ早業で複雑な形を作り上げた。
「じゃん!これなーんだ」
「あー、蝶々か?」
「どこがそう見えるのさ。これはご飯を食べる犬。じゃあこれは?」
「鉄塔か?」
「なにそれ?これは耳の長い犬だよ?」
シロは早々に思考を放棄したがその後もリオンは難題を出題し続け、結局正確することは一度たりともなかった。
「最後の方は惜しかったね。犬ってのは合ってたけどもっと詳細な特徴を当てられなきゃ駄目だよ」
「むしろ犬以外の物は作れないのか?」
「じゃん、アザラシ」
「見えねーよ」
随分そうしていたように思ったシロがスマホを確認するとまだ三十分しか経っておらず、いつまで続くんだと思い始めていた頃合で「飽きた」という言葉が聞こえ心の中でほっと息を吐いた。
「昔の人はこんなので夜中まで遊んでたなんて信じられない。夜更かししすぎたら悪い精霊が来たって話まであるくらい熱中してたんだって」
「まあ昔はテレビゲームはおろかボードゲームも無かったろうしな」
「そうだ、その本読んでよ」
「本?ああこれか」
机に置いてあった本を手に取り示すと、「そうそれ」と少女はお願いした。
「不思議だよね。みんな言葉はわかるし世界新聞も共通語で書かれてるのに古い書物だけは地域によって文字が違うなんて。お陰で漫画を読むのも一苦労」
「翻訳してるのを読めばいいじゃねーか」
「翻訳は基本的に意訳っだって聞くし、やっぱり本来の意味を理解するには書かれた言語を勉強しなくちゃだめじゃない?」
「そういうもんかね。俺は適当でかまわんが」
シロでは理解しえない拘りを持つ少女のため、外の吹雪と燃え上がる炎の音を背景にシロは少し古い日本語で書かれた物語を読み上げ始めた。
「いつから寝てたんだよ」
おおよそ三分の一程を読み上げた所で寝息が聞こえ、まさかと思いながら顔を上げると案の定そこには安らかな寝息を立てるリオンの顔があった。
せがんできたのはそっちだろうと思いながら机に置かれた端末の画面で時刻を確認するといつの間にか朝の三時となっており、だったらまあ仕方ないかと女は溜飲を下ろした。
日本語独特の表現の多い純文学の朗読はリオンの知らない単語が多く、途中までは「旅愁って何?」「お座敷って?」といった具合で度々質問が飛んで来て遅々として進まず、途中で投げ出してやろうかと思いながらも故郷の文学を正しく楽しみたいという子供たっての願いだったので持ち前の粘り強さを以て読み上げてきたが、流石に聞き手が夢の中ではその頑張りに意味はないと女は開いていた本を閉じる。
ストーブに薪を追加してから小さく上下する華奢な肩に背凭れに掛けてあった少女のパーカを掛け自身も寝室で横になると、なぜこの家に日本固有の文字で書かれた本があるのかが今更ながら脳裏に疑問の声があがった。
よくよく考えればこの村は日本文化にやたら近すぎると。
各家の玄関など顕著で異国の大体の入り口は内開きであるのに対しこの村は外開き戸であるし、なによりこのような辺境の地に自国で払い下げになったレトロ筐体の揃ったゲームセンターがあるなど違和感しかない。
もちろん建築家が日本びいきだったり物好きがいたと言われればそれまでだが、どうにも引っかかるものを感じた旅人は明日誰かに聞いてみようと結論を先送りにした辺りでやっと訪れた睡魔に身を任せた。
借り家のストーブの前で安楽椅子に座り、ガスが無いので風呂だけでも借りてから帰ればよかったなどと図々しい考えを脇に追いやりながら水を入れた大きな鍋をストーブの上に置き沸かし始めた。
しばらくそうして部屋を暖めつつ机に出したままの本を片手に待っていると湯が沸く寸前まで温まったので、キッチンに運んで適当なタオルを浸し身体を拭く。日本を出てから水という物の大切さを嫌というほど知ったシロにとって、この暖かい濡れタオルがここ数年の風呂代わりだった。
ひとしきり身体を拭き終え湯を流し、さっぱりした気持ちで暖かいリビングに戻ると玄関扉をノックする音がした。
気のせいかとも思ったのだが暫くすると再び聞こえたので扉を開く。玄関先には積もる程待っていたのか雪だるま一歩手前で震える子供と昨日ここまで案内してくれた犬がいた。
「気づいてたなら早く開けて欲しかった」
「悪かったって。ほれストーブの前の特等席譲ってやるから機嫌直せよ」
部屋の端にあった三本足の木製スツールに座ったシロは、安楽椅子を先程まで吹雪の中で凍えていたリオンに譲り機嫌を取る。少女の相棒であるタローは毛皮のコートを脱げないので自宅と同じように玄関で伏せていた。
「それで、どうしてこんな時間に来たんだよ。子供はもう寝る時間じゃねーのか?」
一日充電されすっかり明るさを取り戻したスマホの画面は現在時刻を夜の十時過ぎだと知らせており、深夜一歩手前に子供が外を出歩く理由を思いつかなかったシロは小さな客人に問いかけた。
「退屈だったのよ」
「はあ?」
「だから退屈だったの!大人の女性になったんだから外で遊ぶんじゃなくて掃除洗濯毛皮のなめしをしなさいとか、ことある毎に言葉遣いを注意されて本当に頭にくる!もう十四年も男として振舞って来たのに股から血が出たから女だって言われていきなり変われるわけないじゃん!」
地域の風習なので仕方のない事ではあるがシロは少し同情する。彼女も母親からいずれは久峩耳の棟梁となるのだからと色々と制限のある生活を強いられていたので、近からずとも遠からん何かを感じていた。
「だから今から遊ぶの」
「俺は構わないがお前は怒られないのか?」
「こっそり窓から出てきたから大丈夫さ。こんな吹雪の夜に外から確認する人なんていないしばれっこない。」
ばれなければ大丈夫理論に関わるべきではないような気はしたが、シロは自身の反抗期時代を思い出しこれで突っぱねるのは自分のしていい事じゃないと思い了承した。
「遊ぶつっても流石に外は勘弁してくれよ。たった今汗を拭いたばかりなんだ」
「仕方ないワネ。じゃあこれで遊びマショ」
不慣れな語尾をたどたどしく発しながら椅子に掛けたパーカのポケットから取り出したのは、真っ赤な一本の紐だった。
「なんだそりゃ」
「紐ヨ」
「それは見りゃ分かる。何すんだって聞いてんだよ」
「あやとりヨ」
リオンは細い指でまず四角を作り、そこからは目にも止まらぬ早業で複雑な形を作り上げた。
「じゃん!これなーんだ」
「あー、蝶々か?」
「どこがそう見えるのさ。これはご飯を食べる犬。じゃあこれは?」
「鉄塔か?」
「なにそれ?これは耳の長い犬だよ?」
シロは早々に思考を放棄したがその後もリオンは難題を出題し続け、結局正確することは一度たりともなかった。
「最後の方は惜しかったね。犬ってのは合ってたけどもっと詳細な特徴を当てられなきゃ駄目だよ」
「むしろ犬以外の物は作れないのか?」
「じゃん、アザラシ」
「見えねーよ」
随分そうしていたように思ったシロがスマホを確認するとまだ三十分しか経っておらず、いつまで続くんだと思い始めていた頃合で「飽きた」という言葉が聞こえ心の中でほっと息を吐いた。
「昔の人はこんなので夜中まで遊んでたなんて信じられない。夜更かししすぎたら悪い精霊が来たって話まであるくらい熱中してたんだって」
「まあ昔はテレビゲームはおろかボードゲームも無かったろうしな」
「そうだ、その本読んでよ」
「本?ああこれか」
机に置いてあった本を手に取り示すと、「そうそれ」と少女はお願いした。
「不思議だよね。みんな言葉はわかるし世界新聞も共通語で書かれてるのに古い書物だけは地域によって文字が違うなんて。お陰で漫画を読むのも一苦労」
「翻訳してるのを読めばいいじゃねーか」
「翻訳は基本的に意訳っだって聞くし、やっぱり本来の意味を理解するには書かれた言語を勉強しなくちゃだめじゃない?」
「そういうもんかね。俺は適当でかまわんが」
シロでは理解しえない拘りを持つ少女のため、外の吹雪と燃え上がる炎の音を背景にシロは少し古い日本語で書かれた物語を読み上げ始めた。
「いつから寝てたんだよ」
おおよそ三分の一程を読み上げた所で寝息が聞こえ、まさかと思いながら顔を上げると案の定そこには安らかな寝息を立てるリオンの顔があった。
せがんできたのはそっちだろうと思いながら机に置かれた端末の画面で時刻を確認するといつの間にか朝の三時となっており、だったらまあ仕方ないかと女は溜飲を下ろした。
日本語独特の表現の多い純文学の朗読はリオンの知らない単語が多く、途中までは「旅愁って何?」「お座敷って?」といった具合で度々質問が飛んで来て遅々として進まず、途中で投げ出してやろうかと思いながらも故郷の文学を正しく楽しみたいという子供たっての願いだったので持ち前の粘り強さを以て読み上げてきたが、流石に聞き手が夢の中ではその頑張りに意味はないと女は開いていた本を閉じる。
ストーブに薪を追加してから小さく上下する華奢な肩に背凭れに掛けてあった少女のパーカを掛け自身も寝室で横になると、なぜこの家に日本固有の文字で書かれた本があるのかが今更ながら脳裏に疑問の声があがった。
よくよく考えればこの村は日本文化にやたら近すぎると。
各家の玄関など顕著で異国の大体の入り口は内開きであるのに対しこの村は外開き戸であるし、なによりこのような辺境の地に自国で払い下げになったレトロ筐体の揃ったゲームセンターがあるなど違和感しかない。
もちろん建築家が日本びいきだったり物好きがいたと言われればそれまでだが、どうにも引っかかるものを感じた旅人は明日誰かに聞いてみようと結論を先送りにした辺りでやっと訪れた睡魔に身を任せた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
前日と同じく一家に泊って行けばと引き留められたが、やはり同じ理由で帰路に着いたシロは今日は一人で帰路に着いた。
借り家のストーブの前で安楽椅子に座り、ガスが無いので風呂だけでも借りてから帰ればよかったなどと図々しい考えを脇に追いやりながら水を入れた大きな鍋をストーブの上に置き沸かし始めた。
借り家のストーブの前で安楽椅子に座り、ガスが無いので風呂だけでも借りてから帰ればよかったなどと図々しい考えを脇に追いやりながら水を入れた大きな鍋をストーブの上に置き沸かし始めた。
しばらくそうして部屋を暖めつつ机に出したままの本を片手に待っていると湯が沸く寸前まで温まったので、キッチンに運んで適当なタオルを浸し身体を拭く。日本を出てから水という物の大切さを嫌というほど知ったシロにとって、この暖かい濡れタオルがここ数年の風呂代わりだった。
ひとしきり身体を拭き終え湯を流し、さっぱりした気持ちで暖かいリビングに戻ると玄関扉をノックする音がした。
気のせいかとも思ったのだが暫くすると再び聞こえたので扉を開く。玄関先には積もる程待っていたのか雪だるま一歩手前で震える子供と昨日ここまで案内してくれた犬がいた。
ひとしきり身体を拭き終え湯を流し、さっぱりした気持ちで暖かいリビングに戻ると玄関扉をノックする音がした。
気のせいかとも思ったのだが暫くすると再び聞こえたので扉を開く。玄関先には積もる程待っていたのか雪だるま一歩手前で震える子供と昨日ここまで案内してくれた犬がいた。
「気づいてたなら早く開けて欲しかった」
「悪かったって。ほれストーブの前の特等席譲ってやるから機嫌直せよ」
「悪かったって。ほれストーブの前の特等席譲ってやるから機嫌直せよ」
部屋の端にあった三本足の木製スツールに座ったシロは、安楽椅子を先程まで吹雪の中で凍えていたリオンに譲り機嫌を取る。少女の相棒であるタローは毛皮のコートを脱げないので自宅と同じように玄関で伏せていた。
「それで、どうしてこんな時間に来たんだよ。子供はもう寝る時間じゃねーのか?」
一日充電されすっかり明るさを取り戻したスマホの画面は現在時刻を夜の十時過ぎだと知らせており、深夜一歩手前に子供が外を出歩く理由を思いつかなかったシロは小さな客人に問いかけた。
「退屈だったのよ」
一日充電されすっかり明るさを取り戻したスマホの画面は現在時刻を夜の十時過ぎだと知らせており、深夜一歩手前に子供が外を出歩く理由を思いつかなかったシロは小さな客人に問いかけた。
「退屈だったのよ」
「はあ?」
「だから退屈だったの!大人の女性になったんだから外で遊ぶんじゃなくて掃除洗濯毛皮のなめしをしなさいとか、ことある毎に言葉遣いを注意されて本当に頭にくる!もう十四年も男として振舞って来たのに股から血が出たから女だって言われていきなり変われるわけないじゃん!」
「だから退屈だったの!大人の女性になったんだから外で遊ぶんじゃなくて掃除洗濯毛皮のなめしをしなさいとか、ことある毎に言葉遣いを注意されて本当に頭にくる!もう十四年も男として振舞って来たのに股から血が出たから女だって言われていきなり変われるわけないじゃん!」
地域の風習なので仕方のない事ではあるがシロは少し同情する。彼女も母親からいずれは久峩耳の棟梁となるのだからと色々と制限のある生活を強いられていたので、近からずとも遠からん何かを感じていた。
「だから今から遊ぶの」
「俺は構わないがお前は怒られないのか?」
「俺は構わないがお前は怒られないのか?」
「こっそり窓から出てきたから大丈夫さ。こんな吹雪の夜に外から確認する人なんていないしばれっこない。」
ばれなければ大丈夫理論に関わるべきではないような気はしたが、シロは自身の反抗期時代を思い出しこれで突っぱねるのは自分のしていい事じゃないと思い了承した。
「遊ぶつっても流石に外は勘弁してくれよ。たった今汗を拭いたばかりなんだ」
「仕方ないワネ。じゃあこれで遊びマショ」
「仕方ないワネ。じゃあこれで遊びマショ」
不慣れな語尾をたどたどしく発しながら椅子に掛けたパーカのポケットから取り出したのは、真っ赤な一本の紐だった。
「なんだそりゃ」
「紐ヨ」
「紐ヨ」
「それは見りゃ分かる。何すんだって聞いてんだよ」
「あやとりヨ」
「あやとりヨ」
リオンは細い指でまず四角を作り、そこからは目にも止まらぬ早業で複雑な形を作り上げた。
「じゃん!これなーんだ」
「あー、蝶々か?」
「あー、蝶々か?」
「どこがそう見えるのさ。これはご飯を食べる犬。じゃあこれは?」
「鉄塔か?」
「鉄塔か?」
「なにそれ?これは耳の長い犬だよ?」
シロは早々に思考を放棄したがその後もリオンは難題を出題し続け、結局正確することは一度たりともなかった。
「最後の方は惜しかったね。犬ってのは合ってたけどもっと詳細な特徴を当てられなきゃ駄目だよ」
「むしろ犬以外の物は作れないのか?」
「むしろ犬以外の物は作れないのか?」
「じゃん、アザラシ」
「見えねーよ」
「見えねーよ」
随分そうしていたように思ったシロがスマホを確認するとまだ三十分しか経っておらず、いつまで続くんだと思い始めていた頃合で「飽きた」という言葉が聞こえ心の中でほっと息を吐いた。
「昔の人はこんなので夜中まで遊んでたなんて信じられない。夜更かししすぎたら悪い精霊が来たって話まであるくらい熱中してたんだって」
「まあ昔はテレビゲームはおろかボードゲームも無かったろうしな」
「まあ昔はテレビゲームはおろかボードゲームも無かったろうしな」
「そうだ、その本読んでよ」
「本?ああこれか」
「本?ああこれか」
机に置いてあった本を手に取り示すと、「そうそれ」と少女はお願いした。
「不思議だよね。みんな言葉はわかるし世界新聞も共通語で書かれてるのに古い書物だけは地域によって文字が違うなんて。お陰で漫画を読むのも一苦労」
「翻訳してるのを読めばいいじゃねーか」
「翻訳してるのを読めばいいじゃねーか」
「翻訳は基本的に意訳っだって聞くし、やっぱり本来の意味を理解するには書かれた言語を勉強しなくちゃだめじゃない?」
「そういうもんかね。俺は適当でかまわんが」
「そういうもんかね。俺は適当でかまわんが」
シロでは理解しえない拘りを持つ少女のため、外の吹雪と燃え上がる炎の音を背景にシロは少し古い日本語で書かれた物語を読み上げ始めた。
「いつから寝てたんだよ」
おおよそ三分の一程を読み上げた所で寝息が聞こえ、まさかと思いながら顔を上げると案の定そこには安らかな寝息を立てるリオンの顔があった。
せがんできたのはそっちだろうと思いながら机に置かれた端末の画面で時刻を確認するといつの間にか朝の三時となっており、だったらまあ仕方ないかと女は溜飲を下ろした。
せがんできたのはそっちだろうと思いながら机に置かれた端末の画面で時刻を確認するといつの間にか朝の三時となっており、だったらまあ仕方ないかと女は溜飲を下ろした。
日本語独特の表現の多い純文学の朗読はリオンの知らない単語が多く、途中までは「旅愁って何?」「お座敷って?」といった具合で度々質問が飛んで来て遅々として進まず、途中で投げ出してやろうかと思いながらも故郷の文学を正しく楽しみたいという子供たっての願いだったので持ち前の粘り強さを以て読み上げてきたが、流石に聞き手が夢の中ではその頑張りに意味はないと女は開いていた本を閉じる。
ストーブに薪を追加してから小さく上下する華奢な肩に背凭れに掛けてあった少女のパーカを掛け自身も寝室で横になると、なぜこの家に日本固有の文字で書かれた本があるのかが今更ながら脳裏に疑問の声があがった。
よくよく考えればこの村は日本文化にやたら近すぎると。
よくよく考えればこの村は日本文化にやたら近すぎると。
各家の玄関など顕著で異国の大体の入り口は内開きであるのに対しこの村は外開き戸であるし、なによりこのような辺境の地に自国で払い下げになったレトロ筐体の揃ったゲームセンターがあるなど違和感しかない。
もちろん建築家が日本びいきだったり物好きがいたと言われればそれまでだが、どうにも引っかかるものを感じた旅人は明日誰かに聞いてみようと結論を先送りにした辺りでやっと訪れた睡魔に身を任せた。
もちろん建築家が日本びいきだったり物好きがいたと言われればそれまでだが、どうにも引っかかるものを感じた旅人は明日誰かに聞いてみようと結論を先送りにした辺りでやっと訪れた睡魔に身を任せた。