#23
ー/ー シロが思い出したように話始めると、他の三人は水を打ったように静かになり真剣な顔で次の言葉を待った。
「まず今回おっちゃんについていたのは雪か冷気の怪異、いや妖精って言った方がいいんだっけか」
「妖精じゃないの?」
「呼び方が違うだけで本質的には同じだ」
子供の疑問に答えたシロは、少し掘り下げた説明が必要かと思い方法だけでなく正体から話すことにした。
「いわゆる妖精憑きとか悪魔憑き、神罹りだの神卸しなんて地域によって色々な呼ばれ方があるが基本的に起こっている事象は同じでな。目に見えない何かが生身の身体に入った状態で、俺はこの見えない何かを怪異と呼んでいるわけだ。ここでは妖精憑きって呼ばれてるみたいだからそれに合わせて言うと、今回おっちゃんの身体に入ってたのが雪か冷気の妖精だってのが一目で解ったから外部から熱を加え、傷口から追い出したってわけだ」
「なんで解ったんです?うちのが言うにはただ体温が下がって動かなかったから、ひたすら温めていたと聞いたんだですが」
父親が額をさすりながら聞くと、女は故郷の伝承も交えて説明した。
「寒い地域だと雪や冷気の妖精達が集まって人間に入るってのはよくあんだよ。日本では雪女だの雪ん子って何百年も前の物語に残ってるくらい昔からな。皆一様に寒い地域の話で周囲の温度を下げたり、時には凍らせたりするから判別も付きやすいし対処方も確立されてる。俺がやったのはそれだ。まず妖精の入った者に火傷を負うほどの熱を加えて中の妖精を驚かす。暖炉で温める程度じゃ妖精が自分の陣地を守ろうと反発して逆に周囲を凍らせ始めるからダメだ。今回は手近に燃える薪があったから一本拝借したが熱湯でもいい。熱を加えるのは穴の多い顔が望ましいが頬を火傷すると喋ったり食ったりする時に不便にもなりかねないから額がベストだろうな。まあおっちゃんくらい凍ってりゃ重度の火傷にはならんだろうしどこでも一緒だったかもしれんが一応デコにしておいた。そんで驚いた精霊が熱を持った頭に集中するから、火傷させた位置を冷やされきっちまう前に集まった精霊を傷つけて散らしたって訳だ。あいつらは臆病だから全体の千分の一でも傷が付きゃ残りも勝手に他の穴から抜けていく。だからおっちゃんの中にはもう居ないだろうぜ」
「安心したけど傷をつけるのはそのナイフでなければ駄目なのかい?」
「いいや包丁でもいいし何ならフォークを突き立ててもいい。大事なのは精霊達がこの身体は入ってちゃダメなんだと思わせる事だからな。少し痛い目を見せて気付かせてやればすぐに散る。別に奴らだって悪さがしたくておっちゃんの身体に入ったわけじゃないからな」
「じゃあなんでうちの馬鹿の中に入ったんですか?」
「俺は医者じゃねーからただの予想なんだが、おっちゃん寝てる時にイビキかいてて、時々急にそれが止まったりしてないか?」
父親は寝てるから知らないと言い隣を見ると、シロの対面に座る母親は肯定の意を示した。
「じゃあそれだ。大きな音を立てたものが途端に静かになって、精霊達に死んだと思われたんだろうぜ。死んだなら腐ったら勿体ないし貰っちゃおうってな」
「そんな。もう二度とごめんなんだが、何か対策はないのかい?」
「痩せろ」
もっとお守りだとかシャーマン的な対策を想像していた一家は、たった三文字のアドバイスに困惑した。
「痩せる?それだけで精霊に憑かれなくなるの?」
「寝てる時に息が止まるのを日本では睡眠時無呼吸症候群つってな。大半の理由が太り過ぎや筋肉の衰えによる舌根沈下だって話で、生活習慣や適度な運動をすれば高確率で改善するもんらしい。もちろん他に持病があったり精霊つっても色々いるから絶対に防げるってわけじゃねーが、今回みたいに寝てるだけなのに勘違いして身体に入ろうとする類なら大体は大丈夫だと思うぜ」
父親がなるほどと納得しつつフォークでキビヤックを刺そうとすると、隣から手が伸びて来てその皿を取り上げた。
「母ちゃん?」
「聞いただろ?寒いからって家に籠ってばかりだから精霊に憑かれたんだって」
「明日から頑張るから今日くらい」
「駄目だね。それで今晩また憑かれたらどうするんだい。ほらあんたの晩御飯は御終いだよ。汗だくになるまで走ってきな」
哀れな家主が家から叩きだされるのを見送り、シロは「夫婦の力関係は日本もスピリッツ北部も変わらないようだ」と笑った。それを聞いた他二人もつられて笑ったので、文字通り姦しい声が屋内に響き渡る。
ちなみに父親は言いつけ通り小一時間広場と家を何往復のしていたらしく、それを見て亭主が妖精に憑かれて苦労するのが嫌なご近所さんも真似をしだし、ネリット族の太った男は食後どんなに外が荒れていても汗だくになるまで運動をさせるという風習が生まれる元となったという。
「まず今回おっちゃんについていたのは雪か冷気の怪異、いや妖精って言った方がいいんだっけか」
「妖精じゃないの?」
「呼び方が違うだけで本質的には同じだ」
子供の疑問に答えたシロは、少し掘り下げた説明が必要かと思い方法だけでなく正体から話すことにした。
「いわゆる妖精憑きとか悪魔憑き、神罹りだの神卸しなんて地域によって色々な呼ばれ方があるが基本的に起こっている事象は同じでな。目に見えない何かが生身の身体に入った状態で、俺はこの見えない何かを怪異と呼んでいるわけだ。ここでは妖精憑きって呼ばれてるみたいだからそれに合わせて言うと、今回おっちゃんの身体に入ってたのが雪か冷気の妖精だってのが一目で解ったから外部から熱を加え、傷口から追い出したってわけだ」
「なんで解ったんです?うちのが言うにはただ体温が下がって動かなかったから、ひたすら温めていたと聞いたんだですが」
父親が額をさすりながら聞くと、女は故郷の伝承も交えて説明した。
「寒い地域だと雪や冷気の妖精達が集まって人間に入るってのはよくあんだよ。日本では雪女だの雪ん子って何百年も前の物語に残ってるくらい昔からな。皆一様に寒い地域の話で周囲の温度を下げたり、時には凍らせたりするから判別も付きやすいし対処方も確立されてる。俺がやったのはそれだ。まず妖精の入った者に火傷を負うほどの熱を加えて中の妖精を驚かす。暖炉で温める程度じゃ妖精が自分の陣地を守ろうと反発して逆に周囲を凍らせ始めるからダメだ。今回は手近に燃える薪があったから一本拝借したが熱湯でもいい。熱を加えるのは穴の多い顔が望ましいが頬を火傷すると喋ったり食ったりする時に不便にもなりかねないから額がベストだろうな。まあおっちゃんくらい凍ってりゃ重度の火傷にはならんだろうしどこでも一緒だったかもしれんが一応デコにしておいた。そんで驚いた精霊が熱を持った頭に集中するから、火傷させた位置を冷やされきっちまう前に集まった精霊を傷つけて散らしたって訳だ。あいつらは臆病だから全体の千分の一でも傷が付きゃ残りも勝手に他の穴から抜けていく。だからおっちゃんの中にはもう居ないだろうぜ」
「安心したけど傷をつけるのはそのナイフでなければ駄目なのかい?」
「いいや包丁でもいいし何ならフォークを突き立ててもいい。大事なのは精霊達がこの身体は入ってちゃダメなんだと思わせる事だからな。少し痛い目を見せて気付かせてやればすぐに散る。別に奴らだって悪さがしたくておっちゃんの身体に入ったわけじゃないからな」
「じゃあなんでうちの馬鹿の中に入ったんですか?」
「俺は医者じゃねーからただの予想なんだが、おっちゃん寝てる時にイビキかいてて、時々急にそれが止まったりしてないか?」
父親は寝てるから知らないと言い隣を見ると、シロの対面に座る母親は肯定の意を示した。
「じゃあそれだ。大きな音を立てたものが途端に静かになって、精霊達に死んだと思われたんだろうぜ。死んだなら腐ったら勿体ないし貰っちゃおうってな」
「そんな。もう二度とごめんなんだが、何か対策はないのかい?」
「痩せろ」
もっとお守りだとかシャーマン的な対策を想像していた一家は、たった三文字のアドバイスに困惑した。
「痩せる?それだけで精霊に憑かれなくなるの?」
「寝てる時に息が止まるのを日本では睡眠時無呼吸症候群つってな。大半の理由が太り過ぎや筋肉の衰えによる舌根沈下だって話で、生活習慣や適度な運動をすれば高確率で改善するもんらしい。もちろん他に持病があったり精霊つっても色々いるから絶対に防げるってわけじゃねーが、今回みたいに寝てるだけなのに勘違いして身体に入ろうとする類なら大体は大丈夫だと思うぜ」
父親がなるほどと納得しつつフォークでキビヤックを刺そうとすると、隣から手が伸びて来てその皿を取り上げた。
「母ちゃん?」
「聞いただろ?寒いからって家に籠ってばかりだから精霊に憑かれたんだって」
「明日から頑張るから今日くらい」
「駄目だね。それで今晩また憑かれたらどうするんだい。ほらあんたの晩御飯は御終いだよ。汗だくになるまで走ってきな」
哀れな家主が家から叩きだされるのを見送り、シロは「夫婦の力関係は日本もスピリッツ北部も変わらないようだ」と笑った。それを聞いた他二人もつられて笑ったので、文字通り姦しい声が屋内に響き渡る。
ちなみに父親は言いつけ通り小一時間広場と家を何往復のしていたらしく、それを見て亭主が妖精に憑かれて苦労するのが嫌なご近所さんも真似をしだし、ネリット族の太った男は食後どんなに外が荒れていても汗だくになるまで運動をさせるという風習が生まれる元となったという。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
シロが思い出したように話始めると、他の三人は水を打ったように静かになり真剣な顔で次の言葉を待った。
「まず今回おっちゃんについていたのは雪か冷気の怪異、いや妖精って言った方がいいんだっけか」
「妖精じゃないの?」
「妖精じゃないの?」
「呼び方が違うだけで本質的には同じだ」
子供の疑問に答えたシロは、少し掘り下げた説明が必要かと思い方法だけでなく正体から話すことにした。
「いわゆる妖精憑きとか悪魔憑き、神罹りだの神卸しなんて地域によって色々な呼ばれ方があるが基本的に起こっている事象は同じでな。目に見えない何かが生身の身体に入った状態で、俺はこの見えない何かを怪異と呼んでいるわけだ。ここでは妖精憑きって呼ばれてるみたいだからそれに合わせて言うと、今回おっちゃんの身体に入ってたのが雪か冷気の妖精だってのが一目で解ったから外部から熱を加え、傷口から追い出したってわけだ」
「なんで解ったんです?うちのが言うにはただ体温が下がって動かなかったから、ひたすら温めていたと聞いたんだですが」
「なんで解ったんです?うちのが言うにはただ体温が下がって動かなかったから、ひたすら温めていたと聞いたんだですが」
父親が額をさすりながら聞くと、女は故郷の伝承も交えて説明した。
「寒い地域だと雪や冷気の妖精達が集まって人間に入るってのはよくあんだよ。日本では雪女だの雪ん子って何百年も前の物語に残ってるくらい昔からな。皆一様に寒い地域の話で周囲の温度を下げたり、時には凍らせたりするから判別も付きやすいし対処方も確立されてる。俺がやったのはそれだ。まず妖精の入った者に火傷を負うほどの熱を加えて中の妖精を驚かす。暖炉で温める程度じゃ妖精が自分の陣地を守ろうと反発して逆に周囲を凍らせ始めるからダメだ。今回は手近に燃える薪があったから一本拝借したが熱湯でもいい。熱を加えるのは穴の多い顔が望ましいが頬を火傷すると喋ったり食ったりする時に不便にもなりかねないから額がベストだろうな。まあおっちゃんくらい凍ってりゃ重度の火傷にはならんだろうしどこでも一緒だったかもしれんが一応デコにしておいた。そんで驚いた精霊が熱を持った頭に集中するから、火傷させた位置を冷やされきっちまう前に集まった精霊を傷つけて散らしたって訳だ。あいつらは臆病だから全体の千分の一でも傷が付きゃ残りも勝手に他の穴から抜けていく。だからおっちゃんの中にはもう居ないだろうぜ」
「安心したけど傷をつけるのはそのナイフでなければ駄目なのかい?」
「いいや包丁でもいいし何ならフォークを突き立ててもいい。大事なのは精霊達がこの身体は入ってちゃダメなんだと思わせる事だからな。少し痛い目を見せて気付かせてやればすぐに散る。別に奴らだって悪さがしたくておっちゃんの身体に入ったわけじゃないからな」
「いいや包丁でもいいし何ならフォークを突き立ててもいい。大事なのは精霊達がこの身体は入ってちゃダメなんだと思わせる事だからな。少し痛い目を見せて気付かせてやればすぐに散る。別に奴らだって悪さがしたくておっちゃんの身体に入ったわけじゃないからな」
「じゃあなんでうちの馬鹿の中に入ったんですか?」
「俺は医者じゃねーからただの予想なんだが、おっちゃん寝てる時にイビキかいてて、時々急にそれが止まったりしてないか?」
「俺は医者じゃねーからただの予想なんだが、おっちゃん寝てる時にイビキかいてて、時々急にそれが止まったりしてないか?」
父親は寝てるから知らないと言い隣を見ると、シロの対面に座る母親は肯定の意を示した。
「じゃあそれだ。大きな音を立てたものが途端に静かになって、精霊達に死んだと思われたんだろうぜ。死んだなら腐ったら勿体ないし貰っちゃおうってな」
「そんな。もう二度とごめんなんだが、何か対策はないのかい?」
「そんな。もう二度とごめんなんだが、何か対策はないのかい?」
「痩せろ」
もっとお守りだとかシャーマン的な対策を想像していた一家は、たった三文字のアドバイスに困惑した。
「痩せる?それだけで精霊に憑かれなくなるの?」
「寝てる時に息が止まるのを日本では睡眠時無呼吸症候群つってな。大半の理由が太り過ぎや筋肉の衰えによる舌根沈下だって話で、生活習慣や適度な運動をすれば高確率で改善するもんらしい。もちろん他に持病があったり精霊つっても色々いるから絶対に防げるってわけじゃねーが、今回みたいに寝てるだけなのに勘違いして身体に入ろうとする類なら大体は大丈夫だと思うぜ」
「寝てる時に息が止まるのを日本では睡眠時無呼吸症候群つってな。大半の理由が太り過ぎや筋肉の衰えによる舌根沈下だって話で、生活習慣や適度な運動をすれば高確率で改善するもんらしい。もちろん他に持病があったり精霊つっても色々いるから絶対に防げるってわけじゃねーが、今回みたいに寝てるだけなのに勘違いして身体に入ろうとする類なら大体は大丈夫だと思うぜ」
父親がなるほどと納得しつつフォークでキビヤックを刺そうとすると、隣から手が伸びて来てその皿を取り上げた。
「母ちゃん?」
「聞いただろ?寒いからって家に籠ってばかりだから精霊に憑かれたんだって」
「聞いただろ?寒いからって家に籠ってばかりだから精霊に憑かれたんだって」
「明日から頑張るから今日くらい」
「駄目だね。それで今晩また憑かれたらどうするんだい。ほらあんたの晩御飯は御終いだよ。汗だくになるまで走ってきな」
「駄目だね。それで今晩また憑かれたらどうするんだい。ほらあんたの晩御飯は御終いだよ。汗だくになるまで走ってきな」
哀れな家主が家から叩きだされるのを見送り、シロは「夫婦の力関係は日本もスピリッツ北部も変わらないようだ」と笑った。それを聞いた他二人もつられて笑ったので、文字通り姦しい声が屋内に響き渡る。
ちなみに父親は言いつけ通り小一時間広場と家を何往復のしていたらしく、それを見て亭主が妖精に憑かれて苦労するのが嫌なご近所さんも真似をしだし、ネリット族の太った男は食後どんなに外が荒れていても汗だくになるまで運動をさせるという風習が生まれる元となったという。