第11話 明日への扉
ー/ー ぼくは、”屠るもの”の柄を握りこみ、突きを放った。
グリューンさまは、それを余裕で回避していく。
——余裕?
そうだろうか。
最初から比べると、体の動きにキレはあるものの、表情に真剣さが増しているように感じられる。
そうでないと、ぼくの攻撃をかわせないぐらいまで、ぼくの技量もあがっているのかもしれない。
だんだんと、ぼくもグリューンさまの癖みたいなものも、わかってきていた。
例えば——単調な攻撃は二回まで、とか。
ジャンプしての攻撃の前は、ぼくの足元を狙ってくる、とか。
または、斧刃での強撃の前には、草色の髪の前髪の部分が左右に動く、とかね。
そうした癖の内容をどんどん、積み上げていって、ぼく——というか、ぼくと”屠るもの”で、グリューンさまの攻撃への糸口を少しずつ、開いていった。
二度、三度とぼくは連続して、突きを食らわせる。
——ここで、足払いが来る……。
と思っていると、本当にグリューンさまは足払いをしてきた。
これは癖、ということではなく、”屠るもの”が伝えてきたのだ。
魔力結合、というものがどういうものなのか、ぼくにはわからないけど、言葉ではなく、イメージが直接、胸に浮かぶことがある。
それに従い、ぼくは短く、ジャンプをした。
グリューンさまが、緋色の瞳を見開く。
ぼくは、唇の端をほんのちょっと持ち上げ、そして、”屠るもの”を床に突き立て、宙返りをする。
縦に体が回転する。
視界で天地がひっくり返るが、”屠るもの”の合図で、槍の柄を振り下ろす。
がっき、と手応えがあり、金属音が響いた。
ふたつの槍が激突するのは、久しぶりのことだろう。
というか、最初にぼくがグリューンさまの”鉄扇の意思”の攻撃を受けたきりだから、こちらの攻撃が受けられたのは、はじめてだろう。
それまで、グリューンさまはぼくの攻撃をすべてかわしてきたのだから。
例外は、先程のぼくが”鉄扇の意思”の穂先に”屠るもの”を絡ませた時ぐらいだろう。
グリューンさまが、退く。
距離を取ろうとする。
『坊! 一気に決めるぞ。おれを、グリューンめがけて、投げつけろ!』
体が自然と動いていた。
疑問に思うこともなく、ぼくは”屠るもの”を頭上に構え、一気に投げつけていた。
——もしかしたら、”屠るもの”によって体を動かされていたのかもしれない。
そんなことを思ってしまうぐらい、完璧な投擲だった。
”屠るもの”は、炎を穂先から柄の末端まで、身にまといながら、一気にグリューンさま目指して、空中を走り抜けていった。
『おりゃあああああ!』
”屠るもの”が、空中で震えている。
場の空気すら、燃え立たせながら、引き裂くように、進んでいく。
ぎゅるる……という、風を切る音が聞こえてきた。
——すごい……。
ぼくは、正直に思った。
こんな戦い、見たことがない。
どきどきが止まらず、唾を飲み込んだ。
グリューンさまが、腕を伸ばした。
炎に包まれた”屠るもの”の柄を掴もうとする。
投げつけられた槍の柄を掴んでしまうだなんて——はじめて見た。
すごい反射神経だ。
が、”屠るもの”の勢いは止まらない。
槍は回転しながら、突き進んでいく。
ふたりの力が激突するが、どう見ても、攻撃に徹している”屠るもの”のほうが、有利だろう。
そして——”屠るもの”が、グリューンさまの肩口に突き刺さった。
”屠るもの”は、胸を狙っていたが、逸らされた形だ。
「あぁっ!」
グリューンさまが、妙に艶めいた声を放つ。
“鉄扇の意思”が床に転がり、グリューンさまの冠も落ちた。
そして、グリューンさまも、その場に倒れ伏した。
”屠るもの”は、グリューンさまの肩口の部分の緑色の着衣の部分を紅に染めていた。
一撃——以上の打撃を与えた、ということになるのだろう。
”屠るもの”は、炎を吹き消し、そしてまた、ぼくのところに戻ってきた。
『やった! やったぞ、ジンライ。これで、試練は終わりだ。やっと、外の世界へと出られる!』
本当に嬉しそうな声で、”屠るもの”が叫んだ。
「あーあ、やられてしまったぞね。もう少し、戦いを楽しめると思ったのじゃがのぉ……しかし、ここまでの戦いぶりから、坊がいずれ、試練を克服するのは、見えてはいたぞね」
床に座り込みながら、グリューンさまは言った。
まっすぐに、ぼくを見上げてくる。
悔しい——という表情のなかに、喜びの感情も含まれているのを、ぼくは感じた。
ぼくは、グリューンさまに歩み寄ると、手を差しだした。
「もう、さまは必要ないぞね。ジンライ、じゃな。これから、よろしく頼むぞえ」
「は……はいっ」
ぼくは、グリューンの手をしっかりと握り、答えた。
使徒とは言うが、体温はあるようで、彼女の手は暖かかった。
声が聞こえたので、そちらを見ると、アカネとチカが呪性金属の拘束から解かれ、床に四つん這いとなっていた。
自分がなにをしていたのか、わからない様子で、周囲を見渡している。
グリューンと戦っていたのは、どのくらいの時間なのだろうか。
もしかしたら、時間は止まっていたのかもしれない、と思いながら、ぼくはふたりに歩み寄っていった。
「ジンくん? えっと、なんだか、夢でも見ていた気分なんだけどー」
「ちょっと、どういうことなのかしら。私も、ジンライが女戦士の方と激しい戦いをしている、とってもリアルな夢は見たような気がしますけど。あとで、きっちりと説明して頂かないと」
——ということは、グリューンが眠っている彼女たちに、ぼくたちの戦いを見せていたのだろうか。
振り返ると、グリューンはいなくなっていた。
でも、掌のなかには、”屠るもの”は、残っている。
『エーテル・リンケージを確認してみろ』
”屠るもの”が、そう言ってきた。
「う、うん」
エーテル・リンケージを開いた。
電源を入れ、メニューから戦技盤を確認する。
中央のアセンダントのところのスロットが開いている。
——天賦だ!
ようやく、ぼくも天賦に目覚めたのだ。
「やった……やったぁああああ!」
ぼくは、叫び声を放った。
「ねえさん、チカ! やった……ぼく、天賦に目覚めたよ。これで、アリアンフロッドとして認められるよね」
ぼくはふたりに、グリューンや”屠るもの”について、説明をした。
アカネとチカは、まだ信じ切っていない顔をしていたが、夢の内容や、ぼくが天賦を得ていることなどで、納得してくれたみたいだ。
もう一度、ぼくはエーテル・リンケージの画面のなかの、戦技盤を見てみる。
まだ、天賦しかないけど、確かにスロットは開いている。
それと同時に、新しいスキルもいくつか、獲得していた。
アカネに教えてもらいながら、ぼくはスキルのひとつ、ストレージを開いてみる。
ストレージは、アリアンフロッド以外の人間も獲得することが可能なスキルだが、それを使うことによって、本当に自分はアリアンフロッドとなったのだ、と実感することが出来た。
「わぁ、すごい……本当にストレージが出来ちゃった」
ぼくは、”屠るもの”も、ストレージにしまおうとしたのだけど、どうすればいいのだろう?
『おれは、天賦の一部だからな。ストレージには収められんよ。槍の穂先に、なんでもいいのだが、被せるものをイメージしてみろや』
ぼくは言われた通りに、“屠るもの”の炎の形をした穂先に、布状のものが被せられるイメージをしてみた。
すると——手にしていた”屠るもの”が消え、かわりに戦技盤のスロットの色が変わった。
炎に彩られていたスロットが、ただの丸い円になってしまう。
それでも、スロットには“屠るもの”を手にしているグリューンのアイコンが描かれているので、ぼくが天賦を得ていることは、ひと目でわかる。
「ねぇ、ジンくん。不思議だよねー。クロノスに使徒って、一体、何者なのー。グリューンさんも、ちょっと不思議な人だよね。あ、人じゃないんだっけ」
「それは——ぼくにも、わからないよ。一度、学園に戻って聞いてみないとね」
「そうですわね。まだ、塔からの脱出は続くのですし」
『それなら、玉座の側を調べてみろや』
”屠るもの”が、会話に割り込んできた。
といっても、アカネとチカには、聞こえないみたいだ。
ぼくは言われた通り、玉座の周りを調べてみた。
床のところに、魔法陣のようなものがあった。
記号は複雑な模様として描かれていて、床の他の記号に紛れているように描かれているが、白く発光しているので、それが転送用の陣であることがわかった。
「転送陣って、どうも、いい記憶がないのですが……これって、どこに繋がっているのでしょうか」
チカが当然の疑問を口にした。
『この転送陣は、塔の外へと脱出するためのものだ。使徒には機能しないが、お前たちならば、無事、運んでいってくれるはずだ』
ぼくは、”屠るもの”の説明をふたりにしてあげた。
「そうだねー、ちょっと心配だけど、試してみてもいいかもー。もし、失敗しても、ジンくんと、槍さんがあたしたちを守ってくれるんだよねー」
槍さん、という言葉に、ぼくはくすりと笑いそうになったが、まぁ、天賦も得られたので、少しぐらいは無理をしても、通る自信はあった。
「よし。それじゃまた、手を繋いでみようか」
ぼくが提案する。
『お前たち、仲がいいな』
”屠るもの”の皮肉に、ぼくは肩をすくめると、両手を広げて、手を繋いだ。
「じゃ、いくよー」
アカネが声をかける。
そして、ぼくたちはまた、転送陣へと踏み込んでいった。
グリューンさまは、それを余裕で回避していく。
——余裕?
そうだろうか。
最初から比べると、体の動きにキレはあるものの、表情に真剣さが増しているように感じられる。
そうでないと、ぼくの攻撃をかわせないぐらいまで、ぼくの技量もあがっているのかもしれない。
だんだんと、ぼくもグリューンさまの癖みたいなものも、わかってきていた。
例えば——単調な攻撃は二回まで、とか。
ジャンプしての攻撃の前は、ぼくの足元を狙ってくる、とか。
または、斧刃での強撃の前には、草色の髪の前髪の部分が左右に動く、とかね。
そうした癖の内容をどんどん、積み上げていって、ぼく——というか、ぼくと”屠るもの”で、グリューンさまの攻撃への糸口を少しずつ、開いていった。
二度、三度とぼくは連続して、突きを食らわせる。
——ここで、足払いが来る……。
と思っていると、本当にグリューンさまは足払いをしてきた。
これは癖、ということではなく、”屠るもの”が伝えてきたのだ。
魔力結合、というものがどういうものなのか、ぼくにはわからないけど、言葉ではなく、イメージが直接、胸に浮かぶことがある。
それに従い、ぼくは短く、ジャンプをした。
グリューンさまが、緋色の瞳を見開く。
ぼくは、唇の端をほんのちょっと持ち上げ、そして、”屠るもの”を床に突き立て、宙返りをする。
縦に体が回転する。
視界で天地がひっくり返るが、”屠るもの”の合図で、槍の柄を振り下ろす。
がっき、と手応えがあり、金属音が響いた。
ふたつの槍が激突するのは、久しぶりのことだろう。
というか、最初にぼくがグリューンさまの”鉄扇の意思”の攻撃を受けたきりだから、こちらの攻撃が受けられたのは、はじめてだろう。
それまで、グリューンさまはぼくの攻撃をすべてかわしてきたのだから。
例外は、先程のぼくが”鉄扇の意思”の穂先に”屠るもの”を絡ませた時ぐらいだろう。
グリューンさまが、退く。
距離を取ろうとする。
『坊! 一気に決めるぞ。おれを、グリューンめがけて、投げつけろ!』
体が自然と動いていた。
疑問に思うこともなく、ぼくは”屠るもの”を頭上に構え、一気に投げつけていた。
——もしかしたら、”屠るもの”によって体を動かされていたのかもしれない。
そんなことを思ってしまうぐらい、完璧な投擲だった。
”屠るもの”は、炎を穂先から柄の末端まで、身にまといながら、一気にグリューンさま目指して、空中を走り抜けていった。
『おりゃあああああ!』
”屠るもの”が、空中で震えている。
場の空気すら、燃え立たせながら、引き裂くように、進んでいく。
ぎゅるる……という、風を切る音が聞こえてきた。
——すごい……。
ぼくは、正直に思った。
こんな戦い、見たことがない。
どきどきが止まらず、唾を飲み込んだ。
グリューンさまが、腕を伸ばした。
炎に包まれた”屠るもの”の柄を掴もうとする。
投げつけられた槍の柄を掴んでしまうだなんて——はじめて見た。
すごい反射神経だ。
が、”屠るもの”の勢いは止まらない。
槍は回転しながら、突き進んでいく。
ふたりの力が激突するが、どう見ても、攻撃に徹している”屠るもの”のほうが、有利だろう。
そして——”屠るもの”が、グリューンさまの肩口に突き刺さった。
”屠るもの”は、胸を狙っていたが、逸らされた形だ。
「あぁっ!」
グリューンさまが、妙に艶めいた声を放つ。
“鉄扇の意思”が床に転がり、グリューンさまの冠も落ちた。
そして、グリューンさまも、その場に倒れ伏した。
”屠るもの”は、グリューンさまの肩口の部分の緑色の着衣の部分を紅に染めていた。
一撃——以上の打撃を与えた、ということになるのだろう。
”屠るもの”は、炎を吹き消し、そしてまた、ぼくのところに戻ってきた。
『やった! やったぞ、ジンライ。これで、試練は終わりだ。やっと、外の世界へと出られる!』
本当に嬉しそうな声で、”屠るもの”が叫んだ。
「あーあ、やられてしまったぞね。もう少し、戦いを楽しめると思ったのじゃがのぉ……しかし、ここまでの戦いぶりから、坊がいずれ、試練を克服するのは、見えてはいたぞね」
床に座り込みながら、グリューンさまは言った。
まっすぐに、ぼくを見上げてくる。
悔しい——という表情のなかに、喜びの感情も含まれているのを、ぼくは感じた。
ぼくは、グリューンさまに歩み寄ると、手を差しだした。
「もう、さまは必要ないぞね。ジンライ、じゃな。これから、よろしく頼むぞえ」
「は……はいっ」
ぼくは、グリューンの手をしっかりと握り、答えた。
使徒とは言うが、体温はあるようで、彼女の手は暖かかった。
声が聞こえたので、そちらを見ると、アカネとチカが呪性金属の拘束から解かれ、床に四つん這いとなっていた。
自分がなにをしていたのか、わからない様子で、周囲を見渡している。
グリューンと戦っていたのは、どのくらいの時間なのだろうか。
もしかしたら、時間は止まっていたのかもしれない、と思いながら、ぼくはふたりに歩み寄っていった。
「ジンくん? えっと、なんだか、夢でも見ていた気分なんだけどー」
「ちょっと、どういうことなのかしら。私も、ジンライが女戦士の方と激しい戦いをしている、とってもリアルな夢は見たような気がしますけど。あとで、きっちりと説明して頂かないと」
——ということは、グリューンが眠っている彼女たちに、ぼくたちの戦いを見せていたのだろうか。
振り返ると、グリューンはいなくなっていた。
でも、掌のなかには、”屠るもの”は、残っている。
『エーテル・リンケージを確認してみろ』
”屠るもの”が、そう言ってきた。
「う、うん」
エーテル・リンケージを開いた。
電源を入れ、メニューから戦技盤を確認する。
中央のアセンダントのところのスロットが開いている。
——天賦だ!
ようやく、ぼくも天賦に目覚めたのだ。
「やった……やったぁああああ!」
ぼくは、叫び声を放った。
「ねえさん、チカ! やった……ぼく、天賦に目覚めたよ。これで、アリアンフロッドとして認められるよね」
ぼくはふたりに、グリューンや”屠るもの”について、説明をした。
アカネとチカは、まだ信じ切っていない顔をしていたが、夢の内容や、ぼくが天賦を得ていることなどで、納得してくれたみたいだ。
もう一度、ぼくはエーテル・リンケージの画面のなかの、戦技盤を見てみる。
まだ、天賦しかないけど、確かにスロットは開いている。
それと同時に、新しいスキルもいくつか、獲得していた。
アカネに教えてもらいながら、ぼくはスキルのひとつ、ストレージを開いてみる。
ストレージは、アリアンフロッド以外の人間も獲得することが可能なスキルだが、それを使うことによって、本当に自分はアリアンフロッドとなったのだ、と実感することが出来た。
「わぁ、すごい……本当にストレージが出来ちゃった」
ぼくは、”屠るもの”も、ストレージにしまおうとしたのだけど、どうすればいいのだろう?
『おれは、天賦の一部だからな。ストレージには収められんよ。槍の穂先に、なんでもいいのだが、被せるものをイメージしてみろや』
ぼくは言われた通りに、“屠るもの”の炎の形をした穂先に、布状のものが被せられるイメージをしてみた。
すると——手にしていた”屠るもの”が消え、かわりに戦技盤のスロットの色が変わった。
炎に彩られていたスロットが、ただの丸い円になってしまう。
それでも、スロットには“屠るもの”を手にしているグリューンのアイコンが描かれているので、ぼくが天賦を得ていることは、ひと目でわかる。
「ねぇ、ジンくん。不思議だよねー。クロノスに使徒って、一体、何者なのー。グリューンさんも、ちょっと不思議な人だよね。あ、人じゃないんだっけ」
「それは——ぼくにも、わからないよ。一度、学園に戻って聞いてみないとね」
「そうですわね。まだ、塔からの脱出は続くのですし」
『それなら、玉座の側を調べてみろや』
”屠るもの”が、会話に割り込んできた。
といっても、アカネとチカには、聞こえないみたいだ。
ぼくは言われた通り、玉座の周りを調べてみた。
床のところに、魔法陣のようなものがあった。
記号は複雑な模様として描かれていて、床の他の記号に紛れているように描かれているが、白く発光しているので、それが転送用の陣であることがわかった。
「転送陣って、どうも、いい記憶がないのですが……これって、どこに繋がっているのでしょうか」
チカが当然の疑問を口にした。
『この転送陣は、塔の外へと脱出するためのものだ。使徒には機能しないが、お前たちならば、無事、運んでいってくれるはずだ』
ぼくは、”屠るもの”の説明をふたりにしてあげた。
「そうだねー、ちょっと心配だけど、試してみてもいいかもー。もし、失敗しても、ジンくんと、槍さんがあたしたちを守ってくれるんだよねー」
槍さん、という言葉に、ぼくはくすりと笑いそうになったが、まぁ、天賦も得られたので、少しぐらいは無理をしても、通る自信はあった。
「よし。それじゃまた、手を繋いでみようか」
ぼくが提案する。
『お前たち、仲がいいな』
”屠るもの”の皮肉に、ぼくは肩をすくめると、両手を広げて、手を繋いだ。
「じゃ、いくよー」
アカネが声をかける。
そして、ぼくたちはまた、転送陣へと踏み込んでいった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ぼくは、”屠るもの”の柄を握りこみ、突きを放った。
グリューンさまは、それを余裕で回避していく。
グリューンさまは、それを余裕で回避していく。
——余裕?
そうだろうか。
そうだろうか。
最初から比べると、体の動きにキレはあるものの、表情に真剣さが増しているように感じられる。
そうでないと、ぼくの攻撃をかわせないぐらいまで、ぼくの技量もあがっているのかもしれない。
そうでないと、ぼくの攻撃をかわせないぐらいまで、ぼくの技量もあがっているのかもしれない。
だんだんと、ぼくもグリューンさまの癖みたいなものも、わかってきていた。
例えば——単調な攻撃は二回まで、とか。
ジャンプしての攻撃の前は、ぼくの足元を狙ってくる、とか。
または、斧刃での強撃の前には、草色の髪の前髪の部分が左右に動く、とかね。
例えば——単調な攻撃は二回まで、とか。
ジャンプしての攻撃の前は、ぼくの足元を狙ってくる、とか。
または、斧刃での強撃の前には、草色の髪の前髪の部分が左右に動く、とかね。
そうした癖の内容をどんどん、積み上げていって、ぼく——というか、ぼくと”屠るもの”で、グリューンさまの攻撃への糸口を少しずつ、開いていった。
二度、三度とぼくは連続して、突きを食らわせる。
——ここで、足払いが来る……。
——ここで、足払いが来る……。
と思っていると、本当にグリューンさまは足払いをしてきた。
これは癖、ということではなく、”屠るもの”が伝えてきたのだ。
これは癖、ということではなく、”屠るもの”が伝えてきたのだ。
魔力結合、というものがどういうものなのか、ぼくにはわからないけど、言葉ではなく、イメージが直接、胸に浮かぶことがある。
それに従い、ぼくは短く、ジャンプをした。
グリューンさまが、緋色の瞳を見開く。
それに従い、ぼくは短く、ジャンプをした。
グリューンさまが、緋色の瞳を見開く。
ぼくは、唇の端をほんのちょっと持ち上げ、そして、”屠るもの”を床に突き立て、宙返りをする。
縦に体が回転する。
視界で天地がひっくり返るが、”屠るもの”の合図で、槍の柄を振り下ろす。
縦に体が回転する。
視界で天地がひっくり返るが、”屠るもの”の合図で、槍の柄を振り下ろす。
がっき、と手応えがあり、金属音が響いた。
ふたつの槍が激突するのは、久しぶりのことだろう。
ふたつの槍が激突するのは、久しぶりのことだろう。
というか、最初にぼくがグリューンさまの”鉄扇の意思”の攻撃を受けたきりだから、こちらの攻撃が受けられたのは、はじめてだろう。
それまで、グリューンさまはぼくの攻撃をすべてかわしてきたのだから。
それまで、グリューンさまはぼくの攻撃をすべてかわしてきたのだから。
例外は、先程のぼくが”鉄扇の意思”の穂先に”屠るもの”を絡ませた時ぐらいだろう。
グリューンさまが、退く。
距離を取ろうとする。
グリューンさまが、退く。
距離を取ろうとする。
『坊! 一気に決めるぞ。おれを、グリューンめがけて、投げつけろ!』
体が自然と動いていた。
疑問に思うこともなく、ぼくは”屠るもの”を頭上に構え、一気に投げつけていた。
体が自然と動いていた。
疑問に思うこともなく、ぼくは”屠るもの”を頭上に構え、一気に投げつけていた。
——もしかしたら、”屠るもの”によって体を動かされていたのかもしれない。
そんなことを思ってしまうぐらい、完璧な投擲だった。
”屠るもの”は、炎を穂先から柄の末端まで、身にまといながら、一気にグリューンさま目指して、空中を走り抜けていった。
そんなことを思ってしまうぐらい、完璧な投擲だった。
”屠るもの”は、炎を穂先から柄の末端まで、身にまといながら、一気にグリューンさま目指して、空中を走り抜けていった。
『おりゃあああああ!』
”屠るもの”が、空中で震えている。
場の空気すら、燃え立たせながら、引き裂くように、進んでいく。
ぎゅるる……という、風を切る音が聞こえてきた。
”屠るもの”が、空中で震えている。
場の空気すら、燃え立たせながら、引き裂くように、進んでいく。
ぎゅるる……という、風を切る音が聞こえてきた。
——すごい……。
ぼくは、正直に思った。
こんな戦い、見たことがない。
ぼくは、正直に思った。
こんな戦い、見たことがない。
どきどきが止まらず、唾を飲み込んだ。
グリューンさまが、腕を伸ばした。
炎に包まれた”屠るもの”の柄を掴もうとする。
グリューンさまが、腕を伸ばした。
炎に包まれた”屠るもの”の柄を掴もうとする。
投げつけられた槍の柄を掴んでしまうだなんて——はじめて見た。
すごい反射神経だ。
すごい反射神経だ。
が、”屠るもの”の勢いは止まらない。
槍は回転しながら、突き進んでいく。
ふたりの力が激突するが、どう見ても、攻撃に徹している”屠るもの”のほうが、有利だろう。
槍は回転しながら、突き進んでいく。
ふたりの力が激突するが、どう見ても、攻撃に徹している”屠るもの”のほうが、有利だろう。
そして——”屠るもの”が、グリューンさまの肩口に突き刺さった。
”屠るもの”は、胸を狙っていたが、逸らされた形だ。
”屠るもの”は、胸を狙っていたが、逸らされた形だ。
「あぁっ!」
グリューンさまが、妙に艶めいた声を放つ。
“鉄扇の意思”が床に転がり、グリューンさまの冠も落ちた。
そして、グリューンさまも、その場に倒れ伏した。
グリューンさまが、妙に艶めいた声を放つ。
“鉄扇の意思”が床に転がり、グリューンさまの冠も落ちた。
そして、グリューンさまも、その場に倒れ伏した。
”屠るもの”は、グリューンさまの肩口の部分の緑色の着衣の部分を紅に染めていた。
一撃——以上の打撃を与えた、ということになるのだろう。
一撃——以上の打撃を与えた、ということになるのだろう。
”屠るもの”は、炎を吹き消し、そしてまた、ぼくのところに戻ってきた。
『やった! やったぞ、ジンライ。これで、試練は終わりだ。やっと、外の世界へと出られる!』
本当に嬉しそうな声で、”屠るもの”が叫んだ。
『やった! やったぞ、ジンライ。これで、試練は終わりだ。やっと、外の世界へと出られる!』
本当に嬉しそうな声で、”屠るもの”が叫んだ。
「あーあ、やられてしまったぞね。もう少し、戦いを楽しめると思ったのじゃがのぉ……しかし、ここまでの戦いぶりから、坊がいずれ、試練を克服するのは、見えてはいたぞね」
床に座り込みながら、グリューンさまは言った。
まっすぐに、ぼくを見上げてくる。
床に座り込みながら、グリューンさまは言った。
まっすぐに、ぼくを見上げてくる。
悔しい——という表情のなかに、喜びの感情も含まれているのを、ぼくは感じた。
ぼくは、グリューンさまに歩み寄ると、手を差しだした。
ぼくは、グリューンさまに歩み寄ると、手を差しだした。
「もう、さまは必要ないぞね。ジンライ、じゃな。これから、よろしく頼むぞえ」
「は……はいっ」
「は……はいっ」
ぼくは、グリューンの手をしっかりと握り、答えた。
使徒とは言うが、体温はあるようで、彼女の手は暖かかった。
使徒とは言うが、体温はあるようで、彼女の手は暖かかった。
声が聞こえたので、そちらを見ると、アカネとチカが呪性金属の拘束から解かれ、床に四つん這いとなっていた。
自分がなにをしていたのか、わからない様子で、周囲を見渡している。
自分がなにをしていたのか、わからない様子で、周囲を見渡している。
グリューンと戦っていたのは、どのくらいの時間なのだろうか。
もしかしたら、時間は止まっていたのかもしれない、と思いながら、ぼくはふたりに歩み寄っていった。
もしかしたら、時間は止まっていたのかもしれない、と思いながら、ぼくはふたりに歩み寄っていった。
「ジンくん? えっと、なんだか、夢でも見ていた気分なんだけどー」
「ちょっと、どういうことなのかしら。私も、ジンライが女戦士の方と激しい戦いをしている、とってもリアルな夢は見たような気がしますけど。あとで、きっちりと説明して頂かないと」
「ちょっと、どういうことなのかしら。私も、ジンライが女戦士の方と激しい戦いをしている、とってもリアルな夢は見たような気がしますけど。あとで、きっちりと説明して頂かないと」
——ということは、グリューンが眠っている彼女たちに、ぼくたちの戦いを見せていたのだろうか。
振り返ると、グリューンはいなくなっていた。
でも、掌のなかには、”屠るもの”は、残っている。
振り返ると、グリューンはいなくなっていた。
でも、掌のなかには、”屠るもの”は、残っている。
『エーテル・リンケージを確認してみろ』
”屠るもの”が、そう言ってきた。
「う、うん」
”屠るもの”が、そう言ってきた。
「う、うん」
エーテル・リンケージを開いた。
電源を入れ、メニューから戦技盤を確認する。
中央のアセンダントのところのスロットが開いている。
電源を入れ、メニューから戦技盤を確認する。
中央のアセンダントのところのスロットが開いている。
——天賦だ!
ようやく、ぼくも天賦に目覚めたのだ。
「やった……やったぁああああ!」
ぼくは、叫び声を放った。
ようやく、ぼくも天賦に目覚めたのだ。
「やった……やったぁああああ!」
ぼくは、叫び声を放った。
「ねえさん、チカ! やった……ぼく、天賦に目覚めたよ。これで、アリアンフロッドとして認められるよね」
ぼくはふたりに、グリューンや”屠るもの”について、説明をした。
アカネとチカは、まだ信じ切っていない顔をしていたが、夢の内容や、ぼくが天賦を得ていることなどで、納得してくれたみたいだ。
ぼくはふたりに、グリューンや”屠るもの”について、説明をした。
アカネとチカは、まだ信じ切っていない顔をしていたが、夢の内容や、ぼくが天賦を得ていることなどで、納得してくれたみたいだ。
もう一度、ぼくはエーテル・リンケージの画面のなかの、戦技盤を見てみる。
まだ、天賦しかないけど、確かにスロットは開いている。
それと同時に、新しいスキルもいくつか、獲得していた。
まだ、天賦しかないけど、確かにスロットは開いている。
それと同時に、新しいスキルもいくつか、獲得していた。
アカネに教えてもらいながら、ぼくはスキルのひとつ、ストレージを開いてみる。
ストレージは、アリアンフロッド以外の人間も獲得することが可能なスキルだが、それを使うことによって、本当に自分はアリアンフロッドとなったのだ、と実感することが出来た。
ストレージは、アリアンフロッド以外の人間も獲得することが可能なスキルだが、それを使うことによって、本当に自分はアリアンフロッドとなったのだ、と実感することが出来た。
「わぁ、すごい……本当にストレージが出来ちゃった」
ぼくは、”屠るもの”も、ストレージにしまおうとしたのだけど、どうすればいいのだろう?
『おれは、天賦の一部だからな。ストレージには収められんよ。槍の穂先に、なんでもいいのだが、被せるものをイメージしてみろや』
ぼくは、”屠るもの”も、ストレージにしまおうとしたのだけど、どうすればいいのだろう?
『おれは、天賦の一部だからな。ストレージには収められんよ。槍の穂先に、なんでもいいのだが、被せるものをイメージしてみろや』
ぼくは言われた通りに、“屠るもの”の炎の形をした穂先に、布状のものが被せられるイメージをしてみた。
すると——手にしていた”屠るもの”が消え、かわりに戦技盤のスロットの色が変わった。
炎に彩られていたスロットが、ただの丸い円になってしまう。
すると——手にしていた”屠るもの”が消え、かわりに戦技盤のスロットの色が変わった。
炎に彩られていたスロットが、ただの丸い円になってしまう。
それでも、スロットには“屠るもの”を手にしているグリューンのアイコンが描かれているので、ぼくが天賦を得ていることは、ひと目でわかる。
「ねぇ、ジンくん。不思議だよねー。クロノスに使徒って、一体、何者なのー。グリューンさんも、ちょっと不思議な人だよね。あ、人じゃないんだっけ」
「ねぇ、ジンくん。不思議だよねー。クロノスに使徒って、一体、何者なのー。グリューンさんも、ちょっと不思議な人だよね。あ、人じゃないんだっけ」
「それは——ぼくにも、わからないよ。一度、学園に戻って聞いてみないとね」
「そうですわね。まだ、塔からの脱出は続くのですし」
「そうですわね。まだ、塔からの脱出は続くのですし」
『それなら、玉座の側を調べてみろや』
”屠るもの”が、会話に割り込んできた。
といっても、アカネとチカには、聞こえないみたいだ。
”屠るもの”が、会話に割り込んできた。
といっても、アカネとチカには、聞こえないみたいだ。
ぼくは言われた通り、玉座の周りを調べてみた。
床のところに、魔法陣のようなものがあった。
床のところに、魔法陣のようなものがあった。
記号は複雑な模様として描かれていて、床の他の記号に紛れているように描かれているが、白く発光しているので、それが転送用の陣であることがわかった。
「転送陣って、どうも、いい記憶がないのですが……これって、どこに繋がっているのでしょうか」
チカが当然の疑問を口にした。
「転送陣って、どうも、いい記憶がないのですが……これって、どこに繋がっているのでしょうか」
チカが当然の疑問を口にした。
『この転送陣は、塔の外へと脱出するためのものだ。使徒には機能しないが、お前たちならば、無事、運んでいってくれるはずだ』
ぼくは、”屠るもの”の説明をふたりにしてあげた。
「そうだねー、ちょっと心配だけど、試してみてもいいかもー。もし、失敗しても、ジンくんと、槍さんがあたしたちを守ってくれるんだよねー」
ぼくは、”屠るもの”の説明をふたりにしてあげた。
「そうだねー、ちょっと心配だけど、試してみてもいいかもー。もし、失敗しても、ジンくんと、槍さんがあたしたちを守ってくれるんだよねー」
槍さん、という言葉に、ぼくはくすりと笑いそうになったが、まぁ、天賦も得られたので、少しぐらいは無理をしても、通る自信はあった。
「よし。それじゃまた、手を繋いでみようか」
ぼくが提案する。
「よし。それじゃまた、手を繋いでみようか」
ぼくが提案する。
『お前たち、仲がいいな』
”屠るもの”の皮肉に、ぼくは肩をすくめると、両手を広げて、手を繋いだ。
「じゃ、いくよー」
アカネが声をかける。
”屠るもの”の皮肉に、ぼくは肩をすくめると、両手を広げて、手を繋いだ。
「じゃ、いくよー」
アカネが声をかける。
そして、ぼくたちはまた、転送陣へと踏み込んでいった。