第48話 愛
ー/ー
半月ほど前、桐子は朝風の艦長をしていた第二分身体の悠木を連れて地球に降りた。その後、二人は防空隊が用意した宿舎に寝泊まりしている。広い食堂のテーブルで向かい合わせで座り、メイドに給仕をされて食事を終えた。
「もう放っておいてほしいんだ」と悠木。「オレは独りで行くから」
「そうはいかない」と桐子。「私たちは冥界の女王と約束した。お前と特別攻撃作戦に行くと」
「姉さんがついて来ても足手まといなだけだよ」と悠木。「女王がそんな中身のない条件を付けるとは思えない」
「私と一緒でなければどこにも行かせない」と桐子。
「死人を増やしてどうするんだ」と悠木。「無意味だろ」
「いいや、意味はある。私が納得する」と桐子。
「何を馬鹿な。独りよがりの我儘だろ」と悠木。
「そうだ。何か悪いか?」と桐子。
「あんたらしくない」と悠木。「何でそんな理屈に合わないことをする?」
「おまえが分かってくれないからだ」と桐子。
「どういうことだ?」と悠木。
「その通りの意味だ」と桐子。
「訳が分からない」と悠木。「とにかく、オレはあんたと死ぬつもりはないよ」
「誰となら死ぬつもりだ?」と桐子
「前にも言ったけど、オレは白猫に抱かれて死ぬつもりだった。だが道連れはいらない。今までやって来たことが無駄になっちまうからな」と悠木。
「私より白猫を選ぶという意味か?」と桐子。
「あんたのことは嫌いじゃないけど、信用してないんだ」と悠木。「何度も裏切られてるいるからな」
「そうか。やはりわたしはお前と死ぬしかない」と桐子。
「なぜだ!」と悠木。
「このままでは、おまえから裏切った女だと思われたまま死に別れることになる。そんなことは嫌だ。だからおまえと死ぬ」と桐子。
「感情的だな。あんたらしくない」と悠木。
「それが誤解だ」と桐子。「私は大地の生命を慈しむ神だ」
「面子の問題か? いつものやり口で歴史を書き換えたらいいだろ」と悠木。
「だから違うと言ってるだろう!」と桐子。「私はおまえの不幸の原因を作った。だがそれは私の本意じゃない」
「じゃあどんな意味だよ?」と悠木。
「愛だ」と桐子。
「ああ、あんたは人類を愛してるって言いたいんだろ」と悠木。「オレには関係ないことだ」
「ちがう。お前への愛だ」と桐子。
「宗教の押し売りならお断りだ」と悠木。「間に合ってる」
「個人的な愛だ。お前への」と桐子。
「神様らしくない」と悠木。「他の神に聞こえたら面倒だぞ」
「構わない。お前に誤解され続けるくらいなら、神をやめる」と桐子。「そしてお前と死ぬ」
「オレはあんたとは死なない」と悠木。「あんたに一杯食わされるのはもうたくさんだ」
「誤解だ!」と桐子。
「あんたたち神々はオレの弱さと無能さを見抜いてだますんだ。そして必要になればこき使う」と悠木。「もういい加減にしてくれよ」
「おまえは弱くない」と桐子。「お前は何度も人類を救っている」
「だがそれも、オレに魔力があればこそだ」と悠木。「この戦いで力を出し尽くせば、どの道オレは並み以下の人間に戻る。そうなれば、もう誰からも顧みられない」
「わたしが付いている」と桐子。「お前から離れない」
「嘘だ」と悠木。「忘れたんじゃないだろうな。龍穴回廊でのことを。オレは現実界に戻ってからあんたの宮に行ったんだ」
「すまなかった。その経緯は聞いた」と桐子。
「どうせ人伝の噂話を聞いたんだろ?」と悠木。「他人事だな」
「あんなことになるとは、思いもしなかった」と桐子。
「そうか? 今思えば、いかにもありそうなことだよ」と悠木。「神様ってのがどんな連中かってことが知れて、いい勉強になったよ」
「もう二度とあんなことにはならない」と桐子。
「ああ、二度とあんたを頼らないよ」と悠木。「だからもう一人にしてくれ」
「嫌だ。おまえから二度と離れない」と桐子。「私も学習した。大事なことは人任せにしない」
「オレはあんたを嫌ってるんだ。なぜわからない」と悠木。
「だから何だ? 私がおまえを見放すとでも?」と桐子。「私はおまえの絆神だ。私の心はお前と共にある」
「え? 嘘だろ?」と悠木。「そんな契約した覚えはない」
「当然だ。瞳と私がおまえの面倒を見るというのは、そういうことだ」と桐子。「お前の心の中は、私たちにずっと丸見えだった」
「神ってのは想像以上にひどい連中だな」と悠木。「あんた達、そんな素ぶりを全く見せなかったのは、芝居か?」
「神であるとはそういうことだ」と桐子。「わかっただろう。おまえが何を言っても無駄だ」
「それでどうしろと?」と悠木。
「特別攻撃作戦にお前を一人で行かせてもよい」と桐子。「そのかわり、出撃前に私の宮で儀式に参加してもらう。いいだろう?」
「それだけか?」と悠木。
「そう。それだけだ」と桐子。
「わかったよ」と悠木。
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「もう放っておいてほしいんだ」と悠木。「オレは独りで行くから」
「そうはいかない」と桐子。「私たちは冥界の女王と約束した。お前と特別攻撃作戦に行くと」
「姉さんがついて来ても足手まといなだけだよ」と悠木。「女王がそんな中身のない条件を付けるとは思えない」
「私と一緒でなければどこにも行かせない」と桐子。
「死人を増やしてどうするんだ」と悠木。「無意味だろ」
「いいや、意味はある。私が納得する」と桐子。
「何を馬鹿な。独りよがりの我儘だろ」と悠木。
「そうだ。何か悪いか?」と桐子。
「あんたらしくない」と悠木。「何でそんな理屈に合わないことをする?」
「おまえが分かってくれないからだ」と桐子。
「どういうことだ?」と悠木。
「その通りの意味だ」と桐子。
「訳が分からない」と悠木。「とにかく、オレはあんたと死ぬつもりはないよ」
「誰となら死ぬつもりだ?」と桐子
「前にも言ったけど、オレは白猫に抱かれて死ぬつもりだった。だが道連れはいらない。今までやって来たことが無駄になっちまうからな」と悠木。
「私より白猫を選ぶという意味か?」と桐子。
「あんたのことは嫌いじゃないけど、信用してないんだ」と悠木。「何度も裏切られてるいるからな」
「そうか。やはりわたしはお前と死ぬしかない」と桐子。
「なぜだ!」と悠木。
「このままでは、おまえから裏切った女だと思われたまま死に別れることになる。そんなことは嫌だ。だからおまえと死ぬ」と桐子。
「感情的だな。あんたらしくない」と悠木。
「それが誤解だ」と桐子。「私は大地の生命を慈しむ神だ」
「面子の問題か? いつものやり口で歴史を書き換えたらいいだろ」と悠木。
「だから違うと言ってるだろう!」と桐子。「私はおまえの不幸の原因を作った。だがそれは私の本意じゃない」
「じゃあどんな意味だよ?」と悠木。
「愛だ」と桐子。
「ああ、あんたは人類を愛してるって言いたいんだろ」と悠木。「オレには関係ないことだ」
「ちがう。お前への愛だ」と桐子。
「宗教の押し売りならお断りだ」と悠木。「間に合ってる」
「個人的な愛だ。お前への」と桐子。
「神様らしくない」と悠木。「他の神に聞こえたら面倒だぞ」
「構わない。お前に誤解され続けるくらいなら、神をやめる」と桐子。「そしてお前と死ぬ」
「オレはあんたとは死なない」と悠木。「あんたに一杯食わされるのはもうたくさんだ」
「誤解だ!」と桐子。
「あんたたち神々はオレの弱さと無能さを見抜いてだますんだ。そして必要になればこき使う」と悠木。「もういい加減にしてくれよ」
「おまえは弱くない」と桐子。「お前は何度も人類を救っている」
「だがそれも、オレに魔力があればこそだ」と悠木。「この戦いで力を出し尽くせば、どの道オレは並み以下の人間に戻る。そうなれば、もう誰からも顧みられない」
「わたしが付いている」と桐子。「お前から離れない」
「嘘だ」と悠木。「忘れたんじゃないだろうな。龍穴回廊でのことを。オレは現実界に戻ってからあんたの宮に行ったんだ」
「すまなかった。その経緯は聞いた」と桐子。
「どうせ人伝の噂話を聞いたんだろ?」と悠木。「他人事だな」
「あんなことになるとは、思いもしなかった」と桐子。
「そうか? 今思えば、いかにもありそうなことだよ」と悠木。「神様ってのがどんな連中かってことが知れて、いい勉強になったよ」
「もう二度とあんなことにはならない」と桐子。
「ああ、二度とあんたを頼らないよ」と悠木。「だからもう一人にしてくれ」
「嫌だ。おまえから二度と離れない」と桐子。「私も学習した。大事なことは人任せにしない」
「オレはあんたを嫌ってるんだ。なぜわからない」と悠木。
「だから何だ? 私がおまえを見放すとでも?」と桐子。「私はおまえの絆神だ。私の心はお前と共にある」
「え? 嘘だろ?」と悠木。「そんな契約した覚えはない」
「当然だ。瞳と私がおまえの面倒を見るというのは、そういうことだ」と桐子。「お前の心の中は、私たちにずっと丸見えだった」
「神ってのは想像以上にひどい連中だな」と悠木。「あんた達、そんな素ぶりを全く見せなかったのは、芝居か?」
「神であるとはそういうことだ」と桐子。「わかっただろう。おまえが何を言っても無駄だ」
「それでどうしろと?」と悠木。
「特別攻撃作戦にお前を一人で行かせてもよい」と桐子。「そのかわり、出撃前に私の宮で儀式に参加してもらう。いいだろう?」
「それだけか?」と悠木。
「そう。それだけだ」と桐子。
「わかったよ」と悠木。