第28話_不治の病
ー/ー二人の叫び声が、駅構内に反響する。
「ぬおおおお!!離れろぉおお!!」
とこわは義腕を軸に全身を使って引きはがそうとするが、
「嫌なのだぁああ!!ここが一番あったかいのだぁああ!!」
はいじまは必死に体を密着させ、マフラーと自分の身体の隙間を完全に塞いでいた。
必死の抵抗だ。
「……これは、放っておけませんね」
ひつかはその様子を一瞥し、静かに状況を判断する。
わずかに眉を下げ、羽を揺らしながら一歩前へ。
「私はとこわ様達の様子を見てきます。少々……大変なことになっているようですので」
丁寧に一礼し、戦禍の中心へ歩み寄っていく。
その背を見送りながら、あまがたきは肩をすくめ、くすっと笑った。
「今年も騒がしくなりそうだね。もう早速起きてるけど……」
彼女はどこか楽しそうな様子だが、
対するつきのみやは深く息を吐き、眉間を押さえる。
「あぁ……駅の設備が壊されないことを切に願うよ……」
そのとき――
ひた、ひた、と。
異様に静かな足音が、改札の奥から響いてきた。
まず目に入ったのは、死神を思わせる黒いフード付きのぼろぼろのローブだった。
擦り切れた布地。
腕と足には包帯が雑に巻かれ、所々ほどけて垂れている。
歩くたびに、包帯が床をかすめた。
フードの奥から覗くのは、オレンジ色の髪。
表情は影に隠れているが――口元だけが、わずかに歪んでいる。
そのあまりの変貌ぶりに、さすがのつきのみやも一瞬言葉を失った。
「……『かたす』か?」
「随分と……その、見た目が変わっているようだが……」
かたすは足を止め、ゆっくりと顔を上げる。
そして、妙に芝居がかった動作で胸に手を当てた。
「やぁ、ごきげんよう……」
一拍置いて、首を傾げる。
「……いや、『初めまして』のほうが適切かもしれないな」
「……ん?」
理解が追い付かない。
かたすはその反応を待っていたかのように、嬉々として語り始めた。
「なぜならば……!我は新たな年を迎え入れ――そして!!」
ばっと両腕を天へ突き上げる。
包帯がひらひらと揺れ、ローブの裾が翻る。
「生まれ変わったのだ!!」
一言一言が無駄に大きく、動きも過剰。
完全に、自分に酔っている。
「さぁ!我にひれ伏せッ!そして……崇めよッ!」
胸を張り、足を大きく踏み出す。
「新たな闇の支配者が……ついに!!誕生したのだぁあああッッ!!」
決めポーズ、決め顔。
満足げにもほどがある。
避けようのない沈黙が訪れる。
「えぇ……ど、どうしちゃったの?」
あまがたきは半歩引き、引きつった笑みを浮かべていた。
つきのみやは、ため息交じりに視線を動かす。
「『やみ』……これはどういうことだ?隠れてないで説明してくれないか」
その問いに応えるように――
かたすのすぐ背後から、同じ背丈の影が一歩前に出る。
「流石だな、気づいてたか」
低く、淡々とした声。
青髪のショートヘア。
黒いキャップを深めにかぶり、
ダメージジーンズにパーカーというラフな服装。
かたすとは正反対に、表情はほとんど動かない。
ボーイッシュで、クールな雰囲気を纏う。
「ふふふ……紹介しよう!」
かたすが一歩前に出て、芝居がかった動作で腕を広げる。
「この者こそ、我が魂を分かつ存在――」
――次の瞬間。
やみは、ためらいなく片手を伸ばし、かたすの口を塞いだ。
「むぐっ!?むむーーっ!?」
かたすは目を見開き、両腕をばたばたと振り回して抵抗する。
包帯がほどけ、ローブがずり落ちそうになるが、やみは一切気にしない。
「うちの姉が、ある病気に罹っちまってな。これはその影響だ」
「病気……だと?」
つきのみやは眉をひそめ、顎に手を添える。
「管理人が病に侵されるなんて、聞いたことがないが……」
やみは視線を逸らし、わずかに肩をすくめた。
「あー……いや、正確には病気ってわけじゃない」
言葉を選ぶように、一拍置く。
「まぁ……そういう『時期』なんだ」
妙に歯切れが悪い。
「そういう……時期?」
あまがたきは首を傾げ、理解が追いついていない様子で瞬きをする。
やみは小さくため息を吐く。
「詳しくは、ひつか辺りにでも聞いてくれ……俺からは、説明したくない」
その言葉に、つきのみやはさらに眉間を深くする。
「……益々わからん」
「とにかくだ、あまり触れないで貰えると助かる。勝手に治るだろうしなっ」
やみはようやく、かたすの口から手を離した。
解放されたかたすは数歩よろけ、
一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、素の表情を覗かせた。
「ぶふぁあ!!し、死ぬ……」
だが、すぐに姿勢を正し、芝居がかった咳払いをかますと、
「い、いや!我にはかなり堪えたぞ!!」
「ふふふ……流石、我が妹と言うべきか!!」
勢いよくやみにぎゅっと抱き着く。
「ちょっ……」
やみは顔をしかめるが、突き放しはしない。
ただ、淡々と注意する。
「ほら、人前で抱き着くな。キャラと合ってないから」
そう言いつつも、腕を振りほどくことはせず、かたすの体重をしっかりと受け止めていた。
その光景を見つめながら、つきのみやは静かに息を吐く。
(後で、ひつかに聞いてみるか……)
「ぬおおおお!!離れろぉおお!!」
とこわは義腕を軸に全身を使って引きはがそうとするが、
「嫌なのだぁああ!!ここが一番あったかいのだぁああ!!」
はいじまは必死に体を密着させ、マフラーと自分の身体の隙間を完全に塞いでいた。
必死の抵抗だ。
「……これは、放っておけませんね」
ひつかはその様子を一瞥し、静かに状況を判断する。
わずかに眉を下げ、羽を揺らしながら一歩前へ。
「私はとこわ様達の様子を見てきます。少々……大変なことになっているようですので」
丁寧に一礼し、戦禍の中心へ歩み寄っていく。
その背を見送りながら、あまがたきは肩をすくめ、くすっと笑った。
「今年も騒がしくなりそうだね。もう早速起きてるけど……」
彼女はどこか楽しそうな様子だが、
対するつきのみやは深く息を吐き、眉間を押さえる。
「あぁ……駅の設備が壊されないことを切に願うよ……」
そのとき――
ひた、ひた、と。
異様に静かな足音が、改札の奥から響いてきた。
まず目に入ったのは、死神を思わせる黒いフード付きのぼろぼろのローブだった。
擦り切れた布地。
腕と足には包帯が雑に巻かれ、所々ほどけて垂れている。
歩くたびに、包帯が床をかすめた。
フードの奥から覗くのは、オレンジ色の髪。
表情は影に隠れているが――口元だけが、わずかに歪んでいる。
そのあまりの変貌ぶりに、さすがのつきのみやも一瞬言葉を失った。
「……『かたす』か?」
「随分と……その、見た目が変わっているようだが……」
かたすは足を止め、ゆっくりと顔を上げる。
そして、妙に芝居がかった動作で胸に手を当てた。
「やぁ、ごきげんよう……」
一拍置いて、首を傾げる。
「……いや、『初めまして』のほうが適切かもしれないな」
「……ん?」
理解が追い付かない。
かたすはその反応を待っていたかのように、嬉々として語り始めた。
「なぜならば……!我は新たな年を迎え入れ――そして!!」
ばっと両腕を天へ突き上げる。
包帯がひらひらと揺れ、ローブの裾が翻る。
「生まれ変わったのだ!!」
一言一言が無駄に大きく、動きも過剰。
完全に、自分に酔っている。
「さぁ!我にひれ伏せッ!そして……崇めよッ!」
胸を張り、足を大きく踏み出す。
「新たな闇の支配者が……ついに!!誕生したのだぁあああッッ!!」
決めポーズ、決め顔。
満足げにもほどがある。
避けようのない沈黙が訪れる。
「えぇ……ど、どうしちゃったの?」
あまがたきは半歩引き、引きつった笑みを浮かべていた。
つきのみやは、ため息交じりに視線を動かす。
「『やみ』……これはどういうことだ?隠れてないで説明してくれないか」
その問いに応えるように――
かたすのすぐ背後から、同じ背丈の影が一歩前に出る。
「流石だな、気づいてたか」
低く、淡々とした声。
青髪のショートヘア。
黒いキャップを深めにかぶり、
ダメージジーンズにパーカーというラフな服装。
かたすとは正反対に、表情はほとんど動かない。
ボーイッシュで、クールな雰囲気を纏う。
「ふふふ……紹介しよう!」
かたすが一歩前に出て、芝居がかった動作で腕を広げる。
「この者こそ、我が魂を分かつ存在――」
――次の瞬間。
やみは、ためらいなく片手を伸ばし、かたすの口を塞いだ。
「むぐっ!?むむーーっ!?」
かたすは目を見開き、両腕をばたばたと振り回して抵抗する。
包帯がほどけ、ローブがずり落ちそうになるが、やみは一切気にしない。
「うちの姉が、ある病気に罹っちまってな。これはその影響だ」
「病気……だと?」
つきのみやは眉をひそめ、顎に手を添える。
「管理人が病に侵されるなんて、聞いたことがないが……」
やみは視線を逸らし、わずかに肩をすくめた。
「あー……いや、正確には病気ってわけじゃない」
言葉を選ぶように、一拍置く。
「まぁ……そういう『時期』なんだ」
妙に歯切れが悪い。
「そういう……時期?」
あまがたきは首を傾げ、理解が追いついていない様子で瞬きをする。
やみは小さくため息を吐く。
「詳しくは、ひつか辺りにでも聞いてくれ……俺からは、説明したくない」
その言葉に、つきのみやはさらに眉間を深くする。
「……益々わからん」
「とにかくだ、あまり触れないで貰えると助かる。勝手に治るだろうしなっ」
やみはようやく、かたすの口から手を離した。
解放されたかたすは数歩よろけ、
一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、素の表情を覗かせた。
「ぶふぁあ!!し、死ぬ……」
だが、すぐに姿勢を正し、芝居がかった咳払いをかますと、
「い、いや!我にはかなり堪えたぞ!!」
「ふふふ……流石、我が妹と言うべきか!!」
勢いよくやみにぎゅっと抱き着く。
「ちょっ……」
やみは顔をしかめるが、突き放しはしない。
ただ、淡々と注意する。
「ほら、人前で抱き着くな。キャラと合ってないから」
そう言いつつも、腕を振りほどくことはせず、かたすの体重をしっかりと受け止めていた。
その光景を見つめながら、つきのみやは静かに息を吐く。
(後で、ひつかに聞いてみるか……)
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