@82話 小田原評定
ー/ー
今日、恭吾も恋実も招集を掛けていない。しかし放課後二人は生徒会室に集まっていた。
放課後の時間帯、やっと体感的に日が暮れるのが遅くなったような気がして急ぎ帰る気持ちも遅くなったのか、寂しさからなのか……。自覚していない甘い香りに誘われたように、ここに集った。
ここに来れば会える、二人はそう思ったのかもしれない。
しかし顔を会わせれば、せっかく夕焼けが誘い込んでくれた淡い気持ちは、彼方へと弾けて消える。
恋実は何か話すことを思い浮かべて、一応関係するかもしれない情報として衒学の授業の話をした。
「こんな所でいつまでも『小田原評定』している場合じゃない!」
ついつい恋実の顔を見て優香ちゃん絡みの話となると、この話し方になってしまう。
「何? 小田原評定って」
「そんなことも知らないのか? この……恋実がぁ」
耳に髪を掛ける仕草でいう。勿論恭吾の髪の毛は耳に掛かるほど長くない。
「あ、今、恋実と書いてバカチンって読んだなぁ!」
「いいか、小田原評定って言うのはな、多くの人が集まって相談しても結論が出ず、決定を見ないことをいうんだ。
天正18年(1590)、豊臣秀吉が北条氏の『小田原』城を攻めたとき、城内で和戦の『評定』が長引き、ついに決定を見ないまま滅ぼされたことから出た言葉、だ」
「ふーん」
「女は歴史に弱いからな……」
「歴史なの? 諺とか格言とは違うの?」
恋実の言葉に恭吾は少し考え込む。掌は離したままで口元辺りで五本の指の腹だけを合わせる『シャーロックホームズハンド』のポーズだ。
暫く声も掛けないで傍観していた恋実には、『チーン』と、どこかで鳴った気がした。豆電球が光ったようにも思えた。
恭吾が顔を上げる。
「……そうか……小田原評定、水掛け論、平行線、押し問答……バカチンまたしてもファインプレーかもしれない!! いとをかし……」
「あ、今度はバカチンと書いて恋実と読んだな!」
「何で分かるんだ?」
「女が歴史に弱くても、現在起きている事くらいは分かるんだからっ!」
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放課後の時間帯、やっと体感的に日が暮れるのが遅くなったような気がして急ぎ帰る気持ちも遅くなったのか、寂しさからなのか……。自覚していない甘い香りに誘われたように、ここに集った。
ここに来れば会える、二人はそう思ったのかもしれない。
しかし顔を会わせれば、せっかく夕焼けが誘い込んでくれた淡い気持ちは、彼方へと弾けて消える。
恋実は何か話すことを思い浮かべて、一応関係するかもしれない情報として衒学の授業の話をした。
「こんな所でいつまでも『小田原評定』している場合じゃない!」
ついつい恋実の顔を見て優香ちゃん絡みの話となると、この話し方になってしまう。
「何? 小田原評定って」
「そんなことも知らないのか? この……|恋実《バカチン》がぁ」
耳に髪を掛ける仕草でいう。勿論恭吾の髪の毛は耳に掛かるほど長くない。
「あ、今、恋実と書いてバカチンって読んだなぁ!」
「いいか、小田原評定って言うのはな、多くの人が集まって相談しても結論が出ず、決定を見ないことをいうんだ。
天正18年(1590)、豊臣秀吉が北条氏の『小田原』城を攻めたとき、城内で和戦の『評定』が長引き、ついに決定を見ないまま滅ぼされたことから出た言葉、だ」
「ふーん」
「女は歴史に弱いからな……」
「歴史なの? 諺とか格言とは違うの?」
恋実の言葉に恭吾は少し考え込む。掌は離したままで口元辺りで五本の指の腹だけを合わせる『シャーロックホームズハンド』のポーズだ。
暫く声も掛けないで傍観していた恋実には、『チーン』と、どこかで鳴った気がした。豆電球が光ったようにも思えた。
恭吾が顔を上げる。
「……そうか……小田原評定、水掛け論、平行線、押し問答……|バカチン《恋実》またしてもファインプレーかもしれない!! いとをかし……」
「あ、今度はバカチンと書いて恋実と読んだな!」
「何で分かるんだ?」
「女が歴史に弱くても、現在起きている事くらいは分かるんだからっ!」