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@80話

ー/ー





「大丈夫、あれは絶対に優香ちゃんのチョコだ……うん……あの味は奇麗な優香ちゃんにしか出せない……大丈夫……信じろ、信じろ……」


 


 呪文のように自らに言い聞かせている。もう恋実は何も言うことはできなかった。


 


 恋実は恭吾の背中に手を回すと科学捜査研究室(理科室)を出る。カラカラと響きながら滑っていく扉が、二人の重い足取りとやけに対照的だ。


 


 


 


 


 自転車を押して歩く。あれから会話を交わしてはいない。


 


 下り坂が南を向いて前方が開けると冬の星空のスクリーン。以前よりほんの少し西にずれて見えるオリオン座が奇麗だ。


 


 このシチュエーションが恋人の二人なら……恋実はこの奇麗な夜空を見つめてそう思う……。そう思うとオリオンがサソリに刺されたように胸が痛む。


 オリオンとサソリが星座になったように天に逃げてしまいたい。


 


 堪らず恋実は沈黙を破った。


 


 


 


「ね、恭吾……もし……もし優香ちゃんの事件が本当だったら……って言うか、キス……とかも本当に彼……彼氏だったらどう、するの?」


 


 いきなり聞きにくいことを聞いてしまった……そして言って気付いた。


 


 


(この捜査って何調べてるの? 犯人って何?)


 


 恋実はそう思ったものの、今更だから考えることに急いで蓋をした。


 


 


 


「スタンバーグの愛の三角形理論で考えて、『親密さ』、『情熱』、『公約(責任)』のどれが強いかでその関係をパターン化する。


 親密さは親しみの深さ、情熱は性的欲求、公約はお互いの関連の強さを表す。


 情熱は強いが他が弱いと夢中愛タイプ。公約は強いが他が弱いと虚愛タイプ。といった具合だ」


 


 恭吾は普通に話し出す。


 


 


「想像の範疇から逃れられないが、恐らく……現状から考察するに、もし優香ちゃんらが彼氏彼女の関係だとしたら、情熱は強いが他が弱い夢中愛タイプ……もしくは情熱と親密が高いロマンチックな情熱タイプ……。


 これらは熱が少しでも冷めれば容易だが、その冷ますことが難しい……。例えば現状を打破するほどの、劇的な愛の告白をする、とかね」


 


 


 恋実はただ黙っている、前を向いたまま。色々考えているんだな、と恭吾の一生懸命に敬意すら感じる。


 


 


 


「俺ら二人は親密性と公約は強いが情熱は弱いと友愛タイプ。そんな感じかな……」


 


 前だけ見つめて相槌もしない恋実を見て、恭吾は聞こえないように呟いた。




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「大丈夫、あれは絶対に優香ちゃんのチョコだ……うん……あの味は奇麗な優香ちゃんにしか出せない……大丈夫……信じろ、信じろ……」
 呪文のように自らに言い聞かせている。もう恋実は何も言うことはできなかった。
 恋実は恭吾の背中に手を回すと|科学捜査研究室《理科室》を出る。カラカラと響きながら滑っていく扉が、二人の重い足取りとやけに対照的だ。
 自転車を押して歩く。あれから会話を交わしてはいない。
 下り坂が南を向いて前方が開けると冬の星空のスクリーン。以前よりほんの少し西にずれて見えるオリオン座が奇麗だ。
 このシチュエーションが恋人の二人なら……恋実はこの奇麗な夜空を見つめてそう思う……。そう思うとオリオンがサソリに刺されたように胸が痛む。
 オリオンとサソリが星座になったように天に逃げてしまいたい。
 堪らず恋実は沈黙を破った。
「ね、恭吾……もし……もし優香ちゃんの事件が本当だったら……って言うか、キス……とかも本当に彼……彼氏だったらどう、するの?」
 いきなり聞きにくいことを聞いてしまった……そして言って気付いた。
(この捜査って何調べてるの? 犯人って何?)
 恋実はそう思ったものの、今更だから考えることに急いで蓋をした。
「スタンバーグの愛の三角形理論で考えて、『親密さ』、『情熱』、『公約(責任)』のどれが強いかでその関係をパターン化する。
 親密さは親しみの深さ、情熱は性的欲求、公約はお互いの関連の強さを表す。
 情熱は強いが他が弱いと夢中愛タイプ。公約は強いが他が弱いと虚愛タイプ。といった具合だ」
 恭吾は普通に話し出す。
「想像の範疇から逃れられないが、恐らく……現状から考察するに、もし優香ちゃんらが彼氏彼女の関係だとしたら、情熱は強いが他が弱い夢中愛タイプ……もしくは情熱と親密が高いロマンチックな情熱タイプ……。
 これらは熱が少しでも冷めれば容易だが、その冷ますことが難しい……。例えば現状を打破するほどの、劇的な愛の告白をする、とかね」
 恋実はただ黙っている、前を向いたまま。色々考えているんだな、と恭吾の一生懸命に敬意すら感じる。
「俺ら二人は親密性と公約は強いが情熱は弱いと友愛タイプ。そんな感じかな……」
 前だけ見つめて相槌もしない恋実を見て、恭吾は聞こえないように呟いた。