12月に入り、だいぶ年も押し迫って来た。授業も終わり、舞羽は遊馬と部室に向かう途中、意を決して立ち止まった。
舞香から貰ったチケットを、ポケットの中でグッと掴んでいる。その指は震えている。これを何日の間繰り返してきたことだろう。いい加減、美都と舞香に呆れられてしまう。
「あ、あのさ。遊馬君……」
「ん? どうかした?」
絵に描いたように、まるでダメな舞羽。脚本通りの展開。何回か同じシチュエーションを繰り返していれば、遊馬だって思うことはある。今日は、遊馬の方も覚悟が違っていた。
「言いたいことがあるんでしょう? 待つよ」
お膳立ては揃った。舞羽が意を決したそのときだった。
「丁度良かったわ、お二人さん」
楓乃の姿がそこにはあった。
舞羽の顔が引き攣る。その様子を見て取ったからか、遊馬が舞羽と楓乃の間に立つ。
「何か御用なら、俺だけでいいでしょう? 先輩」
「舞羽にもぜひ一緒に聞いて欲しいんだけど?」
その言葉に遊馬は、舞羽に『行け』と合図する。間違いなく楓乃から感じるのは『悪意』だ。
遊馬の背中に冷たい汗が流れる。舞羽が反対方向へと動き出す気配を、背中が感じ取る。
「舞羽、頭の傷はどう? 見せられるようになった?」
楓乃は舞羽に逃げられる前に声を張った。その声は、辺りの空気を振動して舞羽と遊馬の時を止める。絶望がこの一帯の空間を泳いでいた。