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白の断片

ー/ー



        ー*ー

  闇を裂き ひとひら雪は落ちにけり
  冷たき息 枯れ葉に散りゆく

        ー*ー


 
肺の奥をちりりと焼くような、冬の深夜。
街灯も届かぬ森の縁で、
男は立ち止まった。

見上げれば、
天は底知れぬほど深く、重い。
星さえ凍りつくその暗澹とした空から、それはふいに現れた。


闇を裂き、ひとひら雪は落ちにけり。


照明に照らされることもなく、純然たる白の断片が、そっと視界を横切る。

まるで沈黙の一部が剥がれ落ちたかのように。

男は悴んだ掌を空に向ける。

舞い降りた結晶は、一瞬だけ精巧な幾何学模様を見せ、
体温を吸い取ると透明な雫へと変わった。


命を宿した瞬間に消える、あまりに儚い変化。


冷たき息、枯れ葉に散りゆく。

吐き出した白濁の息は、足元の枯れ葉を微かに揺らし、闇に溶けていく。

かつて大切にした言葉も、誰かの体温も、すべてはこの雪のように掌で溶け、
指の隙間から零れ落ちていった。


男は静かに歩み出す。
足跡さえ、いつの間にか白に還ってしまう道を。
ただ、雪の音だけが、
夜の深さに溶けてゆく。



      ー*ー*ー*ー



 *小話日記*

 1月の深夜、森の縁で雪を見た。
街灯もなく、足元の枯れ葉が冷たく揺れる音だけが聞こえる。掌に落ちた雪は、指の隙間から零れて、すぐに消えた。


家に戻ると、暖房の風がやけに柔らかく感じられた。
小さな机の上に置いた紅茶の湯気が、ぼんやりと部屋を満たす。窓の外では、まだ雪が降り続いている。


日記を開いて、今日見たことをそっと書き留める。

「雪が舞った。手のひらに落ちた雪は、言葉のように溶けた」と。


書き終えたページを閉じると、何事もなかったように、夜が静かに過ぎていった。
でも、心のどこかには、あの雪のひとひらが、まだ揺れている気がする。


     ー*ー*ー*ー


  森の縁 雪ひとひら落ちにけり
  凍みたる枝 月光に照らる

  ひとひらの 雪や夜を裂きて
  こごゆる息 梢にこだます

  雪のひとひら 椿の花に舞ひ
  紅をうかべて 夜の静けさ






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        ー*ー
  闇を裂き ひとひら雪は落ちにけり
  冷たき息 枯れ葉に散りゆく
        ー*ー
肺の奥をちりりと焼くような、冬の深夜。
街灯も届かぬ森の縁で、
男は立ち止まった。
見上げれば、
天は底知れぬほど深く、重い。
星さえ凍りつくその暗澹とした空から、それはふいに現れた。
闇を裂き、ひとひら雪は落ちにけり。
照明に照らされることもなく、純然たる白の断片が、そっと視界を横切る。
まるで沈黙の一部が剥がれ落ちたかのように。
男は悴んだ掌を空に向ける。
舞い降りた結晶は、一瞬だけ精巧な幾何学模様を見せ、
体温を吸い取ると透明な雫へと変わった。
命を宿した瞬間に消える、あまりに儚い変化。
冷たき息、枯れ葉に散りゆく。
吐き出した白濁の息は、足元の枯れ葉を微かに揺らし、闇に溶けていく。
かつて大切にした言葉も、誰かの体温も、すべてはこの雪のように掌で溶け、
指の隙間から零れ落ちていった。
男は静かに歩み出す。
足跡さえ、いつの間にか白に還ってしまう道を。
ただ、雪の音だけが、
夜の深さに溶けてゆく。
      ー*ー*ー*ー
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 1月の深夜、森の縁で雪を見た。
街灯もなく、足元の枯れ葉が冷たく揺れる音だけが聞こえる。掌に落ちた雪は、指の隙間から零れて、すぐに消えた。
家に戻ると、暖房の風がやけに柔らかく感じられた。
小さな机の上に置いた紅茶の湯気が、ぼんやりと部屋を満たす。窓の外では、まだ雪が降り続いている。
日記を開いて、今日見たことをそっと書き留める。
「雪が舞った。手のひらに落ちた雪は、言葉のように溶けた」と。
書き終えたページを閉じると、何事もなかったように、夜が静かに過ぎていった。
でも、心のどこかには、あの雪のひとひらが、まだ揺れている気がする。
     ー*ー*ー*ー
  森の縁 雪ひとひら落ちにけり
  凍みたる枝 月光に照らる
  ひとひらの 雪や夜を裂きて
  こごゆる息 梢にこだます
  雪のひとひら 椿の花に舞ひ
  紅をうかべて 夜の静けさ
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