〜3〜
ー/ーその頃アンは公園のベンチで男の人とお話をしていました。気にしなくていいなんて言われてしまうと、逆に気になってしまうアンなのです。
「きみも雨はきらいだろ?」
男の人はさびしそうな顔で聞いてきました。
「うーん、晴れてる日もすきだけど、雨の日も同じくらいすきですよ」
アンは笑顔でこたえます。
「そんなのうそだよ。だって雨の日はさむいし、ぬれてしまうし。外に出るのもいやになってしまって、良いことないじゃないか」
男の人はそう言うと、またうつむいてしまいました。
「お兄さんは雨がきらいなんですか?」
「ああ、大きらいだよ。うんざりしてる」
「わたしじつは傘の妖精なんです」
男の人は首をかしげました。
「わたしのお仕事は、雨の日に傘を売ることなんです」
「ああ、それじゃ雨がふらないとこまるんだね。だから雨がきらいじゃないのか」
「はい、お仕事の日はいろんな人と出会えてとても楽しいです。今日もたくさんの人と思い出をこうかんしました」
アンはそう言ってさいふの中身を男の人に見せました。
「思い出?」
男の人はよく分からないままアンのさいふをのぞいてみました。そこにはおはじきやビー玉、小さな花やかわいい貝がら。なんとセミのぬけがらまであります。
「なんだいこれは?」
さいふだというのお金は一枚しか入っていません。
「傘とこうかんした、出会った人たちとの思い出です」
おはじきは本屋であまやどりしていた女の子に。ビー玉はだがし屋さんのおばあちゃんに。小さな花は犬さんの親子に。貝がらは飛んできたカモメさんとこうかんしたとアンは自慢げに説明します。
「このセミのぬけがらもかい?」
「それは元気な男の子からです。たからものだから大事にしてと言われました」
アンにとってはどれもたからものなので言われるまでもないのでした。
「お金とこうかんじゃなくて大丈夫なのかい?」
男の人が心配してアンに聞きます。アンは怒っているはじきがあたまにうかびます。
「いっしょにお仕事してる友達に、いつも怒られてます」
アンはしたを出して苦笑いをうかべました。するとずっと暗い表情だった男の人も笑ってくれました。
「でもやっぱり、いろんな人と出会えるこのお仕事がわたしはすきです。だから雨の日も大すきです」
アンの言葉にうそはありませんでした。
「楽しい話だったよ。ありがとう。雨の日でも喜んでくれてる人がいると分かってうれしいよ。そうか、きみは傘の妖精さんなのか」
「秘密ですよ」
アンが口もとに手をそえて小さくつぶやくと、男の人はうなずいてくれました。そしてつづけてこんなことを言いました。
「じゃあ、ぼくも秘密をひとつきみにうちあけよう」
アンはちょっとドキドキしてきました。人の秘密を聞くのはちょっとワクワクします。男の人の秘密とはいったいなんなのでしょう。
「じつはぼくは、雨男なんだ」
「えー、お兄さんは雨男さんなんですか」
アンはとてもおどろきました。雨男のお仕事は雨をふらすことです。うわさでは聞いたことのあるアンでしたが、じっさいに会うのはこれが初めてでした。
「そうなんだ。でもぼくが雨をふらすとみんな迷惑そうな顔をするから、ぼくは自分の仕事がいやになっていたんだ」
雨男はかたを落としてうなだれながら、ため息といっしょにそうこぼしました。
「だからさっき、雨男さんは元気がなかったんですね」
「でも、きみみたいに雨を喜んでくれる人がいる事を知って、すこしがんばれそうな気になってきたよ」
「そうですよ。雨男さんがいなかったら、わたしお仕事できなくてさびしくなっちゃいます」
アンがそう言うと雨男はすこしほほえみましたが、まだちょっとさびしそうです。またうつむいてため息をついてしまいました。
「それに雨がふらなかったらダムの水がなくなって、みんなのどがカラカラになっちゃいます」
アンの言葉に雨男は顔をあげました。
アンは思っていることをつづけます。
「森の木やお花も、畑のお野菜や田んぼのお米だって、雨がふらないとこまっちゃいます」
アンの言葉は雨男の顔からみるみる明るさを取りもどしていきます。
「雨男さんのお仕事はみんなにとって、なくてはならないお仕事なんだと思います」
うん、と自分の言葉にうなずいてアンは最後にこう言いました。
「だから、お仕事がんばってください」
思ってもいなかった言葉をかけられて、雨男はとてもよろこびました。
「ありがとう。きみのおかげでとても元気づけられたよ」
雨男はとてもすてきな明るい笑顔で言いました。アンが公園で見つけたときとは別人のようです。
「わたしも雨男さんが元気になってくれてうれしいです」
アンも負けないくらい明るい笑顔でこたえました。
「これはお礼だよ。もらってくれるかい」
雨男はそう言うと、七色に光るちいさな石をアンにわたしました。
「うわぁ、すごくきれい。ありがとうございます」
とても不思議な石で、のぞきこむ角度によっていろんな色に変わります。
「もしもきみが落ち込んで、元気が出なくなってしまったら」
石に負けないくらい目をキラキラさせてながめているアンに雨男が言いました。
「そのときはその石を空に放り投げてごらん。きっときみに笑顔がもどるから」
「わかりました。じゃあ、雨男さんもこの傘をうけとってください。今日の思い出のこうかんです」
「うん、ありがとう。大事にするよ」
そう言って雨男は立ち上がりました。これから北の町へむかうそうです。アンは手をふって雨男を見送りました。おや?すこし歩いたところで、なにか思い出したようにふりかえります。
「あ、それと。ぼくが雨男だってことは」
雨男は大きな声でアンに言いました。
「はーい、秘密ですねー」
アンの返事を聞くと雨男は満足そうにうなずいて去っていきました。あんなに大声で言ったら、秘密もなにもなさそうですけどね。
ふと見上げた空は雨男の気持ちとかさなって、じょじょに明るくなってきていました。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
その頃アンは公園のベンチで男の人とお話をしていました。気にしなくていいなんて言われてしまうと、逆に気になってしまうアンなのです。「きみも雨はきらいだろ?」
男の人はさびしそうな顔で聞いてきました。
「うーん、晴れてる日もすきだけど、雨の日も同じくらいすきですよ」
アンは笑顔でこたえます。
「そんなのうそだよ。だって雨の日はさむいし、ぬれてしまうし。外に出るのもいやになってしまって、良いことないじゃないか」
男の人はそう言うと、またうつむいてしまいました。
「お兄さんは雨がきらいなんですか?」
「ああ、大きらいだよ。うんざりしてる」
「わたしじつは傘の妖精なんです」
男の人は首をかしげました。
「わたしのお仕事は、雨の日に傘を売ることなんです」
「ああ、それじゃ雨がふらないとこまるんだね。だから雨がきらいじゃないのか」
「はい、お仕事の日はいろんな人と出会えてとても楽しいです。今日もたくさんの人と思い出をこうかんしました」
アンはそう言ってさいふの中身を男の人に見せました。
「思い出?」
男の人はよく分からないままアンのさいふをのぞいてみました。そこにはおはじきやビー玉、小さな花やかわいい貝がら。なんとセミのぬけがらまであります。
「なんだいこれは?」
さいふだというのお金は一枚しか入っていません。
「傘とこうかんした、出会った人たちとの思い出です」
おはじきは本屋であまやどりしていた女の子に。ビー玉はだがし屋さんのおばあちゃんに。小さな花は犬さんの親子に。貝がらは飛んできたカモメさんとこうかんしたとアンは自慢げに説明します。
「このセミのぬけがらもかい?」
「それは元気な男の子からです。たからものだから大事にしてと言われました」
アンにとってはどれもたからものなので言われるまでもないのでした。
「お金とこうかんじゃなくて大丈夫なのかい?」
男の人が心配してアンに聞きます。アンは怒っているはじきがあたまにうかびます。
「いっしょにお仕事してる友達に、いつも怒られてます」
アンはしたを出して苦笑いをうかべました。するとずっと暗い表情だった男の人も笑ってくれました。
「でもやっぱり、いろんな人と出会えるこのお仕事がわたしはすきです。だから雨の日も大すきです」
アンの言葉にうそはありませんでした。
「楽しい話だったよ。ありがとう。雨の日でも喜んでくれてる人がいると分かってうれしいよ。そうか、きみは傘の妖精さんなのか」
「秘密ですよ」
アンが口もとに手をそえて小さくつぶやくと、男の人はうなずいてくれました。そしてつづけてこんなことを言いました。
「じゃあ、ぼくも秘密をひとつきみにうちあけよう」
アンはちょっとドキドキしてきました。人の秘密を聞くのはちょっとワクワクします。男の人の秘密とはいったいなんなのでしょう。
「じつはぼくは、雨男なんだ」
「えー、お兄さんは雨男さんなんですか」
アンはとてもおどろきました。雨男のお仕事は雨をふらすことです。うわさでは聞いたことのあるアンでしたが、じっさいに会うのはこれが初めてでした。
「そうなんだ。でもぼくが雨をふらすとみんな迷惑そうな顔をするから、ぼくは自分の仕事がいやになっていたんだ」
雨男はかたを落としてうなだれながら、ため息といっしょにそうこぼしました。
「だからさっき、雨男さんは元気がなかったんですね」
「でも、きみみたいに雨を喜んでくれる人がいる事を知って、すこしがんばれそうな気になってきたよ」
「そうですよ。雨男さんがいなかったら、わたしお仕事できなくてさびしくなっちゃいます」
アンがそう言うと雨男はすこしほほえみましたが、まだちょっとさびしそうです。またうつむいてため息をついてしまいました。
「それに雨がふらなかったらダムの水がなくなって、みんなのどがカラカラになっちゃいます」
アンの言葉に雨男は顔をあげました。
アンは思っていることをつづけます。
「森の木やお花も、畑のお野菜や田んぼのお米だって、雨がふらないとこまっちゃいます」
アンの言葉は雨男の顔からみるみる明るさを取りもどしていきます。
「雨男さんのお仕事はみんなにとって、なくてはならないお仕事なんだと思います」
うん、と自分の言葉にうなずいてアンは最後にこう言いました。
「だから、お仕事がんばってください」
思ってもいなかった言葉をかけられて、雨男はとてもよろこびました。
「ありがとう。きみのおかげでとても元気づけられたよ」
雨男はとてもすてきな明るい笑顔で言いました。アンが公園で見つけたときとは別人のようです。
「わたしも雨男さんが元気になってくれてうれしいです」
アンも負けないくらい明るい笑顔でこたえました。
「これはお礼だよ。もらってくれるかい」
雨男はそう言うと、七色に光るちいさな石をアンにわたしました。
「うわぁ、すごくきれい。ありがとうございます」
とても不思議な石で、のぞきこむ角度によっていろんな色に変わります。
「もしもきみが落ち込んで、元気が出なくなってしまったら」
石に負けないくらい目をキラキラさせてながめているアンに雨男が言いました。
「そのときはその石を空に放り投げてごらん。きっときみに笑顔がもどるから」
「わかりました。じゃあ、雨男さんもこの傘をうけとってください。今日の思い出のこうかんです」
「うん、ありがとう。大事にするよ」
そう言って雨男は立ち上がりました。これから北の町へむかうそうです。アンは手をふって雨男を見送りました。おや?すこし歩いたところで、なにか思い出したようにふりかえります。
「あ、それと。ぼくが雨男だってことは」
雨男は大きな声でアンに言いました。
「はーい、秘密ですねー」
アンの返事を聞くと雨男は満足そうにうなずいて去っていきました。あんなに大声で言ったら、秘密もなにもなさそうですけどね。
ふと見上げた空は雨男の気持ちとかさなって、じょじょに明るくなってきていました。