〜2〜
ー/ーそれから数時間後。雨足が強くなる中、はじきの心配をよそにお仕事をがんばっているアンがいました。
「まいど、ありがとうございました」
ふかぶかとおじぎをしたアンの右手には、傘とこうかんしたお金がにぎられていました。
「やった、またこうかんできちゃった」
ちゃりん。手にしたお金をさいふに入れると音がしました。
「ふふふ。はじき、きっとおどろくだろうな」
さいふをふってみると、今度はじゃらじゃら音がします。それもそのはず。たくさんあった売りものの傘は、のこり一本になっていました。
「ふう、少しつかれたから休憩しようっと」
公園に入るとブランコに男の人が座っていました。傘もささないで、びしょぬれのまま座っています。アンは不思議に思いました。だってすぐ近くに屋根のあるベンチがあるのだから。どうしてあまやどりしないのでしょう。
「大丈夫ですか?かぜひいちゃいますよ」
アンは男の人に声をかけました。だけど、男の人はうつむいて黙ったままです。
「あの、これ、使ってください」
アンは売りものの傘をさし出しました。男の人は顔をあげると首を横にふりました。
「でも……。あ、お金なら良いです。サービスです」
はじきが聞いたら、きっと怒るだろうなと思いながらアンは傘をさし出します。
「ありがとう。でも、本当にいいんだ」
男の人はため息をつきながら。
「ぼくのことは、気にしないで」
そう言いました。
アンはどんよりとした暗い空を見上げます。雨はまだやみそうにありません。
その頃はじきも、お仕事をがんばっていました。なんともってきた売りものの傘は全部売れてしまっていました。ひとつのこった自分の傘をさしながら鼻歌交じりに歩いています。とてもごきげんなはじきです。だって今晩はごちそうにまちがいないのです。
「アンはどこ行っちゃったのかな」
早くアンを見つけてレストランに入りたいはじきでした。
すると道でなにかを探している女の子を見つけました。雨の中、傘もささずに地面をはいつくばっています。
「どうしたんだい。なにか探してるの?」
はじきは女の子に声をかけました。
「弟に買ってあげたアメをどこかに落としてしまったの」
女の子は泣きそうな顔ではじきに言いました。ずいぶんと長い時間探していたようで、全身が雨でびっしょりです。
「そんな様子じゃ、かぜをひいてしまうよ」
はじきが心配そうに言うと、女の子は首を横にふります。
「かぜをひいているのは弟の方。のどが痛いって家で寝込んでいるの」
女の子はそう言うと、雨にぬれながらまた探しはじめます。このままでは姉弟そろってかぜをひいてしまうでしょう。
すると突然女の子のまわりだけ雨がやみました。はじきが近づいて傘をさしてあげたからです。
「ありがとう、やさしいのね」
泣きそうだった女の子がすこし笑ってくれました。はじきはそれがうれしくって、女の子を助けたくなりました。
「落としたアメって、どんなアメなの?」
「イチゴ味のビー玉みたいな丸いアメだよ。弟はそれが大好きなの」
はじきはそれを聞くと、すこし得意げな顔で女の子にこう言いました。
「ぼくの傘は特別なんだ。見てて」
はじきは「えいっ」と傘を放り投げ逆さにもちました。女の子は首をかしげています。
逆さにもっておわんのようになったはじきの傘に、雨水がたまっていきます。
「そろそろいいかな」
たまった雨水の量を見て、こんどはおまじないを唱えました。
「だらっぷ、でぃれっぷ、どろっぷす」
唱え終わった瞬間はじきは傘をいきおいよく閉じてしまいます。ところがたまった雨水はあふれてきません。女の子は不思議そうに傘とはじきを見つめています。
「さぁ、手を出して」
はじきに言われて女の子が両手をさしだしました。はじきはニコニコしながら女の子の両手に傘をかたむけます。するとなんと傘の中からアメ玉がみっつ転がってきたのです。
「うわぁ、すごい」
女の子の顔はおどろきとよろこびであふれています。それを見てはじきはとてもうれしくなりました。「赤」「緑」「オレンジ」、三色のアメ玉。はじきは緑色のアメ玉をつまむと口にポイッと放り込みました。甘いメロン味が口の中で広がります。
「赤いのはきっとイチゴ味だよ。弟くんにもっていってあげな。かぜが早く治るといいね」
はじきがそう言うと女の子はとてもすてきな笑顔で喜んでくれました。
「本当にどうもありがとう。さようならタヌキさん」
女の子ははじきにお礼を行って家に帰って行きます。今日のはじきはとてもきげんが良いのです。だって今晩はごちそうだから。アメ玉のひとつやふたつ、いくらでもあげちゃうのです。
「ぼく、レッサーパンダなんだけどな」
たとえタヌキとまちがえられてもへっちゃらなのです。はじきは手をふって女の子を見送っていました。女の子は何度もふりかえって遠くからはじきにおじぎをしてます。ふと見上げた空はこぶりになってきたけれど、まだ雨がふりつづいていました。女の子はあいかわらずびしょぬれです。だけど売りものの傘はもうありません。はじきはさしている自分の傘を見ています。
「まぁ、いいか。今晩はごちそうだしね」
そう言うとはじきは女の子にむかって走っていきました。
はじきの傘は特別です。売りものの傘ではありません。だから女の子には売らないで、あげることにしました。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
それから数時間後。雨足が強くなる中、はじきの心配をよそにお仕事をがんばっているアンがいました。「まいど、ありがとうございました」
ふかぶかとおじぎをしたアンの右手には、傘とこうかんしたお金がにぎられていました。
「やった、またこうかんできちゃった」
ちゃりん。手にしたお金をさいふに入れると音がしました。
「ふふふ。はじき、きっとおどろくだろうな」
さいふをふってみると、今度はじゃらじゃら音がします。それもそのはず。たくさんあった売りものの傘は、のこり一本になっていました。
「ふう、少しつかれたから休憩しようっと」
公園に入るとブランコに男の人が座っていました。傘もささないで、びしょぬれのまま座っています。アンは不思議に思いました。だってすぐ近くに屋根のあるベンチがあるのだから。どうしてあまやどりしないのでしょう。
「大丈夫ですか?かぜひいちゃいますよ」
アンは男の人に声をかけました。だけど、男の人はうつむいて黙ったままです。
「あの、これ、使ってください」
アンは売りものの傘をさし出しました。男の人は顔をあげると首を横にふりました。
「でも……。あ、お金なら良いです。サービスです」
はじきが聞いたら、きっと怒るだろうなと思いながらアンは傘をさし出します。
「ありがとう。でも、本当にいいんだ」
男の人はため息をつきながら。
「ぼくのことは、気にしないで」
そう言いました。
アンはどんよりとした暗い空を見上げます。雨はまだやみそうにありません。
その頃はじきも、お仕事をがんばっていました。なんともってきた売りものの傘は全部売れてしまっていました。ひとつのこった自分の傘をさしながら鼻歌交じりに歩いています。とてもごきげんなはじきです。だって今晩はごちそうにまちがいないのです。
「アンはどこ行っちゃったのかな」
早くアンを見つけてレストランに入りたいはじきでした。
すると道でなにかを探している女の子を見つけました。雨の中、傘もささずに地面をはいつくばっています。
「どうしたんだい。なにか探してるの?」
はじきは女の子に声をかけました。
「弟に買ってあげたアメをどこかに落としてしまったの」
女の子は泣きそうな顔ではじきに言いました。ずいぶんと長い時間探していたようで、全身が雨でびっしょりです。
「そんな様子じゃ、かぜをひいてしまうよ」
はじきが心配そうに言うと、女の子は首を横にふります。
「かぜをひいているのは弟の方。のどが痛いって家で寝込んでいるの」
女の子はそう言うと、雨にぬれながらまた探しはじめます。このままでは姉弟そろってかぜをひいてしまうでしょう。
すると突然女の子のまわりだけ雨がやみました。はじきが近づいて傘をさしてあげたからです。
「ありがとう、やさしいのね」
泣きそうだった女の子がすこし笑ってくれました。はじきはそれがうれしくって、女の子を助けたくなりました。
「落としたアメって、どんなアメなの?」
「イチゴ味のビー玉みたいな丸いアメだよ。弟はそれが大好きなの」
はじきはそれを聞くと、すこし得意げな顔で女の子にこう言いました。
「ぼくの傘は特別なんだ。見てて」
はじきは「えいっ」と傘を放り投げ逆さにもちました。女の子は首をかしげています。
逆さにもっておわんのようになったはじきの傘に、雨水がたまっていきます。
「そろそろいいかな」
たまった雨水の量を見て、こんどはおまじないを唱えました。
「だらっぷ、でぃれっぷ、どろっぷす」
唱え終わった瞬間はじきは傘をいきおいよく閉じてしまいます。ところがたまった雨水はあふれてきません。女の子は不思議そうに傘とはじきを見つめています。
「さぁ、手を出して」
はじきに言われて女の子が両手をさしだしました。はじきはニコニコしながら女の子の両手に傘をかたむけます。するとなんと傘の中からアメ玉がみっつ転がってきたのです。
「うわぁ、すごい」
女の子の顔はおどろきとよろこびであふれています。それを見てはじきはとてもうれしくなりました。「赤」「緑」「オレンジ」、三色のアメ玉。はじきは緑色のアメ玉をつまむと口にポイッと放り込みました。甘いメロン味が口の中で広がります。
「赤いのはきっとイチゴ味だよ。弟くんにもっていってあげな。かぜが早く治るといいね」
はじきがそう言うと女の子はとてもすてきな笑顔で喜んでくれました。
「本当にどうもありがとう。さようならタヌキさん」
女の子ははじきにお礼を行って家に帰って行きます。今日のはじきはとてもきげんが良いのです。だって今晩はごちそうだから。アメ玉のひとつやふたつ、いくらでもあげちゃうのです。
「ぼく、レッサーパンダなんだけどな」
たとえタヌキとまちがえられてもへっちゃらなのです。はじきは手をふって女の子を見送っていました。女の子は何度もふりかえって遠くからはじきにおじぎをしてます。ふと見上げた空はこぶりになってきたけれど、まだ雨がふりつづいていました。女の子はあいかわらずびしょぬれです。だけど売りものの傘はもうありません。はじきはさしている自分の傘を見ています。
「まぁ、いいか。今晩はごちそうだしね」
そう言うとはじきは女の子にむかって走っていきました。
はじきの傘は特別です。売りものの傘ではありません。だから女の子には売らないで、あげることにしました。