第52話 退けぬ王国
ー/ー
クロナたちが安心して潜伏している頃、王都では……。
「もはや一刻の猶予もなりません」
「そうですぞ。ホーネット伯爵のご令嬢とコークロッチヌス子爵のご令息が亡くなられたのです。このまま放っておけば、勢いづいた奴らが王都に攻め入って、王国ごと滅ぼしかねません!」
会議に招集された貴族たちが、うるさく国王たちに迫っている。
無論、そのようなことなど国王たちも百も承知だ。
その中で、どのような意見があるのかと集まってもらったというのに、貴族たちはこの調子である。さすがに国王も頭が痛くなってくる。
期待の高かった若い芽が、いとも簡単に摘まれてしまったゆえに、国王はかえって強く出られない。そんなことは貴族たちも分かっているだろうが、ここぞとばかりに不満をぶつけているような感じなのだ。
貴族たちの対応に悩んでいると、部屋の外が騒がしくなってくる。
「殿下、今は会議中ですぞ」
「うるさい。この俺を仲間外れにしてどうする!」
バーンという音とともに勢いよく扉が開き、バタフィー王子が姿を見せた。
「父上! なにゆえ、この俺を会議に呼ばなかったのですか!」
バタフィー王子はかなりのご立腹のようだ。
「バタフィー。気持ちは分かるが、これは我々大人による会議だ。悪いが部屋で待機していてくれ」
部屋個バタフィー王子が入ってきたことに驚き、国王は立ち上がって駆け寄っている。
肩に両手を置いて、しっかりと目を見ながら説得を試みている。真剣にバタフィー王子の目を見ている国王だが、バタフィー王子の怒りに満ちた表情は一向に変わる気配はなかった。
あまりにも本気を感じられたので、国王はバタフィー王子を説得することを諦めた。
「バタフィー、お前は国の大事な跡取りなのだ。会議に参加してもいいが、無茶だけはするな。なんとしてもお前は生き残るのだ」
「心得ておりますとも、父上」
真剣に語りかける国王に対して、バタフィー王子はしっかりと答えていた。
これなら安心だろうと、国王はバタフィーの同席を認め、会議を再開させることにした。
「すぐに打って出るべきでしょう」
「そうですぞ。ホーネット伯爵の話では、アサシンスパイダーを連れているとかいうではないですか」
「これ以上手下を増やされると、こちらも相応の準備が必要になります。陛下、早めのご決断を!」
だが、貴族たちの勢いはまったく止まらなかった。相変わらず国王に対して圧力をかけていっている。
この圧力に対して、国王はかなり渋っている。
「お前たちの言い分は分かる。だが、やつの潜入場所は、王国内でも最も危険な場所だ。きちんと備えておかねば、たどり着くまでに魔物たちの餌になってしまう」
「ぐっ……」
国王の切り返しに、貴族たちは黙ってしまう。
貴族たちも十分に承知しているのだ。クロナたちの潜入場所が、危険な魔物たちがうろついている森だということを。
「ならば、俺がその魔物どもを蹴散らせばいいのだろう。ホーネット伯爵の魔法隊は惨敗したが、みな生きている。討伐に向かう一団を編成しつつ、鍛えてやればいいのではないのだろうか」
「バタフィー、お前、そこまで……」
「この俺の婚約者に収まろうとした魔族を、許しておけるわけがないだろう。王家を愚弄した罪、その身で償ってもらわねばな」
バタフィーは、血が出そうなくらいに強く唇をかみしめている。そのくらい、クロナの件はバタフィーに暗く影を落としているのである。
国王としては、この息子の姿を見ていられないようだ。
「……討伐に参加希望の連中は、すぐにでも城に集まってくれ。訓練を受けてもらい、討伐に出向いてもらう」
「承知致しました。それでは、我々はこれにて帰らせていただきます。準備がありますのでね」
貴族たちは次々と立ち上がっていく。
王国に対して恩を売れる最大のチャンスだと見ているのだろう。ホーネット伯爵がもたらした相手の情報があるというのに、なんとも浅はかなことだろうか。
名誉のためならば、それ以外の情報などどうでもいいといった感じである。
「ちっ、名誉にしか興味のない奴らめ……」
あまりにも軽率な動きを見せる貴族たちに、バタフィーはかなり嫌気がさしているようである。
「無駄死にを増やしても、国が立ち行かなくなるということも考えていないのか。傭兵連中を雇っている方がまだいいというものだぞ」
「まあ、そういうなバタフィーよ。精鋭を送っても返り討ちに遭うのならば、数で攻めるしかあるまい」
「統制の取れていない軍勢など、精鋭にも劣るではありませんか。無駄に命を散らせることがよいと仰られるのですか、父上!」
「そうだな……。だが、国家存亡の危機にあるのだから、多少の犠牲は仕方あるまい」
どことなく憂いを秘めた国王の表情に、バタフィーは何も言うことはできなかった。
こうして、イクセン王国は、偽聖女クロナを討伐するための準備を着々と進めていくこととなった。
娘を失って意気消沈をするホーネット伯爵も、悲しみをこらえてまで指導のために城へと出向いていた。
バタフィー王子はもちろん、コークロッチヌス子爵家も加わって、兵士たちの戦闘技術を磨いていく。
……王国軍とクロナたちの衝突の日は近い。
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「もはや一刻の猶予もなりません」
「そうですぞ。ホーネット伯爵のご令嬢とコークロッチヌス子爵のご令息が亡くなられたのです。このまま放っておけば、勢いづいた奴らが王都に攻め入って、王国ごと滅ぼしかねません!」
会議に招集された貴族たちが、うるさく国王たちに迫っている。
無論、そのようなことなど国王たちも百も承知だ。
その中で、どのような意見があるのかと集まってもらったというのに、貴族たちはこの調子である。さすがに国王も頭が痛くなってくる。
期待の高かった若い芽が、いとも簡単に摘まれてしまったゆえに、国王はかえって強く出られない。そんなことは貴族たちも分かっているだろうが、ここぞとばかりに不満をぶつけているような感じなのだ。
貴族たちの対応に悩んでいると、部屋の外が騒がしくなってくる。
「殿下、今は会議中ですぞ」
「うるさい。この俺を仲間外れにしてどうする!」
バーンという音とともに勢いよく扉が開き、バタフィー王子が姿を見せた。
「父上! なにゆえ、この俺を会議に呼ばなかったのですか!」
バタフィー王子はかなりのご立腹のようだ。
「バタフィー。気持ちは分かるが、これは我々大人による会議だ。悪いが部屋で待機していてくれ」
部屋個バタフィー王子が入ってきたことに驚き、国王は立ち上がって駆け寄っている。
肩に両手を置いて、しっかりと目を見ながら説得を試みている。真剣にバタフィー王子の目を見ている国王だが、バタフィー王子の怒りに満ちた表情は一向に変わる気配はなかった。
あまりにも本気を感じられたので、国王はバタフィー王子を説得することを諦めた。
「バタフィー、お前は国の大事な跡取りなのだ。会議に参加してもいいが、無茶だけはするな。なんとしてもお前は生き残るのだ」
「心得ておりますとも、父上」
真剣に語りかける国王に対して、バタフィー王子はしっかりと答えていた。
これなら安心だろうと、国王はバタフィーの同席を認め、会議を再開させることにした。
「すぐに打って出るべきでしょう」
「そうですぞ。ホーネット伯爵の話では、アサシンスパイダーを連れているとかいうではないですか」
「これ以上手下を増やされると、こちらも相応の準備が必要になります。陛下、早めのご決断を!」
だが、貴族たちの勢いはまったく止まらなかった。相変わらず国王に対して圧力をかけていっている。
この圧力に対して、国王はかなり渋っている。
「お前たちの言い分は分かる。だが、やつの潜入場所は、王国内でも最も危険な場所だ。きちんと備えておかねば、たどり着くまでに魔物たちの餌になってしまう」
「ぐっ……」
国王の切り返しに、貴族たちは黙ってしまう。
貴族たちも十分に承知しているのだ。クロナたちの潜入場所が、危険な魔物たちがうろついている森だということを。
「ならば、俺がその魔物どもを蹴散らせばいいのだろう。ホーネット伯爵の魔法隊は惨敗したが、みな生きている。討伐に向かう一団を編成しつつ、鍛えてやればいいのではないのだろうか」
「バタフィー、お前、そこまで……」
「この俺の婚約者に収まろうとした魔族を、許しておけるわけがないだろう。王家を愚弄した罪、その身で償ってもらわねばな」
バタフィーは、血が出そうなくらいに強く唇をかみしめている。そのくらい、クロナの件はバタフィーに暗く影を落としているのである。
国王としては、この息子の姿を見ていられないようだ。
「……討伐に参加希望の連中は、すぐにでも城に集まってくれ。訓練を受けてもらい、討伐に出向いてもらう」
「承知致しました。それでは、我々はこれにて帰らせていただきます。準備がありますのでね」
貴族たちは次々と立ち上がっていく。
王国に対して恩を売れる最大のチャンスだと見ているのだろう。ホーネット伯爵がもたらした相手の情報があるというのに、なんとも浅はかなことだろうか。
名誉のためならば、それ以外の情報などどうでもいいといった感じである。
「ちっ、名誉にしか興味のない奴らめ……」
あまりにも軽率な動きを見せる貴族たちに、バタフィーはかなり嫌気がさしているようである。
「無駄死にを増やしても、国が立ち行かなくなるということも考えていないのか。傭兵連中を雇っている方がまだいいというものだぞ」
「まあ、そういうなバタフィーよ。精鋭を送っても返り討ちに遭うのならば、数で攻めるしかあるまい」
「統制の取れていない軍勢など、精鋭にも劣るではありませんか。無駄に命を散らせることがよいと仰られるのですか、父上!」
「そうだな……。だが、国家存亡の危機にあるのだから、多少の犠牲は仕方あるまい」
どことなく憂いを秘めた国王の表情に、バタフィーは何も言うことはできなかった。
こうして、イクセン王国は、偽聖女クロナを討伐するための準備を着々と進めていくこととなった。
娘を失って意気消沈をするホーネット伯爵も、悲しみをこらえてまで指導のために城へと出向いていた。
バタフィー王子はもちろん、コークロッチヌス子爵家も加わって、兵士たちの戦闘技術を磨いていく。
……王国軍とクロナたちの衝突の日は近い。