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第53話 討伐作戦

ー/ー



 それから、三十日ほどが過ぎた。
 ようやく王国は、クロナに対する討伐の準備が整い、王国軍は王都の外に構えている。

「殿下! 準備整いました!」

「ご苦労。傭兵たちの方はどうだ?」

「ああ、俺たちも準備完了だ。俺の体をこんなにしてくれやがった連中に、仕返しをしてやらねえとな……」

 バタフィー王子の問い掛けに答えるのは、スチールアントによって四肢を粉々に砕かれたホッパーである。
 森の外に放り出されていたところを、心配で追ってきたビーとディックによって助け出されていたのである。
 だが、さすがに砕けた四肢を完全に戻すことはできず、治療するところを限定した上で、装備を見直してようやく戦えるようになったようだ。

「まったく、左半分を犠牲にすることにはなったが、ここまで治ればまあ戦える。少なくともあのアリどもは仕留めてやらねえとな……」

 ホッパーは、自分の半身を失うきっかけになったスチールアントたちへの恨みをかなり強めているようだった。

「ふん、傭兵ギルドと手を組まなければならないとは、王国騎士団からすればありえないことだ」

「俺たちだって、こういう状況じゃなきゃ、てめえらなんざとは組まなかったよ。だが、奴らはマジで手に負えねえ。一線級の俺ですらこのざまだからな……くそっ!」

 バタフィー王子とホッパーの仲は最悪のようである。
 それでも、お互いに手を組まなければならない状況だ。

「短時間の急ごしらえではあるが、これだけの数がいれば有利には進めるはずだ。さあ、行こうではないか、魔族退治にな」

「おうとも! てめえら、行くぞ!」

「おーっ!」

 ホッパーの声に、傭兵ギルドの面々が声を上げる。

「俺たちも出るぞ。傭兵ギルドよりもより多くの魔物を蹴散らしてやろうではないか」

「はっ! 殿下とともに戦えること、我ら一同光栄に思っております」

「必ずや、殿下のことはお守りいたします。安心して指揮をお執りください」

 バタフィーが声をかければ、騎士団も元気よく返事をしている。
 王国のためだとなれば、騎士も兵士も士気が高まるのである。
 だが、相手はここまですべての攻撃を退けてきた、聖女のふりをしていた凶悪な魔族だ。口ではなんとでも強く言えるが、本当はみんな怖いはずである。
 イクセンの剣であるコークロッチヌス子爵の息子であるシュヴァルツ、同じく杖であるホーネット伯爵の娘であるメープル。この二人が立て続けに返り討ちに遭ったのだ。
 子どもとはいえ、大人顔負けの実力の持ち主がこうもあっさりと殺されたのだから、怖くないはずがない。
 それでも、これ以上の被害をもたらすわけにはいかない。国にとって害となり得る存在であるクロナを、これ以上放ってはおけないのだ。

「さあ、出発だ!」

「はっ!」

 バタフィー王子の旗振りで、騎士たちと傭兵たちが一斉にクロナ討伐に向けて出発する。
 王都の人たちも、無事に魔族を討ち取ってくれると信じ、門に集まってバタフィー王子たちを送り出している。
 その期待を一身に背負い、バタフィー王子は険しい表情で前を見据えていた。

 初日の野営に入る。
 部下の騎士や兵士たちが天幕を張ったり火の番をしたりとせわしく動く中、バタフィー王子は傭兵ギルドのホッパーと話をしている。

「王子様が何の用なんだよ」

 ホッパーはバタフィー王子のことをかなり邪険にしているようだ。露骨に嫌そうな顔をしている。

「まあそう逃げるでない。今は魔族を倒す仲間ではないか」

「そうだけどよ。いきなり来られると警戒しちまうんだよ」

「……そうか。まあ、ここで近付いたのは、魔族どもの情報を得るためだ」

「魔族の情報を……か」

 バタフィー王子が話した内容に、ホッパーは今度は違う意味で表情を歪ませている。
 それもそうだ。四肢の骨を折られて生死の境をさまよいかけたのだから。
 だが、思い出したくなくても、王子たちにも死なれては困る。ホッパーはやむなくバタフィー王子の話に応じることにした。

「これから向かう場所についての情報が欲しい。それ次第では、騎士たちの編成をいじらなければならないからな」

「そんなもの。ホーネット伯爵とやらからでも聞けたのでは?」

 バタフィー王子からの頼みを聞いて、ホッパーはそのように返す。しかし、バタフィー王子は首を横に振った。

「娘を失ったショックからまだ立ち直れていない。話どころではないのだ。魔法隊に聞こうにも、あいつらも同じように思い出すのを避けたいようでな……。そこで傭兵であるお前に聞いているというわけだ」

「なるほどな……。まあ、お貴族様ともなれば、子どもの死はつらいでしょうからな」

 ホッパーは、どことなく毒気を含んで話している。
 そのホッパーに対して、バタフィー王子は剣を突きつける。

「なっ……」

「俺が優しいうちに答えろ。四肢の骨じゃなくて、首の骨が砕け散ることになるぞ」

「へ、へい……。分かりましたよ……」

 バタフィー王子から放たれる殺気に、ホッパーは冷や汗をかいている。いつ剣を抜いたのかまったく分からなかったからだ。
 このままだと、本当に殺されかねない。その恐怖を感じたホッパーは、おとなしくバタフィーに自分たちが持っている情報を教えることにしたのだ。

「そうか、分かった。これならば、作戦が立てられる。無論、お前たちにも協力してもらう。逆らおうものなら、どうなるかわかるな……?」

 バタフィーは首筋に鞘に納まった剣を当てながら、ホッパーに脅しをかけている。
 とても十三歳には見えない王子の姿に、ホッパーはごくりと息をのんで、黙って頷いていた。

 こうして、イクセン王国による、大規模なクロナ討伐作戦が始まった。
 クロナとバタフィー王子。元婚約者同士による戦いは、どうしても避けられないようである。


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 それから、三十日ほどが過ぎた。
 ようやく王国は、クロナに対する討伐の準備が整い、王国軍は王都の外に構えている。
「殿下! 準備整いました!」
「ご苦労。傭兵たちの方はどうだ?」
「ああ、俺たちも準備完了だ。俺の体をこんなにしてくれやがった連中に、仕返しをしてやらねえとな……」
 バタフィー王子の問い掛けに答えるのは、スチールアントによって四肢を粉々に砕かれたホッパーである。
 森の外に放り出されていたところを、心配で追ってきたビーとディックによって助け出されていたのである。
 だが、さすがに砕けた四肢を完全に戻すことはできず、治療するところを限定した上で、装備を見直してようやく戦えるようになったようだ。
「まったく、左半分を犠牲にすることにはなったが、ここまで治ればまあ戦える。少なくともあのアリどもは仕留めてやらねえとな……」
 ホッパーは、自分の半身を失うきっかけになったスチールアントたちへの恨みをかなり強めているようだった。
「ふん、傭兵ギルドと手を組まなければならないとは、王国騎士団からすればありえないことだ」
「俺たちだって、こういう状況じゃなきゃ、てめえらなんざとは組まなかったよ。だが、奴らはマジで手に負えねえ。一線級の俺ですらこのざまだからな……くそっ!」
 バタフィー王子とホッパーの仲は最悪のようである。
 それでも、お互いに手を組まなければならない状況だ。
「短時間の急ごしらえではあるが、これだけの数がいれば有利には進めるはずだ。さあ、行こうではないか、魔族退治にな」
「おうとも! てめえら、行くぞ!」
「おーっ!」
 ホッパーの声に、傭兵ギルドの面々が声を上げる。
「俺たちも出るぞ。傭兵ギルドよりもより多くの魔物を蹴散らしてやろうではないか」
「はっ! 殿下とともに戦えること、我ら一同光栄に思っております」
「必ずや、殿下のことはお守りいたします。安心して指揮をお執りください」
 バタフィーが声をかければ、騎士団も元気よく返事をしている。
 王国のためだとなれば、騎士も兵士も士気が高まるのである。
 だが、相手はここまですべての攻撃を退けてきた、聖女のふりをしていた凶悪な魔族だ。口ではなんとでも強く言えるが、本当はみんな怖いはずである。
 イクセンの剣であるコークロッチヌス子爵の息子であるシュヴァルツ、同じく杖であるホーネット伯爵の娘であるメープル。この二人が立て続けに返り討ちに遭ったのだ。
 子どもとはいえ、大人顔負けの実力の持ち主がこうもあっさりと殺されたのだから、怖くないはずがない。
 それでも、これ以上の被害をもたらすわけにはいかない。国にとって害となり得る存在であるクロナを、これ以上放ってはおけないのだ。
「さあ、出発だ!」
「はっ!」
 バタフィー王子の旗振りで、騎士たちと傭兵たちが一斉にクロナ討伐に向けて出発する。
 王都の人たちも、無事に魔族を討ち取ってくれると信じ、門に集まってバタフィー王子たちを送り出している。
 その期待を一身に背負い、バタフィー王子は険しい表情で前を見据えていた。
 初日の野営に入る。
 部下の騎士や兵士たちが天幕を張ったり火の番をしたりとせわしく動く中、バタフィー王子は傭兵ギルドのホッパーと話をしている。
「王子様が何の用なんだよ」
 ホッパーはバタフィー王子のことをかなり邪険にしているようだ。露骨に嫌そうな顔をしている。
「まあそう逃げるでない。今は魔族を倒す仲間ではないか」
「そうだけどよ。いきなり来られると警戒しちまうんだよ」
「……そうか。まあ、ここで近付いたのは、魔族どもの情報を得るためだ」
「魔族の情報を……か」
 バタフィー王子が話した内容に、ホッパーは今度は違う意味で表情を歪ませている。
 それもそうだ。四肢の骨を折られて生死の境をさまよいかけたのだから。
 だが、思い出したくなくても、王子たちにも死なれては困る。ホッパーはやむなくバタフィー王子の話に応じることにした。
「これから向かう場所についての情報が欲しい。それ次第では、騎士たちの編成をいじらなければならないからな」
「そんなもの。ホーネット伯爵とやらからでも聞けたのでは?」
 バタフィー王子からの頼みを聞いて、ホッパーはそのように返す。しかし、バタフィー王子は首を横に振った。
「娘を失ったショックからまだ立ち直れていない。話どころではないのだ。魔法隊に聞こうにも、あいつらも同じように思い出すのを避けたいようでな……。そこで傭兵であるお前に聞いているというわけだ」
「なるほどな……。まあ、お貴族様ともなれば、子どもの死はつらいでしょうからな」
 ホッパーは、どことなく毒気を含んで話している。
 そのホッパーに対して、バタフィー王子は剣を突きつける。
「なっ……」
「俺が優しいうちに答えろ。四肢の骨じゃなくて、首の骨が砕け散ることになるぞ」
「へ、へい……。分かりましたよ……」
 バタフィー王子から放たれる殺気に、ホッパーは冷や汗をかいている。いつ剣を抜いたのかまったく分からなかったからだ。
 このままだと、本当に殺されかねない。その恐怖を感じたホッパーは、おとなしくバタフィーに自分たちが持っている情報を教えることにしたのだ。
「そうか、分かった。これならば、作戦が立てられる。無論、お前たちにも協力してもらう。逆らおうものなら、どうなるかわかるな……?」
 バタフィーは首筋に鞘に納まった剣を当てながら、ホッパーに脅しをかけている。
 とても十三歳には見えない王子の姿に、ホッパーはごくりと息をのんで、黙って頷いていた。
 こうして、イクセン王国による、大規模なクロナ討伐作戦が始まった。
 クロナとバタフィー王子。元婚約者同士による戦いは、どうしても避けられないようである。