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第17話 食が繋ぐ、国境を越えた交流と「スイーツ」の外交 -1

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花子が異世界で生きていく決意を固めた頃、彼女がもたらした「食の革命」は、王国内部だけでなく、周辺国にも大きな影響を与え始めていた。
特に、王宮晩餐会で振る舞われた「洋食」の噂は、他国の王族や貴族たちの間でも話題沸騰となっていた。

「あの聖女フローラ殿の料理は、魔法のようだ!」

「一度食べたら忘れられない味だという……」

そんな噂が、国境を越えて広まっていく。遠く離れた国の貴族たちが、使者を送ってレシピを問い合わせてくるほどだった。


この国は、元々食料自給率が低く、痩せた土地と厳しい気候のため、農業生産が安定しなかった。
そのため、周辺国からの輸入に大きく依存していた。

特に、隣国である強大な商業国家「ヴァルハラ王国」との貿易は、生命線とも言えるほど重要だった。
しかし、ヴァルハラ王国との間には長年の貿易問題で根深い確執があり、度重なる関税問題や、輸出入品の品質基準に関する意見の相違で、常に不安定な状態にあった。

王都の市場には、品薄と高騰が頻繁に発生し、貧しい人々は常に飢えと隣り合わせだった。
花子の菓子パンやカップ麺は一時的な救済にはなったが、根本的な解決には至っていなかった。

食料問題は、この国の長年の懸案事項であり、国力の根幹を揺るがす深刻な問題だったのだ。
食料が不足すれば、民は飢え、国力は衰退し、やがては他国の侵略を許すことにもなりかねない。
王宮の重臣たちは、この問題に頭を抱え続けていた。




ある日、隣国ヴァルハラ王国から重要な使節団が派遣されてきた。

彼らは、これまでの貿易協定の見直しと、新たな関税の導入を要求してきたのだ。
両国間には長年の貿易問題で根深い確執があり、外交官たちは連日、顔を突き合わせては膠着状態に陥っていた。
王宮の最奥にある会議室からは、連日、怒鳴り声や激しい議論の声が聞こえてくる。

「我々の要求は譲れない! このままでは貿易協定は破棄だ! 我々ヴァルハラ王国は、貴国への食料輸出を停止せざるを得ない!」

ヴァルハラ王国の使節団代表、老獪な外交官ゼノンが、鋭い眼光で相手を睨みつけた。
彼の言葉には、明らかな脅しが含まれている。

「そちらの不当な関税こそ問題だ! 我々も譲歩するつもりはない! 貴国の一方的な要求など、到底受け入れられん!」

こちらの国の外交官も、疲弊しながらも必死に反論する。
王宮の廊下にも、緊迫した空気が漂っていた。
この交渉が決裂すれば、この国は深刻な食料危機に陥ることは確実だった。


王は、この難局を打開するため、花子に「食を通じた外交」を依頼した。
執務室に呼ばれた花子は、王の疲弊しきった顔を見て、事態の深刻さを改めて知った。
王の顔には、深い隈と、絶望に近い諦めの色が浮かんでいた。

「聖女フローラ様、どうかあなたの『食の力』で、この国の未来を繋いでいただきたい!
 ヴァルハラ王国のゼノンは、非常に頑固な男だ。これまでの外交官では、誰も彼の心を動かすことができなかった。
 剣や魔法では解決できないこの問題も、あなたの料理ならば、きっと……! 彼らの心を解き放つことができると信じている! 民を飢えから救うため、どうか力を貸してくれ!」

王の真剣な眼差しに、花子は身が引き締まる思いだった。

(私の料理で、国と国との関係を……! 一国の運命が、私の料理にかかっているなんて……!)

それは、これまでの「誰かを笑顔にする」という目標とは、また異なる、あまりにも大きく、重い使命だった。

故郷では、一介の会社員だった自分が、今、一国の命運を左右するかもしれない。
重圧を感じながらも、花子は決意を固めた。

「陛下、私にできることでしたら、喜んでお力になります!
 ゼノン様という方が、どのような方かは存じませんが、きっと彼にも、故郷の味や、心温まる思い出があるはずです。何か、彼らの心を動かすような……特別な料理を考えます!」

花子は、今回の外交で、言葉や習慣の壁を越えて心を通わせるための「最終兵器」として、故郷の「スイーツ」を提案した。
甘いものは、万国共通で人を幸せにする力があるはずだ。

エルウィンは、花子の召喚した「砂糖」や「チョコレート」、「小麦粉(薄力粉)」といった材料を解析し、異世界の魔法道具を応用して、温度調整が可能な簡素なオーブンを開発。
彼の研究室は、まるで菓子工房のようになっていた。

「聖女フローラ殿、この『チョコレート』というものは、非常に複雑な構造をしていますね。カカオ豆を焙煎し、粉砕し、砂糖と混ぜ合わせる……この工程一つ一つが、まるで魔術のようだ!
 しかし、その甘さと苦味のバランスは、まさに芸術的だ! これを応用すれば、新たな魔法薬の開発にも繋がるかもしれない!」

グスタフは、花子から教わった「泡立てる」「混ぜる」といった新たな調理法を完璧に習得し、菓子の生地作りに貢献した。

彼の腕は、洋食だけでなく、スイーツ作りにもその才能を発揮し始めていた。

「聖女フローラ殿、この『泡立てる』という技法は、生地をこれほどまでに軽く、ふわふわにするとは……! まさに目から鱗です! これまでの私の菓子は、ただ重いだけだった……!」

三人は、来るべき外交の日のために、連日、試作を繰り返した。



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花子が異世界で生きていく決意を固めた頃、彼女がもたらした「食の革命」は、王国内部だけでなく、周辺国にも大きな影響を与え始めていた。
特に、王宮晩餐会で振る舞われた「洋食」の噂は、他国の王族や貴族たちの間でも話題沸騰となっていた。
「あの聖女フローラ殿の料理は、魔法のようだ!」
「一度食べたら忘れられない味だという……」
そんな噂が、国境を越えて広まっていく。遠く離れた国の貴族たちが、使者を送ってレシピを問い合わせてくるほどだった。
この国は、元々食料自給率が低く、痩せた土地と厳しい気候のため、農業生産が安定しなかった。
そのため、周辺国からの輸入に大きく依存していた。
特に、隣国である強大な商業国家「ヴァルハラ王国」との貿易は、生命線とも言えるほど重要だった。
しかし、ヴァルハラ王国との間には長年の貿易問題で根深い確執があり、度重なる関税問題や、輸出入品の品質基準に関する意見の相違で、常に不安定な状態にあった。
王都の市場には、品薄と高騰が頻繁に発生し、貧しい人々は常に飢えと隣り合わせだった。
花子の菓子パンやカップ麺は一時的な救済にはなったが、根本的な解決には至っていなかった。
食料問題は、この国の長年の懸案事項であり、国力の根幹を揺るがす深刻な問題だったのだ。
食料が不足すれば、民は飢え、国力は衰退し、やがては他国の侵略を許すことにもなりかねない。
王宮の重臣たちは、この問題に頭を抱え続けていた。
ある日、隣国ヴァルハラ王国から重要な使節団が派遣されてきた。
彼らは、これまでの貿易協定の見直しと、新たな関税の導入を要求してきたのだ。
両国間には長年の貿易問題で根深い確執があり、外交官たちは連日、顔を突き合わせては膠着状態に陥っていた。
王宮の最奥にある会議室からは、連日、怒鳴り声や激しい議論の声が聞こえてくる。
「我々の要求は譲れない! このままでは貿易協定は破棄だ! 我々ヴァルハラ王国は、貴国への食料輸出を停止せざるを得ない!」
ヴァルハラ王国の使節団代表、老獪な外交官ゼノンが、鋭い眼光で相手を睨みつけた。
彼の言葉には、明らかな脅しが含まれている。
「そちらの不当な関税こそ問題だ! 我々も譲歩するつもりはない! 貴国の一方的な要求など、到底受け入れられん!」
こちらの国の外交官も、疲弊しながらも必死に反論する。
王宮の廊下にも、緊迫した空気が漂っていた。
この交渉が決裂すれば、この国は深刻な食料危機に陥ることは確実だった。
王は、この難局を打開するため、花子に「食を通じた外交」を依頼した。
執務室に呼ばれた花子は、王の疲弊しきった顔を見て、事態の深刻さを改めて知った。
王の顔には、深い隈と、絶望に近い諦めの色が浮かんでいた。
「聖女フローラ様、どうかあなたの『食の力』で、この国の未来を繋いでいただきたい!
 ヴァルハラ王国のゼノンは、非常に頑固な男だ。これまでの外交官では、誰も彼の心を動かすことができなかった。
 剣や魔法では解決できないこの問題も、あなたの料理ならば、きっと……! 彼らの心を解き放つことができると信じている! 民を飢えから救うため、どうか力を貸してくれ!」
王の真剣な眼差しに、花子は身が引き締まる思いだった。
(私の料理で、国と国との関係を……! 一国の運命が、私の料理にかかっているなんて……!)
それは、これまでの「誰かを笑顔にする」という目標とは、また異なる、あまりにも大きく、重い使命だった。
故郷では、一介の会社員だった自分が、今、一国の命運を左右するかもしれない。
重圧を感じながらも、花子は決意を固めた。
「陛下、私にできることでしたら、喜んでお力になります!
 ゼノン様という方が、どのような方かは存じませんが、きっと彼にも、故郷の味や、心温まる思い出があるはずです。何か、彼らの心を動かすような……特別な料理を考えます!」
花子は、今回の外交で、言葉や習慣の壁を越えて心を通わせるための「最終兵器」として、故郷の「スイーツ」を提案した。
甘いものは、万国共通で人を幸せにする力があるはずだ。
エルウィンは、花子の召喚した「砂糖」や「チョコレート」、「小麦粉(薄力粉)」といった材料を解析し、異世界の魔法道具を応用して、温度調整が可能な簡素なオーブンを開発。
彼の研究室は、まるで菓子工房のようになっていた。
「聖女フローラ殿、この『チョコレート』というものは、非常に複雑な構造をしていますね。カカオ豆を焙煎し、粉砕し、砂糖と混ぜ合わせる……この工程一つ一つが、まるで魔術のようだ!
 しかし、その甘さと苦味のバランスは、まさに芸術的だ! これを応用すれば、新たな魔法薬の開発にも繋がるかもしれない!」
グスタフは、花子から教わった「泡立てる」「混ぜる」といった新たな調理法を完璧に習得し、菓子の生地作りに貢献した。
彼の腕は、洋食だけでなく、スイーツ作りにもその才能を発揮し始めていた。
「聖女フローラ殿、この『泡立てる』という技法は、生地をこれほどまでに軽く、ふわふわにするとは……! まさに目から鱗です! これまでの私の菓子は、ただ重いだけだった……!」
三人は、来るべき外交の日のために、連日、試作を繰り返した。