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Episode 1

ー/ー



​ 正月の空気というのは、どこか白々しい。

 使い古されたお決まりの挨拶が飛び交い、テレビからはめでたい音楽が絶え間なく流れる。



親戚一同が集まる本家の茶の間は、お屠蘇の匂いと、誰のものか分からない笑い声で満たされていた。私はその喧騒の端で、冷めた煮物を口に運びながら、早くこの一日が終わるのを待っていた。



​ 「おじさん、去年のこと、覚えてる?」


 不意に、足元から声がした。少年がうずくまっている。グレーのセーターを着た、十歳くらいの少年。




 その顔を見た瞬間、心臓の奥がかすかに疼いた。昔確かにどこかで会ったことがある気がする。だが、問い返そうとするよりも早く、少年は炬燵の向こう側、子どもたちの集まりの中へと消えてしまった。



 「去年のこと?」去年のことって何だ?何かあっただろうか……?





そういえば、去年の正月の記憶が妙に薄い。親戚と何を話し、誰にいくら包んだのか。つい一年前のことだというのに、霧がかかったように細部が思い出せないのだ。



 ただ、一つだけ覚えていることがある。去年の帰り際、玄関で靴を履いている時、背後にいた誰かが「また来年、続きをしよう」と、湿った声で囁いたことだけが、今の今まで喉に刺さった小骨のように残っていた。

 

 親戚の子にはすべて配り終えたお年玉。なのに手元には覚えのない真っ黒なポチ袋。こんな袋持ってたか?訝しみながら首を傾げた。それに、あの少年……親戚にいただろうか。


まあ、正月の集まりには遠方の親戚も来るし、子供の成長は早い。去年会った時とは見違えるほど顔つきが変わっていたとしても、不思議じゃあないか。私はそう自分を納得させ、いったん考えを脇に追いやった。


​ 茶の間の隅では、親戚の子供たちが古いおもちゃを引っ張り出して遊んでいた。案外大事にとってあるもんだ。独楽に、お手玉、おはじき、それに、けん玉。


 けん玉か……懐かしいな。

 

 カチリ、カチリと乾いた音が響く。玉を皿に乗せられず、何度もやり直している子供たちの姿を眺めているうちに、私はぼんやりと、「あいつ」のことを思い浮かべていた。



​ 


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みんなのリアクション

​ 正月の空気というのは、どこか白々しい。
 使い古されたお決まりの挨拶が飛び交い、テレビからはめでたい音楽が絶え間なく流れる。
親戚一同が集まる本家の茶の間は、お屠蘇の匂いと、誰のものか分からない笑い声で満たされていた。私はその喧騒の端で、冷めた煮物を口に運びながら、早くこの一日が終わるのを待っていた。
​ 「おじさん、去年のこと、覚えてる?」
 不意に、足元から声がした。少年がうずくまっている。グレーのセーターを着た、十歳くらいの少年。
 その顔を見た瞬間、心臓の奥がかすかに疼いた。昔確かにどこかで会ったことがある気がする。だが、問い返そうとするよりも早く、少年は炬燵の向こう側、子どもたちの集まりの中へと消えてしまった。
 「去年のこと?」去年のことって何だ?何かあっただろうか……?
そういえば、去年の正月の記憶が妙に薄い。親戚と何を話し、誰にいくら包んだのか。つい一年前のことだというのに、霧がかかったように細部が思い出せないのだ。
 ただ、一つだけ覚えていることがある。去年の帰り際、玄関で靴を履いている時、背後にいた誰かが「また来年、続きをしよう」と、湿った声で囁いたことだけが、今の今まで喉に刺さった小骨のように残っていた。
 親戚の子にはすべて配り終えたお年玉。なのに手元には覚えのない真っ黒なポチ袋。こんな袋持ってたか?訝しみながら首を傾げた。それに、あの少年……親戚にいただろうか。
まあ、正月の集まりには遠方の親戚も来るし、子供の成長は早い。去年会った時とは見違えるほど顔つきが変わっていたとしても、不思議じゃあないか。私はそう自分を納得させ、いったん考えを脇に追いやった。
​ 茶の間の隅では、親戚の子供たちが古いおもちゃを引っ張り出して遊んでいた。案外大事にとってあるもんだ。独楽に、お手玉、おはじき、それに、けん玉。
 けん玉か……懐かしいな。
 カチリ、カチリと乾いた音が響く。玉を皿に乗せられず、何度もやり直している子供たちの姿を眺めているうちに、私はぼんやりと、「あいつ」のことを思い浮かべていた。
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