戻された座標軸 後編
ー/ー ある夕方、食事の合図として飼い主の足元に体を寄せた。
いつものように白い毛がズボンに触れても、飼い主はちっとも動かない。
ただ直立したまま、隣の家のほうをじっと見ている。まばたきもせず、まるで何かを待っているかのようだった。
夜になりパルはこっそりと裏庭に出た。
こんな時間に外へ行こうとすると必ず飼い主に見つかっていたのに。
飼い主は前よりも眠る時間がとても長くなり、見つかることもない。
あの日空気に溶けたかのようにいなくなった石が地面にあった。脈を打つように激しく明るく、一筋の線がのびていた。光の線の先は、飼い主の寝室。
微細な振動が地面から彼の肉球に伝わり、腹の底をざわつかせた。光る石の上に、そっと自分の白い体を落とした。
冷たい感触がお腹に当たる。
白い毛に完全に覆われ、不思議な光は外から完全に見えなくなった。
しばらくして光はゆっくりと弱まっていく。パルは目を閉じ、その上で静かに眠りに落ちた。
翌朝、庭に石はなかった。
飼い主は普通に朝食を用意し、器に餌を入れる。裏庭で伸びをすると、パルの毎日の順番は元に戻っていた。
塀の向こうから声がする。
「いい朝ですね」
「いい朝ですね」
「いい朝ですね」
三つの声は、調律されたかのように、ほとんど同じ周波数で重なっていた。飼い主は軽く、会釈を返す。
パルは聞かなかったふりをして、日向に丸くなる。
ーー同じ言葉が重なった場所ーー
朝の光の中、わずかではあるが異変が残ったままなことをパルは知っていた。
昨夜、自分が隠したものが、世界のどこかの「座標」を、ほんの一瞬だけ、元に戻したにすぎないということも。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ある夕方、食事の合図として飼い主の足元に体を寄せた。
いつものように白い毛がズボンに触れても、飼い主はちっとも動かない。
ただ直立したまま、隣の家のほうをじっと見ている。まばたきもせず、まるで何かを待っているかのようだった。
夜になりパルはこっそりと裏庭に出た。
こんな時間に外へ行こうとすると必ず飼い主に見つかっていたのに。
飼い主は前よりも眠る時間がとても長くなり、見つかることもない。
あの日空気に溶けたかのようにいなくなった石が地面にあった。脈を打つように激しく明るく、一筋の線がのびていた。光の線の先は、飼い主の寝室。
微細な振動が地面から彼の肉球に伝わり、腹の底をざわつかせた。光る石の上に、そっと自分の白い体を落とした。
冷たい感触がお腹に当たる。
白い毛に完全に覆われ、不思議な光は外から完全に見えなくなった。
しばらくして光はゆっくりと弱まっていく。パルは目を閉じ、その上で静かに眠りに落ちた。
翌朝、庭に石はなかった。
飼い主は普通に朝食を用意し、器に餌を入れる。裏庭で伸びをすると、パルの毎日の順番は元に戻っていた。
塀の向こうから声がする。
「いい朝ですね」
「いい朝ですね」
「いい朝ですね」
三つの声は、調律されたかのように、ほとんど同じ周波数で重なっていた。飼い主は軽く、会釈を返す。
パルは聞かなかったふりをして、日向に丸くなる。
ーー同じ言葉が重なった場所ーー
朝の光の中、わずかではあるが異変が残ったままなことをパルは知っていた。
昨夜、自分が隠したものが、世界のどこかの「座標」を、ほんの一瞬だけ、元に戻したにすぎないということも。