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僕とポストの秘密

ー/ー



 陽子さんの家の庭にある古いポストは、ときどき変な音を立てる。けれど、今日その影で見つけたのは、もっと妙なものだった。


​ テニスボールほどの小さな、銀色の塊。土の匂いはしない。鏡みたいに光る表面の隙間から、青白い光がドクンドクンと脈打っている。僕が知っている「この時代のもの」じゃない。


「にゃあ」


 ためしに前足でつついてみた。肉球に伝わる冷たい金属の感触。


​ その瞬間、カチリと音がして、周囲の空気が嫌な感じに震えた。


 目の前のポストが、まるでお腹を壊したみたいにガタガタと激しく揺れ、投入口からパチパチと青い火花を散らしている。重たい音が庭中に響き、最後に「ポトン」と何かが落ちる音がした。


​「トラ、どうしたの?」


 音にびっくりしたのか、陽子さんが家から出てきた。


 彼女がポストを覗き込み、一枚の紙きれを拾い上げる。それはひどく古ぼけて、僕の毛色よりずっと濃い黄色に変色した封筒だった。


​ 陽子さんの手が、小さく震え始める。


 書かれていたのは、僕らが生まれるよりずっと前、「昭和五十年」という日付。

それは昔、若かったご主人が、病気で寝ていた陽子さんへ宛てて出し、そのまま行方不明になっていた「最初の手紙」だった。



​ 陽子さんは、まるで宝物に触れるみたいにその封を切った。手紙を読み進める彼女の瞳から、一粒の雫がこぼれ落ちる。

それは悲しい涙じゃない。冬の陽だまりのような、温かい匂いがしたから。


​ 足元では、銀色の塊が「プシュッ」と小さな溜息をついて、ただの灰色の石ころに戻っていった。




 未来から来たのか、それともどこか遠い場所から紛れ込んだのか。僕にはわからない。


​ けれど、手紙を胸に抱いて幸せそうに笑う陽子さんを見て、僕は決めた。


 この「魔法の石ころ」は、誰にも見つからないように庭の隅に埋めておこう。





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 陽子さんの家の庭にある古いポストは、ときどき変な音を立てる。けれど、今日その影で見つけたのは、もっと妙なものだった。
​ テニスボールほどの小さな、銀色の塊。土の匂いはしない。鏡みたいに光る表面の隙間から、青白い光がドクンドクンと脈打っている。僕が知っている「この時代のもの」じゃない。
「にゃあ」
 ためしに前足でつついてみた。肉球に伝わる冷たい金属の感触。
​ その瞬間、カチリと音がして、周囲の空気が嫌な感じに震えた。
 目の前のポストが、まるでお腹を壊したみたいにガタガタと激しく揺れ、投入口からパチパチと青い火花を散らしている。重たい音が庭中に響き、最後に「ポトン」と何かが落ちる音がした。
​「トラ、どうしたの?」
 音にびっくりしたのか、陽子さんが家から出てきた。
 彼女がポストを覗き込み、一枚の紙きれを拾い上げる。それはひどく古ぼけて、僕の毛色よりずっと濃い黄色に変色した封筒だった。
​ 陽子さんの手が、小さく震え始める。
 書かれていたのは、僕らが生まれるよりずっと前、「昭和五十年」という日付。
それは昔、若かったご主人が、病気で寝ていた陽子さんへ宛てて出し、そのまま行方不明になっていた「最初の手紙」だった。
​ 陽子さんは、まるで宝物に触れるみたいにその封を切った。手紙を読み進める彼女の瞳から、一粒の雫がこぼれ落ちる。
それは悲しい涙じゃない。冬の陽だまりのような、温かい匂いがしたから。
​ 足元では、銀色の塊が「プシュッ」と小さな溜息をついて、ただの灰色の石ころに戻っていった。
 未来から来たのか、それともどこか遠い場所から紛れ込んだのか。僕にはわからない。
​ けれど、手紙を胸に抱いて幸せそうに笑う陽子さんを見て、僕は決めた。
 この「魔法の石ころ」は、誰にも見つからないように庭の隅に埋めておこう。