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五時間目の三次元

ー/ー




​ 五時間目の教室は、ぬるい日差しとチョークの音に包まれていた。


算数の教科書に並ぶ数字は、僕の頭を通り過ぎて窓の外へと消えていく。僕はノートの隅に、一本の線を引いた。


​それは、いつもの暇つぶしだった。


 三本の細い足、丸っこい体、そして顔の真ん中に大きな目が一つ。僕が「ポコ」と名付けた自作の宇宙人だ。


最後に、ポコの瞳に白いハイライトを書き加えた。その瞬間、ペン先から微かな振動が伝わってきた。




 ​「……え?」

​ノートの紙面が、水面のように波打った。




 黒いインクの線がムクムクと盛り上がり、紙の繊維から剥がれ落ちる。それは机の上でボトッという小さな音を立て、みるみるうちに立体へと膨らんでいった。



​三本足の、ゼリーを固めたような質感の宇宙人が、ノートの上に立っている。


体長わずか五センチ。ポコは大きな一つ目をパチリと瞬かせると、僕を見上げて、トポトポと奇妙な足音を立てて歩き出した。


​「おい、待て……!」


僕は慌てて手を伸ばすが、ポコは素早い。筆箱を跳び箱のように飛び越え、隣の女子、玲奈の机へと侵入した。


​玲奈は熱心にノートを取っている。もし視線を落とせば、この「動く落書き」に気づくはずだ。



ポコは彼女の消しゴムのカスを拾い上げると、まるで宝物を見つけたかのように頭上に掲げ、くるくると踊り始めた。



​「(まずい、バレる!)」


​僕は冷や汗をかいた。先生の解説が遠のき、耳元で自分の心臓の音だけが大きく響く。


僕は必死に身を乗り出し、自分の消しゴムをポコの前に差し出した。


「こっちだ、戻ってこい……!」


小声で囁く。その時、ポコが彼女のペンケースをポーンと蹴飛ばした。

​カラン、と高い音が静かな教室に響く。



「……? 何?」

 玲奈は怪訝そうに手元を見た。僕は心臓が止まるかと思った。

​しかし、目の前にいるはずのポコは、ふっと「二次元」に戻った。




 玲奈の消しゴムの表面に、最初から印刷されていたかのように、ポコの絵が張り付いている。

​「あれ、こんなシール貼ったかな……?」

不思議そうに首を傾げたが、すぐに黒板の方を向いた。



​僕が胸をなでおろすと、消しゴムの上のポコが、僕に向かってペロッと舌を出したように見えた。


 ​放課後。

僕は自分のノートを慎重に開いた。そこにはもう、ポコの姿はなかった。



代わりに、ノートの最後のページに、見覚えのない「三本の足を持つ、おかしな形の猫」の落書きが増えていた。


​「……次は、お前が動くのか?」


​僕は少しだけ期待を込めて、その新しい落書きの目に、最後の一点を書き加えた。








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算数の教科書に並ぶ数字は、僕の頭を通り過ぎて窓の外へと消えていく。僕はノートの隅に、一本の線を引いた。
​それは、いつもの暇つぶしだった。
 三本の細い足、丸っこい体、そして顔の真ん中に大きな目が一つ。僕が「ポコ」と名付けた自作の宇宙人だ。
最後に、ポコの瞳に白いハイライトを書き加えた。その瞬間、ペン先から微かな振動が伝わってきた。
 ​「……え?」
​ノートの紙面が、水面のように波打った。
 黒いインクの線がムクムクと盛り上がり、紙の繊維から剥がれ落ちる。それは机の上でボトッという小さな音を立て、みるみるうちに立体へと膨らんでいった。
​三本足の、ゼリーを固めたような質感の宇宙人が、ノートの上に立っている。
体長わずか五センチ。ポコは大きな一つ目をパチリと瞬かせると、僕を見上げて、トポトポと奇妙な足音を立てて歩き出した。
​「おい、待て……!」
僕は慌てて手を伸ばすが、ポコは素早い。筆箱を跳び箱のように飛び越え、隣の女子、玲奈の机へと侵入した。
​玲奈は熱心にノートを取っている。もし視線を落とせば、この「動く落書き」に気づくはずだ。
ポコは彼女の消しゴムのカスを拾い上げると、まるで宝物を見つけたかのように頭上に掲げ、くるくると踊り始めた。
​「(まずい、バレる!)」
​僕は冷や汗をかいた。先生の解説が遠のき、耳元で自分の心臓の音だけが大きく響く。
僕は必死に身を乗り出し、自分の消しゴムをポコの前に差し出した。
「こっちだ、戻ってこい……!」
小声で囁く。その時、ポコが彼女のペンケースをポーンと蹴飛ばした。
​カラン、と高い音が静かな教室に響く。
「……? 何?」
 玲奈は怪訝そうに手元を見た。僕は心臓が止まるかと思った。
​しかし、目の前にいるはずのポコは、ふっと「二次元」に戻った。
 玲奈の消しゴムの表面に、最初から印刷されていたかのように、ポコの絵が張り付いている。
​「あれ、こんなシール貼ったかな……?」
不思議そうに首を傾げたが、すぐに黒板の方を向いた。
​僕が胸をなでおろすと、消しゴムの上のポコが、僕に向かってペロッと舌を出したように見えた。
 ​放課後。
僕は自分のノートを慎重に開いた。そこにはもう、ポコの姿はなかった。
代わりに、ノートの最後のページに、見覚えのない「三本の足を持つ、おかしな形の猫」の落書きが増えていた。
​「……次は、お前が動くのか?」
​僕は少しだけ期待を込めて、その新しい落書きの目に、最後の一点を書き加えた。