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#21

ー/ー



 シェリーはなんてことないように家を出たが相変わらず外は吹雪いていており、シロは朝から暖気と冷気を何度も行き来して体調がおかしくならないか少し心配だった。

「どうしたの?」

 女が思っていたことを正直に口にすると、女児は可笑しそうに微笑んだ。

「寒すぎて身体に悪さする菌も死んじゃうから平気よ」

 確かにそうでもなければ北国の人間は冬の間ずっと風邪っぴきばかりになってしまうし、案外そういう物かもしれないと南国に長くいた女は納得する。
 来た時より心持の明るいシェリーは饒舌で、広場を経由し西へ延びる大通りを歩きながら「ジローがお父さんを助けてくれたの」と嬉し気に触れて回るのだから紹介される女はくすぐったくて仕方がない。決して悪い気はしないが、どちらかと言うと褒められるより怒られることの方が多かった彼女はこういうのに慣れていなかった。

 頬を人差し指で搔きながら逸らした視線の先にゲームセンターを見つけた女は、女児の手を引き場を逃れるようにして店に入ると、そこには日本で勝手知ったる筐体の旧バージョンが詰め込まれており故郷の空気を思い出した女の背を震わせた。
 カウンターで暇そうにする男に先ほど貰ったばかりのお札を渡して両替してもらう。コインを弄びながら店の中を練り歩き物色し始めた女を見た子供が笑い始め、シロが訳と聞くと女児はおかしそうに声を弾ませながら答えた。

「だってジローったらこんなに古いゲーム機を必死に見てるんだもの。日本ならもっと最新の物で遊べるんじゃない?ここにあるのだって日本で使われなくなった物だって聞いてるわ」
「わかってねーなぁ。この古さがいいんだよ。なんでも新しけりゃいいってもんじゃねーんだ」

「そういうものかしら。あたしはニャン天堂のnyawatti2の方が動きも色も綺麗で素敵だと思うけど」
「まだお前の歳でノスタルジーを感じるのは難しいかもな。きっと二十年後にnyawatti2がレトロハードだって呼ばれるようになったら俺の気持ちが分かるようになるさ」

 話しながら他に客のいない店内で路上で拳闘士が殴り合うゲームを見つけたシロは、数年ぶりに見た自分の生きる指針となった作品の先祖に敬意を払いながら席に着く。
 慣れた手つきで日本を離れ遠い異国で未だ現役稼働し続ける筐体に銀色のコインを投入。

 敗北。

 すかさずコインを再度投入。
 キャラクターのもっさりした動きに加え強い衝撃を与えて壊してしまう事を恐れながらのプレイだから負けたんだとシェリーに言い訳しつつコインを次々連投し、最初は負ける姿を面白がっていた女児が徐々に飽きて足をプラプラさせ始めた頃にようやくクリアしたシロは聞かれても居ないのに諦めない事の大事さを自慢げに語り始めた。

 うんざり顔で時計を見た女児がそろそろ時間だと告げるので、女は仕方なく席を立った。ゲームセンターを出ると外はすっかり暗くなっていていったい何時間いたのかと思ったが、ポケットから取り出したスマホの画面で確認してもまだ夕方と表すべき時刻。
 ここは緯度が高いから日照時間が短いのかもしれないと思い隣を歩く女児に聞いてみるとやはり予想通りだったらしく、最近は五六時間しか太陽は出ないとのことで、もっと北に行けば一日中夜の極夜という現象もみられるよと紹介された。

「体内時間がぐちゃぐちゃに狂っちまいそうだな」
「ずっと住んでれば慣れるよ」

「いや俺は直ぐに日本に帰るぞ」
「なんてー?吹雪がうるさくて聞こえなーい」

 その言葉が本当かどうかわからなかったが、シロは敢えて繰り返しはしなかった。



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みんなのリアクション

 シェリーはなんてことないように家を出たが相変わらず外は吹雪いていており、シロは朝から暖気と冷気を何度も行き来して体調がおかしくならないか少し心配だった。
「どうしたの?」
 女が思っていたことを正直に口にすると、女児は可笑しそうに微笑んだ。
「寒すぎて身体に悪さする菌も死んじゃうから平気よ」
 確かにそうでもなければ北国の人間は冬の間ずっと風邪っぴきばかりになってしまうし、案外そういう物かもしれないと南国に長くいた女は納得する。
 来た時より心持の明るいシェリーは饒舌で、広場を経由し西へ延びる大通りを歩きながら「ジローがお父さんを助けてくれたの」と嬉し気に触れて回るのだから紹介される女はくすぐったくて仕方がない。決して悪い気はしないが、どちらかと言うと褒められるより怒られることの方が多かった彼女はこういうのに慣れていなかった。
 頬を人差し指で搔きながら逸らした視線の先にゲームセンターを見つけた女は、女児の手を引き場を逃れるようにして店に入ると、そこには日本で勝手知ったる筐体の旧バージョンが詰め込まれており故郷の空気を思い出した女の背を震わせた。
 カウンターで暇そうにする男に先ほど貰ったばかりのお札を渡して両替してもらう。コインを弄びながら店の中を練り歩き物色し始めた女を見た子供が笑い始め、シロが訳と聞くと女児はおかしそうに声を弾ませながら答えた。
「だってジローったらこんなに古いゲーム機を必死に見てるんだもの。日本ならもっと最新の物で遊べるんじゃない?ここにあるのだって日本で使われなくなった物だって聞いてるわ」
「わかってねーなぁ。この古さがいいんだよ。なんでも新しけりゃいいってもんじゃねーんだ」
「そういうものかしら。あたしはニャン天堂のnyawatti2の方が動きも色も綺麗で素敵だと思うけど」
「まだお前の歳でノスタルジーを感じるのは難しいかもな。きっと二十年後にnyawatti2がレトロハードだって呼ばれるようになったら俺の気持ちが分かるようになるさ」
 話しながら他に客のいない店内で路上で拳闘士が殴り合うゲームを見つけたシロは、数年ぶりに見た自分の生きる指針となった作品の先祖に敬意を払いながら席に着く。
 慣れた手つきで日本を離れ遠い異国で未だ現役稼働し続ける筐体に銀色のコインを投入。
 敗北。
 すかさずコインを再度投入。
 キャラクターのもっさりした動きに加え強い衝撃を与えて壊してしまう事を恐れながらのプレイだから負けたんだとシェリーに言い訳しつつコインを次々連投し、最初は負ける姿を面白がっていた女児が徐々に飽きて足をプラプラさせ始めた頃にようやくクリアしたシロは聞かれても居ないのに諦めない事の大事さを自慢げに語り始めた。
 うんざり顔で時計を見た女児がそろそろ時間だと告げるので、女は仕方なく席を立った。ゲームセンターを出ると外はすっかり暗くなっていていったい何時間いたのかと思ったが、ポケットから取り出したスマホの画面で確認してもまだ夕方と表すべき時刻。
 ここは緯度が高いから日照時間が短いのかもしれないと思い隣を歩く女児に聞いてみるとやはり予想通りだったらしく、最近は五六時間しか太陽は出ないとのことで、もっと北に行けば一日中夜の極夜という現象もみられるよと紹介された。
「体内時間がぐちゃぐちゃに狂っちまいそうだな」
「ずっと住んでれば慣れるよ」
「いや俺は直ぐに日本に帰るぞ」
「なんてー?吹雪がうるさくて聞こえなーい」
 その言葉が本当かどうかわからなかったが、シロは敢えて繰り返しはしなかった。