「う、うぅ……」
深刻なダメージに力なく呻くデブ男のブースト。死も遠くないだろう。
「テメェ!」
トレブルがダガーナイフを振りかぶった。
「固有技能〔ウィザードリィ・ナイフ〕」
ヤツの手元から得物が放たれる。俺はすでにダッと地面を蹴っていた。
「特殊技能〔ニュンパ・グレイズ〕」
俺はヤツのナイフを弾きながら一息の間に肉薄する。
「ぎゃあぁぁ!!」
トレブルも地に崩れ落ちた。魔剣使いの一閃のもとに。
俺は剣を振り下ろして血を払った。
「く、くぅ……」
かろうじて呻くトレブル。コイツも死は遠くないだろう。
「や、やっぱり強い!」
少し離れた位置から観戦していたシヒロが声を上げた。俺は地に伏せた〔ダムド〕の二人を僅かの間見下ろしてから、チラッとシヒロを一瞥する。
「シヒロ。コイツらを治療してやれ。今ならまだ助かるはずだ」
「えっ? は、はい!」
シヒロは大急ぎで横たわるブーストに近寄ってくると、治癒魔法を唱えた。
「深淵なる万物万象の源泉よ。我が劤と為り、彼の者を癒し給へ。〔アルカーナ・サナーレ〕」
そのままシヒロが二人を治療している間、俺はシヴィスと見合っていた。どういうわけか、ヤツはこれといった動きを見せない。微かにニヤついているような表情からは思考も感情もまったく読み取れない。
「……な、なんでだ?」
「おれたちを……助けた?」
間もなくシヒロによる治療を終えて上体を起こした二人が疑問の声を発した。
ここぞとばかりに俺は二人に問いかける。
「これでお前らにとってその子は命の恩人だ。違うか?」
「え?」
「は?」
「そして俺はいつでもお前らを殺せる」
俺は抗わざる地獄の処刑人だと言わんばかりにビュンと剣を振り下ろす。
「!」「!」
恐怖にビビる二人。その首へ死神の鎌を当てがうように、もう一度ダメ押しで睨みつけた。
「ヘタな行動はとるなよ。俺は今からヤツを倒す」
俺は視線を移し、シヴィスに剣尖を向けた。
『また面白い事をしますね、貴方は』と謎の声が興味深そうに漏らした。
『そうか?』
『ボスの目の前でその部下を自分に屈服させようとするなんて』
『魔術師ゲインはボスにあっさりやられた。アイツらに大した信頼関係はないんだろう。ましてやトレブルとブーストは〔フリーダム〕ではない。おそらく〔フリーダム〕の幹部であるシヴィスが都合よく私兵として使っているに過ぎないと思ってな』
『で、彼らをどう使うので?』
『あのシヴィスとかいうヤツ、どうも嫌な……今までにない危険な感じがする。かといってシヒロの好奇心は抑えられないだろうしな』
『なるほど。クロー様は、あの娘にいささか甘いようで』
『そういうわけじゃないが』
『あの娘の作家の夢とやらを応援してあげたいと?』
『……』
『まあ、いいでしょう。ワタクシの空間転移に頼らない選択肢を増やすことにもなりますし』