第72話

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 朋恵が買ってきたケーキと愛未が買ってきたクリスマスチキン、愛未の母親特製のお惣菜などをテーブルに並べていた。
 もちろん、テーブルの上にはプレゼント交換用のプレゼントもセットだ。

 ちなみに、僕が用意したのは保湿用のリップクリームだ。
 ちょっと値段は張ったけれども、喜んでくれるだろう。

 すっかり準備が整うと、朋恵がお菓子屋さんで買ってきたシャンメリーが注がれたコップを片手にして、朋恵が音頭を取った。

「それじゃあ、……まだ一週間あるけど……、一年間お疲れ様でした! 乾杯!」
「「乾杯!!」」

 掛け声に合わせると、僕らはシャンメリーをグイッと飲み干した。
 本当、クリスマスにはシャンメリーが良く似合う。
 皆で飲んだのって、いつ以来かな……、小学校六年生以来だな。

 シャンメリーを口につけた後で、僕達は愛未の母親特製の野菜サラダとナポリタンパスタ料理、そしてクリスマスチキンに舌鼓を打った。
 一回だけ朋恵の母さんに料理を振舞ってもらったことがあったけど、愛未の母さんも料理の腕は悪くなさそうだ。

「愛未のお母さんって、料理の腕は良いのかな」
「そうだね。私の母さんは朋恵に負けないくらい料理が上手だよ」
「そういえば、長町(こっち)に来たばかりの時に、運動会で一緒になってお昼を食べたことがあったな~」
「お母さんが用意してくれたサンドウィッチをトモが美味しそうに頬張っていたのを思い出したよ」
「マナ、小学校の頃のことをよく覚えているね」
「うん。私は記憶力が抜群だからね」

 二人の会話を聞いていると、この二人は僕と似て別の街から来たのかな、と思った。
 僕は山形からこっちに来たけど、二人はどうなのかな?

「二人ってどこ出身なの?」
「アタシは富谷にお祖父ちゃんたちと一緒に住んでいたけど、小学校に入る前にマンションを買って、仕事の都合でこっちに引っ越してきたんだ」
「小さい頃は川崎に住んでいたけど、愛未と一緒の時期に引っ越してね、入学式の時に一緒のクラスになってからずっと……かな」
「となると、二人とも幼馴染ってこと?」
「そういうこと」「そういうことになるね」
「ひょっとして、倒れた時に僕の事を知っていたというのは……?」
「忘れてたの? アタシとヤス、三年生の時同じクラスだったじゃない」

 ……三年の時?
 ……ひょっとして……?

 ☆

 ……最初に話しかけられた時は、確か中三の春頃だったはず。
 席替えで僕と朋恵が隣同士になったことがあった。
 最初に話しかけてきたのは、確か休み時間の時だったかな……。
 朋恵が教科書を忘れて、僕に見せてくれって話しかけてきたんだよな。

「ねぇ、富樫君」
「ん、なぁに?」
「教科書見せてくれない? アタシ、家に置いてきちゃって……」
「しょうがないなぁ……、ホラ」

 それで机をくっつけて、朋恵に教科書を見せてあげたっけ。

「クスッ。ありがとう、富樫君」

 そう言って、朋恵は肋骨の辺りまであるロングストレートをかき上げて僕に笑顔を見せた。
 あの時の朋恵の笑顔は、生涯忘れられない宝物だった――。

 ☆

「確か、あの時の髪型ってロングストレートだった……、よね」
「うん。高校に入ってからは髪の先端にウェーブを掛けるようにしたの。それと、ちょっとコドモっぽくなることは覚悟してツインテールにしちゃおうかなと思って……」

 そういえば、体育館で倒れた日に真っ先に声を掛けてきたのは朋恵だった。
 声で分かったはずなのに、見た目は全くの別人だったから気がつかなかったよ。

「ヤスは昔の方が好き? それとも、今のアタシが好き?」
「そ、そりゃあ……昔の髪形も好きだけど、今の髪形の方が好き、だよ」

 何せ、ここ二カ月で見慣れたからね。

「くすっ、ありがと。そう言ってくれて」

 朋恵はいつものように笑顔を輝かせながら、そう答えてくれた。
 すると、朋恵はふと何かを思い出したかのように、床に置いてあったスポーツバッグの中をゴソゴソと漁り始めた。

「そうそう、アタシからプレゼントがあるんだ」

 朋恵はそう言うと、スポーツバッグの中からラッピングされた袋を取り出した。
 そして、僕と愛未に一つずつ手渡してくれた。

「開けてみて」と言われて、僕はすぐにリボンを解いて中身を確認した。
 中身は男物のマフラーで、淡いベージュ色でふわふわした質感のものだった。
 網目模様はシンプルで、ワンポイントとして白い刺繍(ししゅう)で「Y.T.」とだけ入っていた。

「ヤス、このマフラーを巻いてみてよ」

 僕は朋恵に言われるがままに、マフラーを首に巻いた。
 何だろう、この感覚。朋恵の温もりが感じられる。
 そして、僕がマフラーを巻いたのを確認すると、朋恵は嬉しそうに笑った。

「うん、似合っているね!」
「これって、朋恵が編んだものなの?」
「そうだよ。愛未のも含めて十日掛けて作ったんだ」
「ありがとう」

 すると、隣の席で腰掛けている愛未もマフラーを首に巻いた。

「ふふっ、手編みをしてくれるなんてありがたいよ」
「うん、そう言ってくれると助かるよ」

 そう話すと、先程の朋恵と同じように愛未もスポーツバッグから何かを取り出した。
 何だろう、と思っていると、愛未が僕らにラッピングされたものを手渡しする。

「私からのプレゼントだよ。昨日モールに行って買ってきたんだ」

 愛未から渡された袋を開封すると、タッチパネル対応を銘打った冬物の手袋だった。

「これ、高かったんでしょ?」
「いや、そんなに高くなかったよ。トモは結構スマホを使うから、気を遣って、ね」
「ありがとう、マナ。ちゃんと使うよ」

 朋恵がそう話すと、愛未はちょっと照れくさい表情を浮かべた。

「さて、僕から二人に用意したのは……」

 僕は駅裏にあるホームセンターで買った愛用のエコバッグから、包装紙にくるまれたリップクリームを取り出して二人に渡した。

「あ、これって……」
「そう、定番のリップクリームだよ」

 これから寒さが本格化すると唇が痛みがちなので、ちょうど良いのかなと思って選んだものだ。
 いつもお世話になっているからね、二人には。

「ありがとう、ヤス君」
「ありがと!」

 開けた瞬間に、二人とも笑顔を見せてくれた。
 喜んでくれて良かったよ。



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みんなのリアクション

 朋恵が買ってきたケーキと愛未が買ってきたクリスマスチキン、愛未の母親特製のお惣菜などをテーブルに並べていた。
 もちろん、テーブルの上にはプレゼント交換用のプレゼントもセットだ。
 ちなみに、僕が用意したのは保湿用のリップクリームだ。
 ちょっと値段は張ったけれども、喜んでくれるだろう。
 すっかり準備が整うと、朋恵がお菓子屋さんで買ってきたシャンメリーが注がれたコップを片手にして、朋恵が音頭を取った。
「それじゃあ、……まだ一週間あるけど……、一年間お疲れ様でした! 乾杯!」
「「乾杯!!」」
 掛け声に合わせると、僕らはシャンメリーをグイッと飲み干した。
 本当、クリスマスにはシャンメリーが良く似合う。
 皆で飲んだのって、いつ以来かな……、小学校六年生以来だな。
 シャンメリーを口につけた後で、僕達は愛未の母親特製の野菜サラダとナポリタンパスタ料理、そしてクリスマスチキンに舌鼓を打った。
 一回だけ朋恵の母さんに料理を振舞ってもらったことがあったけど、愛未の母さんも料理の腕は悪くなさそうだ。
「愛未のお母さんって、料理の腕は良いのかな」
「そうだね。私の母さんは朋恵に負けないくらい料理が上手だよ」
「そういえば、長町《こっち》に来たばかりの時に、運動会で一緒になってお昼を食べたことがあったな~」
「お母さんが用意してくれたサンドウィッチをトモが美味しそうに頬張っていたのを思い出したよ」
「マナ、小学校の頃のことをよく覚えているね」
「うん。私は記憶力が抜群だからね」
 二人の会話を聞いていると、この二人は僕と似て別の街から来たのかな、と思った。
 僕は山形からこっちに来たけど、二人はどうなのかな?
「二人ってどこ出身なの?」
「アタシは富谷にお祖父ちゃんたちと一緒に住んでいたけど、小学校に入る前にマンションを買って、仕事の都合でこっちに引っ越してきたんだ」
「小さい頃は川崎に住んでいたけど、愛未と一緒の時期に引っ越してね、入学式の時に一緒のクラスになってからずっと……かな」
「となると、二人とも幼馴染ってこと?」
「そういうこと」「そういうことになるね」
「ひょっとして、倒れた時に僕の事を知っていたというのは……?」
「忘れてたの? アタシとヤス、三年生の時同じクラスだったじゃない」
 ……三年の時?
 ……ひょっとして……?
 ☆
 ……最初に話しかけられた時は、確か中三の春頃だったはず。
 席替えで僕と朋恵が隣同士になったことがあった。
 最初に話しかけてきたのは、確か休み時間の時だったかな……。
 朋恵が教科書を忘れて、僕に見せてくれって話しかけてきたんだよな。
「ねぇ、富樫君」
「ん、なぁに?」
「教科書見せてくれない? アタシ、家に置いてきちゃって……」
「しょうがないなぁ……、ホラ」
 それで机をくっつけて、朋恵に教科書を見せてあげたっけ。
「クスッ。ありがとう、富樫君」
 そう言って、朋恵は肋骨の辺りまであるロングストレートをかき上げて僕に笑顔を見せた。
 あの時の朋恵の笑顔は、生涯忘れられない宝物だった――。
 ☆
「確か、あの時の髪型ってロングストレートだった……、よね」
「うん。高校に入ってからは髪の先端にウェーブを掛けるようにしたの。それと、ちょっとコドモっぽくなることは覚悟してツインテールにしちゃおうかなと思って……」
 そういえば、体育館で倒れた日に真っ先に声を掛けてきたのは朋恵だった。
 声で分かったはずなのに、見た目は全くの別人だったから気がつかなかったよ。
「ヤスは昔の方が好き? それとも、今のアタシが好き?」
「そ、そりゃあ……昔の髪形も好きだけど、今の髪形の方が好き、だよ」
 何せ、ここ二カ月で見慣れたからね。
「くすっ、ありがと。そう言ってくれて」
 朋恵はいつものように笑顔を輝かせながら、そう答えてくれた。
 すると、朋恵はふと何かを思い出したかのように、床に置いてあったスポーツバッグの中をゴソゴソと漁り始めた。
「そうそう、アタシからプレゼントがあるんだ」
 朋恵はそう言うと、スポーツバッグの中からラッピングされた袋を取り出した。
 そして、僕と愛未に一つずつ手渡してくれた。
「開けてみて」と言われて、僕はすぐにリボンを解いて中身を確認した。
 中身は男物のマフラーで、淡いベージュ色でふわふわした質感のものだった。
 網目模様はシンプルで、ワンポイントとして白い刺繍《ししゅう》で「Y.T.」とだけ入っていた。
「ヤス、このマフラーを巻いてみてよ」
 僕は朋恵に言われるがままに、マフラーを首に巻いた。
 何だろう、この感覚。朋恵の温もりが感じられる。
 そして、僕がマフラーを巻いたのを確認すると、朋恵は嬉しそうに笑った。
「うん、似合っているね!」
「これって、朋恵が編んだものなの?」
「そうだよ。愛未のも含めて十日掛けて作ったんだ」
「ありがとう」
 すると、隣の席で腰掛けている愛未もマフラーを首に巻いた。
「ふふっ、手編みをしてくれるなんてありがたいよ」
「うん、そう言ってくれると助かるよ」
 そう話すと、先程の朋恵と同じように愛未もスポーツバッグから何かを取り出した。
 何だろう、と思っていると、愛未が僕らにラッピングされたものを手渡しする。
「私からのプレゼントだよ。昨日モールに行って買ってきたんだ」
 愛未から渡された袋を開封すると、タッチパネル対応を銘打った冬物の手袋だった。
「これ、高かったんでしょ?」
「いや、そんなに高くなかったよ。トモは結構スマホを使うから、気を遣って、ね」
「ありがとう、マナ。ちゃんと使うよ」
 朋恵がそう話すと、愛未はちょっと照れくさい表情を浮かべた。
「さて、僕から二人に用意したのは……」
 僕は駅裏にあるホームセンターで買った愛用のエコバッグから、包装紙にくるまれたリップクリームを取り出して二人に渡した。
「あ、これって……」
「そう、定番のリップクリームだよ」
 これから寒さが本格化すると唇が痛みがちなので、ちょうど良いのかなと思って選んだものだ。
 いつもお世話になっているからね、二人には。
「ありがとう、ヤス君」
「ありがと!」
 開けた瞬間に、二人とも笑顔を見せてくれた。
 喜んでくれて良かったよ。