第70話
ー/ー 12月24日。
今日はクリスマス・イブだ。
昨日からは四日間に亘る夏休みと年末恒例の課外講習が始まった。
講習は共通テスト対策や大学受験対策がメインで、特に英語と国語に関しては力を入れている。
うちの学校は仙台南地区では屈指の進学率を誇る高校で、毎年八割から九割の卒業生が大学に進学している。そのほとんどが県庁所在地にある国立大学や首都圏の中堅私立大学、地方の私立大学で、旧帝大は二人か三人がやっとだ。
旧制中学から続く学校だと八割近くの進学率だけど、そちらだと旧帝大や有名私立に進学する生徒も多い。出身中学で茶畑に通っている卒業生も居るけど、あそこはかなりの数の生徒が毎年北東大学に入っている。
もう少し頑張っておけばよかったと思ったけど、僕の場合は中二の春に転入したという事情を考えてこの学校を選んだ。願わくはもう少し成績が良かったら、旧制中学時代からある学校に入れたのかなと思うこともあるけど、今はそんなことはどうでも良くなった。
南棟の四階にある合同講義室で、僕は事前に配られたテキストとノートを開きながら、講習の予習に明け暮れていた。
英語のテキストは共通テスト対策と銘打ったものになっていて、リスニングやリーディングに重点を置かれたものとなっていた。
講習の予習に明け暮れている僕の左隣には……。
「ヤス、ちょっと電子辞書を見せてもらえる?」
「あ、うん」
甘いバニラの香りを漂わせる朋恵がぴったりと寄せていた。
「ヤス君、私も講習のテキストを見せてもらってもいいかな」
「い、いいよ」
その一方で、通路を挟んで右側に居る愛未がローズの香りを漂わせながら僕の席の近くに来ていた。
二人とも容姿端麗、成績優秀と非の打ち所がない。
ノリの軽い朋恵に、いつも物憂げな表情の愛未は水と油といった感じだが、ここ最近はずっと一緒になることが多い。
二日のズレがあるとはいえ、キスしちゃったんだよな、二人とも……。
夏休みの講習は一人で受けていたためか寂しい思いをしていたけど、今回は三人一緒になって講習を受けているためか、気分は晴れやかだった。
「ヤス、ここの問題は?」
「ここはね……」
僕は朋恵に質問されたところをスラスラと解説していく。
ここ最近は部活でやっているゲームだけではなく、以前よりも勉強がしっかりやれるようになった。我ながら凄い進歩だな。
昨日は予習しておいて正解だったよ。
「……というわけなんだ」
「ありがと! これでばっちりだね」
朋恵が笑顔を見せると、僕も自然と笑みがこぼれる。
朋恵はノリが軽いし、可愛いよな。
「ヤス君、私も教えてもらっていいかな?」
「ん、なんだい?」
朋恵の次は愛未の質問に答えようと、僕は席を立ちあがって愛未のところに向かう。
朋恵もつられて愛未の席に向かうと、僕と愛未が仲良くするのを見てちょっと意地悪な表情を見せた。
「ふ~ん、愛未も英語で分からないことがあるの?」
「な、何だよトモ。いいじゃないか、たまには教えてもらっても」
「優等生の癖にね~」
「そ、それとこれとは話が別だ!」
「お、顔が赤くなっておりますぞ~」
「う、うるさいな! ……まったく」
朋恵と僕が親しくしている時は何にも言わない愛未だけど、逆に愛未が僕に近づくと朋恵が上手い感じで愛未をからかってくる。
愛未は朋恵に反応して顔を真っ赤にするけど、それがまた可愛い。
クールで物憂げな愛未だけど、ここ最近はちょっと可愛いところを見せるようになった。無論、僕たちの間だけだけど。
「ハイハイ、そこの三人。そろそろ先生が来るよ」
「英語の先生に怒られたらシャレにならないよ~」
後ろから僕らを諫める声がした。
振り返ってみると、そこには臍の近くまで伸びたサラサラのロングヘアをした黒須さんと、相変わらずの肩まであるセミロングの白浜さんが座っていた。
この二人もギャルコンビだけど……、ん? 黒須さん、髪の色が変わっているぞ。
「黒須さん、髪の色が……」
「ん、これ? ブリーチを止めたんだ。この髪型でも行けると思ってね」
「ブリーチを続けて髪の毛を傷めるのもどうかなと思ってね、私がアドバイスしたんだ。金髪よりも、やっぱり程良い感じの方が空かれると思ってね」
「真面目過ぎず遊び過ぎず……が私にはちょうどいいかな~ってね」
そう話すと、黒須さんはちょっと髪の毛をかき上げた。
「良いじゃないか。似合っているよ」
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
黒須さんはそう話すと、クスッと微笑んで見せた。
朋恵も才色兼備だけど、黒須さんは学年一位ということもあって別格だな。
「それより、そろそろ講義が始まるから席に就こうよ」
「「「そ、そうだね……」」」
ふと、壁にかかっている時計を見ると午前九時近くだ。
今日は午前中に英語と数学、国語の講義がある。
講義が終わったら部活だけど、先輩達はクリスマスをどうやって過ごすんだろう。
◇
「先輩達って、クリスマスはどう過ごします?」
e-Sports愛好会の部室でお昼を食べている時、僕は部室内に居る国分先輩達に聞いてみた。
桃花先輩と桜花先輩だと父さんが隣町で市議会議員をしていて、その上会社の社長さんだからそれなりの規模のパーティーをやったり、家をイルミネーションで飾り付けるのかな。
「私達? 私は普通にクリスマスチキンとケーキを食べて、それでおしまいだよ」
「我が家は父さんの方針で、うちでは余り派手なことはしないんだ。……あれ? 富樫君、どうかしたの?」
「い、いや、なんでも……」
クリスマスを派手に祝うのかと思ったら、そうでもないのか。ちょっと残念だな……と思ったら、桜花先輩がちょっとだけ考える素振りをして、僕の方を向いて話の続きをした。
「あ、でも、父さんが経営しているガソリンスタンドではイルミネーションをするみたいだよ。色々と目立つから」
何にもしないよりも、何かしたほうがお客さんが来るもんな。
クリスマスが終われば、外すだけで良いだけだし。
「じゃあさ、そういう富樫君はどうなの?」
すると、桃花先輩が僕に向かって問いかけてきた。
僕はというと、昨日朋恵から僕の家でパーティーをすることが決まったらしく、今日の夕方に僕の家に押しかけるそうだ。
女の子二人で祝うというのはどうかなと思うけど、言った方が良いのかな。
「……実は、彼女と祝うことになっておりまして……」
僕がそう話すと、向かい側に座っている国分先輩達の目が点になった。
しかも、こっちを向いているよ。
「え、彼女?」
「誰と祝うのよ~?」
うわ、二人とも僕をロックオンしているよ。
しかも、二人とも顔が笑っていない!
「そ、それは……、こないだカラオケに来た彼女と……」
「ほ~、チア部に居る彼女とでしょ~?」
「え、ええ。でも、なんでそれが分かったんですか?」
「顔に書いてあるよ~。チア部の一年生とクリスマスパーティーだ~って……ウフフ♡」
桜花先輩、勘が鋭いよ。その通りだけどさ!
「悪いけど、浮かれ気分の君には~……」
「私達と一緒にコンペティティブをやってもらおうかしらね~」
「今日は覚悟してね~……フッフッフ……」
「え、ええ~っ!」
参ったな。僕自身のゲーム内レベルはコンペティティブが出来るレベルになったけれど、これって延長戦があるからな。
早いうちに決まってくれればいいけど、そうなったら家に戻るのが遅くなりそうだ。
「藤島さん、助けて……」
藤島さんに助け舟を出そうとして、「私は関係ありませんから」と首を横に振る始末だ。同じクラスなのに……。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
12月24日。
今日はクリスマス・イブだ。
昨日からは四日間に亘る夏休みと年末恒例の課外講習が始まった。
講習は共通テスト対策や大学受験対策がメインで、特に英語と国語に関しては力を入れている。
うちの学校は仙台南地区では屈指の進学率を誇る高校で、毎年八割から九割の卒業生が大学に進学している。そのほとんどが県庁所在地にある国立大学や首都圏の中堅私立大学、地方の私立大学で、旧帝大は二人か三人がやっとだ。
旧制中学から続く学校だと八割近くの進学率だけど、そちらだと旧帝大や有名私立に進学する生徒も多い。出身中学で茶畑に通っている卒業生も居るけど、あそこはかなりの数の生徒が毎年北東大学に入っている。
もう少し頑張っておけばよかったと思ったけど、僕の場合は中二の春に転入したという事情を考えてこの学校を選んだ。願わくはもう少し成績が良かったら、旧制中学時代からある学校に入れたのかなと思うこともあるけど、今はそんなことはどうでも良くなった。
南棟の四階にある合同講義室で、僕は事前に配られたテキストとノートを開きながら、講習の予習に明け暮れていた。
英語のテキストは共通テスト対策と銘打ったものになっていて、リスニングやリーディングに重点を置かれたものとなっていた。
講習の予習に明け暮れている僕の左隣には……。
「ヤス、ちょっと電子辞書を見せてもらえる?」
「あ、うん」
甘いバニラの香りを漂わせる朋恵がぴったりと寄せていた。
「ヤス君、私も講習のテキストを見せてもらってもいいかな」
「い、いいよ」
その一方で、通路を挟んで右側に居る愛未がローズの香りを漂わせながら僕の席の近くに来ていた。
二人とも容姿端麗、成績優秀と非の打ち所がない。
ノリの軽い朋恵に、いつも物憂げな表情の愛未は水と油といった感じだが、ここ最近はずっと一緒になることが多い。
二日のズレがあるとはいえ、キスしちゃったんだよな、二人とも……。
夏休みの講習は一人で受けていたためか寂しい思いをしていたけど、今回は三人一緒になって講習を受けているためか、気分は晴れやかだった。
「ヤス、ここの問題は?」
「ここはね……」
僕は朋恵に質問されたところをスラスラと解説していく。
ここ最近は部活でやっているゲームだけではなく、以前よりも勉強がしっかりやれるようになった。我ながら凄い進歩だな。
昨日は予習しておいて正解だったよ。
「……というわけなんだ」
「ありがと! これでばっちりだね」
朋恵が笑顔を見せると、僕も自然と笑みがこぼれる。
朋恵はノリが軽いし、可愛いよな。
「ヤス君、私も教えてもらっていいかな?」
「ん、なんだい?」
朋恵の次は愛未の質問に答えようと、僕は席を立ちあがって愛未のところに向かう。
朋恵もつられて愛未の席に向かうと、僕と愛未が仲良くするのを見てちょっと意地悪な表情を見せた。
「ふ~ん、愛未も英語で分からないことがあるの?」
「な、何だよトモ。いいじゃないか、たまには教えてもらっても」
「優等生の癖にね~」
「そ、それとこれとは話が別だ!」
「お、顔が赤くなっておりますぞ~」
「う、うるさいな! ……まったく」
朋恵と僕が親しくしている時は何にも言わない愛未だけど、逆に愛未が僕に近づくと朋恵が上手い感じで愛未をからかってくる。
愛未は朋恵に反応して顔を真っ赤にするけど、それがまた可愛い。
クールで物憂げな愛未だけど、ここ最近はちょっと可愛いところを見せるようになった。無論、僕たちの間だけだけど。
「ハイハイ、そこの三人。そろそろ先生が来るよ」
「英語の先生に怒られたらシャレにならないよ~」
後ろから僕らを諫める声がした。
振り返ってみると、そこには臍《へそ》の近くまで伸びたサラサラのロングヘアをした黒須さんと、相変わらずの肩まであるセミロングの白浜さんが座っていた。
この二人もギャルコンビだけど……、ん? 黒須さん、髪の色が変わっているぞ。
「黒須さん、髪の色が……」
「ん、これ? ブリーチを止めたんだ。この髪型でも行けると思ってね」
「ブリーチを続けて髪の毛を傷めるのもどうかなと思ってね、私がアドバイスしたんだ。金髪よりも、やっぱり程良い感じの方が空かれると思ってね」
「真面目過ぎず遊び過ぎず……が私にはちょうどいいかな~ってね」
そう話すと、黒須さんはちょっと髪の毛をかき上げた。
「良いじゃないか。似合っているよ」
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
黒須さんはそう話すと、クスッと微笑んで見せた。
朋恵も才色兼備だけど、黒須さんは学年一位ということもあって別格だな。
「それより、そろそろ講義が始まるから席に就こうよ」
「「「そ、そうだね……」」」
ふと、壁にかかっている時計を見ると午前九時近くだ。
今日は午前中に英語と数学、国語の講義がある。
講義が終わったら部活だけど、先輩達はクリスマスをどうやって過ごすんだろう。
◇
「先輩達って、クリスマスはどう過ごします?」
e-Sports愛好会の部室でお昼を食べている時、僕は部室内に居る国分先輩達に聞いてみた。
桃花先輩と桜花先輩だと父さんが隣町で市議会議員をしていて、その上会社の社長さんだからそれなりの規模のパーティーをやったり、家をイルミネーションで飾り付けるのかな。
「私達? 私は普通にクリスマスチキンとケーキを食べて、それでおしまいだよ」
「我が家は父さんの方針で、うちでは余り派手なことはしないんだ。……あれ? 富樫君、どうかしたの?」
「い、いや、なんでも……」
クリスマスを派手に祝うのかと思ったら、そうでもないのか。ちょっと残念だな……と思ったら、桜花先輩がちょっとだけ考える素振りをして、僕の方を向いて話の続きをした。
「あ、でも、父さんが経営しているガソリンスタンドではイルミネーションをするみたいだよ。色々と目立つから」
何にもしないよりも、何かしたほうがお客さんが来るもんな。
クリスマスが終われば、外すだけで良いだけだし。
「じゃあさ、そういう富樫君はどうなの?」
すると、桃花先輩が僕に向かって問いかけてきた。
僕はというと、昨日朋恵から僕の家でパーティーをすることが決まったらしく、今日の夕方に僕の家に押しかけるそうだ。
女の子二人で祝うというのはどうかなと思うけど、言った方が良いのかな。
「……実は、彼女と祝うことになっておりまして……」
僕がそう話すと、向かい側に座っている国分先輩達の目が点になった。
しかも、こっちを向いているよ。
「え、彼女?」
「誰と祝うのよ~?」
うわ、二人とも僕をロックオンしているよ。
しかも、二人とも顔が笑っていない!
「そ、それは……、こないだカラオケに来た彼女と……」
「ほ~、チア部に居る彼女とでしょ~?」
「え、ええ。でも、なんでそれが分かったんですか?」
「顔に書いてあるよ~。チア部の一年生とクリスマスパーティーだ~って……ウフフ♡」
桜花先輩、勘が鋭いよ。その通りだけどさ!
「悪いけど、浮かれ気分の君には~……」
「私達と一緒にコンペティティブをやってもらおうかしらね~」
「今日は覚悟してね~……フッフッフ……」
「え、ええ~っ!」
参ったな。僕自身のゲーム内レベルはコンペティティブが出来るレベルになったけれど、これって延長戦があるからな。
早いうちに決まってくれればいいけど、そうなったら家に戻るのが遅くなりそうだ。
「藤島さん、助けて……」
藤島さんに助け舟を出そうとして、「私は関係ありませんから」と首を横に振る始末だ。同じクラスなのに……。