第66話

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 次の日の放課後――。
 先輩達からお土産を貰うと、普段通りのエイム練習から始めた。
 練習を始めた途端、昨日の出来事を不意に思い出しては手が止まることが多かった。
 こないだは決まったストッピングが思うように上手く行かず、ミスしてはダミーが消え、ミスしてはダミーが消え……、を繰り返していた。
 何回やっても、この間朋恵達に見せたような捌き方が出来なかった。

「はぁ……、どうしてあんなことをしたのかな……」

 思えば、昨日は色々な事があった。
 先輩達と漫画喫茶から帰る途中で心美を見つけて声を掛け、PARCOにあるお洒落なカフェチェーン店でコーヒーを飲むも、そこで心美から衝撃的な事を告げられた。
 その帰りに心美に別れを告げ、家に戻った後で朋恵に告白してキスをした……。

 朋恵が僕のことを「好きだ」と告白してくれたのは良かったけれど、果たしてあのタイミングでして良かったのだろうか……。
 それに、朋恵とキスしても良かったのだろうか……。

 今日も朋恵と教室で顔を合わせたけれど、キスした後からか、まともに顔を合わせることができなかった。
 愛未か何度も僕に「一体どうしたんだ」と尋ねてきたけれど、その度毎に「なんでもない」と答えた。いや、答えるしかなかった。
 もし仮に本当のことを言ったら、何を言われるかたまったもんじゃない。
 朋恵と愛未の友人関係に亀裂が入るのはどうしても避けたい。
 それでも、朋恵とキスした事実はどうしても頭から離れなかった。

「あぁ~……!」

 僕は深くため息を吐くと、左隣の席に座ってエイム練習をしていた藤島さんが声をかける。

「どうしたんですか、富樫君。悩み事なら私が聞きますよ」
「藤島さん、実は昨日……」
「うん、うん……」

 僕は藤島さんの耳元に手を当てて、昨日の顛末をかいつまんで話した。
 藤島さんは一通り聞き終わると、腕に手を組んで、考え込むような表情を見せた。

「そんなことがあったんですか」
「うん。……詳しいことについては、まとめて送ってもいいかな?」

 ここで話したとしても先輩達や那須君に聞かれるうえ、引いてしまう可能性が高いからな。
 特に心美が……、その、先輩達と低俗な一夜を明かしたことについては。

「どうぞです。ただ、これだけは言わせてください」
「なに?」
「私、恋愛に関しては……、その、したことが無いですから、いいアドバイスができないかもしれません。それでも構いませんか?」
「うん。今から考えをまとめて文章を送るから」
「ありがとうございます、富樫君」

 僕はGYALORANTを終了させると、桃花先輩に「ちょっとだけPCをゲーム以外の用途に使っていいですか」とDiscordのテキストチャットで尋ねた。
 桃花先輩から「いいよ」との返答が来ると、僕は昨日の帰りから今日までの一連のことをすべてテキストファイルにまとめた。
 但し、朋恵とキスしたこととについては……、さすがに省いた。
 藤島さんにはちょっと刺激が強すぎるかもな。
 今日は昨日の一連の出来事で授業やゲームになかなか集中できなかったのに、こういう時に集中力を発揮するのは、何というか、その……、僕らしいというか、何というか。

「ふぅ、こんなもんでいいか……」

 僕はテキストファイルを一通り眺めると、ファイル名を「昨日の事.txt」と付けてからクラウドドライブにアップロードし、そこからスマホのLINEを使って藤島さんに送った。
 ふと藤島さんの居る方を見ると、藤島さんは親指を僕の居る方向に向けるなり、LINEに「届きました」とメッセージを送った。
 良かった。ちゃんと送信できた。

 その後はいつも通り練習をこなしたけれど、エイムの調子が悪いのはそのままだった。
 やっぱり、昨日のことが抜けていないのか……。

 ◇

 その日の夜。

「何とか今日の復習と明日の予習は出来たけど、小テストが予想されるコミュニケーションⅠを何とかしないと……」

 今日のノルマを一通り終わらせてから考え事をしていると、勉強机の傍に置いてあるスマホから通知音が鳴った。

「なんだ……、LINEの通知か。藤島さんからだな」

 スマホを開いて藤島さんとのトークルームに移動すると、そこには藤島さんのメッセージがあった。
 こういうことがあろうかと、部活に入った頃に連絡先を交換しておいて良かった。部活のグループチャットを使う訳にもいかなかったからね。
 僕は指を滑らせながら、藤島さんからの長文に目を通した。

『富樫君、全て読ませていただきました。私の考えを伝えさせていただきます。

 前の彼女さんの一連の出来事ですが、心の隙間に漬け込んで、前の彼女さんを自分のモノにする男なんて、到底許せません。
 彼を問題児として退学に追い込んだ学校側は良い決断をしたと思います。

 そんな男に一旦心を許しているのにも関わらず、退学した途端に復縁を迫る元カノさんはどうかしています。
 もし私が富樫君の立場だったとしても同じ結論となったでしょう。

 朋恵ちゃんの件ですが、ちょっと気まずくなるのは仕方ないです。明日からは、こないだと同じように接してあげてください。それと、ずっと一緒に居る愛未さんも、ですよ!

 それでは、また明日学校で会いましょう』

 やはりというか、何というか、実に淡々とした感じでありながらも、核心を突いていたな。
 心美を奪った相手とその後の学校側の対応に対しては、藤島さんは溜飲が下がらなかった僕とは対照的に溜飲を下げつつも、心美に対しては怒りの感情を隠しきれていなかった。
 そして最後に、朋恵達についてはいつも通りの対応を求めていた。
 朋恵は僕にとって大切な人になった以上、普段通りで大丈夫だろう。

「藤島さん、しっかりしていたな」

 もうひとつ付け加えるとしたら、こないだの一件があって朋恵と愛未の事をちゃんと名前で呼んでいた。
 ちょっと目立たない感じの藤島さんと目立つポジションにある朋恵達との距離が縮まったのは嬉しい反面、朋恵と近づきづらくなるかもといった不安すら感じた。

「藤島さんに返事しておこう。えーっと、『ありがとう、落ち着いたよ。明日から普通通り接するよ』、と」

 そう送ると、すぐに既読がついたのと同時に、「OK」のスタンプが送られてきた。
 藤島さんのお陰で気持ちにゆとりが生じると、僕は着替えを携えて風呂場に向かった。ただでさえ遅い時間なのに、風呂が覚めてしまったら元も子もない。



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 次の日の放課後――。
 先輩達からお土産を貰うと、普段通りのエイム練習から始めた。
 練習を始めた途端、昨日の出来事を不意に思い出しては手が止まることが多かった。
 こないだは決まったストッピングが思うように上手く行かず、ミスしてはダミーが消え、ミスしてはダミーが消え……、を繰り返していた。
 何回やっても、この間朋恵達に見せたような捌き方が出来なかった。
「はぁ……、どうしてあんなことをしたのかな……」
 思えば、昨日は色々な事があった。
 先輩達と漫画喫茶から帰る途中で心美を見つけて声を掛け、PARCOにあるお洒落なカフェチェーン店でコーヒーを飲むも、そこで心美から衝撃的な事を告げられた。
 その帰りに心美に別れを告げ、家に戻った後で朋恵に告白してキスをした……。
 朋恵が僕のことを「好きだ」と告白してくれたのは良かったけれど、果たしてあのタイミングでして良かったのだろうか……。
 それに、朋恵とキスしても良かったのだろうか……。
 今日も朋恵と教室で顔を合わせたけれど、キスした後からか、まともに顔を合わせることができなかった。
 愛未か何度も僕に「一体どうしたんだ」と尋ねてきたけれど、その度毎に「なんでもない」と答えた。いや、答えるしかなかった。
 もし仮に本当のことを言ったら、何を言われるかたまったもんじゃない。
 朋恵と愛未の友人関係に亀裂が入るのはどうしても避けたい。
 それでも、朋恵とキスした事実はどうしても頭から離れなかった。
「あぁ~……!」
 僕は深くため息を吐くと、左隣の席に座ってエイム練習をしていた藤島さんが声をかける。
「どうしたんですか、富樫君。悩み事なら私が聞きますよ」
「藤島さん、実は昨日……」
「うん、うん……」
 僕は藤島さんの耳元に手を当てて、昨日の顛末をかいつまんで話した。
 藤島さんは一通り聞き終わると、腕に手を組んで、考え込むような表情を見せた。
「そんなことがあったんですか」
「うん。……詳しいことについては、まとめて送ってもいいかな?」
 ここで話したとしても先輩達や那須君に聞かれるうえ、引いてしまう可能性が高いからな。
 特に心美が……、その、先輩達と低俗な一夜を明かしたことについては。
「どうぞです。ただ、これだけは言わせてください」
「なに?」
「私、恋愛に関しては……、その、したことが無いですから、いいアドバイスができないかもしれません。それでも構いませんか?」
「うん。今から考えをまとめて文章を送るから」
「ありがとうございます、富樫君」
 僕はGYALORANTを終了させると、桃花先輩に「ちょっとだけPCをゲーム以外の用途に使っていいですか」とDiscordのテキストチャットで尋ねた。
 桃花先輩から「いいよ」との返答が来ると、僕は昨日の帰りから今日までの一連のことをすべてテキストファイルにまとめた。
 但し、朋恵とキスしたこととについては……、さすがに省いた。
 藤島さんにはちょっと刺激が強すぎるかもな。
 今日は昨日の一連の出来事で授業やゲームになかなか集中できなかったのに、こういう時に集中力を発揮するのは、何というか、その……、僕らしいというか、何というか。
「ふぅ、こんなもんでいいか……」
 僕はテキストファイルを一通り眺めると、ファイル名を「昨日の事.txt」と付けてからクラウドドライブにアップロードし、そこからスマホのLINEを使って藤島さんに送った。
 ふと藤島さんの居る方を見ると、藤島さんは親指を僕の居る方向に向けるなり、LINEに「届きました」とメッセージを送った。
 良かった。ちゃんと送信できた。
 その後はいつも通り練習をこなしたけれど、エイムの調子が悪いのはそのままだった。
 やっぱり、昨日のことが抜けていないのか……。
 ◇
 その日の夜。
「何とか今日の復習と明日の予習は出来たけど、小テストが予想されるコミュニケーションⅠを何とかしないと……」
 今日のノルマを一通り終わらせてから考え事をしていると、勉強机の傍に置いてあるスマホから通知音が鳴った。
「なんだ……、LINEの通知か。藤島さんからだな」
 スマホを開いて藤島さんとのトークルームに移動すると、そこには藤島さんのメッセージがあった。
 こういうことがあろうかと、部活に入った頃に連絡先を交換しておいて良かった。部活のグループチャットを使う訳にもいかなかったからね。
 僕は指を滑らせながら、藤島さんからの長文に目を通した。
『富樫君、全て読ませていただきました。私の考えを伝えさせていただきます。
 前の彼女さんの一連の出来事ですが、心の隙間に漬け込んで、前の彼女さんを自分のモノにする男なんて、到底許せません。
 彼を問題児として退学に追い込んだ学校側は良い決断をしたと思います。
 そんな男に一旦心を許しているのにも関わらず、退学した途端に復縁を迫る元カノさんはどうかしています。
 もし私が富樫君の立場だったとしても同じ結論となったでしょう。
 朋恵ちゃんの件ですが、ちょっと気まずくなるのは仕方ないです。明日からは、こないだと同じように接してあげてください。それと、ずっと一緒に居る愛未さんも、ですよ!
 それでは、また明日学校で会いましょう』
 やはりというか、何というか、実に淡々とした感じでありながらも、核心を突いていたな。
 心美を奪った相手とその後の学校側の対応に対しては、藤島さんは溜飲が下がらなかった僕とは対照的に溜飲を下げつつも、心美に対しては怒りの感情を隠しきれていなかった。
 そして最後に、朋恵達についてはいつも通りの対応を求めていた。
 朋恵は僕にとって大切な人になった以上、普段通りで大丈夫だろう。
「藤島さん、しっかりしていたな」
 もうひとつ付け加えるとしたら、こないだの一件があって朋恵と愛未の事をちゃんと名前で呼んでいた。
 ちょっと目立たない感じの藤島さんと目立つポジションにある朋恵達との距離が縮まったのは嬉しい反面、朋恵と近づきづらくなるかもといった不安すら感じた。
「藤島さんに返事しておこう。えーっと、『ありがとう、落ち着いたよ。明日から普通通り接するよ』、と」
 そう送ると、すぐに既読がついたのと同時に、「OK」のスタンプが送られてきた。
 藤島さんのお陰で気持ちにゆとりが生じると、僕は着替えを携えて風呂場に向かった。ただでさえ遅い時間なのに、風呂が覚めてしまったら元も子もない。