第63話

ー/ー



 12月5日。
 僕たちはドン・イダルゴ仙台駅西口ビルにあるe-Sportsカフェに居た。
 そもそも何故僕がここに居るのかというと、それは先週の金曜日に遡る――。

 ☆

 一週間分の予習と復習、そして小テスト対策の勉強も終わり、少しだけGYALORANTの射撃練習をしようと思っていた時の事だった。
 突如、スマホから通知音が鳴り響いた。

「な、何だよ……!」

 僕は慌ててスマホを開くと、そこにはLINEの通知が入っていた。

「なになに……、『とーかChan♡』、『明後日午前10時「杜の賛歌」に来てね! みんな待っているよ』か……」

 送り主は「とーかChan♡」というHN(ハンドルネーム)の通り、桃花先輩だった。というか、もうちょっとひねったHNにしないのか。
 先輩達にはLINE経由で伝えているけれども、会ってここ一週間の事も色々と話したいな。

「『OK』……っと」

 先輩にスタンプで返答すると、その日はスマホを充電しながら眠りに就いた。

 ☆

 そして迎えた日曜日。
 駅前のステンドグラスで桃花先輩達と合流して僕たち一向が向かった先は、漫画喫茶の一角にあるe-Sportsコーナーだった。
 どことなく見覚えのある店内のある一角は、ここだけが別空間のようなたたずまいをしていた。

「ここは様々なFPSやカードゲーム、それにMMORPGが楽しめるから、一ヶ月に一度は遊びに来るんだ。一日中居ても飽きないけど、あっという間にカネがなくなっちゃうからね」

 桃花先輩の話を聞いた後で店内のPCにインストールされているゲームのラインナップを見ると、いつも部室でやっているGYALORANTをはじめとしてタイタンレジェンズ、タンク・オブ・ザ・ワールド、ウォーシップ・オブ・ザ・ワールド、ドラゴンヒーローズX、黒い大地、ファイナルファンタジアXIV……と、FPSからMMORPGまでなんでもインストールされていた。

「ホントだ。先輩のおっしゃる通りですよ」
「でしょ? 一回行ってみたかったんだ」
「僕もだよ。僕のパソコンはSSDが512ギガしかないから、これだけあればいろいろゲームが出来て助かるよ」
「ひょっとして、那須君の持っているパソコンって、SSDを増設できないタイプ?」
「そうだよ。本当はデカいデスクトップが欲しいって父さんに頼んだけど、学校で持ち運びができるノートにしろってうるさくてね。それで泣く泣くゲームが出来る性能のノートパソコンを買ってもらったんだ」

 那須君の話は良く分かる。
 僕が持っているパソコンも那須君と同じようなもので、今発売されているゲームは一通り楽しめる。但し、メモリやSSDの増設や交換となると販売店に持ち込むしかない。
 それに、ノートパソコンではゲームを楽しむ上で欠かせないGPUの交換は不可能だ。場合によってはPC本体を買い換えないといけない。
 現在販売されているゲームで一番きついのはサイバータウン2077で、僕の年齢では遊ぶことが出来ないが、僕が持っているノートPCだとまず間違いなく最高画質ではカクカクするだろう。
 こういったデスクトップPCには憧れるけれど、大学に入ってアルバイトしてから買おうかな。

 ◇

「「「楽しかったぁ~!」」」

 漫画喫茶を出ると、桃花先輩達が満足そうな笑顔を浮かべていた。僕と那須君は「そうだね」と頷いた。

「学校のPCとは違ってヌルヌル動いて快適でした」
「そうだね~。部室のPCは全て父さんの同級生がやっている店からお借りしているモノだから見劣りするけど、今日行った店はやっぱり違うね」

 何せSSDがシステムで512GBあるのに対してゲームストレージが2TB、GPUはRTXモデルのハイエンドで、CPUに至っては最新のものだ。
 キーボードとマウス、ヘッドセットはメーカーこそ違うものの最高水準のものを揃えていた。これで勝てないわけがなかった。瞬時に動けるから、負ける気がしない。
 それに、お昼は店の中でご馳走になった。
 店の使用料は先輩持ちとなったけれども、それでも大満足だった。

「今日はお誘いありがとうございます、先輩」

 藤島さんが桃花先輩に軽くお辞儀をすると、「そんな、畏まらなくていいよ」と照れくさそうに返事していた。
 お昼代は僕達が払ったけども、こないだのカラオケと同じくらい、否、それ以上に楽しかった。先輩の誘いに乗って良かったよ。

「さて、私達はこれから買い物に行くけど、藤島さん達はどうするの?」
「私は本屋さんに立ち寄ってから帰ります。欲しい本がありますから」
「僕はこのまま帰りますね。ここから駅まですぐですから」
「僕は……」

 このまま帰る、と言いかけた時だった。
 ふと、見覚えのあるヘアスタイルをした同年代の女性が僕たちの目の前を通り過ぎた。
 肩甲骨まである、ふわふわとしたセミロングヘアーとなると……、間違いない、心美だ。
 もう十二月ということもあって、心美はコートとマフラーに身を包んでいた。その一方で、あの可愛い横顔は忘れることが出来なかった……。

「すみません、ちょっと先に帰ります!」

 僕は先輩達と藤島さん達に声を掛けると、駆け足でハピナ名掛丁のアーケード街に向かった。
 暮れの時期のお昼下がりいうこともあって、アーケードには人で溢れていた。
 何故心美がこんなところに……と一瞬だけ思ったけれど、今日来た店はカラオケが出来るスペースがあり、別々の高校になる前に二人で遊びに行ったところだった。
 あの時、「またいつか二人で遊びに行こう」と話していたけど、それがなかなか叶わずに一ヶ月、二か月となって……。

「心美!」

 アーケードの入り口付近で声を掛けると、心美が驚くような表情で僕の顔を見つめた。

「……泰久……くん……?」
「心美……」

 僕は息が絶え絶えになりながらも、彼女の顔を眺めた。
 あの男と寝たにも拘らず、心美はあの時と変わらない顔をしていた。

「……久しぶり……、元気していた?」
「あぁ……、おかげさまで……」
「泰久君、大分変わったね……」
「へ? そう……?」
「うん。顔つきも変わったし、それに髪型も……」
「ここ最近になって、髪を短くしたんだ。似合う……かな……」
「うん。とっても似合うと思う」

 久しぶりに再会した心美にそう言って貰えて嬉しいと思う反面、僕の心の中には複雑な感情が芽生え始めていた。
 、ただそれだけだ。

「……立ち話もなんだから、場所を変えない? ここの近くにコーヒーショップがあるから」

 心美がそう提案すると、僕は「そうだね」と頷いて彼女の後をついて歩いた。

 ……そういえば、心美と話すのはいつ振りだろうか。最後に話したのは九月末だったから、二カ月振りとなるだろう。
 これを機に、心美とは決着をつけよう。
 そうでもしない限り、僕は前に出ることなんて出来ない。



次のエピソードへ進む 第64話


みんなのリアクション

 12月5日。
 僕たちはドン・イダルゴ仙台駅西口ビルにあるe-Sportsカフェに居た。
 そもそも何故僕がここに居るのかというと、それは先週の金曜日に遡る――。
 ☆
 一週間分の予習と復習、そして小テスト対策の勉強も終わり、少しだけGYALORANTの射撃練習をしようと思っていた時の事だった。
 突如、スマホから通知音が鳴り響いた。
「な、何だよ……!」
 僕は慌ててスマホを開くと、そこにはLINEの通知が入っていた。
「なになに……、『とーかChan♡』、『明後日午前10時「杜の賛歌」に来てね! みんな待っているよ』か……」
 送り主は「とーかChan♡」という|HN《ハンドルネーム》の通り、桃花先輩だった。というか、もうちょっとひねったHNにしないのか。
 先輩達にはLINE経由で伝えているけれども、会ってここ一週間の事も色々と話したいな。
「『OK』……っと」
 先輩にスタンプで返答すると、その日はスマホを充電しながら眠りに就いた。
 ☆
 そして迎えた日曜日。
 駅前のステンドグラスで桃花先輩達と合流して僕たち一向が向かった先は、漫画喫茶の一角にあるe-Sportsコーナーだった。
 どことなく見覚えのある店内のある一角は、ここだけが別空間のようなたたずまいをしていた。
「ここは様々なFPSやカードゲーム、それにMMORPGが楽しめるから、一ヶ月に一度は遊びに来るんだ。一日中居ても飽きないけど、あっという間にカネがなくなっちゃうからね」
 桃花先輩の話を聞いた後で店内のPCにインストールされているゲームのラインナップを見ると、いつも部室でやっているGYALORANTをはじめとしてタイタンレジェンズ、タンク・オブ・ザ・ワールド、ウォーシップ・オブ・ザ・ワールド、ドラゴンヒーローズX、黒い大地、ファイナルファンタジアXIV……と、FPSからMMORPGまでなんでもインストールされていた。
「ホントだ。先輩のおっしゃる通りですよ」
「でしょ? 一回行ってみたかったんだ」
「僕もだよ。僕のパソコンはSSDが512ギガしかないから、これだけあればいろいろゲームが出来て助かるよ」
「ひょっとして、那須君の持っているパソコンって、SSDを増設できないタイプ?」
「そうだよ。本当はデカいデスクトップが欲しいって父さんに頼んだけど、学校で持ち運びができるノートにしろってうるさくてね。それで泣く泣くゲームが出来る性能のノートパソコンを買ってもらったんだ」
 那須君の話は良く分かる。
 僕が持っているパソコンも那須君と同じようなもので、今発売されているゲームは一通り楽しめる。但し、メモリやSSDの増設や交換となると販売店に持ち込むしかない。
 それに、ノートパソコンではゲームを楽しむ上で欠かせないGPUの交換は不可能だ。場合によってはPC本体を買い換えないといけない。
 現在販売されているゲームで一番きついのはサイバータウン2077で、僕の年齢では遊ぶことが出来ないが、僕が持っているノートPCだとまず間違いなく最高画質ではカクカクするだろう。
 こういったデスクトップPCには憧れるけれど、大学に入ってアルバイトしてから買おうかな。
 ◇
「「「楽しかったぁ~!」」」
 漫画喫茶を出ると、桃花先輩達が満足そうな笑顔を浮かべていた。僕と那須君は「そうだね」と頷いた。
「学校のPCとは違ってヌルヌル動いて快適でした」
「そうだね~。部室のPCは全て父さんの同級生がやっている店からお借りしているモノだから見劣りするけど、今日行った店はやっぱり違うね」
 何せSSDがシステムで512GBあるのに対してゲームストレージが2TB、GPUはRTXモデルのハイエンドで、CPUに至っては最新のものだ。
 キーボードとマウス、ヘッドセットはメーカーこそ違うものの最高水準のものを揃えていた。これで勝てないわけがなかった。瞬時に動けるから、負ける気がしない。
 それに、お昼は店の中でご馳走になった。
 店の使用料は先輩持ちとなったけれども、それでも大満足だった。
「今日はお誘いありがとうございます、先輩」
 藤島さんが桃花先輩に軽くお辞儀をすると、「そんな、畏まらなくていいよ」と照れくさそうに返事していた。
 お昼代は僕達が払ったけども、こないだのカラオケと同じくらい、否、それ以上に楽しかった。先輩の誘いに乗って良かったよ。
「さて、私達はこれから買い物に行くけど、藤島さん達はどうするの?」
「私は本屋さんに立ち寄ってから帰ります。欲しい本がありますから」
「僕はこのまま帰りますね。ここから駅まですぐですから」
「僕は……」
 このまま帰る、と言いかけた時だった。
 ふと、見覚えのあるヘアスタイルをした同年代の女性が僕たちの目の前を通り過ぎた。
 肩甲骨まである、ふわふわとしたセミロングヘアーとなると……、間違いない、心美だ。
 もう十二月ということもあって、心美はコートとマフラーに身を包んでいた。その一方で、あの可愛い横顔は忘れることが出来なかった……。
「すみません、ちょっと先に帰ります!」
 僕は先輩達と藤島さん達に声を掛けると、駆け足でハピナ名掛丁のアーケード街に向かった。
 暮れの時期のお昼下がりいうこともあって、アーケードには人で溢れていた。
 何故心美がこんなところに……と一瞬だけ思ったけれど、今日来た店はカラオケが出来るスペースがあり、別々の高校になる前に二人で遊びに行ったところだった。
 あの時、「またいつか二人で遊びに行こう」と話していたけど、それがなかなか叶わずに一ヶ月、二か月となって……。
「心美!」
 アーケードの入り口付近で声を掛けると、心美が驚くような表情で僕の顔を見つめた。
「……泰久……くん……?」
「心美……」
 僕は息が絶え絶えになりながらも、彼女の顔を眺めた。
 あの男と寝たにも拘らず、心美はあの時と変わらない顔をしていた。
「……久しぶり……、元気していた?」
「あぁ……、おかげさまで……」
「泰久君、大分変わったね……」
「へ? そう……?」
「うん。顔つきも変わったし、それに髪型も……」
「ここ最近になって、髪を短くしたんだ。似合う……かな……」
「うん。とっても似合うと思う」
 久しぶりに再会した心美にそう言って貰えて嬉しいと思う反面、僕の心の中には複雑な感情が芽生え始めていた。
 《《何故僕を裏切ったんだろうか》》、ただそれだけだ。
「……立ち話もなんだから、場所を変えない? ここの近くにコーヒーショップがあるから」
 心美がそう提案すると、僕は「そうだね」と頷いて彼女の後をついて歩いた。
 ……そういえば、心美と話すのはいつ振りだろうか。最後に話したのは九月末だったから、二カ月振りとなるだろう。
 これを機に、心美とは決着をつけよう。
 そうでもしない限り、僕は前に出ることなんて出来ない。