第61話
ー/ー 12月3日、東北新幹線下りの車内にて――
「もう少しで仙台か……」
理系コースを取っているために他の部員達とは全く顔を合わせることなく修学旅行を過ごした明楽は、東北新幹線の車内で独り言をつぶやいてため息を吐いた。
「月曜からはまたチア部での練習が始まるから、それまでに英気を蓄えておかないとね」
そう呟くと明楽はスマホを手に取り、チア部のグループチャットを眺めた。
「昨日は蘭さんだけでなく、こないだカラオケで一緒だったヤス君と奏音ちゃん達も来てくれたのか」
写真には、e-Sports愛好会の一年生やチア部の卒業生、そしてチア部の一年生たちが綺麗に収まっていた。
そこに添えられたメッセージを読むと、明楽は不思議に笑みがこぼれた。
「なになに、『昨日はカラオケで一緒になった奏音ちゃん達が見学に来てくれたよ!』か……。ふふっ、朋恵らしいなぁ」
常日頃から朋恵の行動力やコミュ力の強さに驚いていた明楽だったが、まさか発足してからわずか一年のe-Sports愛好会のメンバーを練習に招待しようなんて思っても見なかった。
トークルームの写真を見ると、奏音がバク転やブリッジといった基本的な動きはともかくとして、難易度の高いスコーピオンを難なくこなしている様子が映されていた。
「凄いな~……。私なんて出来たのが二年に入ってすぐの時期だったからなぁ。それなのに悠々とこなせるなんて……」
この間のカラオケではパワフルな歌声を披露して皆を驚かせた彼女だったが、チアをやらせたらここまでの身体能力を発揮するなんて思っても見なかった。
「これは私もうかうかしていられないな。仙台に戻ったら、頑張らないと!」
後1年と少しで大学受験の最初の関門である共通テストを控える中、明楽は静かに闘志を燃やすのだった。
◇
「最初の二日間はチア部の子たちが私達のところに来て、残り二日間はチア部の練習を見学していたのね」
「和気藹藹としていて、とても有意義な時間を過ごしているのが伝わってくるよ」
同じく新幹線の車内にて、国分姉妹はe-Sports愛好会のグループチャットを見ながら奏音達が朋絵達と一緒に過ごした様子を微笑ましい笑顔で眺めていた。
「奏音ちゃんから『チア部の二人を含めてフルパしました』とメッセージが来た時はびっくりしたけど、まさか二人ともGYAROLANTのユーザーIDを持っていたなんて知らなかったよ」
「二人ともある程度やりこんでいるのかな?」
「昨日奏音ちゃんから通話が来たけど『少し嗜む程度です』だって」
「チア部で活躍しつつ、ゲームも嗜みながら勉強するなんて真似できないな~」
「ゲームしながら受験勉強に精を出している私達でさえも大変なのにね」
「まぁね。……仙台に帰ったら、奏音ちゃんにはお礼を言わないとね」
「そうだね。私と桜花ちゃんが居なかった穴を埋めてくれたんだから、ね」
そう言って、桃花はスマホを閉じた。
新幹線の車窓越しに白石の街並みを見ると、桃花達はもうすぐ仙台、そして両親が待つ名取に戻れるのだなと実感した。
「お土産、父さん達に喜んで貰えるかな」
「色々買ったからね~。e-Sports愛好会の後輩達にも渡さなきゃならないけど、どうする?」
「う~ん、それは月曜日でも良いんじゃない? その前に、一年生の皆を引き連れてe-Sportsブースがある漫画喫茶に行こうよ」
「桃花ちゃん、ナイスアイディア! 学校の外で部活やってみたかったんだ」
二人がおしゃべりをしていると、いつの間にか車窓の景色は住み慣れた街へと移っていった。
そろそろ仙台駅だ。
挨拶が終われば、後は両親の待っている名取の街に戻るだけだ――。
◇
「たっだいまー、ソータ! 元気にしていた?」
美礼は自宅に到着するや否や、こないだ童貞を喪失して半ば女性嫌いとなった聡太の家に向かった。
聡太はここ最近になって受験勉強を始め、来る日も来る日も勉強に励んでいた。
土日になると聡太の様子を見ることが定例になっていて、お互いの近況などを話すことが多くなった。
「お帰り、みゆ姉。こっちはおかげさまで元気だったよ」
「良かった~、ハグハグ~♪」
美礼はそう言うと、聡太に抱きついた。
四日ぶり、否、こないだファーストキスをした時振りの聡太は相変わらずだった。
「試験はどうだったの?」
「バッチリだったよ。自己採点をしたら90点以上は軽く行きそうだよ」
「良かった。やっぱり、勉強一直線にしたおかげかな」
「そうだね。僕にとって、みゆ姉と一緒の大学に行くことだけが生きがいだから」
付き合っていた清楚な女の子をチャラ男に奪われ、二次元に逃げてもギャルに童貞とファーストキスを奪われ、心が折れかけていた聡太を救ったのは、何を隠そう美礼だった。
美礼に追いつきたいと思い、聡太は学校の勉強をしっかりとやるようになった。そして、部活動も精力的にこなすようになった。無論、内申点のためだ。
「最近ではまた部活に行くようになって、先輩達から色々な漫画を読むようになったよ。勉強の気分転換には最高だよ」
「そうだね。もしコスプレしてもらいたいキャラクタ―があったら言って。但し、そんなに手間がかからないものでお願いね」
「分かっているよ」
美礼は靴を脱いでリビングに上がると、関西のお土産を聡太に渡した。
薬の様なパッケージを開けると、瓶には何やら白い錠剤が入っている。
何かの薬品の様に見えるが、成分表にイイコトオコルンとナンカAナーと書いてある。
一体どんな薬なんだよ? と聡太は怪訝に思った。
「これって……何?」
「大阪名物のハッピーニナールだよ。ラムネ菓子だから心配しないで」
ラムネ菓子なのかと聞いて、聡太はほっと胸を撫で下ろした。
ここ最近辛い事ばかりが続いた聡太のことを気遣ってあげたのだろうか。
「それ以外に定番の生八つ橋があるから、これは小母様にぜひ」
「まぁ、ありがとうね」
聡太の母は京都の生菓子を受け取ると、そそくさにリビングに向かっていった。
やれやれ、お茶となると長居しそうだな……と思うと、聡太はちょっと憂鬱になる一方で、やっと終わったテストの事やここ最近の学校生活について色々話したいと前向きな気持ちになった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
12月3日、東北新幹線下りの車内にて――
「もう少しで仙台か……」
理系コースを取っているために他の部員達とは全く顔を合わせることなく修学旅行を過ごした明楽は、東北新幹線の車内で独り言をつぶやいてため息を吐いた。
「月曜からはまたチア部での練習が始まるから、それまでに英気を蓄えておかないとね」
そう呟くと明楽はスマホを手に取り、チア部のグループチャットを眺めた。
「昨日は蘭さんだけでなく、こないだカラオケで一緒だったヤス君と奏音ちゃん達も来てくれたのか」
写真には、e-Sports愛好会の一年生やチア部の卒業生、そしてチア部の一年生たちが綺麗に収まっていた。
そこに添えられたメッセージを読むと、明楽は不思議に笑みがこぼれた。
「なになに、『昨日はカラオケで一緒になった奏音ちゃん達が見学に来てくれたよ!』か……。ふふっ、朋恵らしいなぁ」
常日頃から朋恵の行動力やコミュ力の強さに驚いていた明楽だったが、まさか発足してからわずか一年のe-Sports愛好会のメンバーを練習に招待しようなんて思っても見なかった。
トークルームの写真を見ると、奏音がバク転やブリッジといった基本的な動きはともかくとして、難易度の高いスコーピオンを難なくこなしている様子が映されていた。
「凄いな~……。私なんて出来たのが二年に入ってすぐの時期だったからなぁ。それなのに悠々とこなせるなんて……」
この間のカラオケではパワフルな歌声を披露して皆を驚かせた彼女だったが、チアをやらせたらここまでの身体能力を発揮するなんて思っても見なかった。
「これは私もうかうかしていられないな。仙台に戻ったら、頑張らないと!」
後1年と少しで大学受験の最初の関門である共通テストを控える中、明楽は静かに闘志を燃やすのだった。
◇
「最初の二日間はチア部の子たちが私達のところに来て、残り二日間はチア部の練習を見学していたのね」
「和気藹藹《わきあいあい》としていて、とても有意義な時間を過ごしているのが伝わってくるよ」
同じく新幹線の車内にて、国分姉妹はe-Sports愛好会のグループチャットを見ながら奏音達が朋絵達と一緒に過ごした様子を微笑ましい笑顔で眺めていた。
「奏音ちゃんから『チア部の二人を含めてフルパしました』とメッセージが来た時はびっくりしたけど、まさか二人ともGYAROLANTのユーザーIDを持っていたなんて知らなかったよ」
「二人ともある程度やりこんでいるのかな?」
「昨日奏音ちゃんから通話が来たけど『少し嗜む程度です』だって」
「チア部で活躍しつつ、ゲームも嗜みながら勉強するなんて真似できないな~」
「ゲームしながら受験勉強に精を出している私達でさえも大変なのにね」
「まぁね。……仙台に帰ったら、奏音ちゃんにはお礼を言わないとね」
「そうだね。私と桜花ちゃんが居なかった穴を埋めてくれたんだから、ね」
そう言って、桃花はスマホを閉じた。
新幹線の車窓越しに白石の街並みを見ると、桃花達はもうすぐ仙台、そして両親が待つ名取に戻れるのだなと実感した。
「お土産、父さん達に喜んで貰えるかな」
「色々買ったからね~。e-Sports愛好会の後輩達にも渡さなきゃならないけど、どうする?」
「う~ん、それは月曜日でも良いんじゃない? その前に、一年生の皆を引き連れてe-Sportsブースがある漫画喫茶に行こうよ」
「桃花ちゃん、ナイスアイディア! 学校の外で部活やってみたかったんだ」
二人がおしゃべりをしていると、いつの間にか車窓の景色は住み慣れた街へと移っていった。
そろそろ仙台駅だ。
挨拶が終われば、後は両親の待っている名取の街に戻るだけだ――。
◇
「たっだいまー、ソータ! 元気にしていた?」
美礼は自宅に到着するや否や、こないだ童貞を喪失して半ば女性嫌いとなった聡太《そうた》の家に向かった。
聡太はここ最近になって受験勉強を始め、来る日も来る日も勉強に励んでいた。
土日になると聡太の様子を見ることが定例になっていて、お互いの近況などを話すことが多くなった。
「お帰り、みゆ姉。こっちはおかげさまで元気だったよ」
「良かった~、ハグハグ~♪」
美礼はそう言うと、聡太に抱きついた。
四日ぶり、否、こないだファーストキスをした時振りの聡太は相変わらずだった。
「試験はどうだったの?」
「バッチリだったよ。自己採点をしたら90点以上は軽く行きそうだよ」
「良かった。やっぱり、勉強一直線にしたおかげかな」
「そうだね。僕にとって、みゆ姉と一緒の大学に行くことだけが生きがいだから」
付き合っていた清楚な女の子をチャラ男に奪われ、二次元に逃げてもギャルに童貞とファーストキスを奪われ、心が折れかけていた聡太を救ったのは、何を隠そう美礼だった。
美礼に追いつきたいと思い、聡太は学校の勉強をしっかりとやるようになった。そして、部活動も精力的にこなすようになった。無論、内申点のためだ。
「最近ではまた部活に行くようになって、先輩達から色々な漫画を読むようになったよ。勉強の気分転換には最高だよ」
「そうだね。もしコスプレしてもらいたいキャラクタ―があったら言って。但し、そんなに手間がかからないものでお願いね」
「分かっているよ」
美礼は靴を脱いでリビングに上がると、関西のお土産を聡太に渡した。
薬の様なパッケージを開けると、瓶には何やら白い錠剤が入っている。
何かの薬品の様に見えるが、成分表にイイコトオコルンとナンカAナーと書いてある。
一体どんな薬なんだよ? と聡太は怪訝に思った。
「これって……何?」
「大阪名物のハッピーニナールだよ。ラムネ菓子だから心配しないで」
ラムネ菓子なのかと聞いて、聡太はほっと胸を撫で下ろした。
ここ最近辛い事ばかりが続いた聡太のことを気遣ってあげたのだろうか。
「それ以外に定番の生八つ橋があるから、これは小母様にぜひ」
「まぁ、ありがとうね」
聡太の母は京都の生菓子を受け取ると、そそくさにリビングに向かっていった。
やれやれ、お茶となると長居しそうだな……と思うと、聡太はちょっと憂鬱になる一方で、やっと終わったテストの事やここ最近の学校生活について色々話したいと前向きな気持ちになった。