第60話
ー/ー「はい、今日の練習はここまで! 明日は私は大学の講義で居ないけど、その分自由に過ごしていいからね!」
「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」
あれから藤島さんがトップに立ってスタンツに挑戦したりしていたり、チアダンスに挑戦するうちに、あれよあれよと時間ばかりが過ぎていった。
気がつけば、もう午後6時15分を回っていた。
普段だったら夕ご飯の時間だ。
ここまでやるなんて、想定外だった。
マットの片付けや着替えを終えて昇降口に向かうと、もうすでに学校の周辺は暗闇に閉ざされていた。
昇降口で那須君と藤島さん、米沢さん達と別れると、僕たちはいつもの三人で暗い住宅街を歩いていた。
「今日は久々の練習で大変だったね~」
「そうだね。改めて思ったけど、藤島さんがあれだけ体が柔らかかったなんて信じられなかったよ」
スタンツをやって少し休憩した後で、藤島さんは蘭さんから教わった通りにトゥタッチジャンプなどの基本的な動きを試していた。
藤島さんの動きはぎこちないどころか、本当に未経験者なのか? と思わされるほどに滑らかな動きをしていた。蘭さんも「藤島さん、チア部に入ればよかったのに」と残念がっていた。
そもそも藤島さん、部活で一緒になっている割に彼女のことについては分からないことだらけだ。
今回の中間では勉強に打ち込んで成績アップを果たしたり、チアの基本動作を一通りこなせるなど運動神経が抜群だったり……と、考えれば考えるほど不思議な人だ。
この前のカラオケで住んでいる場所が長町南から富沢にある体育館の辺りだということは分かったけれども……。
「藤島さん、考えれば考えるほど不思議な人だな」
「ヤスもそう思うの?」
「うん。能ある鷹は爪を隠すとでもいうのかな」
「そうだね。私も彼女はそんな感じがするよ」
「愛未も?」
「うん。普段は教室でゲームばかりやっているけれども、いざ体育となるとバスケやバレーでは小柄ながらも活躍し、体操となるとバク転を平気で決めるからね」
二人の話を聞く限りでは、藤島さんって体育は何でもできるタイプなのか。
この間の中間試験の結果も良好で、最近になって勉強もやれるようになったことを考えると、藤島さんって凄い人だと思う。
「そうだよね~。普段はお昼休みになるとゲーム機片手に時間を潰しているからね~」
「私が注意しようとした時にゲーム機を覗き込んだことがあるけど、彼女は脳トレのゲームをやっていたよ」
「マジ?」
「うん。脳細胞を活性化させているからこそ、かな。身体能力もさることながら学習能力も高い。私もうかうかしていられないな」
「ホント、僕もだな……」
「ヤス君は大丈夫だろう。テストの時は私達と協力すれば、何も心配は要らないよ」
「いいや、僕はやっぱり自分の力で勝ち取りたいよ。二人の力を借りながらでも良いけど、最後は自分との勝負だから」
「格好いいこと言うじゃないの、ヤス!」
そう話すと、朋恵は僕の方を向いて軽く膝を突いた。
いざ大学受験となると、目指す大学が人それぞれとなる。
そうなると、常に自分自身との戦いになる。
ただ、一人で未知の敵と立ち向かうのは怖い。そこに周りに同じ進路を歩む覚悟ができる仲間が居れば心強い……かな。
「そうだね。私も大学受験は己との勝負だと思うよ」
「どうして?」
「うちの父さんは塾での講師をしていて、教え子に良く言い聞かせているからね。『受験は己との勝負だぞ』って」
「ただ、家だとだらしないの……かなァ? 夏休みに宿題の手伝いに行った時もリビングでだらしなくテレビを見てたじゃん」
「そ、それはだな、その……忘れてくれ!」
朋恵に指摘されると、愛未はちょっと顔を赤くして視線を逸らした。
普段は物憂げな表情をする愛未が可愛い仕草を見せるなんて、意外だな。
でも、僕は……何故だろう、ここ最近は朋恵と居ると妙に胸が高鳴っている。
愛未も可愛いところはあるが、それ以上に朋恵のことが気になっている。
朋恵が傍に居ると、胸の高鳴りが止まらない。
今こうして三人で歩いているにもかかわらず、だ。
「どうしたの、ヤス?」
ふと、僕の様子を目にした朋恵が足を止める。
「いや、ちょっとね。ここ最近、ずっと朋恵達と一緒でね、それで僕も舞い上がったのかなって……、あはは」
僕が照れくさそうな笑いを浮かべると、二人が「変なヤス(君)」と呆れた口調で返してきた。
ちなみに、君付けをしたのは愛未で、呼び捨てなのが朋恵だ。
僕が体育館で倒れた日を境にして、僕は少しずつ変わった。
親しく話せる友達が居らず、彼女すら別の学校に居て空虚な日々を送っていた僕だったが、今では同じクラスと別のクラスに男友達が居る。
頼れる男性の先輩がいる。
上級生と同級生を問わず僕と親しくしてくれる女友達が居る。
そして、女友達の輪の中心には朋恵が居る。
もしあの日朋恵に声を掛けられていなければ、心美のこと、否、いじめのことを引きずっていただろう。そして、また山形に居た時と同じことを繰り返していただろう。
そして、二人の胸に泣きつかなければ、僕は僕自身の殻をぶち破ることすらできなかっただろう。
そう、朋恵と愛未こそ、翼が折れて立ち上がれなくなった僕に新たな翼を与えてくれた守護天使だ。
ただ一つの疑問は……、僕はどちらの守護天使を選ぶか、だろう。
答えはもう決まっている。
そう、僕が好きなのは……。
みんなのリアクション
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「はい、今日の練習はここまで! 明日は私は大学の講義で居ないけど、その分自由に過ごしていいからね!」
「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」
あれから藤島さんがトップに立ってスタンツに挑戦したりしていたり、チアダンスに挑戦するうちに、あれよあれよと時間ばかりが過ぎていった。
気がつけば、もう午後6時15分を回っていた。
普段だったら夕ご飯の時間だ。
ここまでやるなんて、想定外だった。
マットの片付けや着替えを終えて昇降口に向かうと、もうすでに学校の周辺は暗闇に閉ざされていた。
昇降口で那須君と藤島さん、米沢さん達と別れると、僕たちはいつもの三人で暗い住宅街を歩いていた。
「今日は久々の練習で大変だったね~」
「そうだね。改めて思ったけど、藤島さんがあれだけ体が柔らかかったなんて信じられなかったよ」
スタンツをやって少し休憩した後で、藤島さんは蘭さんから教わった通りにトゥタッチジャンプなどの基本的な動きを試していた。
藤島さんの動きはぎこちないどころか、本当に未経験者なのか? と思わされるほどに滑らかな動きをしていた。蘭さんも「藤島さん、チア部に入ればよかったのに」と残念がっていた。
そもそも藤島さん、部活で一緒になっている割に彼女のことについては分からないことだらけだ。
今回の中間では勉強に打ち込んで成績アップを果たしたり、チアの基本動作を一通りこなせるなど運動神経が抜群だったり……と、考えれば考えるほど不思議な人だ。
この前のカラオケで住んでいる場所が長町南から富沢にある体育館の辺りだということは分かったけれども……。
「藤島さん、考えれば考えるほど不思議な人だな」
「ヤスもそう思うの?」
「うん。能ある鷹は爪を隠すとでもいうのかな」
「そうだね。私も彼女はそんな感じがするよ」
「愛未も?」
「うん。普段は教室でゲームばかりやっているけれども、いざ体育となるとバスケやバレーでは小柄ながらも活躍し、体操となるとバク転を平気で決めるからね」
二人の話を聞く限りでは、藤島さんって体育は何でもできるタイプなのか。
この間の中間試験の結果も良好で、最近になって勉強もやれるようになったことを考えると、藤島さんって凄い人だと思う。
「そうだよね~。普段はお昼休みになるとゲーム機片手に時間を潰しているからね~」
「私が注意しようとした時にゲーム機を覗き込んだことがあるけど、彼女は脳トレのゲームをやっていたよ」
「マジ?」
「うん。脳細胞を活性化させているからこそ、かな。身体能力もさることながら学習能力も高い。私もうかうかしていられないな」
「ホント、僕もだな……」
「ヤス君は大丈夫だろう。テストの時は私達と協力すれば、何も心配は要らないよ」
「いいや、僕はやっぱり自分の力で勝ち取りたいよ。二人の力を借りながらでも良いけど、最後は自分との勝負だから」
「格好いいこと言うじゃないの、ヤス!」
そう話すと、朋恵は僕の方を向いて軽く膝を突いた。
いざ大学受験となると、目指す大学が人それぞれとなる。
そうなると、常に自分自身との戦いになる。
ただ、一人で未知の敵と立ち向かうのは怖い。そこに周りに同じ進路を歩む覚悟ができる仲間が居れば心強い……かな。
「そうだね。私も大学受験は己との勝負だと思うよ」
「どうして?」
「うちの父さんは塾での講師をしていて、教え子に良く言い聞かせているからね。『受験は己との勝負だぞ』って」
「ただ、家だとだらしないの……かなァ? 夏休みに宿題の手伝いに行った時もリビングでだらしなくテレビを見てたじゃん」
「そ、それはだな、その……忘れてくれ!」
朋恵に指摘されると、愛未はちょっと顔を赤くして視線を逸らした。
普段は物憂げな表情をする愛未が可愛い仕草を見せるなんて、意外だな。
でも、僕は……何故だろう、ここ最近は朋恵と居ると妙に胸が高鳴っている。
愛未も可愛いところはあるが、それ以上に朋恵のことが気になっている。
朋恵が傍に居ると、胸の高鳴りが止まらない。
今こうして三人で歩いているにもかかわらず、だ。
「どうしたの、ヤス?」
ふと、僕の様子を目にした朋恵が足を止める。
「いや、ちょっとね。ここ最近、ずっと朋恵達と一緒でね、それで僕も舞い上がったのかなって……、あはは」
僕が照れくさそうな笑いを浮かべると、二人が「変なヤス(君)」と呆れた口調で返してきた。
ちなみに、君付けをしたのは愛未で、呼び捨てなのが朋恵だ。
僕が体育館で倒れた日を境にして、僕は少しずつ変わった。
親しく話せる友達が居らず、彼女すら別の学校に居て空虚な日々を送っていた僕だったが、今では同じクラスと別のクラスに男友達が居る。
頼れる男性の先輩がいる。
上級生と同級生を問わず僕と親しくしてくれる女友達が居る。
そして、女友達の輪の中心には朋恵が居る。
もしあの日朋恵に声を掛けられていなければ、心美のこと、否、いじめのことを引きずっていただろう。そして、また山形に居た時と同じことを繰り返していただろう。
そして、二人の胸に泣きつかなければ、僕は僕自身の殻をぶち破ることすらできなかっただろう。
そう、朋恵と愛未こそ、翼が折れて立ち上がれなくなった僕に新たな翼を与えてくれた守護天使《ガーディアン・エンジェル》だ。
ただ一つの疑問は……、僕はどちらの守護天使を選ぶか、だろう。
答えはもう決まっている。
そう、僕が好きなのは……。